• 検索結果がありません。

呼びかけ語とハの近接性

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 37-40)

2.4 呼びかけ語の同定に関する先行研究

2.4.2 呼びかけ語とハの近接性

呼びかけ語と題目語(助詞ハ)との機能的近接性を指摘する研究もある.堀川(2010)は

「題目語」のハに「呼びかけ」性を見る.行為要求の文(命令文)「君は先に行け」「熱のあ る人は帰ってください」において,ハで示される語「君」「熱のある人」は「命令相手」で あり,そのハを「呼びかけ」機能と考える.堀川(2010)は,宮地(1963)が「呼びかけ表

13 番号は引用者が若干変更を加えた.

現」を「コミュニケーションそのものに関する表現意図」,他の文表現一般を「コミュニケ ーションの内容に関する表現意図」を持つと区別したことを踏まえて,「ある言語表現を誰 に向かって伝えたいのか,という聞き手を指定する部分と,伝達内容そのものの部分とは言 語機能としてまったく別種のもの,全く別次元のもの」(23)と言う.その上で,「君」「熱 のある人」は,「命令にあたってその命令を差し向ける相手を特に指定し,行為を要求する 相手に,その発話に注目してもらう機能を果たす部分」(23)であるから,「呼びかけ」であ ると考えた.つまり,「大本君,会計係を担当してくれ」における「大本君」は言語機能の 観点から「呼びかけ」であるという14

また,呼びかけのうちハの付加が不可能なのは,呼びかけ相手が発話の現場においてあら かじめ特定化されており,事実上呼びかけ相手以外の聞き手は考慮されていない,つまり対 比的状況は全く意識されていない場合(25a)であると言う.それに対し,ハの付加が可能 な場合として,対比の色合いを帯びる場合(25b),また,不特定多数の中から条件に合う特 定の人を選び出してその人に向けて要求する場合(25c)を挙げている15

(25) a. ベニー,おれと結婚してくれ.(*ベニーはおれと結婚してくれ)

b. やる気のない者は去れ.

c. お降りの方はこのボタンを押してください.(24)

苅宿(2014b)は,ハダカで出現する対称詞の用例を通して「呼びかけ」の周辺の連続性 を記述的に考察したが,その冒頭で「ハダカの対称詞の用法は連続的なものであり,「主 題」と「呼びかけ」の境界線を見出すのは難しい」(187)と述べる.またメイナード

(2000)は,「呼びかけと提題は,中心となる物や人に焦点化することを可能にする光を差 し込むことで,焦点化プロセスの手助けをする言語のストラテジーという共通点を持つ」

(167)という.

前原(2000)は,「呼びかけ」を仁田(1997)による「未展開文」(一語文,独立語文)の 下位分類である「言語行為保持型:言語行為の基本たる対話行為の発生・維持に関わるも

14 堀川(2010)は,ハの有無は「題目語」であるか否かを分ける決定的な要因ではなく,形態的にハがな くても「題目語」と認めてもよい,という広義の題目語の立場をとる.したがって「大本君」につい て,「呼びかけでありつつ題目語である場合」また「呼びかけか題目語が区別がつきにくい場合」でもあ ると述べ,「いずれにせよ呼びかけと題目語が近接した関係にあることを物語る」とした.

15 なお堀川(2010)は(25b)(25c)について,「ハの付加が可能」というが,可能なのではなくむしろハ が必須であると言える.

の」で,「呼びかけ」の解釈は後続発話の発話・伝達モダリティと関わると捉え,呼びかけ の要件を三つ挙げた.

(26) (a)名詞句の指示する人物が,発話相手として話し手の念頭になければならな い.

(b)後続の発話とともに,対手となるべき人物に対して(向かって)発せらなけ ればならない.

(c)後続の発話とともに,対手となるべき人物本人の認識の変更,あるいは行為 への影響を意図して発せられなければならない.

そして,上述の三要件を満たしたもののうち「「対手=命題の登場者」ではないものは,専 ら呼びかけ語としてしか解釈できないが,「対手=命題の登場者」の場合には,呼びかけと も題目とも捉える余地が残される」と考えた.題目と呼びかけの近接性については,それら は「独立語的要素を軸に一部で重なり合う性質を持つもの」であり,「題目が「以下の発話 の範囲を特定する」ものであるのに対し,呼びかけが「以下の発話の伝達する範囲(=対 手)を特定する」ものであると捉える時,両者の間には緊密な関係が予想される」(62-63)

と述べた.

また,文の構成要素を構文的(統語的)に捉えて図に示した場合,題目は通常最も左に位 置するが,さらにその左側に位置するのは「発話行為」に関連する呼びかけ語である(図

図 2-1 文の構成図

(寺村1982:60)

図 2-2 発話における文の構造

(長谷川1997)

2-1及び図 2-2参照,寺村1982,長谷川1997).つまり,そもそも統語的に題目ハと呼びか けは隣接していると考えられてきた.意味的にも統語的にもハと呼びかけ語の隣接/近接性 の説明が試みられてきたことが,以上の先行研究から分かる.

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 37-40)