…左
A. 前半・後半の分割
前半「行こう一」と後半「一と思っている」に分割し た。引用形式部分から後を後半としたが,引用形式がな い,いわゆる「ト抜け」も「思う」を使用していれば,
そこから後半図とした。
ただし,動詞「思う」に相当する表現を含まない回答 については,たとえ引用形式「と」を介する表現であっ ても前後に分割せず,回答語形の全体を前半図で扱い,
後半図に続く形がないものとした。例えば,「イコウト カンガエル」「イクカンジョウダ」「イクキニナル」など である。この点について少し補足する。
本項目のねらいは前半の「行こう」という意志表現に あり,「と思っている」は確実に話者自身の意志表現を 導くために付けられている。しかし,地方によっては必 ずしもこのように分割的に前半を意志表現と見なせる回 答が得られているわけではない。例えばここで取り上げ た「思う」を使用しない回答語形の中には,全体で意志 表現であると見なせるものがある。また,前半より後半 の回答の方が語形の種類が多いため,「思う」を含む表 現のみを後半で扱うことによって,後半の地図を複雑化
させないという実際的な理由もある。
以下では分割上,問題となったものを中心に説明す
る。
引用の「と」の前に促音が入る場合は,促音部分から 後半とみなす。例えば次の[tti]は,促音から引用形式
と見る。
2151.21[ikattiumuidu] →〈ika一〉<ttiumu韮du>
〃 [ikattiduumuidu] →〈ika一〉〈ttiduumuidu>
2151.51[ikattl:umuiuY] →〈ika一〉〈ttiiumuiuY>
例外として,次に挙げるものは促音を前半に入れる。
まず,九州方言のように後半がなくても終止形が[i?]
のように入声音で終わる可能性があると思われるものは 前半で扱う。判断は併用語形や他項目の回答を参考にし
た。
7275.24[itt∫iomot∫ottojabatte]
→〈ic一〉〈ciomocjottojabatte>
8362.31 [itt∫uolno=t∫ottokoi]
→〈ic一〉<cjuomoocjottokoi>
また次のように「イカズトオモー」の「ズ」が促音に なっていると考えられる回答は,促音までを前半とす
る。
5631.26[ikat=oomot=cirul] →〈ikat一〉〈toomotteiru>
5631.78[ekattomotteru] →〈ekat一〉<tomotteru>
5633.42[ikattomotteru](ゆ)〈早く言ったことば〉
→〈ikat一〉〈tomotteru>
5651.04[ikattoomotter田] →〈ikat一〉<toomotteru>
5652.74[ikattomotteruI] →〈ikat一〉〈tomotteru>
5661.77[ikattomotter田]
5662,78[ikattoomotter田]
5671.77[ikattomotter田]
5672.89[ikattomotteru]
5673.18[ikattomotteru]
5681.79[ikattoomotter田]
6601.37[ikattoomotterm]
〃 [ikattoomottorul]
→〈ikat.〉〈tomotteru>
→〈ikat一〉<toomotteru>
→〈ikat一〉〈tomotteru>
→〈孟kat.〉〈tomotteru>
→〈ikat.〉<tomotteru>
→〈ikat.〉〈toomotteru>
→〈ikat一〉<tOOmOtterU>
→〈ikat一〉〈toomotto「u>
6610.08[ikattoomotteirul]〈古〉
→〈ikat一〉〈toomotteiru>
6611.15[ikattoomottorul] →〈ikat一〉〈toomottoru>
6621.07[ikattomottor切。] →〈{kat一〉<tomottor切。>
同じく中部地方に見られる[SSO]は[ZUSO]の変化し たものと考えられる。つまり促音はzuに由来すると考 えられるので 前半に入れる。
5681.22[ikassomottoru]
ク [ikassomo:]
5690.28[ikassomo:]
〃 [ittekossomo:]
[ZUSO]の形を残す回答もある。
→〈ikas一〉〈somottoru>
→〈ikas.〉<somoo>
→〈ikas一〉〈somoo>
→〈ittekos一〉〈somoo>
5633.42[ikazusomotteru](ゆ)
→〈ikazu一〉〈somotteru>
5642.29[ikazusomotteru](「行くと思っている」)
→〈ikazu.〉〈somotteru>
これらの回答中の[somoo]のsoは,「そう思う」のソ ウにあたるといわれるが,現代では語源意識はないよう である。
前後の分割の際,引用形式と前半末についている終助 詞の認め方が微妙なものもある。次の回答中の[de]
[dai]は九州でみられる勧誘や意志表現につく終助詞で あり,ここまでを前半とする。
7289.51[iko:daitoomo:t∫oi]
→〈ikoodai一〉〈toomoocjoi>
7350.54 [iko:deomototta麺e:]
→〈ikoode一〉〈omotottaiee>
7362.09[イコデチオモートル]
→ 〈ikode_〉 〈ciornootoru>
しかし,次の「テチ」は上記の7362.09に語形が似てい るが,「テチ」で一つの引用形式とみなした。『講座方言 学』9の,佐賀地区の引用は「テ」,唐津地区では「チ」
が優勢,有浦地方では「テチ」があるという記述によっ
た。
7374.12[イコーテチオモートル].
