6. sabe(s) 、 entiendes 、 ves
6.4. sabe(s)、entiendes と「ね」 、 「よ」
6.4.2. sabe(s)と「ね(ぇ) 」 、 「よ」
6.4.2.1. sabe(s) と「ね(ぇ) 」
sabe(s)はentiendesと異なって、文末だけでなく文頭にも現れる。文頭における疑
問形のsabe(s)は、聞き手の注意を発話に喚起する機能を果たす。
(162)‟ Miguelito: Dime que sí, Luli. No puedes dejar que esto acabe así, Luli.
¿Sabes?, eres mi bailarina.
(El camino de los ingleses: 123) (180) [Ninguno dice nada durante unos momentos.]
Modesto: ¿Sabes82? Estoy pensando en volver a comprar un coche. Un buen coche.
[Ángela se sorprende pero no dice nada.]
(La caja 507: 151)
疑問形の場合、聞き手の注意を喚起すると同時に、知っているかを問う具体的な内 容となる後続発話に聞き手を引き込む。また、sabe(s)の場合は新規の情報を導いて先 行発話の話題を転換することができる。
日本語の「ねぇ」も同様に、聞き手の注意を喚起して後続発話に引き込み、(18)の ように新規の情報を導くことができる。
(18)‟ ねぇ、Tさんてウチの人と結婚するんですってネ、名古屋支社の人なんだって、
相手は。
(佐治 1967: 187)
どちらの例もsabe(s)、「ねぇ」がなければ情報を突然伝達することになり、不自然 な発話となるだろう。
一方yaなどを伴う肯定形のsabe(s)は、後続発話が聞き手の既知情報であることを
82 この例における¿Sabes?は本論文の分類では単独となるが、明らかに後続発話を導いていると考えられ る。
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示して理解を求めたり、話題維持を表明するものであり、注意喚起の機能は持たない。
(164)‟ Fernando: Ya sabes, cuando un cuerpo en estado normal empieza a beber no puede dejarlo hasta que se coge un pedo de campeonato... sobre todo si ese cuerpo es mío...
(El penalti más largo del mundo: 126) (165)‟ Fernando: Ya sabes, joder, el tío... es mozo de almacén. ¿Tú quieres ser la
mujer de un mozo de almacén?
Ana: ¡Pero tú también eres mozo de almacén!
(El penalti más largo del mundo: 62)
このような場合、聞き手との共有を表すことによって後続発話に引き込む「ねぇ」
と対忚する。しかし、ya sabe(s)は肯定形なので、引き込みというよりもむしろ断定 的な印象を与えると考えられる。そのため、同じく話題維持の機能を持つ「あのね」
との共通性もあるのではないだろうか。
「あのね」に関する先行研究はあまり見られないので、ここで例を挙げて考察して みる。「あのね」は指示詞「あの」に終助詞「ね」がついたものである。「ね」を除い て「あの」にすると異なる機能を持つので、情報の共有を示す「ねぇ」の一種と捉え ることができるだろう。
次の例を見てみよう。
(181) 「中島くん、行かないで。」私は言った。
「あのね、それはパリとかのことではなくて、パリは行ってもいいの。ただ、
この世にい続けようとしてほしい。」
「行きたくないけど、どこにも。」
(『みずうみ』: 111)
(182) 「あなた『資本論』って読んだことある?」と緑が訊いた。
「あるよ。もちろん全部は読んでないけど。他の大抵の人と同じように」
「理解できた?」
「理解できるところもあったし、できないところもあった。『資本論』を正確 に読むにはそうするための思考システムの習得が必要なんだよ。もちろん 総体としてのマルクシズムはだいたいは理解できていると思うけれど」
「その手の本をあまり読んだことのない大学の新入生が『資本論』読んです っと理解できると思う?」
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「まず無理じゃないかな、そりゃ」と僕は言った。
「あのね、私、大学に入ったときフォークの関係のクラブに入ったの。唄を 唄いたかったから。それがひどいインチキな奴らの揃ってるところでね、
今思い出してもゾッとするわよ。そこに入るとね、まずマルクスを読ませ られるの。(…)」
(『ノルウェイの森(下)』:65-66)
これらの例において、「あのね」は先行発話に対する返答や、関連する発話を導い ており、話題維持の機能を持つことがわかる83。特に(182)では、「『資本論』を読んだ か」という問いに聞き手が回答した後、一見その内容とは関係なさそうな話題が挿入 される。しかし、実際にはその発話内容は『資本論』に関係するものであり、話題を 維持していることを表明するために、「あのね」を用いて後続発話を導いていると考 えられる。
しかし、文頭の「ねぇ」を「あのね」に置きかえると不自然な場合がある。
(19)‟ (料理している妻が夫に)
ねえ、ちょっとこのスープ、味、見てくれない?
