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文間の呼びかけ

ドキュメント内 著者 野村 明衣 (ページ 98-103)

5. 呼びかけ語

5.3. 呼びかけ語の機能

5.3.2. 実例による考察

5.3.2.4. 文間の呼びかけ

文間の呼びかけは、等位接続詞及び並列的接続の間で呼びかける例、同じ情報を繰 りかえす間に呼びかける例(Sí, hijo, sí.のような場合)、ehやoyeなど注意を喚起す る語と共に呼びかける例に分類される。この位置は、呼びかけ語前後の語数を調べた 結果、文頭の呼びかけおよび文末の呼びかけのどちらの機能も果たすことができると 推測される。

5.3.2.4.1. 等位接続詞、または並列的接続の間で呼びかける例

文間の呼びかけで最も多く得られたのが、等位接続または並列的接続の間で呼びか ける例である。

(106) Rosa: Siento haberte juzgado, Ramón, y sobre todo siento haberme entrometido de esa manera en tu vida, sin preguntar, y ... sin pensar.

(Mar adentro: 39) (107) Reina: Vale, Santa, pero una cosa está clara.

(Los lunes al sol: 122)

(106)と(107)では、先行語句と後続語句は呼びかけ語とy や pero などの接続詞に

よってつながっている。また、次の例のように、単に呼びかけ語が2つの文をつない でいる並列的接続の例もあった。

(108) Manolito: Es verdad, tío, nunca se dará cuenta.

(Manolito gafotas: 20)

(108)では、呼びかけ語のほかに文をつなぐ語句は見られないが、コンマでつながれ ていることから、表記の上では、発話は呼びかけ語以後も続いていることになる。し かし、出典の映像と音声を確認すると、呼びかけ語と後続発話との間には短い休止が ある。また、呼びかけ語前後の発話は内容的に関連性が見られないので、先行発話と 後続発話はそれぞれ独立していると言えるだろう。そのため、これらの発話は表記上

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は1つの文と見なされるが、呼びかけ語の機能としては、文中のような後続発話への 注意喚起ではないと考えられる。呼びかけ語と後続発話との間に短い休止があるのに 対して、先行発話と呼びかけ語との間には休止は確認されず、続けて発話しているこ とから、このような場合の呼びかけ語は、先行発話の文末として機能しているのでは ないだろうか。つまり、表記上は文間とは、2つの文の間であるが、機能としては文 末の場合と同様に、先行発話の発話態度の表明であろう。これが表7で確認した文間 の先行発話には短いものが多い理由であると考えられる。(106)は謝罪、(107)は返答、

(108)は言明といった先行発話に対して、聞き手との協調関係を明示する働きを担って いると言える。

5.3.2.4.2. 同じ情報を繰りかえす間で呼びかける例

また、同じ情報を繰りかえす際に文間の呼びかけ語を用いることがある。

(109) Marco: Estoy en Jordania... ¡y he leído que Lydia ha muerto!

Rosa: Sí, hijo, sí. Lo siento mucho.

(Hable con ella: 173)

(109)では、呼びかけ語は同じ情報síが繰りかえされる発話の間に現れている。あ

る母語話者からは、「同じ情報を繰りかえす場合には、呼びかけ語がないと不自然」

という意見も見られた。しかし、このような発話では呼びかけ語の先行発話と後続発 話が同一なので、文中のように話し手の説得力を強めるために後続発話に注意を喚起 する必要はないと考えられる。次の例においても同様である。

(110) Don Gregorio: Bien, Gorrión, bien...

(Lengua de las mariposas: 53)

出典の音声では、呼びかけ語の後に短い休止があるので、等位接続の場合のように 先行発話の文末的要素とも考えられるが、呼びかけ語の前後であえて同じ情報を繰り かえすということは、話し手は発話内容そのものを強調して伝達しようとしているの ではないだろうか。従って、このような場合の呼びかけ語は、文末の呼びかけのよう に話し手の発話態度や、協調関係にあることを表明すると共に、同一の情報を繰り返 すことによって、より強調的に伝達する機能を果たすと説明できるだろう。

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5.3.2.4.3. 注意を喚起する語と共に呼びかける例

また、注意を喚起する語に伴う例もあった。

(111) Rosa OFF: Mira, Ramón, tengo que hacerte una pregunta.

(Mar adentro: 146) (68)‟ Fernando: Eh, Rafa, qué pasa, tío, ten cuidado, coño, qué quieres, que me

lesione antes del domingo o qué...

