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呼びかけ語の文法的な位置づけとその分類

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 30-35)

呼びかけ語の定義が定まっていない以上,過去の先行研究においてどのようなカテゴリー にどのように位置づけられてきたのかも振り返る必要がある.また,どのような表現が呼び かけ語とされてきたのかも検討する.

2.3.1 呼びかけ語をめぐる品詞と構文機能的要素の問題

寺村(1982:49)は混乱されやすい二つの観点を指摘している.一つ目は語の構文機能的 な分類,つまり単語または単語の集りが文を構成する上でどういう機能を果たしているか......................

と いう視点からの分類(e.g.「題目語」「述語」「修飾語」)がある.二つ目に,品詞(lexical

category),つまり文を作る素材,単位体の最小のものとしての単語を,文を離れて.....

「ふだ ん」どの格納庫にしまっておくかという視点からの分類(e.g.「名詞」「動詞」,「感動詞」) がある.呼びかけ語は当然構文機能的観点から検討される必要がある.

まず,構文機能的な分類において「呼びかけ語」は「独立語」にあたる.松本(2006)は 構文機能的な「独立語」について,次のように述べる.

(16) 独立語はひとつの文の内部にあらわれるが,それをのぞいた文との,また,他の文 の部分とのかかわりがうすく,遊離的であるうえ,内容面でもコトガラ的な面で文 をひろげるとはいえず,ハナシテの態度,きもちを表すなど,のべかた(陳述)の 面で文のくみたてにくわわっている.独立語になる品詞は,感動詞,陳述副詞,接 続詞である.名詞もよびかけの独立語になるが,このばあい,よびかけられたヒト をさししめす点で,コトガラ的な側面もとりだされている.(267-268)

そして「おおい,中村君,ちょいとまちたまえ」という例文を挙げた.この文の「中村君」

は独立語である.なお,品詞としては「名詞」である.

また工藤他(2009)は独立語について次のように述べる.

(17) 独立語とは,単独で使われれば,独立語文を形成するもので,述語との結びつきは 比較的ゆるやかであり,後に続く語句の先触れ的な役割を果たすものである.

(21)

そして「洋子さん,あそこに花が咲いているよ.」という例文を挙げ,「洋子さん」は呼びか けを表すとした.また「はい,行きます.」は応答,「わあ,大きいな!」を感動とした.高 橋他(2005:22)も独立語文として「田中さん」「ちょっとそこのお兄さん」などの呼びか けを挙げる.

他方「呼びかけ」という「機能」は,品詞という観点から見ると「感動詞」が有するとさ れる.日本語学および国語学では過去少なくない品詞分類が試みられているが,感動詞と は,「構文上は他の文の部分と結びつかず,「アア」のような感動や「ハイ」「イイエ」とい った応答・「オイ」のような呼び掛けを表わす品詞」(中崎・城田2017:70),「自立語で活用 がなく,文の独立語となることができる.他の語を修飾しない.概念内容を持たず,感嘆な どの感情が非分析的に表出されたもの.」(ウォン2012:53)などとされる.具体的には,

「感動」を表す「おや」,「応答」を表す「はい」「うん」「いいえ」,また「挨拶」の「おは よう」「こんにちは」や「かけ声」の「えい」「そら」を含む.そして「呼びかけ」を意味す る「おい」「ねえ」「もしもし」等も感動詞に該当するとされる.また寺村は感動詞を「文頭 や文中に現れて話し手の態度を表すもの(三次的ムード)」(1984:61),「対人のムード」

(寺村1991:292)であるという.日本語記述文法研究会(2009:158)は「間投表現」の下

位区分として「呼びかけ」を挙げた.「呼びかけ」とは「聞き手の注意を引くときに発する 表現で,対話の冒頭に用いるのがふつうであ」り,表現としては「おい」「おーい」「もしも し」「ねえ」「よう」「こら」等が該当する.

品詞と構文機能的要素の観点からの呼びかけ語の記述は,次のようにまとめられる.呼び かけ語は,構文機能的には述語との結びつきが薄く後続要素の先触れであるため「独立語」

であると考えられてきた.一方品詞という観点では,「呼びかけ」という機能を有する語彙 は「おい」「ねえねえ」であり,これらは「感動詞」に分類されてきた.

(18) 対称詞の2用法のどちらに分類するのか判断不可能な例が少なくないことも明らか になってきた.例えば,「田島先生,どんな色が好きですか」(井上2003:25),

「やっぱり,あなた,まだ,あれ分かっていないんだわ」(小林1997:128)のよ うな例である.(高橋2005:134)

この指摘は,当該の名詞句が「田島先生はどんな色が好きか」「あなたはまだあれについて 分かっていない」という文においてハが省略された形式,つまり文内の一要素であるのか,

呼びかけ語なのか判断しがたく,過去の先行研究では混乱が見られることを述べている.

「呼びかけ語」を検討するうえで重要なのは,「題目語」ハとの関係や述語との関係等,構 文機能的な観点からの検討であると言える.

