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意味による分類

ドキュメント内 著者 野村 明衣 (ページ 104-114)

5. 呼びかけ語

5.4. 呼びかけ語の位置と語彙

5.4.1. 情を表す呼びかけ語の語彙

5.4.1.2. 意味による分類

Beinhauer(1963: 33- 47)は、呼びかけ語の語彙は主に好感(simpatía)と嫌悪

(antipatía)、皮肉(ironía)の 3 つの種類に分かれると主張し、それぞれに具体例

を挙げている。本節では、データから得られた例をもとに、特徴的な語彙のみを考察 していく。なお、位置による分類は5.5.で行う。

5.4.1.2.1. 好感を表す呼びかけ語

Beinhauer(1929: 26)は、好感を表す呼びかけ語としてまずhijo/aなどの親族名

称を例に挙げている。次の例を見てみよう。

(113) Manolo: No te preocupes, hijo, cuando yo era como tú, la tenía mucho más chica.

(Manolito Gafotas: 104)

(113)の話し手Manoloは、聞き手Manolitoの父親である。スペイン語母語話者に

よると、スペイン語では親は自分の子どもを通常固有名詞で呼ぶといい、これに従え ば(113)をNo te preocupes, Manolito, (...)とすることができる。しかし、ここでは意 図的に聞き手である息子をhijoと呼びかけている。この発話は命令であり、呼びかけ 語を伴うことによって命令を和らげることができる。また発話内容を見ると、父親は 息子に対して大人の視点から助言をしているので、hijoという語彙を用いて2人の親 子関係を明示していると考えられる。

しかしBeinhauer(1929: 26)によると、呼びかけ語hijo/a は(113)のように普通 話し手が聞き手よりも年上である場合に用いられるが、時に話者間に年齢差がなく、

さらに実際の親子関係がない場合にも用いられるという。Edeso Natalías(2005: 132)

も同様に、hijo/a を用いることによって、話者間に擬似的な親子関係を作り出すこと ができると説明している。

次の(114)の例では、聞き手であるAgustinaは話し手Soleの叔母の隣人であり、両 者の間に親子関係はもちろんない。また年齢差もないが、呼びかけ語hija míaが用い られている。

(114) Sole: Está hecha una pena, hija mía.

(Volver: 33) この場面では、話し手が叔母の様態を隣人に説明している。Edeso Natalías(2005)

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の主張からこの発話を見ると、本来親子関係を表す呼びかけ語を用い、話し手と聞き 手との間に擬似的な上下関係を作り出すことによって、自らの驚きを擬似的に尐し上 の立場から優しく説明し、聞き手により良く理解してもらいたいという話し手の態度 を表しているのではないだろうか。

次の例も同様である。

(115) Sole: Pensé que a ti eso no te ocurriría...

Raimunda: (Más afectada de lo que quisiera). Pues sí, hija, sí. No tengas complejo porque tu marido se fugara con una clienta...

(Volver: 82)

(115)では、Raimundaの姉であるSoleがRaimundaの夫Pacoが家を出て行った

ことについて、「あんたにはそのようなことは起こらないと思っていた」と告げる場 面である。Raimundaは姉に対して自分にも起こるのだ、と主張する。Raimundaは Soleよりも年下だが、優しくSoleを説得するため、擬似的に上の立場からhija と呼 びかけているのだろう。

このように、親族名称で呼びかけることによって擬似的な関係を作り出し、聞き手 よりも上の立場から情報を伝達しようとする話し手の態度を表すことができる。この 擬似的関係によって、固有名詞を用いる呼びかけよりも、より効果的に発話内容への 態度を付加することができると考えられる。今回のデータには例がなかったが、年配 の人に対するabuelo/a も、hijo/aと同様に話し手と聞き手との間に擬似的な親族関係 を作り出し、話し手が聞き手に対して孫のような立場に自分を置こうとする態度を表 すのではないだろうか。また、Alonso Cortés(1999: 4040)によると、同じく親族名 称であるtío は友人関係で用いた場合、話し手と聞き手が同じグループに属している 仲間であることを表すという59。(95)でも見られたように、本論文のデータでもtíoは 61例観察され、日常会話において頻繁に用いられていると推測される。本来tíoは親 族名称だが、脱意味化していると考えられ、擬似的な親子関係を強調するhijo/aのよ うには機能しないと考えられる。

