第 4 章 自衛隊が果たすべき役割
第 2 節 自衛隊が果たすべき役割
2. 具体的施策
(1) 短期的施策
a) 国連PKOへの参加 ― 「オールジャパン」の取り組み深化と民軍連携の推進 ― 国連の平和維持活動が進化を続けるなか、最も新しい取り組みが南スーダンで行われて いる。そのミッションに我が国も陸上自衛隊の施設部隊を派遣し、国連の取り組み方向に 沿って「オールジャパン」型の国際協力に取り組んでいる。この取り組みを更に深化させ る努力を継続すべきである、と考える。以下その具体的な施策等について述べる。
【政府開発援助(ODA)との連携】
まず、政府開発援助(ODA)との連携を取り上げる。ジュバ市浄水場施設の拡張に見ら れる国際協力機構(JICA)との連携、ジュバ・ナバリ地区コミュニティ道路整備に見られ る草の根無償資金との連携、調理師育成プログラムに見られる NGO との連携等既に南ス ーダンで実績のあるさまざまな取り組み3 を継続し、案件形成のための調整手順の効率性 を向上させるなど取り組み全体の質の向上を図ることである。この際、JICAとの連携にお いては JICA の計画する事業規模が比較的大きいことを考慮し、中・長期的な視点で調整 を進め継続的に案件形成するための特段の努力が必要となろう。
【民軍連携と国連PKO部隊の役割】
今後の取り組みにあたっては改めて国連 PKO における軍部隊の役割について確認して おく必要があるだろう。浦上4 が行ったジュバにおける日本隊の活動を民軍連携の原則と して非代替性と緊急性の両面から捉える試みは意義があろう。この原則の下、個々の案件 ごとに役割の棲み分けを考えてみると、「補完的な機能」と「時系列的分担」にモデル化で きるとしている。この原則は国連が示しているものではないが、ジュバにおける活動はこ
3 浦上法久「南スーダン共和国における自衛隊のPKO活動―オールジャパンによる新たな取り組みー」
『国際人流』第27巻第1号、2014年1月、9-11頁。木場紗綾、安富 淳「自衛隊による『オールジャ パン』型国際協力の課題:NGOとの連携の事例から」;山本 洋「我が国PKOの戦略的展開-南スー ダンの取り組みを更に発展させよ」『安全保障を考える』第701号、平成25年10月1日、3-8頁、山 本慎一、川口智恵、田中(坂部)有佳子編著「国際平和活動における包括的アプローチー日本型協力シ ステムの形成過程―」内外出版、2012年9月30日、第10章国連のアフリカPKO派遣―スーダンを事 例としてー。
4 浦上法久「南スーダン共和国ミッション(UNMISS)における自衛隊の活動―オールジャパンによる取 組と民軍連携モデル」、45-53頁。
のような民軍の役割分担が適切に行われていると評価できよう。
【日本独自の民生協力活動の深化(民生協力活動)】
ここで、派遣部隊が日本隊として独自に行う「民生協力活動」5 に触れておきたい。文 化交流や衛生指導などの活動を有志隊員が行っている現状を少しでも改め、経費的基盤を 付与するなどして任務の一つとして活動できるようにし、協力できる NGO と連携するこ とで更に裨益効果の高い活動が行える。この種の活動によって民心の獲得が図られること は国連ミッションのマンデート遂行のため事務総長特別代表(SRSG)としても大歓迎に違 いない。また、南スーダンでは牛が権威・財力の象徴であり、それ故争いの主要な原因に もなっている特性を考慮し、獣医師と連携して牛の病気予防や治療を行うことなども有益 と考えられる。SRSGの承認・統制の下で実施されるこの種活動はまさに「顔の見える活動」
として我が国の理解を深め、将来の二国間関係の発展にも寄与できるであろう。この際、
ハイチにおいて日本隊が実績を挙げた6 即効事業(Quick Impact Project:QIP)を組み合わ せて活用することが有効であろう。ただし、QIP の国連年間予算は極めて限られているた め外務省等の強力な後押しも必要であろう。QIP は現地住民などのコミュニティ支援のた めに国連PKOが行うもので、文官アクターによる支援ギャップを埋めるために活用すると されている7 。
【関係諸国との連携強化(防衛駐在官配置)】
更に付け加えるならば、現在南スーダンで行われているオーストラリア軍要員との協同 に見られるような価値観を共有する国同士の連携を拡大すること8、在南スーダン日本大使 館に一日も早く防衛駐在官等を配置して在南スーダンの関係国武官との連携・情報収集等 にも留意することが必要であろう(防衛駐在官等の配置については後述する)。
【情勢悪化の事態への備え】
一方、南スーダンの現状(内戦の危機)が物語るとおり将来のアフリカにおける PKO の実態は常にこうした危険と隣り合わせであることを深く認識する必要がある。国連兵力 引き離し監視隊(UNDOF)がそうであるように情勢が悪化し、日本隊が撤収しても国連ミ ッションのマンデートは継続される。我が国の特殊事情によって国連南スーダンミッショ
5 本稿では孤児院や小学校を訪問して文房具等を贈呈するといった有志隊員による日本隊独自の活動を
「民生協力活動」と呼称することとする。我が国の経費的な裏づけによる軽易な土木・木工工事なども この範疇と考えている。
6 浦上法久「国連ハイチ安定化ミッションと自衛隊―統合活動・タスク策定センターと民生協力活動を中 心にー」『国際安全保障』第38巻第4号、2011年3月、64頁。
7 浦上『国際人道ジャーナル』2014年3月号、4頁(2014年2月脱稿)。
8 山本『安全保障を考える』、6-7頁。