発話という観点から未展開文(一語文や独立語文)を分析した仁田(1997)は,一語文の うち,「言語行為の基本たる対話行為の発生・維持に関わるもの.言語の受け手を定立する ために呼びかけることで,言語行為の端緒を開いたり,先行発話に対して応じ手としての態 度を表明することで,言語行為の維持・促進を行うもの」を言語行為保持型と分類した.そ のうち「回りにいる存在から言語行為の対手を定立する(特定者を指定する)」,「存在確認

(出欠の確認)」に用いられている表現として次のような例を挙げた.

(19) a. 両津勘吉!

b. あ,あなた!

c. …おまえね.クリーニングに出さない服の,一体全体どこにクリーニングの札が つく可能性があるの.(13)

「言語の受け手を定立する」ときに相手を呼ぶのは,本研究の指す「呼びかけ語」であ る.なお,「言語行為の発生を計る.発信者と受信者を作り出し,言語行為の場を開く」た めの一語文としては「よう…」「おい,金次郎.」「やあ,山村さん.」「ねえ,裕作ちゃん.」

「もしもし」を挙げ,「呼びかけ詞」と呼んだ(12).

以上の記述からは,呼びかけ語が語,文,発話という異なるレベルで記述される対象であ ることが分かる.

2.3.2 呼びかけ語の種類

ここでは呼びかけ語の語彙的な分類について過去の先行研究を概観する.分類には様々な

基準があるが,まず意味による分類と指示の方法による分類を概観し,さらに行為による分 類を行う.

呼びかけ語に該当する表現として品詞,および名詞の意味を列挙した四つの研究を挙げる

(表 2-4).いずれの研究も呼びかけ語に該当する表現形式を限定しておらず,「~など」を 用いて断定を避ける形で記述している.今村(1996:113-124)は,Forms of Addressが代名 詞,動詞そして名詞の三つの品詞に当てはまると述べるBraun(1988:7-11)の定義に従 い,同じ基準で日本語の例を挙げた.李(2015a:8-9)は呼びかけ語に感動詞も含めた.ど の研究も,呼びかけ語に該当する名詞の意味として固有名詞,親族名称,職業名,地位名に 言及している.

表 2-4 呼びかけ語の意味分類

李(2015a) a) 固有名詞(姓名によるもの)「立花さん」

b) 代名詞「お前」

c) 親族名称「お父さん」

d) 職名,地位名,称号「室長」

e) 感動詞「あの」 など

今村(1996:113-124) ① 代名詞「あなた」「きみ」「おまえ」

② 動詞「おいで」「こい」「いらっしゃい」

③ 名詞

a) 個人名

b) 親族用語名

c) 敬称(「さん」「さま」「くん」「ちゃん」)

d) 称号

e) 職業名

f) 愛称

g) 人間関係を表す呼び方(「お隣さん」「先輩」)

日向(1983) a) 人称代名詞

b) 名前

c) 親族呼称 d) 地位名称

e) 職業名称 など

田窪(1997) a) 親族名称「お父さん」「お母さん」「おばあちゃん」

b) 上下関係を表す語「先生」「教授」「師匠」「親分」「だ んな」

c) 職階を表す語「社長」「課長」「大尉」「店長」

d) 人称名詞「あなた」「君」「おまえ」

指示の方法によって(呼びかけ語も含めた)対称詞を分類したのは田窪(1997)である.

田窪は対称詞を,固有名詞・定記述のタイプと対称名詞(お前など)のタイプの二種類に分 けた.そして,人称代名詞は基本的に性数格の一致のある言語においてその一致性のみを担 う範疇であり,閉じた語類であると考えた.一方,日本語の人称を表す語類は開かれた語類 であり,極端なことを言えば「ユー」や「ミー」も可能である.他の名詞類と区別する文法 的理由はない.なお,この分類は鈴木(1973)を継承したものである.人称名詞(対称名 詞)は直示的であり,対話の役割だけが指定されている.それに対し定記述や固有名詞は直 示的ではなく,その談話領域で既に値がわりあてられており(誰を指すか決まっている), 話し手,聞き手という対話の役割がそれに加わるだけだと説明した.このように,指示と照 応の関係からの分類は田窪のみである.

しかし,本研究は呼びかけ語に該当する名詞句を分類するにあたり,上の二つの観点から では呼びかけ語全体に関する記述が不足していると考える.なぜなら,次節で見るように,

呼びかけ語は行為という大きな枠組みからも考えなければならないからである.

そこで本研究では,「呼びかけ」という行為を次のように分類することを提案する.

(20) ①言語的表現

a. 注意喚起表現:「ねえ(ねえ)」「あのー」「もしもし」

「ちょっと,すみませんが」「おい」等 b. 呼びかけ語(句):「田中さん」「田中先生」「運転手さん」

「お父さん」「おばあちゃん」「おまえ」

「パソコンに詳しい人」「どなたかご存じの方」

「そちらのピンクのスカートのお客様」等

②非言語的表現:ドアをノックする,肩をたたく,手で招くなど

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