第 5 章 ルートとウエイト 75
5.4 ディンキン図
となりγ = 0と矛盾する。従って、単純ルートは互いに線形独立である。
このことから、任意の正のルートは単純ルートに非負の整数をかけた線形 結合
ϕ=∑
α
nαα, nα≥0 (5.67)
で表される。
単純ルートは互いに線形独立なだけではなく、完全である。従って、単 純ルートの数は代数のランク、すなわち、カルタン部分代数の生成子の数 に等しい。実際、もしそうでないとするとすべての単純ルートαと直交 するベクトルχが存在しなければならない:
∀α に対して [χaHa, Eα] = 0 (5.68) ところが、χaHaは他のカルタン部分代数の生成子とも交換するので、そ れは代数のすべての生成子と交換してしまい、半単純であることに矛盾す る。こうして、全代数が単純ルートから構成されることが分かる。
例としてSU(3)を考えよう3。(5.58)からSU(3)の場合は、2つの単純 ルートα, βは長さが等しく、互いの角度は2π/3である。ルートの長さを 1に規格化すると、
(α)2 = (β)2= 1, (α, β) =−1
2 (5.69)
これから、SU(3)の2つの単純ルートは α= (1/2,√
3/2), β = (1/2,−√
3/2) (5.70)
で与えられることが分かる。α+βはルートであるが、2α+βやα+ 2β はルートではない(図5.5参照)。
H1 H2
s sh s
s s
s s
A AA A AAU
AA AAU simple α
simple β
α+β
図 5.5: SU(3)の2つの単純ルートと他のルート。y軸の右側のルートは 正、左側のルートは負である。正のルートは昇演算子、負のルートは降演 算子に対応している。α+βはルートであるが、2α+βやα+ 2βはルー トではない。
j⟩ j5π/6 - G2
j⟩ j3π/4 - SO(5) j j2π/3 - SU(3)
j jπ/2
図5.6: ランク2の単純リー代数のディンキン図。
単純リー代数は単純ルートを与えることによって一意に決定される。一 方、単純ルートは、その長さとルート間の角度を与えることによって決ま る。あるいは、次のカルタン行列(Cartan matrix)を与えることによって 決まる。
Cαβ = 2(α, β)
(β, β) (5.72)
カルタン行列(5.72)の対角成分は明らかにCαα= 2、非対角成分は(5.56), (5.57)より
Cαβ =−n2, Cβα=−n1 (5.73)
これから非対角成分は0,−1,−2,−3しかとれないことが分かる。
リー群 θαβ cos2θαβ n1 n2 Cαβ Cβα カルタン行列 SU(3) 2π/3 14 1 1 −1 −1
(
2 −1
−1 2 )
SO(5) 3π/4 24 1 2 −2 −1 (
2 −2
−1 2 )
G2 5π/6 34 1 3 −3 −1
(
2 −3
−1 2 )
一般にランクrのコンパクト単純リー代数の単純ルート系にはr個の丸 印をつないだ図形が1:1に対応する。従って、コンパクト単純リー代数の 分類はあらゆる可能なディンキン図を書き下すことに帰着する。その結果 を下の表に示す。
ルートの内積が正定値(α, α)≥0および∑
i(α,ei)2 ≤(α, α)より、ディ ンキン図は次の性質を有する(証明は斎藤光 p.255)。
(i) 閉じた図形はない。
(ii)一つの図形の中に3つ以上の2重線、2つ以上の3重線は存在しない。
(iii) 一つの丸印につながる線分は高々3本である。
コンパクト単純リー代数の分類
クラス ランクr リー代数の次元d コンパクト群 Ar 1,2,3,· · · (r+ 1)2−1 SU(r+ 1) Br 1,2,3,· · · r(2r+ 1) SO(2r+ 1) Cr 1,2,3,· · · r(2r+ 1) Sp(2r,R) Dr 3,4,5,· · · r(2r−1) SO(2r)
Er 6 78 E6
Er 7 133 E7
Er 8 248 E8
F4 4 52 F4
G2 2 14 G2
この表からわかるように、ランクがr= 1,2,3の時は、異なるクラスの ディンキン図が同一のディンキン図を与える場合がある。この場合、異な るクラスのリー代数は同型であり、対応する群は準同型である。従って、
準同型定理により不変部分群(中心)に関する商群の間に同型関係が成立 する。
A1 =B1=C1 : SU(2)/Z2 ∼=SO(3)∼=Sp(2,R)/Z2 (5.74) B2 =C2: SO(5)∼=Sp(4,R)/Z2 (5.75) A3 =D3 : SU(4)/Z2 ∼=SO(6) (5.76) コンパクト群の中心は以下のように一般に巡回群Znである。
SU(n) : Zn (5.77)
SO(2n), Sp(2n,R) : Z2 (5.78)
E6 : Z3 (5.79)
E7 : Z2 (5.80)
上の表のその他の群の中心は1である。