ン(UNMISS)からの撤退を余儀なくされる場合に、本来自衛隊が果たすべき役割を果た せるように必要なあらゆる準備を講じておくことは多言を要しないことであろう。国連及 び国内双方とも機微な条件整備が必要であろうが、緊急時に邦人を含む文民を保護できる ような任務付与と必要な武器使用権限(ROE:自衛隊では部隊行動基準と称している)の 付与は必須である(単に任務付与や権限付与を求めているのではなく、武器の使用が及ぼ す影響の大きさは計り知れないものがあり、それ故に十分な議論・検討を経た実効性のあ るROEの策定・指示と政府・国民の覚悟が求められることを明言しておきたい)。また、
緊急破棄や譲与等装備品等の処置に必要な手続きは基本計画等により事前に整えておかな ければ迅速な行動は困難であろうし、撤退経路に当たる関係国との地位協定の締結などは 不可欠である。
b) 能力構築支援
2014年 1月、安倍総理はアフリカ連合(AU)においてスピーチし、中国とは違う人材 育成を絡めた日本流の「一人ひとりを強くする」外交を売り込んだ。記者会見では「日本 は人材を育成し、日本の知見を伝え、ともに汗を流すことで自力で立ち上がる支援を行っ ている。このやり方こそアフリカの未来への投資だと理解いただいている」と述べた9。今 回の首相外遊には日本の企業関係者も同行した。官民挙げての「オールジャパン」の取り 組みである。今後自衛隊が果たすべき役割・とるべき方向性として能力構築支援がこのよ うな国の方向性にも合致していることは明らかである。被支援国のニーズと我が国・自衛 隊の特性発揮の両面から最重要と思われる能力構築支援について考える。
外務省は日本のPKOにおける貢献を人的貢献、財政的貢献、知的貢献に区分し、人的貢 献を国連ミッションへの要員の派遣と人材育成・訓練への協力に区分したうえで、人材育 成・訓練への協力をさらに平和構築人材育成事業、アフリカ及びアジアのPKO訓練センタ ーへの講師派遣、日米共催による国連PKO幹部要員訓練コースの実施、防衛省による能力 構築支援事業としている10。防衛省は防衛省・自衛隊による能力構築支援について対象を 他国の軍又は軍関係機関とし、分野については人道支援・災害救援、地雷・不発弾処理、
防衛医学、海上安全保障、国連平和維持活動等としている11。
9 『産経新聞』2014年1月15日。
10 「国連PKOを通じた日本の貢献の歩み」『わかる!国際情勢』Vol.104、2013年11月18日、
www.mofa.go.jp/mofaj/press/pr/wakaru/topics/vol104/index.html(アクセス2014年2月6日)。
11 「能力構築支援について」『ここが知りたい!』、
【PKO活動における能力構築支援】
PKO 活動における能力構築支援の取り組みは東ティモールを嚆矢としてその後もイラ クやハイチにおいて実践されている。イラクでは「教育支援型」「施工管理型」の支援とし て行われている12。ハイチにおける「キズナ・プロジェクト」の取り組みは記憶に新しい ところである13。施設部隊の派遣を想定した場合、協力できるNGO等と連携して建設機材 の操作技術指導や整備技術の指導を行って自衛隊から民間にバトンタッチする。そうすれ ば自衛隊の撤退に際して譲与された建設機材の維持管理と継続的な使用が可能になる。自 衛隊にとって能力構築支援は「出口戦略」として重要な意義を持つものであり「なぜ自衛 隊?」の答えにもなりうる。このような観点から防衛省建設系技官の更なる活用14 につい ても検討の余地があるように思われる。国家安全保障戦略(NSS)にも「シームレスな支 援」を明記しておりPKOの現場で具体的な事業を展開することは当然であろう。また、地 雷・不発弾処理の分野では多くの自衛官OBが中心となって活動しているNPO法人日本地 雷処理を支援する会(JMAS)の活動等も視野に入れる必要があろう。
【PKO分野における平素の能力構築支援事業】
これまで行われてきたアフリカ各国の PKO 訓練センターへの講師派遣15 は自衛隊が積 極的に推進すべき事業であろう。今後は「ピースキーパーの育成」を明確に打ち出して派 遣先の拡大を図るとともに、短期間・単発的な派遣を卒業して、例えば最も経験を重ねて きた施設部隊の活動に関する科目担任教官や教育管理・センター運営の担当者として長期
(年単位)にわたる派遣、更には新たな訓練センターの設立要員としての派遣などに取り 組むことが適切であろう。2013年3月防衛省は国連PKOへの初めての参加準備のためベ トナム国防省軍医局長等を招聘し中央即応集団が研修機会を提供した16。同年11月には「国 連PKOの分野における教育及び訓練のための協定」に関する政府間協定がカンボジアとの 間で署名された17。アジア太平洋地域におけるこうした二国間の動きをアフリカ地域に拡 大し、その枠組みの下で平和構築人材の育成に関与することを考えるべきであろう。また、
www.mod.go.jp/j/approach/exchange/cap_build/.html(アクセス2014年2月6日)。
12 佐藤正久「イラク自衛隊『戦闘記』」講談社、2007年3月22日、98-100頁。
13 山本『安全保障を考える』、10-11頁。
14 同上、7-8頁。
15 『平成25年版日本の防衛―防衛白書―』防衛省、平成25年7月22日、227-230頁、
外務省報道発表、平成24年12月14日、www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/24/12/1214_06.html(アクセス 2014年2月18日)。
16 山本『安全保障を考える』、11頁。
17 外務省報道発表、平成25年11月16日、www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_000300.html(アクセ ス2014年2月6日)。