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ローレンツ群のリー代数

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 137-141)

第 5 章 ルートとウエイト 75

6.3 ローレンツ群

6.3.3 ローレンツ群のリー代数

ローレンツ群のリー代数を構成する行列M は(6.212)において微小変

A= 1 +Mを考えることにより得られる。すなわち、

MTg+gM = 0 (6.220)

この式は行列の16成分に10個の条件を与えるので、独立な成分の数は 6個のとある。そこで、(6.220)を満たすものとして次の6個の行列を選 ぼう。

M12=





0 0 0 0

0 0 1 0

0 1 0 0

0 0 0 0



, M23=





0 0 0 0

0 0 0 0

0 0 0 1

0 0 1 0



,

M31=





0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0



, M01=





0 1 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0



,

M02=





0 0 1 0 0 0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0



, M03=





0 0 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 0



, (6.221)

他の成分はMµν =−Mνµで定義される。ここで、M12, M23, M31は空間 の回転、M01, M02, M03は時空の回転の生成子である。後者の行列要素の 符号が前者と異なるのは、ミンコフスキー計量の符号の違いによる。

(6.220)を満たす任意の行列M は(6.221)のMµν を用いて次のように 表される。

M = 1 +1 2

µ,ν

ωµνMµν, ωµν =−ωνµ (6.222) {M12, M23, M31}は時間成分を無視すると3次元直交群O(3)のリー代数 となっていることが分かる。従って、O(3)群はO(3,1)群の部分群である。

Mij (i, j= 1,2,3)はi, j軸の張る平面内の回転の生成子となっている。

O(3,1)のリー代数Mµνは次の交換関係を満足する。

[Mµν, Mρσ] =gµρMνσ+gνσMµρ−gνρMµσ−gµσMνρ (6.223) この交換関係を見通しのよいものにするために、次のように時間部分を含 む生成子と含まない生成子に分ける。

M1 =−M23, M2 =−M31, M3=−M12

N1=M01, N2=M02, N3 =M03 (6.224)

これらを用いると、(6.223)は次のように書ける。

[Mi, Mj] =∑

k

ϵijkMk (6.225)

[Ni, Nj] =

k

ϵijkMk (6.226) [Mi, Nj] =∑

k

ϵijkNk (6.227)

(6.226)は直交する方向へ2つのローレンツ変換を行うことは空間の回転

に等価であることを示している。

ローレンツ群のリー代数(すなわち、O(3,1)群のリー代数)はSL(2,C) のリー代数に等しい。SL(2,C)は行列式が1の2行2列複素行列全体のな す群である。そのリー代数はトレースがゼロの22列複素行列であるの で、独立な成分の数は6個である。そのようなリー代数の元はパウリ行列 を用いて次のように構成できる。

M1=−i

2σ1, M2 =−i

2σ2, M3=−i 2σ3, N1 =1

2σ1, N2=1

2σ2, N3 =1

2σ3. (6.228) 実際、これらは(6.225)-(6.227)の交換関係を満足する。このようにロー レンツ群のリー代数とSL(2,C)のリー代数は同型であるからローレンツ

群とSL(2,C)の間には準同型対応がある。これを確かめるために、22

列のエルミート行列Hの全体を考える。Hの独立な行列成分の数は4 ので、パウリ行列を用いて次のように表せる。

H(x) =

3 µ=0

xµσµ=x0σ0−x1σ1−x2σ2−x3σ3 (6.229) ここで、σ0は2行2列の単位行列、σµ=∑

ngµνσνである。(6.229)によ りミンコフスキー空間のベクトルxµとエルミート行列Hの間に11 関係が成立する。また、

detH= (x0)2(x1)2(x2)2(x3)2:=⟨x, x⟩ (6.230) であることに注意しよう。Hの行列式はxの内積を与える。

ここで行列HSL(2,C)の変換a

H =aHa (6.231)

のように変換すれば、Hもまた明らかにエルミートであるので、4次元 ベクトルxµをもちいて

H =∑

µ

xµσµ (6.232)

と表すことができる。deta=1なので、detH=detHである。従って、⟨x, x=

⟨x, x⟩となる。従って、xからxへの変換 xµ=∑

ν

Aµνxν (6.233)

はローレンツ変換であることが分かる。

ローレンツ変換ASL(2,C)の行列aとの関係は Aµν = 1

2Tr(ρµνa), ρµ= (σ0,−σ1,−σ2,−σ3) (6.234) で与えられる。実際、Tr(σµρν) = 2gµνであるから(6.232)、(6.233)より

µ

gµκxν = 1 2

ν

Tr(ρκνa)xν (6.235) であることを示すことができる。これから(6.234)が成立することが分か る。特に、µ=ν = 0 とおくと

A00= 1

2Tr(aa)1 (6.236)

が得られる。実際、M =aaとおくと、MはエルミートでdetM=1であ るので、パウリ行列を用いて

M = m0σ0+m1σ1+m2σ2+m3σ3

= (

m0+m3 m1+im2

m1−im2 m0−m3

)

(6.237) となる。detM=1なので

m20−m21−m22−m23 = 1 (6.238) であり、それゆえTr(aa) = 2m0 2であることが分かる。従って、(6.233) のローレンツ変換は順時的である。さらに、(6.234)においてa→1なる 極限をとるとAµν (1/2)Tr(ρµσν) = δνµとなるので、このローレンツ変 換はL(+)+ すなわち、固有ローレンツ群に属する。

∀a∈SL(2,C)ならば、−a∈SL(2,C)なので、あるローレンツ変換Aに は±a が対応している。従って、SL(2,C)から固有ローレンツ群L(+)+ へ の対応は21の準同型写像である。準同型定理により

SL(2,C)/Z2 =L(+)+ (6.239)

SL(2,C)は固有ローレンツ群の普遍被覆群である。前者の部分群SU(2)

後者の部分群SO(3)との間にも同様の関係

SU(2)/Z2 = SO(3) (6.240)

が成立する。

SL(2,C)の変換aとして特に行列式が1のユニタリ行列をとると、(6.233) はSO(3)となる。実際、(6.234)においてaがユニタリ行列ならばa=a1 なので、ρ0= 1となり、A00 = 1, A0i =Ai0= 0。そこで、

3 µ=0

µ)abµ)cd = 2δadδbc (6.241) から

3 µ=0

Aiµ(AT)µj =δji (6.242) が成立するので、Aijは直交行列である。detAは微小変換a= 1+i∑3

k=1ϵkσk

について調べれば十分である。このとき、

Aij = 1

2Tr(ρija−1) =δij +σkϵijkϵk (6.243) となり、detA= 1が確かめれらる。

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