(仁田 他 2009: 158)
(183) (料理している妻が夫に)
? あのね、ちょっとこのスープ、味、見てくれない?
(19)の「ねぇ」は注意喚起の機能を持つので、談話の最初84に用いることができる
83 「あのね」は、先行発話の内容に関わらない発話を導く場合もある。
開始部 A: もしもし。
B: もしもし。
A: おー。
B: A?
A: はい。(…)
用件部 B: あのね?(下線部筆者)
A: うーん。
B: 今、Tと飲んでるかもー。(…)
終結部 A: じゃあねえ。
B: うん。(…)
(ザトラウスキー 1991: 91-96) このことから(181)、(182)のように具体的なテーマの維持がなくても、聞き手を特定した後の用件部で は使用されることがわかる。
84 亀井他(1995: 897)は、談話を「いくつかの文が連続し、まとまりのある内容を持った言語表現」
と規定しているので、本論文では意味的なまとまりを持つ発話の連続を「談話」と呼ぶ。
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が、「あのね」を談話の最初に置くことはできない。このことから、「あのね」には注 意喚起の機能がないことがわかる。ザトラウスキー(1991: 81)は、1回の電話の会 話を「開始部」、「主要部」、「終了部」の3部に分類している85。また水谷(1980: 2)
は、電話以外の会話においても3つの区分(「話の場づくりの要素」、「話題づくりの 要素」、「内容」)があると述べており86、これらの記述をもとに、大倉(1994: 123-125)
は談話においても「開始部」、「用件部」、「終結部」という3区分を認めている87。「ね ぇ」は注意喚起の機能を持ち、開始部で用いることができるのに対して、注意喚起の 機能を持たない「あのね」は開始部には現れず、聞き手が特定され具体的な内容を持 ちかける用件部で使用されると考えられる。
また次の例では、「あのね」の有無によって異なるニュアンスを持つことがわかる。
(184) a. 明日は早く起きなきゃいけないんだよ。
b. あのね、明日は早く起きなきゃいけないんだよ。
(184)aは、聞き手にとって新規の情報である場合にも自然であるが、(184)bは聞き
手にとって既知情報であるにも関わらず理解していないような言動をする場合や、
「早く起きなければならない」ことに関連する発話の後に用いられ、(184)aと比べる と断定的な印象を受ける。
スペイン語のya sabe(s)も同様に注意喚起の機能を持たず、談話の最初には用いら れないが、用件部の最初に用いられる88。実際に、(164)、(165)はどちらも用件部の発 話であり、聞き手が知っていると断定して発話を導いている。また、本論文のデータ で観察された他の肯定形の例も、全て用件部で現れている。このことから、用件部で
85 「開始部」は呼び出しに対する忚答やあいさつ、「主要部」は具体的な話題、「終了部」は電話の終了 を表す挨拶を指す。
86「話の場づくりの要素」は「あのう」などの話しかけ、「話題づくりの要素」はこれから話そうとする 内容によって、聞き手に一種の準備を促す目的で用いられる「すみませんが」や「わるいけど」などの 表現、「内容」は具体的な話の内容を指す。
87 大倉(1994)は、この区分をもとにスペイン語のoye、miraと日本語の「あのう」、「ねぇ」、「よ」を 対照している。本論文では大倉(1994)の用語に従う。
88 大倉(1994: 125)はスペイン語でも「開始部」、「用件部」、「終結部」からなっているという。
開始部 A: Oiga, por favor.
B: (カメラのファインダーから顔を挙げてAを見る)
用件部 A: ¿Para ir a la Sagrada familia(sic.)?
B:(早口でまくしたてる)
A: ¡Otra vez, por favor!
B: Mira, la segunda calle a la izquierda.
終結部 A: Gracias.
(大倉 1994: 125)
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話題維持を表明するsabe(s)と「あのね」は対忚すると言えるだろう。