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ロシア語の呼びかけ語のポライトネスの分析

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 146-153)

4.3 インタビュー番組の分析

4.3.4 ロシア語の呼びかけ語のポライトネスの分析

ロシア語のインタビュー番組内には,聞き手のポジティブ・フェイスを満たす方向へ働き かけるポジティブ・ポライトネス・ストラテジーとしての呼びかけ語が多数観察される.

【談話3】 (R4)

ВП:В эфире – программа "Познер", гость программы – министр культуры Москвы, эмм, кажется еще, еще какие-то, я ничего не забыл, министр культуры Москвы, эмм, руководитель Департамента культуры Сергей Капков. Добрый вечер, Сергей Александрович.

СК:Добрый вечер.

VP:「ポズネル」の今日のゲストは,モスクワ市の文化大臣,えー,思うに他にも,何も忘 れてないですよ,モスクワ市の文化大臣,えー,文化省長官のセルゲイ・カプコフ さんです.こんばんは,セルゲイ・アレクサンドロヴィッチ.

SK:こんばんは.

談話3はインタビュー番組の冒頭における挨拶のシーンである.司会者ВПはゲストより 社会的にも年齢的にも上の立場であるが,司会者は挨拶にゲストの名前を付加した.「こん ばんは」は社会的慣習として付加が期待されている(つまりエチケット的要素が強い)表現 である.それに対しゲストは,司会者の名前を付加せず,ただ挨拶を述べたのみである.こ こから,無くても決して無礼ではなく,コミュニケーションとして特に問題はないことがわ かる.なお,この二人の間で呼びかけ語が用いられたのは,番組内でただこの一度のみであ る.

番組R2のТК,およびR3のДСは,その特徴的な言動からロシア社会において注目を集 める人物である.司会者からは,語調は穏やかなものの内容としてはかなり挑発的な質問を 連発される.当然,二人とも自分のポジションを守るために様々な解説を試みる.相手から 振られたテーマについて,相手の意見を修正し,かつ自分の立場を明確にし,相手に理解し てもらおうとする姿勢が共通する.このように,対立的場面において相手の意見を訂正・反 対するというFTAが高い発話行為の際に,聞き手の名前を挿入するストラテジーが頻繁に 観察された.ここで観察された形式はほとんどが名前+父称の呼びかけであるが,親しさを 出す呼びかけ(英語のDear相当)も一件見られた.

【談話4】 (R2)

ВП:То есть, если вернуться к тому вопросу, который я вам задал, ТК:Да.

ВП:Вот, сегодня, вспоминая вот это вот письмо и то, что там написано, то если бы вам предложили его второй раз, то вы бы его опять подписали?

ТК:Отвечу, ВП:Да, да?

ТК:Отвечу, Владимир Владимирович. а, говорить вам "нет" - это говорить о том, что я

безответственный человек, который подписывает что попало, не задумываясь. У меня в жизни очень много поступков, и мы с вами сейчас об этом говорили, за которые я буду нести ответственность всю свою жизнь. Я не боялась совершать поступки, я не боялась ошибаться. И я не боялась в том числе нести ответственность за свои поступки. Я

ВП:Понимаю.

ТК:повторяла и повторяю, я считаю, что на судей не должно оказываться давление.

ВП:Понятно.

VP:つまり,私が尋ねた質問に戻るとすると,

ТК:はい,

VP:ほら,今日,この手紙と,そこに書かれたことを思い出してみて,もしこの手紙をも う一度渡されたとしたら,署名しましたか?

ТК:答えますよ

VP:はい,でしょ?(署名した,でしょう?の意)

ТК:答えますよ,ウラジーミル・ウラジーミロビッチ.あなたに「いいえ」と答えること は,私が無責任な人間で,何も考えないでなんでもかんでも署名する人,と言うこ とになる.私は人生で色んなことしてきたけど,今話していることもそうですけ ど,全人生で責任を負わなければいけない.私は行動を起こすことをためらわなか ったし,間違いを犯すことも躊躇わなかった.更に言えば,責任を持つことも躊躇 しない.私は

VP:分かりますよ.

