第 7 章 統計分析手法を援用した振動特性の推定と遺伝的アルゴリズムの適用性検証
7.2 統計分析手法を援用した振動特性の推定
7.2.3 橋梁の全体振動系に対する抽出結果の検証
(1)対象橋梁と計測データの概要
対象橋梁は図-7.2.1に示す下路式トラス橋で,終点側の下側格点部3箇所にて鉛直加速度を計 測した.なお,加速度データはサンプリング周波数1000Hzで30分間計測されたものを200Hzにダウ ンサンプリングした.図-7.2.2に計測加速度の一部を示す.
図-7.2.1 対象データの加速度計測位置
4 4
1
1 ˆ
4
n i i
m p p (7.1)
-144-図-7.2.2 計測加速度計波形の一例(全体振動系)
(2)振動特性の推定結果
SSIの計算パラメータを表-7.2.1に,振動数の推定結果を図-7.2.3に示す.図-7.2.3より,3Hz および5Hz付近に顕著な振動モードの存在を安定的に捉えているものの,7Hz以上の振動域では推定 結果のばらつきが大きくなり,有意ではないと思われる推定結果が含まれていることが伺われる.前 章までは参照値とする固有振動数を,計算者の主観や経験に基づいて有意な振動モードと思われる帯 域の範囲(例えば,図-7.2.3 中の青枠内の①および②)を任意に設定し,その設定範囲内で得られ た振動数を平均化して得られる表-7.2.2の固有振動数を参照値として採用していた.なお,表中の モード次数は振動数が低い順に単純に並べた数字であり,モード形状を表すものではない.
表-7.2.1 SSI の計算パラメータ(全体振動系)
項目 値
データ長 6000(30秒)
初期モデル次数 500 特異ベクトル長 10
Low-Passフィルタ 20
0 100 200 300 400 500 600 700
-5 0
5 Acceleration waveform of Channel 1
Time [s]
Acc [m/s2]
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 1 2 3
4x 10-8 Power spectrum of ch.1
Frequency [Hz]
Power spectrum
0 100 200 300 400 500 600 700
-5 0
5 Acceleration waveform of Channel 2
Time [s]
Acc [m/s2]
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 1 2 3
4x 10-8 Power spectrum of ch.2
Frequency [Hz]
Power spectrum
0 100 200 300 400 500 600 700
-5 0 5
Acceleration waveform of Channel 3
Time [s]
Acc [m/s2]
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 1 2 3
4x 10-8 Power spectrum of ch.3
Frequency [Hz]
Power spectrum
図-7.2.3 SSI による振動数の推定結果(全体振動系)
表-7.2.2 固有振動数の抽出結果(全体振動系における従来手法)
モード 1 次 2 次
固有振動数[Hz] 3.173 4.722
(3)カーネル密度推定による自動抽出結果
カーネル密度推定における計算パラメータを表-7.2.3に示す.また,閾値を10-5に設定したとき の各帯域幅におけるヒストグラムの結果を図-7.2.4に示す.同図より,図-7.2.3でみられたよう にいずれの帯域幅においても3Hzおよび5Hz付近において顕著なモードであることが確認できる.
また,7Hz以上の振動数帯域では,帯域幅に応じて検出結果に差異がみられるが,8Hzおよび10Hz 付近にも比較的顕著なモードが確認できる.しかし,ヒストグラムのような帯域幅に応じた離散的な 分布表現においては,定量的な固有振動数値を抽出することが困難である.
表-7.2.3 計算パラメータ(全体振動系)
式(7.1)の閾値 帯域幅
10-4 10-5 10-6 0.01 0.02 0.05 0.10
0 10 20 30 40 50 60
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
Iteration
Frequency[Hz]
①
②
-146-(a)帯域幅 0.1 (b)帯域幅 0.05
(c)帯域幅 0.01
図-7.2.4 推定された振動数のヒストグラム(全体振動系)
次に,表-7.2.3 の 3 種類の閾値ならびに帯域幅においてカーネル密度推定を行った結果を図-
7.2.5 に示す.同図の丸印は,式(7.1)で示した4次モーメントが閾値を超えたピーク点である.同図 より,帯域幅が小さ過ぎると有意ではないピークを識別していまい,反対に大き過ぎると有意とみら れるピークであっても多少のばらつきがあるとピーク周辺の凸形状が鋭角にならないために検出でき なくなることがわかる.また,帯域幅を大きく設定すると確率密度のピーク自体が小さくなることで 有意な振動数が見えづらくなる傾向にある.なお,帯域幅の設定値は抽出する固有振動数の分解能に 影響することから,可能な限り小さくする必要がある.本データにおいては,閾値を 10-4,帯域幅を 0.02に設定することで,カーネル密度関数のピーク周辺の凸形状から定量的で客観的な抽出結果が得 られたといえる.また,従来手法との比較結果を表-7.2.4 に示すが,従来手法で検出できなかった 8.40Hz・10.52Hz・18.80Hzを本手法では抽出できたことや,両手法の比率が100.0%~100.2%で,最大
5 10 15 20
Frequency [Hz]
0 10 20 30 40 50
BandWidth=0.10
5 10 15 20
Frequency [Hz]
0 10 20 30 40
Probability Density
BandWidth=0.05
5 10 15 20
Frequency [Hz]
0 5 10 15 20 25
BandWidth=0.01
誤差が0.007Hzとかなり小さかったことから,本手法の優位性が伺える結果が得られた.ただし,本 結果はあくまで一部のデータを対象とした暫定的な検討結果であることから,対象構造物の固有振動 数や励起状態に応じて適切なパラメータを設定する必要があると考えられる.
(a)閾値10-4
(b)閾値10-5
(c)閾値10-6
図-7.2.5 カーネル密度推定結果(全体振動系)
-148-表-7.2.4 カーネル密度推定による固有振動数推定結果(全体振動系)
推定方法
固有振動数[Hz]
1 次 2 次 3 次 4 次 5 次
①カーネル密度推定
(帯域幅:0.02,閾値:10-4)
3.180 4.720 8.400 10.520 18.800
②従来手法 3.173 4.722 ― ― ― 比率(①/②) 1.002 1.000 ― ― ―