第 5 章 ルートとウエイト 75
6.3 ローレンツ群
6.3.3 ローレンツ群のリー代数
ローレンツ群のリー代数を構成する行列M は(6.212)において微小変
換A= 1 +Mを考えることにより得られる。すなわち、
MTg+gM = 0 (6.220)
この式は行列の16成分に10個の条件を与えるので、独立な成分の数は 6個のとある。そこで、(6.220)を満たすものとして次の6個の行列を選 ぼう。
M12=
0 0 0 0
0 0 1 0
0 −1 0 0
0 0 0 0
, M23=
0 0 0 0
0 0 0 0
0 0 0 1
0 0 −1 0
,
M31=
0 0 0 0 0 0 0 −1 0 0 0 0 0 1 0 0
, M01=
0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0
,
M02=
0 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0
, M03=
0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0
, (6.221)
他の成分はMµν =−Mνµで定義される。ここで、M12, M23, M31は空間 の回転、M01, M02, M03は時空の回転の生成子である。後者の行列要素の 符号が前者と異なるのは、ミンコフスキー計量の符号の違いによる。
(6.220)を満たす任意の行列M は(6.221)のMµν を用いて次のように 表される。
M = 1 +1 2
∑
µ,ν
ωµνMµν, ωµν =−ωνµ (6.222) {M12, M23, M31}は時間成分を無視すると3次元直交群O(3)のリー代数 となっていることが分かる。従って、O(3)群はO(3,1)群の部分群である。
Mij (i, j= 1,2,3)はi, j軸の張る平面内の回転の生成子となっている。
O(3,1)のリー代数Mµνは次の交換関係を満足する。
[Mµν, Mρσ] =gµρMνσ+gνσMµρ−gνρMµσ−gµσMνρ (6.223) この交換関係を見通しのよいものにするために、次のように時間部分を含 む生成子と含まない生成子に分ける。
M1 =−M23, M2 =−M31, M3=−M12
N1=M01, N2=M02, N3 =M03 (6.224)
これらを用いると、(6.223)は次のように書ける。
[Mi, Mj] =∑
k
ϵijkMk (6.225)
[Ni, Nj] =−∑
k
ϵijkMk (6.226) [Mi, Nj] =∑
k
ϵijkNk (6.227)
(6.226)は直交する方向へ2つのローレンツ変換を行うことは空間の回転
に等価であることを示している。
ローレンツ群のリー代数(すなわち、O(3,1)群のリー代数)はSL(2,C) のリー代数に等しい。SL(2,C)は行列式が1の2行2列複素行列全体のな す群である。そのリー代数はトレースがゼロの2行2列複素行列であるの で、独立な成分の数は6個である。そのようなリー代数の元はパウリ行列 を用いて次のように構成できる。
M1=−i
2σ1, M2 =−i
2σ2, M3=−i 2σ3, N1 =−1
2σ1, N2=−1
2σ2, N3 =−1
2σ3. (6.228) 実際、これらは(6.225)-(6.227)の交換関係を満足する。このようにロー レンツ群のリー代数とSL(2,C)のリー代数は同型であるからローレンツ
群とSL(2,C)の間には準同型対応がある。これを確かめるために、2行2
列のエルミート行列Hの全体を考える。Hの独立な行列成分の数は4な ので、パウリ行列を用いて次のように表せる。
H(x) =
∑3 µ=0
xµσµ=x0σ0−x1σ1−x2σ2−x3σ3 (6.229) ここで、σ0は2行2列の単位行列、σµ=∑
ngµνσνである。(6.229)によ りミンコフスキー空間のベクトルxµとエルミート行列Hの間に1対1の 関係が成立する。また、
detH= (x0)2−(x1)2−(x2)2−(x3)2:=⟨x, x⟩ (6.230) であることに注意しよう。Hの行列式はxの内積を与える。
ここで行列HをSL(2,C)の変換aで
H′ =aHa† (6.231)
のように変換すれば、H′もまた明らかにエルミートであるので、4次元 ベクトルx′µをもちいて
H′ =∑
µ
x′µσµ (6.232)
と表すことができる。deta=1なので、detH′=detHである。従って、⟨x′, x′⟩=
⟨x, x⟩となる。従って、xからx′への変換 x′µ=∑
ν
Aµνxν (6.233)
はローレンツ変換であることが分かる。
ローレンツ変換AとSL(2,C)の行列aとの関係は Aµν = 1
2Tr(ρµaσνa†), ρµ= (σ0,−σ1,−σ2,−σ3) (6.234) で与えられる。実際、Tr(σµρν) = 2gµνであるから(6.232)、(6.233)より
∑
µ
gµκx′ν = 1 2
∑
ν
Tr(ρκaσνa†)xν (6.235) であることを示すことができる。これから(6.234)が成立することが分か る。特に、µ=ν = 0 とおくと
A00= 1
2Tr(aa†)≥1 (6.236)
が得られる。実際、M =aa†とおくと、MはエルミートでdetM=1であ るので、パウリ行列を用いて
M = m0σ0+m1σ1+m2σ2+m3σ3
= (
m0+m3 m1+im2
m1−im2 m0−m3
)
(6.237) となる。detM=1なので
m20−m21−m22−m23 = 1 (6.238) であり、それゆえTr(aa†) = 2m0 ≥2であることが分かる。従って、(6.233) のローレンツ変換は順時的である。さらに、(6.234)においてa→1なる 極限をとるとAµν → (1/2)Tr(ρµσν) = δνµとなるので、このローレンツ変 換はL(+)+ すなわち、固有ローレンツ群に属する。
∀a∈SL(2,C)ならば、−a∈SL(2,C)なので、あるローレンツ変換Aに は±a が対応している。従って、SL(2,C)から固有ローレンツ群L(+)+ へ の対応は2:1の準同型写像である。準同型定理により
SL(2,C)/Z2 ∼=L(+)+ (6.239)
SL(2,C)は固有ローレンツ群の普遍被覆群である。前者の部分群SU(2)と
後者の部分群SO(3)との間にも同様の関係
SU(2)/Z2 ∼= SO(3) (6.240)
が成立する。
SL(2,C)の変換aとして特に行列式が1のユニタリ行列をとると、(6.233) はSO(3)となる。実際、(6.234)においてaがユニタリ行列ならばa†=a−1 なので、ρ0= 1となり、A00 = 1, A0i =Ai0= 0。そこで、
∑3 µ=0
(σµ)ab(σµ)cd = 2δadδbc (6.241) から
∑3 µ=0
Aiµ(AT)µj =δji (6.242) が成立するので、Aijは直交行列である。detAは微小変換a= 1+i∑3
k=1ϵkσk
について調べれば十分である。このとき、
Aij = 1
2Tr(ρiaσja−1) =δij +σkϵijkϵk (6.243) となり、detA= 1が確かめれらる。