ТК:繰り返してきたしまた繰り返しますけど,裁判官には圧力はかかってはいけないと思 う.

VP:分かりますよ.

司会者ВПはゲストТКに,(のちに大きな社会問題になった)ある書簡に署名した経緯を 尋ねている.そして,かなり挑発的な質問「今もしもう一度その署名にサインを頼まれたと したら,あなたはサインするのか」を投げかける.この問はTKをダブルバインドの立場に 立たせる.ВПの問を肯定すれば,自分は中身を正しく理解せずに軽々しく署名する人間で あり,今では反対している書簡の内容に再度賛成することを示してしまう.一方否定すれ ば,その時の署名を今は誤りであったと考えていることを認めることにもなる.そこで,感 情的ではあるものの必死に自分の意見・解説を述べている.TKはここで,自分の意見を相 手に受け入れてもらうため,呼びかけ語によって聞き手に接近し相手との距離を縮めようと している.

【談話5】 (R3)

ВП:Значит, перед вами сидит психически больной и к тому же душевно больной. Вообще говоря, это оскорбление в мой адрес. И во-вторых, что вы считаете возможным так

разговаривать с людьми? Я вам говорю, да, я – не верующий, я – атеист. И что, это сразу меня отбрасывает вот в эту странную группу людей, с вашей точки зрения?

ДС:А, во-первых, нужно вспомнить, в каком жанре я выступал, когда говорил эту вещь.

ВП:Так.

ДС:Во-вторых, я вас совершенно не считаю, Владимир Владимирович, атеистом, несмотря на всё ваше, как сказать, упорство отстаивания вот этого тезиса.

ВП:Ага.

ДС:Понимаете. Потому что сам ваш интерес к религии, сам ваш интерес к Библии, сама, ваше желание разобраться, почему так, что такая за антиномия – в Ветхом Завете кровь, а в Новом – прощение…

ВП:Да.

ДС:Вот. Само ваше стремление говорит о том, что вы отнюдь не атеист, вы – религиозный человек. И поэтому я собственно, с атеистом как бы не о чем говорить.

VP:つまり,あなたの目の前には精神的に異常で,かつ魂も異常な人間が座っていると.

はっきり言って,これは私に対する侮辱でもあるでしょう.第二に,こんな風に人 と話していいと思っているんですか.私は確かに言いますよ.はい,私は何も信じ ていないし,私は無神論者です.でなに,これですぐ,変な人々のグループに分類 されることになるんですか,あなたのお考えでは.

DS:え,第一に,思い出さないといけないのは,これを話したときにどんなジャンルに出 ていたか.

VP:ええ.

DS:第二に,私は全く思ってないですよ,ウラジーミル・ウラジーミロビッチ,あなたを 無神論者だなんて.あなたは,なんていうか,自分の考え方に固執していますけ ど.

VP:ほお.

DS:お判りでしょうか.なぜなら宗教に対するまさにその興味,あなた自身の,聖書に対 する興味,何なのか理解しようとする意欲,旧約では血なのに新約では許しになる 矛盾とか

VP:はい.

DS:そう.このあなたの好奇心そのものが,無神論者などでは全くなく,むしろ信心深い 人間であることを示している.だから私は,個人的には,無神論者とは話すテーマ

がないわけで.

