第 4 章 実稼働モード推定のための構造同定条件に関する解析的検討
4.4 実稼働モード推定のための同定手法の応用
-86-4.4.2 従来手法との比較
ノイズを含まない応答に対する前述の提案手法と従来手法の推定結果を比較する.比較の対象とし た従来手法は,ERA,ERA/DC,前進SSI,および後進SSIである.提案手法による推定振動数は,固 有値解析の結果と比較して最大 2.01%,最小 0.003%の誤差であり,減衰定数は設定値に対して最大
30.5%,最小2%の誤差となった.振動数の推定誤差については,従来手法を含めて誤差の符号が共通
しており,応答の周波数分布と固有値解析の差異によるものが含まれると考えられる.従来手法の推 定結果と比較した結果,精度と安定性に関して,大幅な向上は認められないものの低次モードから高 次モードにわたって提案手法が最も信頼性が高い推定結果を得た.
次に,実橋梁の常時微動を用いたモード推定において有意な応答に対してノイズが大きい環境を想 定し,ノイズレベル50%の応答を用いて同様の検討を行った.表-4.4.1に振動数の推定結果と変動係 数を,また表-4.4.2に減衰定数の推定結果と変動係数を示す.ノイズを付加した応答に対しても,低 次モードから高次モードにわたって,提案手法はERAおよびERA/DCよりも推定値の変動が小さく,
前進および後進SSIよりもわずかではあるが推定精度と推定値の安定性が高いことを確認した.
さらに,提案手法の計算時間の増加について考察した.各手法において1セグメントに対する同定 計算に要する時間を表-4.4.3に示す.計算時間は,PCの負荷状態を同様にし,50セグメントに対す る各回の計算時間の平均値によって求めた.同表に示すように,提案手法は前進SSIと後進SSIの計 算時間の合計に相当する時間を要するが,30秒としたデータセグメント長に対して十分に短く,計算 時間の長期化が問題になることはないといえる.なお,計算時間の測定には,観測地での実稼働モー ド推定を想定して一般的なラップトップPC(CPU:Intel® Core™ [email protected]×2,RAM:8.00GB, OS:Windows 7 64bit)と数値計算ソフトウェアMATLAB®(MathWorks)を使用した.
以上より,提案手法は実稼働モード推定のためのSSIの一応用法として期待できる.
表-4.4.1 固有値解析の結果と提案手法および従来手法の振動数推定結果の比較
(ノイズレベル50%,推定結果は平均推定値と固有値解析の差[Hz],括弧内は変動係数[%])
手法 1次 2次 3次 4次 5次 6次
固有値解析 1.365 2.417 3.806 5.208 6.597 7.924 提案手法 0.006(1.10) -0.004(0.66) -0.020(0.52) -0.038(0.46) -0.088(0.50) -0.161(0.44)
ERA 0.010(1.33) -0.005(0.94) -0.023(0.86) -0.041(0.63) -0.094(0.74) -0.167(0.63) ERA/DC 0.005(1.02) -0.005(0.77) -0.018(1.10) -0.048(0.58) -0.094(0.71) -0.165(0.47) 前進SSI 0.006(1.12) -0.004(0.66) -0.020(0.53) -0.038(0.46) -0.088(0.51) -0.161(0.44) 後進SSI 0.006(1.09) -0.004(0.67) -0.020(0.52) -0.038(0.46) -0.088(0.49) -0.161(0.44)
手法 7次 8次 9次 10次 11次 12次 固有値解析 9.600 11.619 13.730 15.768 17.000 18.029 提案手法 -0.271(0.40) -0.490(0.40) -0.762(0.70) -0.227(0.49) 0.289(0.36) 0.049(0.33) ERA -0.297(0.69) -0.426(3.14) -0.858(0.63) -0.297(0.80) 0.130(1.42) -0.111(0.71) ERA/DC -0.289(0.45) -0.499(0.47) -0.796(0.55) -0.273(0.25) 0.202(1.11) 0.012(0.35) 前進SSI -0.273(0.41) -0.490(0.41) -0.766(0.64) -0.226(0.53) 0.289(0.35) 0.049(0.32)
後進SSI -0.270(0.39) -0.490(0.41) -0.759(0.79) -0.228(0.48) 0.289(0.39) 0.049(0.34)
表-4.4.1 設定値と提案手法および従来手法の減衰定数推定結果の比較
(ノイズレベル50%,推定結果は平均推定値と設定値の差,括弧内は変動係数[%])
手法 1次 2次 3次 4次 5次 6次
設定値 0.02
提案手法 +0.0029 (36.62) -0.0009 (30.57) -0.0009 (30.07) -0.002 (26.12) -0.0022 (23.92) -0.0025 (24.90) ERA +0.0033 (53.78) +0.0008 (48.93) +0.0009 (36.87) -0.0007 (36.49) -0.001 (34.03) -0.0017 (29.02) ERA/DC +0.0031 (44.66) +0.0011 (42.76) +0.0055 (124.54) -0.001 (30.42) -0.0013 (27.24) -0.0014 (27.70) 前進SSI -0.0007 (36.59) -0.0029 (30.37) -0.0029 (30.35) -0.0037 (26.71) -0.0041 (24.47) -0.0044 (25.86) 後進SSI +0.0066 (37.61) +0.0011 (31.34) +0.0011 (30.24) -0.0003 (26.02) -0.0002 (23.92) -0.0006 (24.82)
手法 7次 8次 9次 10次 11次 12次 提案手法 -0.0027 (19.51) -0.0027 (20.06) +0.0035 (23.28) 0.0000 (22.82) -0.0032 (21.74) -0.0056 (18.85) ERA -0.0023 (26.47) -0.0021 (31.53) +0.0029 (34.71) +0.0012 (34.71) +0.0001 (48.73) -0.0059 (19.14) ERA/DC -0.001 (21.12) -0.0018 (27.51) -0.0015 (18.39) +0.0023 (21.55) 0.0000 (42.00) -0.0042 (11.39) 前進SSI -0.0045 (19.61) -0.0047 (22.08) -0.0009 (27.62) -0.0028 (26.93) -0.0056 (22.49) -0.0077 (21.80) 後進SSI -0.0009 (20.28) -0.0006 (19.20) +0.0079 (21.47) +0.0027 (21.26) -0.0008 (22.59) -0.0035 (17.99)
表-4.4.3 提案手法と従来手法の計算時間(秒)
手法 提案 ERA ERA/DC SSI前 SSI後
時間 2.94 1.22 1.54 1.51 1.50