第 4 章 自衛隊が果たすべき役割
第 2 節 自衛隊が果たすべき役割
3. 施策実現の課題及び処置事項
これまでに挙げた各施策を実現するため、主として防衛省・自衛隊が取り組むべき包括 的な課題と処置すべき事項について人材育成、広報活動、派遣隊員に関わる礼遇等、PKO
42 佐藤「イラク自衛隊『戦闘記』」、210-213頁。
43 外務省報道発表、平成25年11月11日、
www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_000264.html(アクセス2014年2月6日)。
派遣に関わる検証及び記録・保管、その他(組織の見直し、国際平和協力業務の実施に関 する日米協力のあり方検討)について考察する。
(1) 人材育成
提示した施策実現のために防衛省・自衛隊が取り組むべき最優先の課題は、国際平和協 力業務に携わる要員の育成確保と管理である。特に、全般的な要員管理態勢と、基幹要員 の育成、地域専門家の育成、医官等の管理、語学能力の向上について考察する。
a) 要員管理態勢
国際平和協力業務に関わる各種の教育・留学、訓練・演習、PKO訓練センターへの講師 派遣等が逐年増加し、人材が蓄積されつつあることは歓迎すべき事である。これらの国際 貢献に係る要員の人事管理にあたっては、入隊の早い段階から個人の適性・能力・希望等 を見極め、語学能力の強化や語学・文化などの履修教育も考慮した中長期的な人事管理計 画が必要である。特に国連PKO局や各ミッション等へ派遣される主要な隊員及び防衛駐在 官等要員に加え、今後は地域専門家の育成を念頭に専門家として育成管理することも考慮 すべきである。国際貢献の業務の特性上、管理のあり方とともに、外務省等との連携を含 めた全省的な視点での検討が必要と考える。
b) 基幹要員の育成
【国連PKO局要員の育成】
現在国連PKO局に派遣されている2佐1名の養成・派遣を2名に増員し、1佐の課長職 等上位ポストへの配置努力を図る必要がある。当該要員に要求される資質や能力、要件は 極めて高いものと認識され、中堅幹部までの間に語学力の習得はもとより、修士・博士課 程の履修、第1線部隊勤務の経験、PKO部隊(司令部)勤務経験等により基礎的な識能を 錬成し、その後はCGS履修を経て、PKO司令部幕僚(班長以上)、防衛駐在官補佐官、高 級課程修了、1 佐職部隊長、防衛駐在官等の専門的な経験を積むモデルが考えられる。か つて化学兵器査察局長として数次にわたり活躍した秋山一郎元陸将補のような将来的に将 官ポストである国連ミッションの軍司令官(フォースコマンダー)や国連PKO局の参謀長、
軍事顧問を目標として専門家としての人材育成を図ることが日本の活路とも言えよう。
【防衛駐在官等の育成・運用】
国際平和協力業務に関わる人材育成上、防衛駐在官等の育成・運用が極めて重要である ことを最初に指摘しておきたい。そのために全ての在外公館に防衛駐在官補佐官(2・3佐)
を配置することが必要である。補佐官勤務を通じて防衛駐在官としての基礎的な識能を習 得させておくことが有効である。その上で防衛駐在官の補職トラックを見直して1佐職指 揮官補職後の補職や複数回の補職を行えるように改めれば、経験を積んだ実力者を PKO 部隊指揮官及び国連(PKO 局等)・国際機関や各ミッション司令部の幕僚として高位のポ ストに配置することが可能となる。防衛駐在官在任間に任国あるいは隣接国等への PKO 派遣や国緊隊派遣が行われる場合、キーマンとして派遣に関する質の高い職務遂行が期待 できる。併せて再任用制度の活用(ポストの拡大)、防衛駐在官(将官)の勧奨退職対象除 外、UC 転換制度の復活、メンター制度の創設等を検討し優れた人材の有効(長期)活用 についても具体化を図る必要があろう。
c) 地域専門家の育成
国際平和協力活動に従事した幹部隊員の中には、職務遂行上結果としてある種の限界を 感じている者が少なくないように感じられる。派遣国・地域の歴史・文化・宗教・風俗・
習慣・民族性等々についてなお一層の理解・認識を深める必要性を痛感しているようであ る。また、防衛駐在官経験者からは数年程度の勤務ではその国の状況を正しく判断するこ とは困難で、少なくとも10年以上の勤務経験が必要であるとの声も聞かれる。
米軍のように武官経験者が退役後文官として同国大使館で勤務している例に倣うこと も有益と思われる。外務省等は同一大使館に10年以上専門官を配置してその国の要人との パイプを確保しているとも聞くが、軍関係者との交流は必ずしも十分ではないようである。
