4. eh
4.5. eh と「よ」 、¿no?と「ね」
4.5.4. eh が「ね」になり得る事例
ここまで考察してきたように、eh は「よ」に対忚する機能を果たす。しかし、次 のような例においては、ehは「ね」と訳し得る。
(85) (話し手と聞き手が一緒に歩いている時の発話)
Hoy hace buen tiempo, ¿eh?
(85)のように、話し手と聞き手の両方が晴天であることを確認できる場合、¿eh?は
「今日はいい天気だね」のような共有を表すニュアンスを持つ。「よ」と類似した機 能のehが「ね」のニュアンスを持つのは、ehが聞き手に対して発話への確認と理解 を求めることによるのだろう。同じ発話でも、窓を開けた話し手がまだベッドにいる 聞き手に晴天であると教える場合には、日本語では話し手と聞き手の認識(知識)が 一致していないことになるので、「今日はいい天気だよ」に対忚すると考えられる。
しかし、話し手も聞き手も同じように確認できる場合、話し手の聞き手に対する理解 の要求は、共有の要求になる。つまり、ehそのものはどのような状況でも先行発話の 確認と理解を求めるものだが、日本語では聞き手の認識(知識)への配慮によって、
「ね」に対忚するということである。
このように、ehは文頭で用いられる場合、具体的意味を持たない音形を聞き手に向 けるので、ぞんざいな印象を与える。また文末では、先行発話に注意喚起して聞き手 の理解を求める機能を果たし、原則として文頭、文末のどちらの場合にも「よ」に対 忚する。また¿no?は発話内容を聞き手が否定するかどうか確認しようとするもの、
「ね」は発話に聞き手の判断が入り得る余地を残して伝達するものであり、文末では 先行発話の内容を聞き手に確認する(しようとする)機能を果たす。「ね」は文頭で
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も現れるのに対して、¿no?は文頭での使用は見られない。
Martín Zorraquino y Portolés(1999: 4188)らが確認の補足表現(apéndices
comprobativos)と呼んだ¿verdad?、¿no?、¿eh?は、文末で聞き手に先行発話を確認
しようとしたり、聞き手に確認や理解を求めようとするものであるが、¿verdad?と
¿no?が「ね」に対忚し、ehが「よ」に対忚する機能を持つことが明らかとなった。
以上のehと「よ」の機能をまとめたものが表6である。
表6 ehと「ね」、「よ」の機能のまとめ
eh ね よ
性質 語彙的意味を
持たない音形
話し手と聞き手の認 識(知識)の一致
話し手と聞き手の認 識(知識)の不一致
機能
文頭 聞き手への注意喚起 ○ ○ ○
文中 注意喚起
(受けの確認) × ○ ○
文末
確認要求 × ○ ×
注 意 喚 起
発話 への 注意 喚起
確認要求 ○ × ×
理解要求 ○ × ×
含意表明 ○ × ×
聞き 手へ の注 意喚 起
確認要求 × × ○
理解要求 × × ○
含意表明 × × ○
文頭のehと「よ」は、どちらも聞き手の注意喚起としてはぞんざいさを感じさせ るものである。白川(1992: 38)は、文末の「よ」の聞き手めあて性について指摘し ているが、これは文頭に位置する場合にも当てはまると考えられ、それがぞんざいさ を感じさせるのだろう。大倉(1994)は、「よ」の文頭での用法を特殊な例として扱 っているが、本論文では文頭、文末の「ね」や「よ」の機能を統一的に捉える。
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表6の結果を比べると、ehと「よ」は確認や理解を要求し、含意を示す機能が同じ である。しかし、ehは文頭の場合は聞き手に、そして文末の場合は先行発話に具体的 意味を持たない音形を向けることによって注意喚起するものであり、「よ」は直接聞 き手に注意喚起するという方向性が異なるものであると言えるだろう。
では、野村(2012)において位置によって異なる機能を果たすと結論づけた呼びか け語は、終助詞とどう対忚するのだろうか。表4を見ると、感謝や謝罪、挨拶といっ た感情表現の行為には、ehの他に呼びかけ語を伴う例も多く見られた。感謝や謝罪は
「ね」に対忚する¿no?とは共起しないが、これらの行為が呼びかけ語と共起した場合、
「ありがとうね」や「ごめんね」のような聞き手に配慮する表現になるのではないだ ろうか。次章では、呼びかけ語の位置による機能、位置と語彙との関連性を確認し、
終助詞と対照する。