第 3 章 日本のアフリカ戦略
第 2 節 我が国の対アフリカ戦略
2. アフリカ戦略実行計画 ―「協奏的な安全保障協力」の構築
これまでに示してきた「アフリカ戦略指針」を踏まえ、以下に「アフリカ戦略実行計画」
を示す。ここでは、次章における「自衛隊が果たすべき役割」と連接させるため、「持続可 能な成長」、「不安定性の低減」と関連させつつ、「関係国との協調・連携」を含めた「協奏 的な安全保障協力」を主体に述べることとする。
(1) 期間の設定
本報告において設定する短期、中期、長期という時間区分は、それぞれ概ね 5 年以内、
10年以内、それ以上、という時間概念をイメージしている。当然のことながら、これらは、
今後の安全保障を取り巻く国内外の情勢変化に大きく影響されるものであり、情勢の変化 が早くなれば時間区分は短めになり、遅くなれば長めになるという性格を持つものである。
ここで主題となる「協奏的な安全保障協力」の実行を左右する要素としては、国外的には、
アフリカ情勢を含む国際社会の安全保障環境の大きな変化ということになるが、極めて変 数が多く、現時点でこれを予測することは困難である。したがって本章では、安全保障面 での国外的な変化による時間区分の設定への影響について徒に斟酌する愚を冒さず、国内 的な要素変化を中心に見て行くこととした。国外的な大きな変化があれば、「アフリカ戦略 指針」そのものを見直さなければならないという根本的問題があるからである。
(2) 協奏的安全保障協力の諸活動
「協奏的な安全保障協力」の諸活動として、ここでは国際平和協力活動、国際海洋安全 保障協力活動、国連緊急援助隊活動等、国際後方支援拠点活動および情報収集活動の5活 動について述べる。
a) 国際平和協力活動
短期的施策としては、引き続き南スーダンでの国連 PKO への参加を継続すると共に、
PKO活動における「オールジャパン」の取り組みを深化させ、我が国における民軍連携の一 典型として発展させていくことが適当である。また今後国連PKOへの参加要請があった場 合には、それぞれのケースについて、「協奏的な安全保障協力」として参加し得るのか、総 合的に我が国の国益にかなうかどうかの判断を交えて検討を進めていくことが適当である。
中期的施策としては、教育訓練担当部隊の派遣が適当である。スポット的なPKO派遣か ら脱し、「協奏的な安全保障協力」を具現するためには、アフリカ全体や地域(準地域)へ の影響も考慮して、我が国が、アフリカの安全保障に並々ならぬ関心と決意があることを 表明するため、アフリカに根を下ろした取り組みの一つとして、能力構築措置(CBM:
Capacity Building Measures)の一環として、PKO教育訓練担当部隊をアフリカに派遣する ことは有益である。同部隊はアフリカに拠点をおき、アフリカ全土を対象として、所要の 講師を派遣し、あるいは拠点での教育を実施する。
長期的施策として、やはり判断の基準となるのは「協奏的な安全保障協力」に適合する のか、総合的に我が国の国益にかなうかどうかとなるが、日本とアフリカの関係強化が強
固であることを示すために、国連以外の地域(準地域)機関、即ち国連AU合同ミッショ ンやAUミッションへの参加について検討することは有意義である。この点、現状におけ る米国の意識は、国連PKOよりもAUPKOに向かっていることは参考とすべきである。
一方、国連PKOへの参加形態として、従来回避してきたPKF本隊業務への参加も検討 すべきものであり、その形態としては、情報収集部隊(偵察部隊)への参画が手始めとな ろうが、何れにせよ慎重な検討が必要となることは言うまでもない。なおPKF(歩兵)部 隊への直接の参加は、更にハードルが高くなるので、参加形態を含め、現状のPKFの実態 を見定め、検討していくことが望ましい。
また元兵士の武装解除・動員解除・社会復帰(DDR)については、ある意味で「協奏的 な安全保障協力」の典型例とも言えるものであり、日本の官、民、学、防が「オールジャ パン」となって一体化し、積極的に対応して行くべき課題となろう。
b) 国際海洋安全保障協力活動
短期的施策としては、ジブチを拠点として現在実施中の海賊対処任務を継続して実施し て行く中で、現在展開中の他国海軍との共同作業を拡大し、国際協力の色合いを強調する ことにより、「協奏的な海洋安全保障協力」の効果を生み出して行くことが得策である。ま た現在米国第5艦隊が実施している中東方面での機雷対処訓練に参加する掃海部隊等をジ ブチ港に寄港させ、ジブチ海軍への掃海(EOD:爆発物処理など)共同訓練などを定期的 に行うことは、ジブチを含め、アフリカ・中東での海自プレゼンスを高めるために効果的 である。
中期的施策としては、アフリカ西海岸で目立ち始めている海賊の脅威に対し、現在欧州 等の有志海軍(独、デンマーク、トルコなど)が実施している海賊対処 CBM に、教官要 員を派遣するなど、アフリカ全土を対象として、海賊対処CBMを逐次広げて行くことは、
「協奏的な海洋安全保障協力」の目的にかなうものである。
