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依頼表現における呼びかけ語及びハとガの交替

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 51-54)

2.6 依頼表現で見る呼びかけ語の検討―統語的遊離性―

2.6.2 依頼表現における呼びかけ語及びハとガの交替

寺村(1991)は「ハ」の機能について,「文中のある要素をとくに際立たせ,ある対比的 効果を生じさせる働きを基本と見,それがある条件下で,対比の相手である影の存在が意識 されず,単にそこに聞き手の注意をとくに惹きつけて,あとの陳述と結びつけるだけの場合 を,「(単なる)主題」を表す.(中略)「Xハ」にたいしてなんらかの影が意識されるか否 か,また,それがどのような影との対比として解釈されるかは,結局は談話的条件による」

(40-41)という.

(42) a. お父さんゴミ出してきて.

b. お父さん(は/が)ゴミ出してきて.

c. ゴミ出してきてお父さん.

d. ??ゴミ出してきて(お父さんは/お父さんが). (作例)

27 「遊離」という術語は,日本語学及び国語学では主に「数量詞遊離」を説明する際に用いられている.

また,従属節の類型の一つとして「話し合いがまとまったかどうか,早く結果が知りたい」という文に 見られる「遊離節」がある(野田他2002:67).これは,主節に対して直接的な結びつきを持たず,主 節から遊離した位置に置かれた従属節であるとされる.高宮(2003)は「何人がパーティーに参加した のか,幹事は人を集めるのに必死だった」という文について,文中の疑問文が後句の述語と直接関係を 持たず,後句全体にかかる,つまり後句にとって付加的な成分となると説明し,「注釈句」構文と呼ん だ.「遊離的」と「付加的」は,ある句が特定の述部と直接結びつかないが,完全に分離しているわけで はないという点で類似している.

(43) で,その帰って来たときにね,あの,「もうこれ暑い,もうこれ,もうこれちょっ とかぶってみあんた」,みたいな. (H25会話232)

(42a)に対する(42b)の場合,ハによって「お父さん」に対するなんらかの影,例えばほ かの家族構成員が想定されやすく対比の解釈が生まれるし,ガで排他を明示することもでき る.しかし,話し手がハやガで統語関係を明示した場合,後置すると適格性が下がる

(42d).(43)では引用内の発話末に呼びかけ語が見られるが,この発話も,ハもガも関係 なく「あんた」で指示される聞き手に対する発話であることのみが明示されている.つま り,呼びかけ語は状況次第で後置することができるが,ハやガで命題と明示的に結びつけた 場合は後置が困難になる.呼びかけ語は発話(文)と統語的に緩やかな結束でしかなく,聞 き手に柔軟な解釈を許す.

以下では,依頼表現とよく共起する不定人称詞「誰か」をめぐって,そのハ及びガとの共 起の分析を通じて,依頼表現一般のハとガの交替可能性を検討していく.まず,不定の要素 は主題化できず,ハと共起しない.

(44) *誰は山田さんですか? (作例)

同様に,不定人称詞「だれか」「どなたか」も疑問文の主題にはならない.なお,平叙文 において「(少なくとも)だれかは(魅力について)教えるだろう」は可能かもしれない が,依頼表現においては主題化できない(45b).ガは排他を表し,「私ではない誰か」とい う意味で排他を明示している(46).しかし,文脈で特に排他を明示するわけでない場合,

ガと共起することはできない(45).同様に,ハ,ガともに後置することも極めて難しい

(45c).

(45) a. いつもただ突進しているだけって感じで,見ているとなんだか腹が立ってきま す.どなたか彼のFWとしての魅力を教えてください. (BCCWJ)

b. *どなたか(は/が)彼のFWとしての魅力を教えてください.

c. ??彼のFWとしての魅力を教えてくださいどなたか(は/が).

(46) 紐パンは私じゃない誰かが書いてください28

28 ブログhttp://yaplog.jp/bornclash10/archive/1185 (2016819日確認)

(47) a. 周りの人はだれも見たことが無いそうなのですが,だれか見ていた方,感想聞か せてください. (BCCWJ)

b. だれか見ていた方(は/が),感想を聞かせてください.

c. *だれか(は/が)見ていた方,感想を聞かせてください.

d. 見ていた方だれか,感想を聞かせてください.

e. *見ていた方だれか(は/が),感想を聞かせてください.

f. 見ていた方(は/が)だれか,感想を聞かせてください29

(47a)~(47e)から,「だれか」はハ,ガと共起せず,「見ていた方」が共起することが 分かる.(47a),(47b)及び(47d)の例文において「だれか」「どなたか」がハやガと共起 しない理由として,「だれか」と「見ていた方」いう二つの語の情報の性質の違いという観 点から説明できるだろう.

不定人称詞「だれか」は,存在するかしないかわからないがそれでも存在した場合のその 人を表している(2.5.2節で触れたC群).それに対し,例えば「お父さん」や「見ていた 方」は,必ず存在する(と話し手が考えている)具体的な該当者「お父さん」「見ていた 方」を指示する(2.5.2節で触れたA群及びB群).対象指示における情報の性質という点 で,「だれか」が対象を指す指し方と「お父さん」や「見ていた方」が指す指し方は異な る.後者は具体的な存在であるから,文脈によって旧情報にも新情報にもなり,ハともガと も共起しうる.それに対し不定人称詞「だれか」は,その対象が不定である以上,文脈に既 出の具体的な対象の存在が想定しづらく,このことがハとの共起の可能性を不安定にしてい る.同様に「それでも存在した場合のその人」が焦点,つまり新情報として発話に登場する 場合は非常にまれであるため通常はガと共起できないが,文脈が許せば共起できる(46).

なおBCCWJでの検索では,「だれか見ていた方」(47a)の語順,つまり不定人称詞+

「~方/人」の語順は83件,「~方/人」+不定人称詞の語順は1件で,「見ていた方だれ か」(47d)のタイプより圧倒的に多い(巻末付録3参照).

ハやガを用いるためには極めて限定的な状況が必要であり,また多くの状況においては旧 情報のハと新情報のガの性質が齟齬をきたすため,結果的に呼びかけ語としての提示が選択

29 奥津(1985)はこのような「Whか」と名詞句の組み合わせ(例えば「誰か有能な助手」)を不定詞同格 構文と名づけ,不定詞移動を起こした句(例えば「有能な助手を誰か」)と分析し,その格助詞のつき方 から,「同格構造といっても,後項名詞句が主で,「Whか」は従であるといってもよかろう」(10)と説 明した.

されやすいと推測できる.これは,2.4.1節で見た苅宿(2014a)によっても指摘されている 事実と合致する(24).

実際の発話では,類似した状況でハがない場合とある場合があり,話し手はその微妙な違 いを使い分けていると考えられる.

(48) a. どこの事務所所属されているのか,お名前他ご存知の方教えてください.よろし くお願いします.30

b. この植物の名前をご存知の方は教えてください.31

ハが無い場合は,単なる省略ではなく話し手が積極的にそれを選択しているはずであるの で,その選択の要因を考える必要がある.

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