第 5 章 実応答データを用いた確率的部分空間法の同定条件に関する検討
5.2 実応答に対する同定計算の推定精度に関する検討
本章で分析対象とする実応答は,図-5.2.1 (a)~(c)に示す国内で供用中の3橋(鋼ランガー橋:1橋,
三径間連続鋼箱桁橋:2 橋)における供用環境下の鉛直方向加速度とし,比較的励起されやすい低次 モードの鉛直振動を計測することを目的として,図-1 中の青丸で示す位置に加速度計を配置した.
なお,C橋については,P5-P6間が曲線区間であるため,負反力対策のカウンターウエイトとして箱
桁内に無筋コンクリートが充填されている.
実橋計測で用いた加速度計は,AおよびB橋ではサーボ型加速度計(リオン製,LS-10C(測定周波 数範囲:DC~100Hz)),C橋では圧電型加速度計(TEAC製,710(周波数応答(±3dB):0.02~200Hz)) である.また,計測時のサンプリング周波数は,A橋は100Hz,BおよびC橋は200Hzとした.
(a) A橋(鋼ランガー橋)
(b) B橋(三径間連続鋼箱桁橋)
(c) C橋(三径間連続鋼箱桁橋)
図-5.2.1 対象橋梁と計測位置
[email protected]=113.75m
17 .0 0m
計測点
Ch.1 Ch.2 Ch.3 Ch.4 Ch.5 Ch.6
-92-5.2.2 検討方法
(1)システム同定の方法の計算パラメータ
本章では,A橋を対象とした第4章の解析的検討5-1)により選定されたパラメータセットの妥当性に ついて,まず,A橋の実応答を用いた前進SSIの推定結果を考察することで検討する.次に,他の橋 梁の実応答から各橋梁の固有振動数と減衰定数を推定し,パワースペクトルとの整合性や推定結果の 安定性から,計算パラメータの妥当性と推定手法の頑健性を後述する評価方法により検証する.
本章で検討するパラメータは,4章の解析的検討より特に推定結果に影響の大きい特異ベクトル長 と初期モデル次数とし,検討範囲は表-5.2.1に示す範囲とした.なお,データの時間分解能は対象橋 梁で同一とするために,サンプリング周波数200Hzで計測したBおよびC橋の計測データについて は,A橋と同様に100Hzとなるようにリサンプリング処理を施した.
表-5.2.1 同定計算の設定パラメータ
対象パラメータ 解析的検討結果の適正値 本章の設定値 データの時間分解能 100 [Hz] 100 [Hz]
特異ベクトル長 25 10 ~ 50 (25)
特異値の閾値 1.0-8 1.0-8
セグメント長 30 [s] 30 [s]
初期モデル次数 40 25 ~ 100 (50)
( )内数値は,他パラメータの影響検討時の固定値を示す.
(2)同定結果の評価方法
本章で想定する対象構造物は橋梁であり,構造同定手法を用いたモード推定の目的は,低次の振動 数域に重点を置いた解析モデルの妥当性検証による性能評価や,橋梁劣化期の極めて大きな変状を検 知することにある.そのため,本章では推定精度の評価対象を低次モードの振動数として同定結果に 対するパラメータの影響を評価することとした.
評価の方法は,検討対象となるパラメータ値と振動数の推定結果との関係性を表現したスタビリゼ ーション図を用いて影響分析を行うこととした.なお,スタビリゼーション図には分析対象とする加 速度応答のパワースペクトル分布を併せて表示していることから,パラメータの設定値に応じた推定 結果の安定性やばらつきなどの変動を視覚的に確認できる.
さらに,着目するパラメータが推定結果に及ぼす影響を定量的に評価するために,観測された加速 度データから求まる応答値と,前進SSIの同定計算から算出される推定結果の誤差を,パラメータご とに残差平方和(SSE)の平均値として下式(5.1)のように定義することで評価することとした.
2
| ˆ
N k k i
SSE Y X k N (5.1)
ここに,Yk k| は第3章3.3節3.3.2項の式(3.39)で表される観測データに基づく応答行列,Xˆkは第3 章3.3節3.3.2項の式(3.38)で表される状態推定行列,Nはデータセグメント長である.