またBeinhauer(1929: 34)は「どんな語でも縮小辞を伴えば、好感を表す」と説

明し、さらに好感を表す呼びかけ語としてamorやcariñoといった名詞や、simpático

やpreciosoなどの形容詞を挙げ、「スペイン人の心からの息吹60」と称している。 次

59 Jørgensen(2008)は、マドリードの若者間でのtío/aの使用について考察している。tíoなどの使用

は若者特有のものなので、普通の言語使用とは異なるぞんざいさを持つのではないかと考えられる。

60 un soplo directo del alma popular española (Beinhauer 1929: 36)

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の例を見てみよう。

(116) Conductora: Lydia, tesoro, no seas ordinaria, déjame terminar la pregunta.

(Hable con ella: 30) (117) Benítez: (A Manolito.) Vamos... A bañarnos, prenda.

(Manolito Gafotas: 131)

tesoroは本来人ではなく「宝」を意味する名詞だが、聞き手に愛情を表す呼びかけ

語としてここでは用いられている。またBeinhauer(1929: 37)は、prendaについ ても深い愛情を表す呼びかけ語であると述べている。(117)でも、聞き手Manolitoに 対して親愛をこめてprendaと呼んでいる。さらにmi vidaのように限定形容詞を伴 う呼びかけ語は、miによって愛情を表す度合いが増すと考えられる。

(118) Amparo: ¡No te preocupes, mi amor!

(Hable con ella: 130) (119) Rosa: A ver, mi vida, ¿qué quieres...?

(Mar adentro: 64)

また、次の(120)と(121)は、今回収集したデータから得られた形容詞の呼びかけ語 の例である。

(120) Voz de oyente: ...Y que sepas que te oigo siempre que puedo. Y que eres muy fresca, muy... espontánea.

Rosa: (Sonríe.) Muchas gracias. ¿Entonces no quieres que te ponga nada?

Voz de oyente: No, bonita. Tú sigue así, tan alegre. Buenas noches.

(Hable con ella: 116) (121) [Ramón parece prestar atención, con la cabeza pegada a la tripa de Gené.]

Ramón: No siento nada. ¿Seguro que así hay un niño?

Gené: De siete meses, guapo.

(Mar adentro: 95)

bonita やguapo は愛情を表す形容詞である。(120)はラジオの会話で、視聴者であ

る話し手が聞き手Rosaにbonitaと呼びかけている。また、(121)の話し手Genéは

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Ramón を擁護する人権団体の責任者で、胎動を聞こうとしている Ramón に対して

guapo と呼びかけている。呼びかけ語のguapo は、後ほど考察するように時に皮肉

として用いられるが、この場面は文脈から皮肉を言うような状況とは考えられず、話 し手は聞き手との間に強調的態度を示していると解釈できるので、上の2つの呼びか

け語bonitaとguapoは共に好感を表していると言えるだろう。

5.4.1.2.2. 嫌悪を表す呼びかけ語

嫌悪を表す呼びかけ語には、動物名称や増大辞を伴う語、imbécil などの侮辱表現

やmaricónのような俗語が挙げられている。

次の例は、話し手の聞き手に対する嫌悪を表す呼びかけ語である。

(122) Catalina: Es que lo estaba viendo, ni descansar puedo cinco minutos. Pero,

¿se puede saber qué estás haciendo, bestia? Que no es nuestro el vídeo.

