第 8 章 ベクトル解析の諸公式の導出 159
8.2 grad, rot, div
ベクトル解析に現れる微分演算子grad (∇), rot (∇×), div (∇·)はそれ ぞれ0-形式、1-形式、2-形式の外微分として現れる。
8.2.1 grad
まず、0-形式(8.1)の外微分をとると
df = (∂xf)dx+ (∂yf)dy+ (∂zf)dz (8.8) となり、これからベクトル場
gradf =∇f := (∂xf, ∂yf, ∂zf) (8.9) が得られる。ここで、∂x =∂/∂xなどである。
特に、cを定数とすると、f(x, y, z) =cは3次元空間における2次元曲 面を表している。これに対して外微分を考えると
df = (∂xf)dx+ (∂yf)dy+ (∂zf)dz = gradf·(dx, dy, dz) = 0
なのでgradfは(dx, dy, dz)に垂直である。ところが、後者は曲面上の任 意の線素であるのでgradf は曲面に垂直なベクトル場であることがわか る。このことはn次元空間に対しても当てはまる。すなわち、f =cはn 次元空間におけるn−1次元曲面を表し、曲面上の各点pごとにgradf方
向に垂直なn−1次元平面が考えられる。これは点pにおいて曲面に接す る平面であり、接平面(接空間)とよばれ記号Tpで表される。
(8.8)の外微分をとると(7.27)より
d2f = [∂y(∂xf)dy+∂z(∂xf)dz]∧dx+ [∂x(∂yf)dx+∂z(∂yf)dz]∧dy +[∂x(∂zf)dx+∂y(∂zf)dy]∧dz
= [∂y(∂zf)−∂z(∂yf)]dy∧dz+ [∂z(∂xf)−∂x(∂zf)]dz∧dx +[∂x(∂yf)−∂y(∂xf)]dx∧dy
= (rot gradf)xdy∧dz+ (rot gradf)ydz∧dx+ (rot gradf)zdx∧dy
= 0 (8.10)
これから次のベクトル解析の公式が得られる。
rot gradf = 0 (8.11)
スカラー場の外微分は1-形式のgradを与え、1-形式の外微分は2-形式の rotを与える(次節8.2.2を参照)。(8.11)はスカラー場に対するdd= 0の 作用の帰結であると解釈できる((7.27)参照)。
8.2.2 rot
次に、1-形式(8.2)の外微分をとると
dω1 = (dy∂y+dz∂z)ωx∧dx+ (dx∂x+dz∂z)ωy∧dy +(dx∂x+dy∂y)ωz∧dz
= (∂yωz−∂zωy)dy∧dz+ (∂xωy−∂yωx)dz∧dx +(∂xωy−∂yωx)dx∧dy
= (rotω)xdy∧dz+ (rotω)ydz∧dx+ (rotω)zdx∧dy (8.12) このようにベクトル場の外微分が回転(rot)で与えられることが分かる。
さらにこの外微分をとると
d2ω1 = [∂x(rotω)x+∂y(rotω)y+∂z(rotω)z]dx∧dy∧dz
= (div rotω)dx∧dy∧dz (8.13)
となるが、(7.27)よりdd= 0なので
div rotω= 0 (8.14)
であることが分かる。(8.14)は直接計算することで確かめることができる が、1-形式にdd= 0を作用させた結果とみなすことができる。以上を表 7.16にまとめる。
d d2 = 0 0-form gradf rotgradf = 0 1-form rotω divrotω= 0
2-form divb —
表8.1: r-形式の外微分。
8.2.3 div
発散(divergence)は、2-形式(8.4)の外微分から得られる。
dω2 = (∂xωyz+∂yωzx+∂zωxy)dx∧dy∧dz
= (divb)dx∧dy∧dz (8.15)
が得られる。3次元空間の場合は、d2ω2= 0は自明な関係式なので(r >
n= 3なる外微分形式は恒等的にゼロであることに注意)これから新たな 関係式は得られない。
8.2.4 その他の公式
スカラー関数f と1-形式ω1の積の外微分はライブニッツ則(7.28)で r= 0の場合に相当することに注意すると、
d(f ω1) =df ∧ω1+f dω1 (8.16) 1-形式の外微分が回転に対応すること(8.12)を思い出すと、これから次の 公式が得られる1。
rot (f ω) = gradf×ω+frotω (8.17) スカラー関数fと2-形式ω2の積の外微分を考えると
d(f ω2) =df ∧ω2+f dω2 (8.18) 2-形式の外微分が発散に対応することを思い出すと、次の公式が得られる。
div (fb) = gradf ·b+fdivb (8.19)
11-形式dfと1-形式ω1のウエッジ積df∧ω1が対応するベクトルの外積になること は、直接計算することによっても確かめることができる。すなわち、
df∧ω1 = (∂if)ωjdxi∧dxj= (∂yf ωz−∂zf ωy)dy∧dz+· · ·
= (gradf×ω)xdy∧dz+· · ·
2つの1-形式ξ, ηの外積の外微分はライブニッツ則(7.28)でr= 1の場 合に相当することに注意すると、
d(ξ∧η) =dξ∧η−ξ∧dη (8.20) これから次の公式が得られる。
div (a×b) = rota·b−a·rotb (8.21) 以上をまとめると、p-形式ξとq-形式ηに関するライプニッツ則
d(ξ∧η) =dξ∧η+ (−1)pξ∧dη (8.22) で、p, qに具体的な整数を代入することで次の諸公式が得られる。
p= 0, q= 0 grad (f g) = (gradf)g+fgradg (8.23) p= 0, q= 1 rot (fa) = gradf ×a+frota (8.24) p= 0, q= 2 div (fa) = gradf·a+fdiva (8.25) p= 1, q= 1 div (a×b) = rota·b−a·rotb (8.26)