防衛省から出向している在外公館警備対策官(自衛官)の運用について抜本的な見直しを 行い地域専門家として育成することを検討すべきではなかろうか。同時に在外大使館にお いて息の長いヒューミント活動を可能とするような自衛官の早期退職・UC 転換制度の導 入等について防衛省の人事制度改革の中で真剣に取り組む必要があろう。英・仏等の旧宗 主国や 2000 年頃から急速に関与を深めている米国及び中国に伍して活動するためには計 画的な人材育成計画の下、地域専門家(特に幹部自衛官)を育成することが緊急の課題で あろう。当面は防衛省情報本部等において地域担当として比較的長期の勤務をしている隊 員(専門家)を現地で積極的に活用することも必要であろう。
d) 医官等の管理
国際緊急援助隊や人道的な国際救援活動においては医療活動そのものが任務であるた め医官等が中心的な活動を行うのは当然である。また、今後のPKOにおいては自隊の衛生 機能としてのみならず「民生協力活動」の一環として衛生指導等を行うことも考えられる。
このように国際平和協力業務において医官等は不可欠の存在である。然るに防衛医大出身 医官等の離職状況に大きな変化は見られず、医官の離職防止対策は防衛省において積年の 課題であり続けている。手当・処遇の改善とともに予備自衛官制度の改正や新たな制度の 導入など強い決意で取り組むことが求められよう。
e) 語学能力の向上
幹部の英語能力向上は今後とも継続的に取り組むべき課題であろう。また、アフリカの 地域特性上、英語に加え仏語能力の習得を促進するとともに通訳要員の確保は必須である。
更にポルトガル語要員を確保することが望ましい。とは言え短時日に理想的な態勢が整う わけではないので、通訳要員として准曹士隊員を養成することも必要だろうし、公募予備 自衛官(語学)・即応予備自衛官(語学)を活用できるよう制度を改めることも必要であろう。
(2) 広報活動
a) 国民の覚悟
PKO等における広報活動が果たすべき大きな役割は「国民の覚悟」を醸成することであ る44。かつてのイラク派遣部隊現地指揮官は、「たったひとりの犠牲者で、逃げ帰っては他 の仲間支援国から非難され、国際社会から孤立し、結果的に国益も損ない、何より支援し た国からも感謝されない。それでは犠牲になった隊員も含め、現地で使命感を燃やしなが ら、一生懸命歯を食いしばった者全員が報われない。だから、国民も覚悟して隊員たちを 送り出さなければならない。」といった趣旨を述懐している45。
b) 戦略的な広報活動
NSSや防衛大綱には「戦略的な情報発信」、「戦略的な広報活動の強化」と謳われている。
関係省庁・機関等が相互に連携して管理する HP を迅速に更新することなどは言うまでも
44 佐藤「イラク自衛隊『戦闘記』」、199-201頁。
45 同上、194-196頁。
ない。NHKの年末恒例の番組「行く年来る年」などに取り上げられ、日本から遠く離れた アフリカの地で日本人が過酷な環境下で黙々と任務に就いている姿を多くの国民に広報さ れるよう、努力が必要である。
c) メディアへの働きかけ
杉浦正俊氏(外務省総合外交政策局政策企画室長(前国際平和協力室長))は日本の南 スーダン PKO について派遣の際の考慮事項や派遣の意義について政府の公式見解を取り まとめて紹介した上で、派遣に直接携わった者としての考察を行っている46。我が国とし て南スーダンに対するさまざまな分野での支援・取り組みが行われていたにもかかわらず 自衛隊の派遣が話題になるまでメディアの関心は一般的に低く、多くの国民にとって南ス ーダンへの自衛隊派遣に唐突感を与えた面もあるように思われる。内閣府・外務省・防衛 省にはアフリカという地域に対する自衛隊の派遣を念頭において平素から継続的に必要な 情報を発信することが求められる。
(3) 隊員に対する礼遇等
派遣隊員は、いうなればひとりひとりが日本の代表であり、外交官的な意識が求められ る。派遣隊員が他国で一定期間活動するにあたり、日本政府と関係国・国連等との間で地 位協定が締結されることは派遣隊員の安全と身分担保のための基本である。また、派遣隊 員は、アフリカ地域の特性上、多種の予防接種を受け、短期間に重複接種される場合もあ るが、こうした負担や適切性については、あいまいなところがあり、よりきめ細かな処遇 が必要と考える。また、派遣隊員は、新たな感染症や耐性菌への危険を有し、これらへの 対処に関する情報収集と研究等もまた、隊員の健康に関わる重要な問題であり、管理体制 の整備が重要課題と考える。公益社団法人隊友会は、国際平和協力活動従事隊員に対する
「栄章」(所謂「従軍記章」)制度の新設や「緊急叙勲」制度の確立について政策提言して いるが、こうした人事処遇についても今後、検討することが期待される47。
46 杉浦正俊「南スーダン共和国の平和と安定に向けて―PKO活動―日本の南スーダンPKOへの参加の意 義―」『国際人流』第27巻第1号、2014年1月、4-7頁。
47 「平成25年度政策提言書」公益社団法人隊友会、平成25年11月19日、14-15頁。