(Manolito Gafotas: 71)

(122)では、話し手である母親Catalinaが、聞き手である息子 Manolitoの行動に

腹を立てている。普段は個人名(Manolito)やhijo mío、cariño míoと呼びかけてい るが、この場面では怒りの表明としてbestiaと呼びかけている。このことから、呼び かけ語の語彙選択によって、話し手の発話態度をより明確に表すことができると言え るだろう。

しかし、時に動物名称は嫌悪を表さないことがある。次の例を見てみよう。

(123) Don Gregorio: Bien, Gorrión, bien...

(La lengua de las mariposas: 53)

この場面では、教師Don Gregorioが生徒Monchoに対してGorriónと呼びかけて いる。Monchoが母親と共に初めて学校に来た時、母親は「この子はすずめのように 気が小さくて…」と教師に説明する。それを聞いた他の生徒達は、Monchoをからか

ってGorriónと呼び始める。つまりGorriónという呼びかけ語は、もともと悪意を含

んで用いられた呼びかけ語であった。しかし、教師はMonchoにそのあだ名を気に入 ったと伝え、MonchoをGorriónと呼んでいいかと尋ねる。この教師はMonchoをよ く気にかけているので、彼に対して愛情を持っていることは明らかであり、Moncho

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に愛情を表す意味でGorriónと呼び続けるのである61。Beinhauer(1929: 38)は侮 辱的な語彙でも、縮小辞を伴えば愛情を表す表現に変わると述べている62。(123)の例 は縮小辞は伴っていないが、話し手と聞き手の人間関係から、動物名称でも愛情を表 す呼びかけ語として用いられていることがわかる。このように、動物名称は必ずしも 嫌悪を表すわけではなく、話者同士の人間関係によっては好感を表す場合もあると言 うことができるだろう。

次の例も見てみよう。tonto のような侮辱的な語彙は通常嫌悪を表すと考えられる が、動物名称と同様に、時に好感を表すことがある。

(124) Andrés: ¡Moncho!

[Moncho se levanta y se echa en sus brazos.Andrés lo besa, lo abriga con su propio ropa:]

Andrés: Pero, ¿a dónde ibas, tonto?

(La lengua de las mariposas: 17)

話し手Andrésが聞き手Monchoに愛情を持っていることは、Andrésの行為から

も明らかであり、形容詞tontoは本来侮辱的な言葉であるが、この例では聞き手に対 する好感を表している。母語話者に対するアンケートでも、この例における呼びかけ

語tontoは「Andrésの愛情を表している」という結果が得られた。Beinhauer(1929:

38-39)はこのような用法を「虚構的侮辱(insultos ficticios)」と称し、嫌悪を表す語

彙でも親密な関係で用いられる場合には愛情を表す表現になる、と説明している。ま た、スペインでは親しい女性に対して “Adiós, fea.”と挨拶をすることがあり、これも 同様に聞き手である女性に対する親密さを表すという(Beinhauer 1929: 39)。しか し、嫌悪を表す呼びかけ語の語彙を、聞き手が文字通りに受け取ってしまった場合、

聞き手は話し手の意図を正しく理解できないばかりでなく、話し手と聞き手の人間関 係に大きく影響を及ぼし得る。そのため、この用法が成り立つのは、対談者同士が非 常に親密であり、呼びかけ語の語彙が表面的な意味を表さないことを了解している場 合のみであると考えられる。

5.4.1.2.3. 皮肉を表す呼びかけ語

Beinhauer(1929: 34)は、皮肉の呼びかけとして、大人に対する呼びかけ語rico

61 GorriónMonchoのあだ名とも解釈できるが、気の弱いMonchoをからかって呼ぶ際に用いられて

いたので、本論文では呼びかけ語とみなす。

62 Miguel Mihura(1979: 86)による戯曲Tres sombreros de copaには、このタイプの呼びかけ語の例 がある。主人公がフィアンセに対してAdiós, bichito mío.と呼びかける。名詞bichoは嫌悪を表す語だが、

縮小辞と限定形容詞を伴うことによって愛情を表している。

ドキュメント内 著者 野村 明衣 (ページ 104-114)