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日本語談話の観察

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 153-161)

4.4 自然談話の分析

4.4.1 日本語の呼びかけ語

4.4.1.1 日本語談話の観察

本節では,まずFTAが明らかに低い例(談話7)でその呼びかけ語付加の効果を検討し た上で,その後,相手の意見訂正(談話8),非難(談話9),侮辱(談話10),依頼(談 話11),褒め(談話12)という場面を観察する.

【談話7】P:女・23歳・大学院生,Q:女・22歳・大学院生 (雑談9)

Q:まあ わたしー 別に その人のこと 非難するわけじゃないけどさー P:うーん

Q:UUちゃんって そんな 私 女の目から見て 可愛い とか あんま 思わない P:うーん

Q:センスいいとかー

P:そうだけどねー

Q:まあ 性格はどうだか 知らないからさー 一概に言えないけど

P:ふーん でも 大体さー 大体さー みんなが同じ顔を好きになる方がおかしいんだよ ー

Q:うーん まあねー それはそうだねー P:うーん

Q:十人十色 っていう感じ P:そうだよねー

Q:うん だからさー 価値観とか 違うじゃん やっぱり とか思わない↑

P:思うけどー Q:(笑う)うん P:ねー(笑う)

Q:それとも 恋は盲目 あばたもえくぼ あーー P:そうなのっ そうなんだろうねー

Q:そう わたしたち 立派に 雑談してるよ P(笑う)

P:(笑う)

Q:あっ 後 聞いたら すごい おかしいじゃない これ P:(笑う)

Q:(笑う)

P:時々 これ 回ってること 忘れちゃうんだけどー

談話7は,同級生二人が,30分も雑談を録音できるかという疑問が録音冒頭になされたの を踏まえて,十数分後,卒業したクラスメートの話題で完全に盛り上がっていたことに気付 いた際の発言である.まず,「私たちは立派に雑談をしている」という発話は統語的に「P」

と繋がらない.また,「立派に雑談をしている私たち」がPとQであるのは明らかであるた め,「P」の付加の必然性はない.「私たち立派に雑談してるよ」は既に話し手の驚きを十分 に伝えている.そこに更に「P」が付加されると,呼びかけ語「P」が当該発話の驚きをPに 再確認・念押ししていると解釈することができる.発話末の呼びかけ語は,前接発話を受け て,その発話内容を聞き手に再度明確に示すと考えられる.

これに対し,仮に,冒頭に呼びかけ語を用いた発話「P私たち立派に雑談してるよ」を考 えてみよう.この場合,「P」によって後続発話が注意喚起なされ,聞き手はより注目してこ

の発話を受け入れることになる.ただ,(後続)発話がまだ存在しないので,当然「P」その ものはまだ「驚きの再確認」の意味合いを帯びることはありえず,後続発話への注意喚起の みである.

談話7のように,陳述文に後続する呼びかけ語は非常に少ない.「私たち立派に雑談して るよ」という発話は,ただ終助詞「よ」によって,「私たち立派に雑談してる」という陳述 文に話し手と聞き手のインタラクションを明示する.この文は,意味的には質問や命令,依 頼に比べて聞き手に対する働きかけが弱く,したがって,呼びかけ語を付加する必然性も弱 いと考えられる.また,発話末に後続する呼びかけ語は全体の13%と少ない(それに対し発 話頭及びその直後は60%)(3.1.2節)ことからも,陳述文に後続する呼びかけ語の例が少な いことは自然であると考えられる.

呼びかけ語付加の必然性が弱いにも関わらず呼びかけ語付加がなされることは,逆説的 に,聞き手に対する関心を示していると言える.

【談話8】教師二人(女・下と男・上)の会話 (女性)

4216 あのほら,な,ん,いつかーのー,旅費,をねー,この前あたし,うけこんだまま

ってゆうのに気がついたんですよ.

4217 でもなかったりして.<間7秒>

4218 あったー.

4219 4000円あるからー,足せば5000円札になる.

4220 これでひるめし食える.

4221 えー,でも先生(せんせ)5000円だって,お,お昼ご飯食べれるじゃないです

か.

4222 いやー,★まだー.

4223 →あっ,←★あー.

4224 →ほら,←4時間目授業あるから,金曜日は食いにいけないんだー.

4225 そうなんだ.

4226 4(よん),5,6★ってね.

談話8においてS(4221)はHの発言を訂正(別の意見の提示)しようとするが,この発 話は,Hの「邪魔されたくない」というネガティブ・フェイスを脅かすものであると思われ る.「えー,でも」「~じゃないですか」という語から,聞き手に対する反論,そして自分の

意見を表明したいというSの意図は明らかである.しかし,「先生」という呼びかけ語の挿 入によって,この発話は単なる反論ではなくなっている.SはHに対して歯向かっているの ではなく,逆に,「先生」に対する関心を示して発話全体の緊張感を緩和している.相手の ポジティブ・フェイスにアプローチしており,ポジティブ・ポライトネス・ストラテジーと して働いている.

【談話9】6956:男・上,6957:男・下 (女性)

6945 →あ,そうだ←そうだ,そうなの,あのね,ね,飲むとね,飲むと寝ちゃうんだよ

ね.

6946 ほら,寝ちゃったじゃない.

6947 いえ.<咳>

6948 うんとね,あのー荷台かなんかをー運んできて,★のっけなかったっけかなー.

6949 @→<笑い>←

6950 @<笑い>

6951 なんかあのー,会議室の前で倒れてた★とか,話は聞いたことあるけど.

6952 →そうそうそう.←

6953 倒れたんじゃない,あそこで寝ようと思ったの.

6954 やわらかくて.

