250図 251図
D. 併用語形などの扱い
前半の地図(257図,259図)の併用語形の地図上の 配列は後半の地図の配列に従う。ただし,259図におい ては,後半の2枚の地図を260図,261図の順に合算し た形で配列している。また,260図,261図においては 相互の地図に併用語形(また,単三で別語形)が存在す
る場合は「261参照」もしくは「260参回目の記号を置 いている。次の例を参照のこと。
7427.06の語形全体 dareηasuruka dareηasu℃laa dare疋〕asuruze da面aasurUNna
260図の押印見出し(凡例順)
<surUNna>
〈SU巾a>
261参照
261図の押印見出し(凡例順)
〈suruka>
〈suruze>
260参照
180 259図の押印見出し
順)
<da嚇aa>
〈dare1〕a>
〈dareηa>
<dare[〕a>
(260図の前半,261図の前半の
14.授受表現
14.1.授受表現の概要と記号化
授受表現とは,与え手が対象物(所有物)を所有権ご と無償で受け手に移行することを表す表現である。共通 語では,授受を表す基本的な動詞に,次のような語彙体 系が見られる。
表共通語の授受動詞の体系
人称的方向性による対立 ヴォイス的対立 敬意の有無
ノよる対立 遠心性動詞 求心性動詞
敬意あり さしあげる くださる
授与動詞
i与え手が主格) 敬意なし やる・あげる くれる
敬意あり いただく
受納動詞
i受け手が主格) 敬意なし もらう
「やる」「あげる」「さしあげる」「くれる」「くださる」
は,与え手が主格に立つ表現をなし,「もらう」「いただ く」は受け手が主格に立つ表現をなす。ここでは,前者 を「授与動詞」,後者を「受納動詞」と呼ぶことにする が,この授与動詞と受納動詞の構文的な関係は,格の交 替という観点から,能動文と受動文との対立(ヴォイス 的対立)に対応するものである。
(1)太郎が[与え手]次郎に[受け手]本をやる。
(2)太郎が[与え手]次郎に[受け手]本をくれる。
(3)次郎が[受け手]太郎に[与え手]本をもらう。
敬意の有無ということでは,「やる」は敬意を含まな い語であり「あげる」はそのやや上品な語,「さしあげ る」はその謙譲語動詞である。「くれる」は敬意を含ま ない語であり,「くださる」はその尊敬語動詞,「もらう」
は敬意を含まない語であり,「いただく」はその謙譲語 動詞である。
さらに共通語の授受動詞は,話し手を基準にした授受 の方向性の違いにより,与え手と受け手に人称制限を持 つ。すなわち,共通語の「やる」「あげる」「さしあげる」
は,授受の与え手に中立もしくは話し手寄りの人物,受 け手に中立もしくは他者を配す「遠心性動詞」であり,
「くれる」「くださる」「もらう」「いただく」は,授受の 受け手に話し手寄りの人物,与え手に他者を配す「求心 性動詞」である。
(1) 太郎が[中立/話し手寄り]次郎に[中立/他者]
本をやる。
(2) 太郎が[他者]次郎に[話し手寄り]本をくれる。
(3) 次郎が[話し手寄り]太郎に[他者]本をもらう。
こうした授受動詞の分類基準のうち,授与動詞に遠心 性動詞と求心性動詞の対立があることは,現代日本語
(共通語)の大きな特徴と言える。日本の各地方言の授 受動詞に関しては,すでに『日本言語地図』において,
「やる(73図)」「くれる(74図)」「もらう(76図)」の 全国分布調査が行われている。そこで,「やる」と「く れる」の分布図を見ると,クレル類の語(クルッ,クエ ル,ケル等)を「やる」「くれる」両方の意味で用いる 方言が,中部地方以東と九州南西部以南に存在し,共通 語的な[やる/くれる]対立を持つ方言を間に挟むとい う分布になっている。いわゆる周圏分布をなすこの分布 からは,現在,[やる/くれる]対立を持つ中央地域の 方言においても,かつては,「くれる」がこうした対立 なく用いられていたことが予想される。
『方言文法全国地図』第5集では,授受表現の全国分 布を見る項目として,以下の分布図を収録した。
262図 友達から本をもらった《206》
263図 きのう,うちの孫に本をやった《208》
264図 犬に餌をやったか《209》
265図 犬に餌をやったか《209》
266図 おれにタバコを1本くれ《207》
262図は「もらう」相当の受納動詞の過去形(平叙文)
を扱うものである。263・264図は「やる」相当の遠心 性授与動詞の過去形を扱うもので,263図は受け手が人
(孫)で平叙文,264図は受け手が動物(犬)で疑問文 である。266図は「くれる」相当の求心性授与動詞の要 求表現を扱うものである。待遇的意味に関しては,いず れも敬意を含まない語を想定した質問文となっている が,分布図作成の方針としては,262・263・264図で は基本的に敬意を含まない語を採用したのに対して,
266図では敬意を含むと考えられる語も併せて採用し た。この点に関しては,後に指図の説明で詳細を述べる。
なお,《209》では,「やったか」の動詞部分「やった」
と疑問助詞部分「か」を分けて地図化した。
語形の記号化に関しては,各日の説明で詳細を述べる。
なお,262・263・264・266図で共通して現れる語は,
同類の記号で表した。疑問助詞の分布図(265図)は独 立の記号化をしている。
14.2.中置の説明
262図 もらった
〔語形の採用と統合〕