(El penalti más largo del mundo: 94)

(111)は、話し手と聞き手が電話で会話をしている場面である。動詞mirarの命令法

2人称単数形 miraは間投詞的に用いられ、聞き手の注意を喚起する機能を持つ。ま

た(68)でも、前章で聞き手の注意を喚起すると結論づけた文頭のehの後に呼びかけ語

を伴っている。本論文のデータでは、同様の機能を持つoyeも含めて、このような注 意を喚起する間投詞に続く文中の呼びかけ語が22 例見られた。出典の音声を確認す ると、呼びかけ語と後続発話との間に短い間があるので、呼びかけ語はmiraという 先行発話の文末的要素として機能していると考えられる。しかしこのような場合、呼 びかけ語の使用によって聞き手の領域に触れることを表す一方で、先行発話と共に聞 き手の注意喚起として機能しているのではないだろうか。母語話者にこういった例を 提示すると、ほとんどの回答者が「呼びかけ語は注意喚起として機能する」と回答し た。miraやehを用いてすでに注意喚起をしているにもかかわらず呼びかけ語を使用 するのは、名前を呼ぶことによって聞き手に対する協調的態度を示すためであると考 えられる。しかし、具体的な発話内容を伝達する前なので、結果的に後続発話への注 意喚起として機能するのではないだろうか。

また、次のように固有名詞の後に名詞や形容詞などの呼びかけ語が現れる例も観察 された。

(112) Gené: ¡Marc, cariño, haz el favor de mirar al frente!

(Mar adentro: 113)

先に述べたように、呼びかけ語は文頭で聞き手の注意を後続発話に向ける機能を果 たす。従って、(112)における文間の呼びかけ語cariñoは、(111)と同様に、先行発話 Marcの文末要素であり、先行発話と共に注意喚起として機能していると考えられる。

しかし、(112)では、聞き手に愛情を表すcariño という名詞が用いられている。話し

手Gené と聞き手Marcは夫婦であることから、文頭では個人名を用い、そのすぐ後

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に話し手と聞き手の関係を表すような語彙を用いることによって、愛情を表しながら 聞き手の注意を喚起しているのであろう57。また、母語話者によると、「後続する命令 を和らげる印象を受ける」という。文末に呼びかけ語が置かれる場合にも命令を和ら げることができるが、この場合はcariñoという語彙を命令の前に置き、先に聞き手へ の愛情を示すことによって、和らげようとするように感じられると考えられる。文間 の呼びかけには、このような固有名詞の後に名詞や形容詞の呼びかけ語を用いた例も 数例見られた。こういった呼びかけ語は、文間の機能を果たすと同時に、その語彙的 意味も表していると言える。

このように、文中の呼びかけ語は Shiina(2007)が主張するように、後続発話に 注意を向けて話し手の説得力を増す機能を果たす。また、文間の例は、先行する発話 の文末的要素として機能するものが多い。この結果を考えると、主節と従属節の間な どで呼びかける文中の呼びかけは後続発話の文頭、また、文間の呼びかけは先行発話 の文末に位置すると見ることができるのではないだろうか。そう考えると、文中、文 間は派生的なものであると言うことができるだろう。従って、呼びかけ語の中心的な 機能は、文頭における注意喚起と、文末における話し手の発話態度の表明である、と 結論づけられるが、これは呼びかけ語だけでなく、他の間投詞においても同様である と考えられる。

今回使用した資料体において、最も頻繁に現れたのは文末の呼びかけ語であった。

文頭の呼びかけ語による聞き手の注意喚起後、発話は長くなり、聞き手が特定されて いて文末に呼びかけ語を用いる場合、前の発話は短くなる傾向がある。

この実態は各位置の呼びかけ語が持つ機能と関わっていると考えられる。

第1に、文頭での呼びかけは、聞き手の注意を喚起する機能をもつ。この場合、聞 き手にとって呼びかけ語に後続する発話の情報価値が高い。聞き手にとって重要な情 報を提供するために話し手に注意を喚起するのである。

第2に、文末では、聞き手の領域にどのように触れるかを発話状況やイントネーシ ョンなどと共に明確化することによって、話し手の発話態度を表す。さらに、使用す る語彙によって、聞き手への様々な態度を表明することができる。文末での呼びかけ の先行語句が短い傾向があるのは、短い発話では、聞き手が話し手が発話する情報の 意図を正しく読み取れない可能性があるので、呼びかけ語を用いて、言語表出されて いない情報があることや、話し手の発話態度を表そうとするのだと考えられる。文末 に呼びかけ語を付加することによって、先行語句を活性化し、情報価値を高めること ができる。

57 詳しくはp.120参照。

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第3に、文中に現れる呼びかけは、文頭での呼びかけと同様に、聞き手の注意を後 続発話に向けさせるので、話し手の説得力を増すことになる。また、文間では前の発 話の文末的要素を果たす。これらは、文頭、文末の派生的用法であると考えることが できる。

このことからスペイン語における呼びかけ語はFFAを強めFTAを和らげるだけで なく、現れる位置によって異なる機能を果たし、談話を管理する標識として、また、

話し手の発話態度を言語表現する一つの手段として用いられると結論づけられる。

各位置と機能の関係をまとめると次のようになる。

ドキュメント内 著者 野村 明衣 (ページ 98-103)