→〈ikoo一〉〈teciomootoru>
琉球方言の前後の分割についても若干例を挙げて説明し ておく。
1260.68[?ikeja:ndi?umuto:N]
→〈?ike句aaN一〉〈di?umutooN>
1261.22[?ike謡a:ndi?umuto:N]
→〈?ike句aaN一〉〈di?umutooN>
1261.92[?ikeJa:ndi?umuto:N]
→〈?ike司aaN一〉〈di?umutooN>
上記の回答の〈?ikee>はikiwaru(行けばぞ)の変化形,
<jaaN>は「である」に相当するもので,〈di>が引用形 式にあたるとみなし,<di>以降を後半とする。ただし,
沖縄方言の引用形式はNdiであるという記述もある
(「沖縄語辞典』)ので注意が必要である。
一方,次の回答では,〈jaa>は終助詞で,〈?ikan両aa>
全体で「行かないかなあ」という意味をなし,〈cjaNci>
が一まとまりの引用形式とみた。
1157.92[?ikan両a:t∫ant∫i?umuto:N]
→〈?ikan両aa一〉〈cjaNci?umutooN>
次の回答中[iko]の後の[?]は引用形式にあたると 考えて後半に入れている。
8352.08[iko?omo巾?] →〈iko一〉〈?omocjot>
すると,後半の見出しがく?omocjot>となり,琉球方言 の語頭のグロッタルストップとおなじに見えるが,それ
とは異なることを断っておく。
記号の与え方については,各図ごとに説明する。
B.232図「行こうと思っている」(前半)の記号
化B−1.語形の分割
232図で扱う語形は,「第二母音前まで」の「前部」
と,第二母音以降の「後部」にまず分ける。後部はさら に分けて,第二母音(第二母音が長音を形成している場 合は長音末まで)を「後前部」,それに続く部分を「後 中部」とした。また終助詞があるものは「後後部」とし た。部分統合については前述したとおりである。具体例 を挙げる。ハイフンは後半に続く形があることを示す。
前部 ik ik
itt itt
後前部 0 0 e e
後中部 0 0 mijoO−
miru
後後部
ka.
dai一
なし deaa
磁欲止止徽止−o㎎
.1u a a ee u u u
tai.
Nbe.
