第 4 章 リー群と多様体 65
4.5 コンパクトリー群
コンパクトで連結なリー群G9の中心(すなわち、Gのすべての元と可 換な不変部分群)をZとすると、Gの随伴表現は商群G/Zの忠実な表現 であるから、コンパクト群の表現を調べるためには随伴表現を調べること が有益である。
コンパクト群の群多様体上の積分は有限で、その積分測度は両側不変で あった。群多様体上の体積を∫
Gdg = 1と規格化しておく。群Gの表現を
9コンパクトで連結な群はU(n), SU(n), SO(n), Sp(2n,R)である。コンパクトで連結 な群の元はg= exp
( i∑d
i=1tiXi
)と書けることを思い出そう。
Dをし、その表現空間をV とする。V 上の内積を(x, y) (x, y∈V) と書 き、次の量を定義する。
⟨x, y⟩:=
∫
G
(D(g)x, D(g)y)dg (4.27)
この量もまたV上の内積である。積分が左不変なので群Gの任意の元h に対して
⟨D(h)x, D(h)y⟩ =
∫
G
(D(g)D(h)x, D(g)D(h)y)dg
=
∫
G
(D(gh)x, D(gh)y)dg
=
∫
G
(D(g)x, D(g)y)dg=⟨x, y⟩ (4.28) このように、コンパクトリー群の表現は内積を変えないのでこの内積⟨x, y⟩ に関してユニタリである。このような表現D(g)を群のユニタリ表現とい う。こうして次の定理が得られる。
Theorem 22 コンパクトリー群の任意の表現は、適当な内積を定義すれ ばその内積を不変に保つユニタリ表現となる。
リー代数の随伴表現(3.63)は純虚数の交代行列であるから、コンパク ト群の随伴表現の表現行列(3.72)は実直交行列である。(群の元が直交行 列の時は、リー代数は交代行列となることを思い出そう(表3.1参照))。
定理22によれば、表現の直交性はコンパクト群の任意の表現で保たれる ことが分かる。
(3.63)から、コンパクトリー群のリー代数の構造定数は
fijk=−fikj (4.29)
を満たし、すべての添え字i, j, kに対して完全反対称である。この結果は、
(3.95)とコンシステントである。
Theorem 23 コンパクトリー代数の構造定数fijkは、すべての添え字 i, j, kに対して完全反対称である。
この定理からコンパクトリー代数のカルタン計量の対角要素は正の値を取 りえないことがわかる。
gii=∑
j,k
fijkfikj =−∑
j,k
(fijk)2≤0 (4.30) 特に、gii = 0となるのはすべてのj, kに対してfijk= 0となる場合であ るから、Xiがリー代数の中心に属する場合である。したがって、コンパ
クトリー代数は中心Wcとそれ以外W0の直和となる:W=Wc⊕W0。こ のとき、W0は可換な不変部分代数を含まないので半単純である。実際、
もしそうでないとすると、W0の可換な不変部分代数の元をXa, Xbとす ると、これらは可換なのでfabc = 0。よって、(4.29)よりfacb = 0とな る。しかし、これはXaがWの任意の元Xcと交換することを意味する ([Xa, Xc] =ifacbXb = 0)ので、W0はWの中心となり矛盾。ゆえにW0
は半単純である。半単純なリー代数は単純リー代数の直和で表される(定 理14)。また、可換なリー代数は1次元リー代数の直和なので次の定理が 得られる。
Theorem 24 任意のコンパクトリー代数は、単純リー代数と1次元リー 代数の直和で表される。
1次元リー代数に対応するコンパクトリー群は1次元ユニタリ群U(1) である。定理24により任意のコンパクトな連結線形リー群は一般にU(1) 群と単純リー群の直積で表されることが分かる。