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熱力学への応用

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 177-183)

第 9 章 多様体上の積分 165

10.6 熱力学への応用

例として熱力学の例を考えよう。次の1-形式を考える。

ω=P dV +dE=:δQ (10.28)

ここで、P, V, Eはそれぞれ圧力、体積、内部エネルギーである。この量

は熱力学では熱量の変化に等しいのでδQと書いた。ただし、完全微分で はないのでdQではなく、δQと書いた。10.2節の結果からこの1-形式は 適当な積分因子を掛けることにより完全微分にすることができる。それを 1/T(E, V)と書くと

dS:= δQ T = P

TdV + 1

TdE (10.29)

T は絶対温度、Sはエントロピーである。(10.29)より

dE=T dS−P dV (10.30)

ES, V の関数とみなして両辺の外微分をとると、d(dE) = 0より

0 =dT ∧dS−dP ∧dV (10.31)

ここで、V, Sを独立変数とみなすと 0 = ∂T

∂V dV ∧dS−∂P

∂SdS∧dV (10.32)

よって

(∂T

∂V )

S

= (∂P

∂S )

V

(10.33) これはMaxwellの関係式である。同様にして、(10.31)でT, V を独立変 数とみなすと

0 =dT ∂S

∂VdV −∂P

∂TdT ∧dV (10.34)

よって

(∂S

∂V )

T

= (∂P

∂T )

V

(10.35) これもMaxwellの関係式である。これらを(10.3)と比較すると、Maxwell の関係式は(10.30)が積分可能であるための条件[(10.3)を見よ]となって いることが分かる。同様に、(10.29)の外微分ddS = 0をとると

1 T

(∂P

∂T )

V

dT ∧dV P

T2dT ∧dV 1

T2dT ∧dE= 0

これから次式が得られる。

T (∂P

∂T )

V

−P = (∂E

∂V )

T

(10.36) 熱力学ではP, V, T, Sのうち2つを独立変数ととる。そこで、T =T(P, S), S = S(T, P), P =P(T, S)と考えて外微分を変数変換していくと

dT ∧dS = (∂T

∂P )

S

dP ∧dS

= (∂T

∂P )

S

(∂S

∂T )

P

dP ∧dT

= (∂T

∂P )

S

(∂S

∂T )

P

(∂P

∂S )

T

dS∧dT (10.37) こうして

(∂T

∂P )

S

(∂S

∂T )

P

(∂P

∂S )

T

=−1 (10.38)

が得られる。

11 章 微分形式の応用

11.1 ホッジスター演算子

ホッジ(Hodge)スター演算子1は、n次元空間のk-形式から(n−k)-形 式を作る演算子である。n次元空間のk-形式はnCk個の基底から構成さ れ、(n−k)-形式はnCnk個の基底から構成されるので、基底の個数が等 しく11対応が成立する。n次元空間のk-形式

ω=dxi1∧dxi2∧ · · · ∧dxik (11.1) に対して、ホッジスター演算子∗ωは次の等式が満足されるように定義さ れる。

ω∧ ∗ω =dx1∧dx2∧ · · · ∧dxn (11.2)

11.1.1 3次元空間

具体例として、まず、3次元空間(n= 3)の場合を考えよう。このとき、

(11.2)を満足するようにスター演算子を求めると次のようになることがわ

かる。

1 =dx1∧dx2∧dx3, ∗dx1 =dx2∧dx3,

∗dx2=−dx1∧dx3, ∗dx3 =dx1∧dx2 (11.3)

(dx1∧dx2) =dx3, (dx1∧dx3) =−dx2,

∗(dx2∧dx3) =dx1 (11.4)

(dx1∧dx2∧dx3) = 1 (11.5) このうち、最初と最後の関係式は左辺が右辺で定義されているとみなして もよい。これらは次のようにまとめることができる。

∗dxi= 1

2ϵijkdxj∧dkk (11.6)

(dxi∧dxj) =ϵijkdxk (11.7)

1Sir William Vallance Douglas Hodge, 1903-1975.