k NnaraN一 jaa cumo司a
kaN(Uositta kinatera
しし し ししし なな㎞な悼ななな
琉球の〈jaaN>はjaaとNに分け,それぞれ「後中部」
「後後部」とした。
B−2.語形の記号化
まず,おもに「後前部」に着目して【色】を,「後中 部」に着目して【形】を与えた。分類すると以下のよう になる。
① イコー系:榿 a イコー類:円形 b イクー類:紡錘形
。 イッテミヨー類:蝶形
② イク系:緑 a イク類:正方形 b イチュン類:菱形
③タイ・ゴタル系:緑 a イキタイ類:長方形 b イクゴタル類:爪形
④べ系:水
a イクベ類:正三角形 b インベ類:二等辺≡:角形
。 イッベ類:平二等辺三角形
⑤ イカ系:赤 a イカ類:涙滴形
b イカナケレバ類:小刀形
。 ヤー類:リボン形
⑥ イカズ系:茶 a イカズ類:曲玉形
b イカッ類(促音で233図に続くもの):涙滴形
⑦その他(233図に続く形がないもの):紺 ⑦のうち,「後中部」が次のa〜gの類である回答には,
以下のような記号を与えた。
a〜ッモリダ類:いちょう形 b 〜カンジョーダ類:U形
。〜アンジル類:あやめ形 d〜カンガエル類:若葉形
e〜ミトル類:傘形 f〜キニナル類:矢印形 g 〜コトオモウ類:分銅形
⑦のうち,これら以外の「後中部」は,基本的に①〜
⑥の各類と共通であるので,①〜⑥に準じた形を与え
た。
具体例を挙げながら各分類の内容について補足する。
次の回答は①bに分類した。
8345.56[iku=tomot∫oru]〈多〉
この地点では『方言学講座』9(278ページ)によると,
連母音OUが00さらにUUになることもあるということか ら,[iku:]は「行こう」にあたるものと見て,②では なく①の系に属することとした。
②bイチュン類に含まれるのは,次のような琉球方言 の終止形の回答である。
033α80[?ikjuNt∫i?umu:tui]
1213.88[?ilqunt∫i?umo:tuN]
1271.05[?ikint∫i?umuto:N]
③aイキタイ類には次の回答を含む。
4742.95[eOtUdetoomotterul]〈まだ未定のとき。希 望を表わす。〉
注より[de]は希望のタイに類する形とみる。
次の回答も③aに分類した。
7659.31 [ikitakedaido:]
八丈島大賀郷の回答であるが,形容詞型活用をする希望 の「タキャ」の活用形に,「〜けれども」にあたる逆接 の形式が接続した,「行きたいのだけれど」に相当する 表現と考えられる。(『伊豆諸島方言の研究』(1965,
195・199ページ))
次の回答は⑤bイカナケレバ系に分類した。
027597[?ikjambat∫i?omojuri]〈この答のほうが強 い意志をあらわす。>
124226[?ikibare=ru:tu?umutuiN]
2076.96 [harabad吋arudeulnuiru]
2086.60 [paraba=ttiumuiburu]
1242.26の[re:ru:]は「ru(ぞ)+jaru(である)」の変 化したもので,全体で「行けばぞあると思っている」に あたる形である。
⑤cのヤー類とは次のような回答である。
1231.99[?ikeJa:di?umutui∫iga]
1251.04[?ikeJa:di?umilgwa]
[ja:]は,軽い念押しの意味の終助詞で,全体で「行け 80
ばねえと思っているんだけど」にあたると考えられる。
イカナケレバ類に近い表現である。
次の回答は後半に続く形がないので⑦その他に分類さ れるが,希望を表す形式が使われているので記号の形は
③bと同じ爪形である。
1232.38 [?ikibuhassa:]
この[buhas]は「busaaru」(欲しさある)の変化した もので希望を表す。
次の回答も,後半に続く形がなく⑦その他に分類して いるが,記号の形は語形が近い④aイクベ系に準じて正 三角形にしている。
3725.49[弓gube:sitera]〈今すぐの気持〉
しかしこの回答中の[be:]は勧誘あるいは意志を表す ものではなく,「〜ばかり」「〜だけ」の意味である。第 4集201図「死による」の回答として〈sinubεdera>が あるが,このbεと同種のものと見られる(第4集解説 書341ページ)。つまり「行くばかりにしている」の意 味になると考える。
次の回答も⑦に属し,⑤bと同じ記号の形をあてた。
1251.27[?ikiwadessa:]