長期的施策としては、海賊対処を含めた国際海洋安全保障の一環として、アフリカおよ び中東を視野に入れた有志海洋安全保障協盟(Maritime Security Coalition)を米海軍と共に 主導し、インドや豪海軍と共同による多国籍タスクフォースを編成し、海上交通路のチョ ークポイントにおいて共同訓練や共同パトロールを恒常的に実施する。このために派遣さ れた海自部隊は、ジブチを拠点として行動する。
c) 国際緊急援助隊活動等
ここにいう国際緊急援助隊活動等とは、国際緊急援助隊活動のほか、避難民に対する国 際救援活動、在外邦人等の輸送を含む人道的な国際緊急活動をさす。
国際緊急援助隊活動に関して言えば、見通し得る限り、国際緊急援助隊活動には期間的 な段階区分はなく、基本的に短期から長期まで内容は同一と考えて良い。
国際緊急援助隊活動としての自衛隊のアフリカへの派遣実績はないが、ホンジュラスへ の陸自施設部隊の派遣やトルコへの輸送艦による緊急援助物資輸送といった遠隔地での業 務は既に経験済みである。ここで目指す「協奏的な安全保障協力」という意味合いでは、
正に打って付けの業務であり、自衛隊にしか出来ない業務、民防一体となってこそ効果的 に行える業務、民間にしか出来ない業務と弁別し、NSCの主導により、あらかじめ想定さ れる事態をシミュレーションして、それぞれの特質に応じた役割分担を大まかに定めて計 画を作り、必要に応じて協同訓練を行うなどの措置をとれば、効果的な対応が可能となろ う。
この際、アフリカは遠隔地であり、海上移動ではタイムリーな活動が出来なくなること から、航空輸送を前提とした取り組みが必須となる。この場合、自衛隊には、大型機材や、
大人数の部隊や多数の民間人に対する輸送手段がないため、あらかじめ米軍との共同輸送 計画を練っておき、米軍機による長距離輸送と空自輸送機による短距離輸送などの役割分 担を定めておく必要がある。これらの活動については、ジブチ空港を根拠地とすることを 前提に置くことが可能であろう。
一方、人道的な避難民救援活動や在外邦人等の輸送については、今まで自衛隊の活用に 関して大きな制約がかけられているが、正にこれらの活動は「協奏的な安全保障協力」に 沿う活動であり、法的基盤を再検討して強力に推進していくべきである。在外邦人等の輸 送については、2013年1月のアルジェリア人質事件を教訓にとして、従来の航空、海自輸 送に加えて、陸上輸送が自衛隊法に追加されたが、十分とは言えない。
短期的施策としては、これらの任務遂行に付随する武器使用を含めた文民保護などの法 的基盤が整うことが期待される。中・長期的施策としては、後述するようにジブチを国際 後方支援拠点として整備して行く過程で、基本的には所在する自衛隊機、自衛艦、自衛隊 車両を使用して、また事態の状況によっては、日本からこれらの輸送手段を派遣して、諸 活動に従事させることを可能とすべきである。この際非常事態に備えて、武器使用の範囲 も任務遂行に必要な範囲として明確に規定すべきである。
d) 国際後方支援拠点活動
既に繰り返し述べたように、「協奏的な安全保障協力」を実現するためには、アフリカ の要所に自衛隊等が利用する国際後方支援拠点を設置し、各種活動の利便性を図る必要が ある。そのための候補地としては、現在海自部隊が海賊対処のために使用しているジブチ の活用が最適である。ジブチを国際後方支援拠点活動という観点から、以下纏めた形にし て提示する。
中期的施策として、ジブチをアフリカや中東における本格的な 3 自衛隊の活動に加え、
「オールジャパン」を目指した官、民、学、防の関連活動の拠点として設定する。このた め「協奏的な安全保障協力」に適合する形で、国際平和協力活動、国際海洋安全保障活動、
国際緊急援助隊活動等を支障なく実施するため、港湾施設の設置、輸送機発着のための滑 走路の新設、PKO活動等に必要な弾薬や物資、救難物資の備蓄、PKO部隊や海空自部隊の 展開、訓練、休養等のための施設の設置等が必要となる。
短期的施策としては、このための物心両面にわたる所要の準備を行う。前述したとおり、
中国のジブチを巡る動きは広範かつ急速であり、このテンポに遅れないようにすることが 肝要である。ジブチには現在米軍、仏軍などが展開しており、日本としては、ジブチ政府 の了解、およびこれら友好諸国からの理解と協力を得る必要がある。
長期的施策としては、ジブチの拠点としての本格的な機能拡充、大規模な自衛隊部隊の 展開、国際後方支援拠点活動としての業務の拡充に伴う「アフリカ国際安全保障協力司令 部」を設置し、官、民、学、防の関連活動の拠点に据える、といった形で充実させて行く こと適当である。
本拠点は同時に、各種の CBM 支援拠点、米国や仏国など関係国との連携強化や情報交 換、ジブチや近隣諸国との関係の強化などといった面で、中期的ないしは長期的な展望を 持つことが可能となる。
e) 情報収集活動
前述したとおり、2013年のアルジェリアでの人質事件で明らかになったように、我が国 のアフリカ全般を俯瞰した安全保障面での情報収集体制は十分と言えず、この面を急速に 改善していく必要がある。
短期的な施策としては、アフリカ地域での大使館等の増設や、アフリカ地域の情報を豊富