ロシア正教の神父ДСは,過去に「もし何らかの宗教を信じていない人は,その魂は罪で 満たされている,精神病者以外,宗教的でない人はいない」と述べたことがある.これは一 般にかなり過激な意見であり,ましてや聖職者としては物議を醸す発言である.そこで司会 者ВПが,「(私は無神論者なので,あなたの意見に従うと)私は精神的に病気でかつ魂も病 気であるということか」と挑発的な疑問を投げかける.ДСはその問に直接答えるのではな く,まず「この発話がなされた文脈を考慮しなければならない」点を指摘し,次に「あなた の宗教に対する多大な関心そのものが,あなたが無神論者ではないことを証明している」と 迂回的に回答する.ВПはДСから発話を引き出すために挑発的な問で誘導したと考えられ る.それに対しДСは,相手の意見を正し,かつ自分の意見を正しく理解してもらうために 説明を試みている.この場面での呼びかけ語の付加は,二人の間に横たわる意見の対立,そ の距離を縮めるために,相手を気分よくさせるポジティブ・ポライトネス・ストラテジーで あると考える.

【談話6】 (R3)

ДС:мы даже знаем, сколько в этих ужасающих погромах было убито человек. Эта цифра, отнюдь не ужасающая и не астрономическая.

ВП:То есть это вас не смущает? Вам, ДС:Нет, меня это

ВП:То есть вам именно количество важно? Вот это если убито, скажем, 500 человек – ну это ничего, а 5 тысяч – это плохо. Вообще, каждый отдельно взятый человек с точки зрения христианина – это разве вообще?..

ДС:Нет, Владимир Владимирович, дорогой, но вы должны понимать. Когда мы говорим

"ужасающая катастрофа"...

ВП:Это Холокост. Это Холокост.

ДС:Да.

ВП:Это ужасные погромы.

ДС:Да. Вот.

DS:我々は知っているじゃないですか,何人がこの恐ろしいポグロムで殺されたか.この 数字は決して,恐ろしい,天文学的数字とは言えない.

VP:つまりあなたはそこが気になるわけですか.あなたは DS:いえ,わたしはそういう

VP:つまりあなたには数が重要なんでしょうか.もしほら500人が死んだ,まぁ大丈夫,

5000人,これはダメだ.そもそも,キリスト教の観点からして,一人一人個人が あるし,そういうのは全く

DS:いいえ,ウラジーミル・ウラジーミロビッチ,Dear,でもあなた分かってくれなきゃ.

我々が史上最悪の災難と言う時は….

VP:それはホロコースト,それはホロコースト DS:はい.

VP:最悪の虐殺

DS:はい.まぁそうですね.

ДСは,ロシアでは扱いに注意を要するユダヤ人のテーマが振られ,様々な本に書かれた 死者数が信用できないこと,またその数は大したものでないことを述べた.そこでВПは,

「あなたは殺された人数が重要だと考えているのか.そもそもそのような考え方は,キリス ト教的にいかがなものか」と問う.ДСはВПが自分の意見を歪曲している(揚げ足を取っ ている)と捉え,説明を加えようとし「いいえ,分かってください.我々が史上最悪という ときは」と続ける.しかしВПは,ДСの「史上最悪」という語を捉えて「それはホロコー ストである.最悪の虐殺である.」と述べ,ДСの説明の腰を折った.

ユダヤ人,ましてやホロコーストという繊細なトピックであるため,ДСは聖職者という 立場上なんとしても正しく自分の考えを理解してもらわなければならない.そこでまず名+

父称で相手に呼びかけ,更にDear相当の語によって聞き手に対する強い親近感を表明す る.それから「あなたは理解しなければならない」という義務表現を用いる.話し手は呼び かけ語によって明示的に聞き手に対する親近感を表明しつつ,聞き手をうまく説得しようと 試みている.もし呼びかけ表現がない場合,義務表現で示される対立関係が前景化するのみ である.

談話4~6における呼びかけ語からは,意見の対立を前提として,その対立を認めつつ相 手に自分の意見を熱心に伝える様子がうかがえる.呼びかけ語を付加することで,自分の意 見を強引に相手に押し付けていると受け取られる可能性は否定できない.このような押し付 けがましさ,強引さは熱心さと表裏一体とも言える.しかしこのような場面で,ロシア語で は,相手に自分を理解してもらおうと説明を試みる,その誠意と熱心さが優先される.説明

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 146-153)