この項目の調査時の質問文は,「「友達から本をもらっ た」と言うとき,「本をもらった」のところをどのよう に言いますか」というものである。受け手が主格に立つ 受納動詞「もらう」に相当する語の過去形を扱う項目で
ある。
まず,分布を概観すると,全国的にモラウ系の語形が 分布する中で,沖縄にエル系の語形が分布している。ま た,モラウ系の語形については,過去形の分布として,
促音便形(東日本)とウ音便形(西日本)の地域差が目 立つものとなっている。なお,『日本言語地図』第2集 76図に「もらう」がある。語彙的な分布状況は,本図 とおおむね同様であるが,『日本言語地図』では,エル 系の語形が佐賀・長崎にも多く見られること,沖縄にト ル系の語形が見られること,宮古にモラウ系の語形が見 られないことなどが,本図とは異なる。
語形の採否に関しては,以下のような方針を立てた。
・終助詞付き回答についてはAα方式を採る。
・与え手が主格に立つ授与動詞系の語形は採用しない。
・敬意を含むと考えられる語形は採用しない。
・過去形でないものは採用しない。
・「〜てくる」「〜てしまう」を後接したものは採用し ない。
以上の他,話者の属性や使用意識という観点から,不採 用にしたものがある。
以下に不採用にした語形とその回答地点を挙げる。
まず,以下の回答は,条件に合わない参考話者による 回答であるため不採用とした。
5463.73[muratta]
また,次の回答は,話者の使用意識があいまいである ため,不採用とした。
5624.84[morっ・tta](ゆ)〈ごく古くは使ったと思う。
「買った」はkっ・tta>
併用回答に終助詞の付かない同形があることにより不 採用としたのは以下のものである。
1794.54[morattawa:]
2701.62[moraQt句a]
2793.04[moratane]
3725.49[morattaJo]
6584.38[morotawa]
1213.88[muro:tandoja]
授与動詞系の語形であると考えられるため不採用とし たのは以下のものである。
・クレル系
6521.20 [kuret∫attar噸a]
〃 [kuret∫attan3a]
7392.76 [kurera∫ita]
ク [kudda∫ita]
8352.61 [k旦jeta]
2076.98 [hi:da]
・トラス系
1233.52 [turat∫aη]
2072.20 [tura∫aり]
敬意を含む語形であると判断されるため不採用とした のは以下のものである。
1801.80 [itadaita]
4659,79[mofaimo∬ta]
〃 [omOfai∬ta]
5659.12 [itadaita]
2095.60 [taborarataN]
以下のものはテ形+終助詞であると考えられるので,
不採用にした。
6566.73[mofotena]
7441.02[moro:t∫ino:]
以下のものは,補助動詞「〜てくる」「〜てしまう」
を後接したものであるため,不採用にした。
・「〜てくる」後接 2608.90[moraQtekitado:]
5762.82[moratt∫attand句。]
・「〜てしまう」後干 6626.37[moratt∫atta]
不採用にした語形については以上である。次に,採用 したものの中で,注意を要する語形について説明する。
次の語形は授与動詞クレル系の語形であるが,採用し
た。
4743.29[keratta](「呉れられた」にあたる語形)
この地点では,レル・ラレルによる尊敬語形は用いられ ないため,この形は受身形であると見なされる。よって,
受納動詞と同様に,受け手が主格に立つ表現であると考
えられるため,採用した。
次の語形では,「ta」が過去時制を表し,「kke」は証 拠性を表す(話し手自身の観察により得られた情報であ ることを表す)モダリティ形式である可能性があるが,
本図では,「takke」全体を過去時制辞として扱った。
6642.32[morattakke]
6622.97[morattakk句。]
次の回答の「t両a」は終助詞と見なしたが,これは伝 聞の意味を含む表現である。
4598.07 [rnorotatoija]
この場合,「もらう」の主格は話し手以外という解釈に なる。調査時の質問文は「友達から本をもらった」であ り,通常の解釈では話し手が主格に立つ文脈が想定され るが,特にそれに限定する設定は施されていないので,
この回答は採用した。
琉球地方の回答に,以下のような注記のある語形が見 られた。アスペクト的に特別な意味が加わっていると見 られる表現であるが,いずれも採用した。
0228.96[murataり]くもらってあること〉
ク [muratari]〈 ク >
0330.80[murataη]〈もらって有る感じをいう。〉
〔語形の記号化〕
以下の説明で扱う音形は音声統合の処理を施した後の 凡例において見出しに立つ(〈〉内に入る)形である。
本図に現れる語形は,大きくモラウ系,エル系,その 他の動詞の過去形である。これに該当すると見なした形 を前半と後半に分ける。前半を「前部」,後半を「後部」
と呼ぶ。学校文法では,前部は「動詞連用形(音便形)」,
後部は「過去の助動詞」にほぼ相当するものである。以 下に例を挙げる。ハイフンより前が前部,後が後部であ
る。
morat−ta mora−ta mura−taN moroo−ta moro−taa muroa−ra
moO−ta
e−ta i−taN
?iトdaru