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ポアンカレ群

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 146-154)

第 5 章 ルートとウエイト 75

6.3 ローレンツ群

6.3.6 ポアンカレ群

ローレンツ群のリー代数を微分演算子で表現すると

Mµν =xνµ−xµν (6.282) と書ける。これはローレンツ群のリー代数が満たすべき関係式(6.223)を 満足することが分かる。特に、Mµν の空間成分は空間回転の生成子であ る角運動量演算子

M23= i

Lx, M31= i

Ly, M12= i

Lz (6.283)

を与える。また、

[Mµν, Pρ] =gµρPν−gνρPµ (6.284) このようにして、ポアンカレ群のリー代数は{Mµν, Pµ}で与えられる。

ポアンカレ群の表現はカシミア演算子の固有値によって分類される。カ シミア演算子とはリー代数のすべての生成元と可換な演算子である。その 一つは

P2=

3 µ=0

PµPµ (6.285)

P2の固有値p2によって、ポアンカレ群の既約表現は次の4種類に分類で きる。

クラスI: pµ= 0 Gp =L(+)+

クラスII:p2>0(時間的) Gp=SO(3)

クラスIII: p2 = 0 (光的) Gp =E2

クラスIV:p2 <0 (空間的)Gp=SO(2,1)

クラスIではpµ= 0であるから並進群に関しては恒等表現になっており、

ポアンカレ群は固有ローレンツ変換に帰着する。pµ ̸= 0の場合を考える ためにもう一つのカシミア演算子を導入する。まず、

Wµ=1 2

νρσ

ϵµνρσPνMρσ (6.286) はPν と可換であり、

W2:=

3 µ=0

WµWµ (6.287)

はすべての生成元と可換なカシミア演算子である。ここで、ϵµνρσは4 元の完全反対称テンソルである。WµPνと可換なので、WµPνの固 有値pνを不変に保つ変換の生成元であり、小群のリー代数となっている。

Wµは次の交換関係を満足する。

[Wµ, Wν] =

ρ,σ

ϵµνρσPρWσ,[Wµ, Pµ] = 0,

[Wµ, Mρσ] =gµσWρ−gµρWσ (6.288) クラスIIではミンコフスキー空間の座標を適当に選ぶことによってpµ= (m,0,0,0)とできるので、このとき(6.286)より

W0 = 0, W1 =mM23, W2=mM31, W3 =mM12 (6.289) が得られる。Wi/m(i= 1,2,3)SO(3)のリー代数を与えるので、クラ スIIの小群はSO(3)である。また、W2の固有値はW2 =−m2j(j+ 1) (j = 0,1/2,1,3/2,· · ·) となり、クラスIIの既約表現は(j, m)で指定さ れる。

クラスIIIではpµ = (m,0,0, m)として一般性を失わない。この場合、

(6.286)より

W0 =−W3=−mM12, W1 =m(M23−M20), W2 =m(M13−M(6.290)01) が得られる。Wi/m=Si (i= 1,2,3)と定義すると、これらは次の交換関 係に従う。

[S1, S2] = 0, [S2, S3] =−S1, [S3, S1] =−S2 (6.291) これらの交換関係を満足する微分演算子による表示は

S1 =

∂x, S2 =

∂y, S3 =x

∂y −y

∂x (6.292)

これはx−y平面内の平行移動と回転の生成元である。従って、(6.290) は2次元面内の平行移動と回転の作る群E2のリー代数であることがわか る。こうしてクラスIIIの小群はE2であることが分かった。

クラスIVの場合は、pµ= (0,0,0, m)と選ぶことができるので、(6.286) より

W0 =−mM12, W1 =−mM20, W2 =−mM01, W3= 0 (6.293) となるので、Wi/m(i= 0,1,2)SO(2,1)のリー代数である。したがっ て、クラスIVの小群はSO(2,1)である。

II

微分形式とその応用

多様体上での積分を考えるとき、その被積分関数に相当するものが微分 形式である。多様体の次元がnの時はn次(あるいはそれ以下の次数の) 微分形式がそれに相当する。微分形式はまた、多様体の曲りの度合いや位 相幾何学的性質を調べるde Rhamコホモロジーの基礎となる重要なもの である。

物理学における、微分形式の応用範囲は広い。力学、熱力学、電磁気学、

一般相対論を含む物理のあらゆる分野で使われる。その理由は、微分形式 が座標系のとり方に依らない微分可能多様体の不変な記述を可能にするか らである。微分可能多様体を物理系とみなせば、物理法則が座標系の取り 方に依らないという特殊および一般相対性原理やゲージ原理の思想にぴっ たりと合致した数学形式であることが納得できよう。数学的な観点から言 えば、そのような一般的記述は de Rham コホモロジー群、微分幾何学、

ファイバー束、特性類などによって可能になるのであるが、これらは「物 理数学III」の範疇を超えるのでここでは述べない。ここでは、微分形式 の使い方に慣れる観点から必要最小限の記述と、そのベクトル解析やマッ クスウェル理論への応用について述べる。

7 章 微分形式とは

7.1 接空間と余接空間

4.3節で学んだようにn次元多様体Mの点p∈Mの座標(x1, x2,· · · , xn) に対して、共変ベクトル(covariant vector)1

eµ:=

∂xµ (µ= 1,2,· · ·, n) (7.1) で張られる空間を接空間(tangent space)といい、Tp(M)と書く。基底ベ クトル{ei}を用いて任意のベクトルがa=aieiと展開できるのと同様に、

接空間のベクトルX∈Tp(M)は

X=Xµeµ (7.2)

と展開できる。ここで、繰り返し現れる添え字についてはµ= 1,2,· · ·, n について和をとるものと約束する。Xµは接ベクトルXの成分である。

線形ベクトル空間に内積を導入することで、距離や面積が定義できる。

簡単な例として、上記のベクトルa=aiei ともう一つのベクトルb=biei

の内積は、

a,b:=aibjei,ej (7.3) と定義される。ここで、ei,ej=eTi ·ejである(Tは転置)。基底{ei} 張られるベクトル空間に対して、基底{eTi }で張られるベクトル空間を双 対ベクトル空間(dual vector space)という。特に、正規直交基底をとると

ei,ej=δij (7.4)

となる。

これと同様に、接空間と双対な空間を余接空間(cotangent space)とい い、記号Tp(M)で表す。接空間の基底が共変ベクトルであったので、余

1ベクトル空間で基底のスケール(単位)を変換したとき、それと同じようにふるまう ベクトルを共変ベクトル、逆数のようにふるまうベクトルを反変ベクトルという。たとえ ば、長さの場合に、基底の単位を1mから1cm1/100に変更すると、座標の値は100 倍になるので反変ベクトル、勾配∂/∂xの値は1/100になるので共変ベクトルである。

接空間の基底は反変ベクトル(contravariant vector) (dx1,· · · , dxn)であ る。そこで、

eµ:=dxµ (7.5)

とおくと、余接空間のベクトルω∈Tp(M)は

ω=ωµeµ (7.6)

と展開できる。{eµ}{eµ}の双対基底(dual basis)と呼ばれ、(7.4)と同 様の正規直交条件

⟨eµ, eν=δµν (7.7)

を満たすものと仮定される。この時、Xωの内積は

⟨ω, X⟩=ωµXµ (7.8)

で与えられる。

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