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ガウスの定理

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 168-172)

第 9 章 多様体上の積分 165

9.4 ガウスの定理

2-形式と3-形式を結び付ける積分定理が次のガウスの定理(Gauss’s the-orem)である。

Theorem 27 (ガウスの定理) 空間内の開集合D上で定義されたC2 の2-形式ω2Dに含まれるC3級の体積V に対して

∫∫

∂V

ω2=

∫∫∫

V

2 (9.18)

が成立する。ここで、∂V V の表面であり、向きはV の外側である。

(9.18)をベクトル⃗ω2 := (ωyz, ωzx, ωxy)を使って書くと、2-形式の外微分 が発散であることからベクトル解析におけるガウスの公式

∫∫

∂V

ω2·d ⃗S=

∫∫∫

V

div⃗ω2dV (9.19)

が得られる。特に、ω2 = (x, y, z) =:⃗rと置くと右辺は体積V の3倍にな るので次の公式を得る。

V = 1 3

∫∫

∂V

r·d ⃗S (9.20)

任意の2つの関数f, gに対して成立する関係式

f∆g−g∆f = div(fgradg−ggradf) (9.21)

にガウスの定理を適用すると

∫∫∫

V

(f∆g−g∆f)dV =

∫∫

∂V

(fgradg−ggradf)·d ⃗S

=

∫∫

∂V

( f∂g

∂n−g∂f

∂n )

dS (9.22) が得られる。ここで、∂g/∂nは面積要素dSの法線方向の微分を表して いる。

10 章 閉形式と完全形式

10.1 ポアンカレの補題

ある微分形式ω = 0を満足する時、ωは閉形式(closed form)と 呼ばれる。他方、ω =を満たす1価の微分形式αが存在する時1ω 完全形式(exact form)あるいは完全微分(exact differential)と呼ばれる。

(7.27)ωが完全形式である時、それは閉形式でもあることを示してい

る。すなわち、φ=ならば=d(dα) = 0が成立する。

では、逆は成立するだろうか。すなわち、= 0である場合にφ= なるαは存在するか。そのようなαは、局所的には存在することが言え る。ただ、αが解の時には、α+も解になるので解の一意性は保証さ れない。しかも、そのような解が与えられた領域全体にわたって存在する とは限らない。例えば、rotA= 0であるからといってA = gradαなる 1価関数αが必ずしも存在しない。これから、ある領域に磁場が存在しな いからといってベクトルポテンシャルが空間の全領域にわたって1価関数 であるとは限らないと結論できる。アハラノフ–ボーム効果はこの数学的 事実の物理的帰結である。

逆が成立するための条件としては、次のポアンカレの補題(Poincar´e’s lemma)が重要である。

Theorem 28 (ポアンカレの補題) 多様体M1点に連続的に収縮可能 ならば2、開集合U ⊂M上のすべての閉形式は完全微分である。

= 0ならば局所的にはω =なるαは存在しうるが、ωが完全微分 であるためには、そのような1価関数αが大域的に、すなわち、多様体 全体で存在する必要がある。ポアンカレの補題はそのための条件を示して いる。

与えられた微分形式が完全微分であるための条件を具体的に考察しよ う。物理学の観点からは、完全微分が存在することの意義は、履歴に依ら ない場所だけの関数であるポテンシャルが導入できることにある。微分形 式は多様体の局所的性質、その積分系は大域的性質を表している。物理で

11価性が必要な具体例は10.4節で示される。

2たとえば、n次元の球体はこの条件を満たすが、トーラスはこの条件を満足しない。

はマックスウェル方程式でdivB = 0からB = rotAをしばしば結論す るが、前者が局所的性質、後者は大域的性質に関するものである。実は、

与えられたBに対してB= rotAを満足するAはゲージ変換の自由度の 範囲内でしか決まらないのである。以下ではこのような関係に関する数学 的条件を具体例に基づいて調べよう。

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