この[wa]は「バ」にあたり,全体で,「行けばそであ るよ」に相当する。
記号の【大きさ】は基本的に小を用い,「思う」以外 の動詞を用いた述部があるものと「行く」と系統を異に する動詞(「パルン」や「デル」など)を使っている回 答を大記号にした。
アルファベットで表した下位分類中での細分は【塗り つぶし方】によって表現している。塗りつぶし方は「後 前部」または「後中部」に含まれる母音の長短による。
長音や二重母音である回答ほど塗りつぶし,短音は白抜 きになるようにした。
前半末の終助詞すなわち「後後部」の有無と種類は次 のように記号の【方向】で表す。
後後部 方向 なし 上 ga,胆 左上
kanaa, gana 右一ヒ
その他 右 dai 右下
de, dea, deaa,(jaaに糸売く)N kka, kakaa
kai,ηai
下折左
このうち左上,左下および左のように,子音のkとgあ るいはgと。の区別が必要な時は,補助記号(線)を左 上と右上に・一本ずつけて区別している。
なお,前半の末尾,すなわち「後後部」になる終助詞 については統合を行わない。できるだけ2枚の地図をみ てもとの語形を再構成できるようにするためである。
B−3.凡例における語形の並べ方
凡例は前述の①〜⑦の二二に,それぞれの系の中はア ルファベットの類順に配列した。各分類の中は,塗りつ ぶし部分が多いものから先に並べて配列している。つま り,後前部の母音の長短が異なる語形が隣り合うように なっている。方向は上向きを始めにし,あとは左上向き から時計回りに配列した。
C.233図「行こうと思っている」(後半)の記号
化C−1.語形の分割
引用形式にあたる部分を「前部」,動詞「思う」にあ たる部分を「中部」,それに続くアスペクト形式やテン ス形式にあたる部分を「後部」,そして「終助詞」の四 つに大きく分割した。「中部」は,子音のmを境に,m の前の部分を「中前部」,m以降を「中後部」とする。
具体例を示す。
前部 to to to di
SO なし
C−2.
中前部 0 0 なし
?u
なし
?o
語形の記号化
中後部
mo
mot
mo mu 00mm
後部 tteiru teda toru tui tteru cjot
終助詞 naa なし なし
aしし 内なな
「前部」に【色】を,「中前部」に【大きさ】と【補 助記号】,「中後部」に【方向】を,「後部」に【形】と
【塗りつぶし】を与えた。終助詞の有無は補助記号(線)
で表した。
まず「前部」に与えた色を説明する。
①ト系〈to>:緑
②ド系〈do>:水
③チ系〈ci, cjaNci, cito, teci>:赤
④テイ・リ系〈ti, tii, tti, ttii, ttidu, gl, di, ri,
rici, ridu> :茶
⑤テ系〈te, tte, tto>:紺
その他〈ta, tu, de, cjo,句u, so>:紺
⑥ なし:榿
このうち,④ティ・リ系の,<ttidu>〈ridu>のduは,
係助詞の「ぞ」にあたるものだが,琉球でこのような語 形があった場合,<du>を引用形式の中に含めて扱った。
例えば次のような例である。
2151.21[ikattiduumuidu]→〈ika一〉〈ttiduumuidu>
⑤その他のくso>は厳密には引用形式ではないが「前 部」に入れている。
次に,「後部」と記号の形である。①〜⑧に大別され
る。
①イル類:二等辺三角形・正三角形
②オル類:正方形
③チョル類:円形
④ヨル類:紡錘形
⑤アル類:長方形
⑥ヤル類:楕円形
⑦なし:鍬形線記号
⑧琉球方言類:リボン形・曲玉形・蝶形・いちょう形 記号の大きさは「中前部」による。「中前部」が。,u,
?o,?uのときは小記号で表し,それ以外のものは大記 号で表す。なお⑦は線記号なので,角を塗りつぶした太 鍬形線記号を大記号の代用とした。
また,次のように「中前部」にあたる部分がないもの も,大記号で表す。
<tomotteru−gasa,Ndai>
〈tomOU>
〈domoteda>
また,次のような形も大記号で表した。
〈totteeda>
「中後部」には次のように方向を与えた。
中後部 mot,mod,moc moi,mui その他
muu mu mOU mo30 moO
加納祉右都下肝左証
記号の形によっては方向で区別が付かなくなるものが ある。その場合は,補助記号線を上向きに一本または左 上・右上に一本ずつ付けて方向を明らかにした。