6955 @<笑い・複>

6956 じゅうたんの上,じゅうたん,じゅうたんからからはみでてたんですよ,おまえ.

6957 あっ,すいません.

6958 @<笑い・複>

談話9は複数人(六人前後)の昼食時の雑談(上下はあるが親しい間柄)で,ある会話参 与者のお酒の失敗について話している.この場面においてS(6956)はHを非難,もしくは バカにする.確かにSは,酒を飲み過ぎて寝ていたHをバカにしているが,6956は本気の 非難でなく,6957はそれを冗談として受け取り面白おかしく謝罪する.このやりとりを受け て6958での複数人の笑いが起こる.つまり,会話参与者らには発話全体が「冗談」として 受容されている.

ではなぜこの発話が,直接の聞き手のみならず会話参与者全員に冗談として受け取られた のだろうか.まず,「おまえ」という語が直接的に笑いを引き起こしたり,「非難でない解

釈」を可能にしているわけではない.また,全員笑っているとはいえ,非難のニュアンスが 完全に消えたわけでもない.口調,表情等も発話解釈には当然影響を与えるが,ここで会話 参与者らにこの発話が「冗談」のように解釈される要因の一つは,「おまえ」の付加である と考える.職場の人間関係において,6956の6957に対する基点対称詞が「おまえ」である とは考えられない.しかし,このような雑談の場で,普段使わない(であろう)「おまえ」

を付加することは,「じゅうたんからはみでて寝ていた」という指摘に,SのHに対する急 激な接近を示す.また文末表現「ですよ」も,普通体が基点である当該談話における急激な 変化である.つまり,字義的には非難の内容にも関わらず,SがHのフェイスを意識してい るという事実が,会話参与者らの冗談や笑いを呼び起していると考える.

なお,発話6956に「おまえ」がない場合,冗談を交えて受け取られる可能性は多少低く なるだろう.この発話は,まさに「おまえ」という呼びかけ語によって,冗談・ジョークと して受け取りやすくなっていると考える.

同時に指摘しなければならないのは,呼びかけ語の付加は同じ状況で正反対の解釈,つま り冗談ではなく更に強烈な非難と解釈されてしまう可能性も残している点である.普通は適 切な対称詞がわきまえとして選択されなければならないため,「おまえ」と呼べない(と一 方でも思っている)間柄で用いた場合は,正反対の解釈がなされる恐れが高まる.また「お まえ」と呼べる関係であっても,ただでさえFTAの高い発話におけるこのような急激な接 近は,馴れ馴れしい,ずうずうしいという感情を呼び起こす可能性もあり,その際も正反対 の解釈がなさるだろう.

【談話10】P:女・20歳・短大生,Q:女・20歳・短大生 (雑談14)

Q:だから 赤ちゃん 連れて 帰ってきたよ もう 赤ちゃん 抱いたよ もう もう なんか 恐くて 怖くて まだ

P:抱いたの↑

Q:抱いたよ

P:馬鹿が移るよ(笑う)

Q:みんなに やめろよ とか言って 始め 持たして とか言って P:(笑う)

Q:(笑う)なんか そうか 抱いてかー とか 抱かしてー とか って言ってたら な なに↑ [もの]恐いの 前 首が座ってー

P:恐いよね でも でも 恐い 恐い 恐い

Q: こんな フニャフニャ フニャフニャしてるからー えー ー↑ とか言って

P:やーっぱ いやー でも Q 子供 産めないんじゃないの↑

Q:たぶん 産めないねー P:で パンパン言ってるよ

Q:で なんだろう 最近 食べてないからでしょう この3日間ぐらいは 食べてないよ P:なにを

Q:ご飯 ご飯っていうご飯を食べてない

談話10では,親しい関係の二人がかなり際どい話をしている.これ以前には,Qはダイ エットに気を使いとても痩せており,また料理が一切できないという話題があった.そして 知人の赤ん坊を抱いたことを回想している最中,Pは先ほどの話題を思い出し,Qが将来子 供を産めないのではないかと述べる.「やーっぱ」「いやー」「でも」という語の連続は,関 連話題への転換のための前置きであると同時に,「子供が産めない」という,かなり相手を 傷つける可能性のある侮辱的内容の発言を前にした言い淀みとも捉えることができる.では この呼びかけ語「Q」は何を意味するのだろうか.

まず,「子供産めないんじゃないの↑」と「Q」の統語的及び意味的結びつきを考える.こ の発話の前に「友人が子供を産んで,その赤ちゃんを抱いた」ことを話しているので,Sの 発話の背景知識には「(子供を産んだ)他の人」に対する「Q」がいる.したがって,「産ん だ友人」に対する「(子供を産めないであろう)Q」という,対比のハが想起されている可能 性がある.また,「赤ちゃんの首が座っていない」という話題から「赤ちゃんが産めない Q」に話題が転換するにあたり,この発話のトピックとして「Q」が提示されており,トピ ックのハが省略されていると捉えることもできる.ただ,この文脈では「Q」と「子供産め ないんじゃないの↑」は曖昧な意味的結びつきでしかない.この「Q」は統語的遊離性を有し ており,後続文との統語的・意味的関連性が強いと言える(2.6.1節参照).

ではこの場面をポライトネスの観点から考える.「子供が産めないのではないか」という Sの意見は,侮辱が許されるような親密な関係であったとしても十分にHのフェイスを侵害 する発話内容であり,「Q」という語の有無に関わらず,Sの意見自体がそもそもFTAの非 常に大きいものであると言える.この場面では,結果的にHの反論(「なんでそんなこと言 うの」等)ではなく同意(「たぶん産めないねー」)が後続する.ここから,Sによる「Q」

という呼びかけ語は,Hのフェイスを本来的に傷つける発話(「子供産めないんじゃないの

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