(11.6)にϵilmを掛けて公式

ϵijkϵilm =δjlδkm−δjmδkl (11.8) を用いると

dxi∧dxj =ϵijk∗dxk (11.9) が得られる。また、(11.7)の両辺にϵijlを掛けて同様の計算をすると

dxi= 1

2ϵijk(dxj∧dxk) (11.10) が得られる。特に、

(dxi∧dxj∧dxk) =ϵijk (11.11) であることに注意しよう。また、3次元の場合はk-形式ω(0≤k≤3) 対して

∗ ∗ω=ω (11.12)

が成立することは上記の結果から確かめることができる2dxiの具体的 な表式を考える際には注意が必要である。3次元直交座標(x, y, z)の場合dx1 =dx, dx2 = dy, dx3 = dzであるが、極座標(r, θ, ϕ)の場合は、

dx1 = dr, dx2 =rdθ, dx3 = rsinθdϕととらなければならない。実際、

このように取ることで、微小ベクトルが各座標表示における正規直交単位 ベクトルを用いて統一的な形に書くことができる。

dr = exdx+eydy+ezdz=erdr+eθrdθ+eϕrsinθdϕ

=

3 i=1

eidxi

同様に、円筒座標の場合はdx1 =dr, dx2 =rdθ, dx3 =dzである。

具体例としてまず、0-形式(スカラー場)fを考える。df =if dxiなの で(11.6)より

∗df =if ∗dxi =if1

2ϵijkdxj∧dxk (11.13) が得られる。両辺の外微分をとると

d∗df =lif1

2ϵijkdxl∧dxj∧dxk (11.14)

2一般のn次元のk-形式ωについては∗ ∗ω= (−1)(nk)kωが成立する。たとえば、

n= 2の場合は、dx1=dx2,dx2=dx1なので∗ ∗dx1=dx1となる。

ここで、dxl∧dxj∧dxk=ϵljkdx1∧dx2∧dx3を使い、更に、ϵijkϵljk = 2δil を用いると

d∗df =i2f dx1∧dx2∧dx3 (11.15) であることが分かる(dd= 0であるが、d∗d̸= 0であることに注意せよ) 両辺のホッジスターをとり、(11.5)を用いると

∗d∗df =2if = ∆f (11.16) であることが分かる。このように、スカラー関数に作用するラプラシアン (Laplacian) ∆ =2はホッジスター演算子を用いて表すことができる。

次に1-形式を考えよう。

ω=ωidxi (11.17)

を考えよう。この外微分は

= (∂iωj)dxi∧dxj (11.18) であるが、右辺に(11.9)を代入すると

=ϵijk(∂iωj)∗dxk= (rot⃗ω)k∗dxk (11.19) が得られる。ここで、⃗ω:= (ω1, ω2, ω3)である。(11.19)の両辺に*を演算 して(11.12)を用いると

∗dω=ϵijk(∂iωj)∗ ∗dxk=ϵijk(∂iωj)dxk= (rot⃗ω)kdxk (11.20) が得られる。この両辺の外微分をとると

d∗dω=ϵijk(∂liωj)dxl∧dxk (11.21) 両辺に*を作用させて(11.7)を用いると

∗d∗dω = ϵijk(∂liωj)(dxl∧dxk)

= ϵijk(∂liωjlkmdxm

= (∂ijωj−∂j2ωi)dxi

= (graddiv⃗ω−∆⃗ω)idxi

= (rotrot⃗ω)idxi (11.22) を得る。最後の等式は1-形式の外微分が回転であることを用いた。

一方で、(11.17)と双対の関係にある微分形式は

∗ω=ωi∗dxi = 1

2ϵijkωidxj ∧dxk (11.23) 両辺の外微分をとると

d∗ω = 1

2ϵijk(∂lωi)dxj ∧dxk∧dxl

= div⃗ω dx1∧dx2∧dx3 (11.24) 両辺に*を作用させて(11.11)を用いると

∗d∗ω =iωi = div⃗ω (11.25) が得られる。この両辺の外微分をとると

d∗d∗ω = (graddiv⃗ω)idxi (11.26) が得られる。これを(11.22)と組み合わせると、1-形式に対するラプラシ アンの公式

∆ω=d∗d∗ω− ∗d∗dω (11.27) が得られる。

11.1.2 4次元空間

次に、4次元(n= 4)の場合を考えよう。

1 =dx1∧dx2∧dx3∧dx4

∗dx1 =dx2∧dx3∧dx4, ∗dx2 =−dx1∧dx3∧dx4

∗dx3 =dx1∧dx2∧dx4∗dx4 =−dx1∧dx2∧dx3 (11.28)

(dx1∧dx2) =dx3∧dx4

(dx1∧dx3) =−dx2∧dx4, etc. (11.29)

(dx1∧dx2∧dx3) =dx4, (dx1∧dx2∧dx4) =−dx3(11.30)

(dx1∧dx2∧dx3∧dx4) = 1 (11.31) また、4次元の場合はk-形式ωに対して

∗ ∗ω= (1)kω (11.32)

が成立することは上記の結果から確かめることができる3

3一般にn次元空間のk-形式については∗ ∗ω= (1)k(n−k)ωが成立する。

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