第 5 章 ルートとウエイト 75
5.3 ルート空間
5.3.2 単純ルート
(5.52)でm−n:=n1とおくと 2(α, β)
(α, α) =n1 (5.54)
対称性から、この式でαとβの役割を入れ替えた式もまた整数値をとる はずである。
2(α, β)
(β, β) =n2 (5.55)
両者の積と比からそれぞれ (α, β)2
(α, α)(β, β) = cos2θαβ = 1
4n1n2 (5.56) (β, β)
(α, α) = n1
n2 (5.57)
が得られる。仮定によりα ̸= ±βなのでcos2θαβ < 1である。よって、
(5.56)よりθαβ のとりうる値は次の場合に限定されることが分かる(0≤ θαβ ≤πを仮定)。
cos2θαβ =
0 ↔θαβ = π2, ||αβ|| =不定
1
4 ↔θαβ = π3,2π3 , ||αβ|| = 1 →SU(3)
2
4 ↔θαβ = π4,3π4 , ||αβ|| =√
2→SO(5)
3
4 ↔θαβ = π6,5π6 , ||αβ|| =√
3→G2
(5.58)
このように2つの(単純)ルートαとβのなす角度はπ/2,2π/3,3π/4,5π/6 の4通りに限られ1、これらに対応する2つのルートの長さの比はそれぞ れ不定、1,√
2,√
3 である。更に、1,√ 2,√
3はそれぞれコンパクト単純 リー群SU(3), SO(5),および、G2に対応している。ランクが2の場合は、
ルートは2次元ベクトルなのでルート図(root diagram)はこれら2つのベ クトルで張られる。SU(3)、SO(5)、G2のルート図はそれぞれ図5.1、図 5.2、図5.3のようになる2。
これらの図から明らかなようにルート図は紙面に垂直な面に対して対 称である。実際、(5.52)は−n以上、m以下なので(5.44)からαとβ が ルートならば
β′ =β−2(α, β)
(α, α)α (5.59)
もルートになることが分かる。実際、(5.52)よりβ′ =β−(m−n)αであ り、このβ′は(5.44)の一つであることがわかる。ここで、β′はαに垂直 な面に関するβの鏡映になっていることが分かる(図5.4参照)。これをワ イル鏡映(Weyl reflection)という。ルート図のワイル鏡映の全体は群をな し、これをワイル群(Weyl group)という。
ルート空間では(d−r)個のルートがr次元のベクトル空間を構成するか ら(dはリー代数の独立な基底の数)、任意のルートはこの1次独立なルー
1後に示されるように((5.61)参照)、2つの単純ルートのなす角度はπ/2以上でなけ ればならない。
2SU(3)、SO(5)、G2のランクはすべて2である
H1 H2
s sh s
s s
s s
AA
AAAU simple
α
simple β
図 5.1: コンパクト単純リー群SU(3)のルート図。2つの単純ルートは長 さが等しく、ルートのなす角度は2π/3である。
H1
H2
s s
s s
s ss s
s 6
@@
@@@R simple α
simple β
図 5.2: コンパクト単純リー群SO(5)のルート図。2つの単純ルートは長 さが異なり、それらのなす角度は3π/4である
トを用いて表せる。1次独立なルートは次のようにして選ぶことができる。
まず、ルートα = (α1,· · · , αr)の最初のゼロでない成分αa (1≤ a≤r) が正(負)の時、これを正(負)のルート(positive/negative root)とい う。(d−r)個のルートのうち半分は正、半分は負である((5.7)参照)。次 に、2つのルートα, βが与えられた時、α−β の最初のゼロでない成分が 正の時、α > β と定義する。このようにしてr個の1次独立なルートを 小さい順に 0 < α(1) <· · · < α(r) のように並べ、r次元ルート空間の基
H1 H2
s s s s
s s
s s s s
s
s 6
JJ J
^ α
β
図 5.3: コンパクト単純リー群G2のルート図.。2つの単純ルートは長さ が異なり、それらのなす角度は5π/6である。
β−(α,β)(α,α)α β−2(α,β)(α,α)α β
6
α
AA AA AA AA AK
図5.4: Weyl鏡映
底にとる。これらを単純ルート(simple root)と呼ぶ。他の正のルートは、
交換関係 (5.34)を繰り返し適用することによって得られることが知られ
ている、従って、正のルートは単純ルートの負でない整数係数 niの1次 結合で表される。こうして、任意のルートは次のように表される。
α=±
∑r i=1
niα(i) (5.60)
このように、コンパクト単純リー代数の構造は単純ルートによって一意に 決まる。
単純ルートは次の性質がある。
(i) α, βが単純ルートのとき、α−βはルートではない。実際、α−β=:γ がルートであるとすると、それは正または負のルートでなければならな い。正とすると、それはα > γなのでγは単純ルートでなければならない (単純ルートは小さいものから選ばれることを思い出そう)。しかし、これ は単純ルートが1次独立であることに反する。負の場合は、−γ =β−α がβよりも小さな正のルートなので単純ルートとなり、単純ルートが1次 独立であることに矛盾する。
(ii) α, βが単純ルートのとき、
(α, β)≤0 (5.61)
である。なぜなら、α, βについてのルートのシリーズ(5.44)を考えると (i)よりm= 0となり(5.52)から(5.61)が結論できる。
この結果から、2つの単純ルートのなす角度は次の不等式を満足するこ とが分かる。
π
2 ≤θαβ < π (5.62)
単純ルートは互いに線形独立である。もしそうでなければ、単純ルート の適当な線形結合
γ =∑
α
xαα. (5.63)
がゼロにならなければならない。単純ルートの定義よりすべてのαは正 なので、γ= 0となるためには、右辺の係数の一部が正、残りが負でなけ ればならない。そこで、右辺を係数が正の部分と負の部分の2グループに 分けて
γ =µ−ν, (5.64)
と書こう。定義により、µとνは共にすべての係数が正である。すなわち、
µ= ∑
xα>0
xαα, ν = ∑
yα<0
(−yα)α. (5.65)
このとき、(5.61)より(µ, ν)≤0なので
γ2 = (µ−ν)2=µ2+ν2−2(µ·ν)≥µ2+ν2 >0 (5.66)
となりγ = 0と矛盾する。従って、単純ルートは互いに線形独立である。
このことから、任意の正のルートは単純ルートに非負の整数をかけた線形 結合
ϕ=∑
α
nαα, nα≥0 (5.67)
で表される。
単純ルートは互いに線形独立なだけではなく、完全である。従って、単 純ルートの数は代数のランク、すなわち、カルタン部分代数の生成子の数 に等しい。実際、もしそうでないとするとすべての単純ルートαと直交 するベクトルχが存在しなければならない:
∀α に対して [χaHa, Eα] = 0 (5.68) ところが、χaHaは他のカルタン部分代数の生成子とも交換するので、そ れは代数のすべての生成子と交換してしまい、半単純であることに矛盾す る。こうして、全代数が単純ルートから構成されることが分かる。
例としてSU(3)を考えよう3。(5.58)からSU(3)の場合は、2つの単純 ルートα, βは長さが等しく、互いの角度は2π/3である。ルートの長さを 1に規格化すると、
(α)2 = (β)2= 1, (α, β) =−1
2 (5.69)
これから、SU(3)の2つの単純ルートは α= (1/2,√
3/2), β = (1/2,−√
3/2) (5.70)
で与えられることが分かる。α+βはルートであるが、2α+βやα+ 2β はルートではない(図5.5参照)。