• 検索結果がありません。

具体例ー対称群 S 3

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 37-41)

第 2 章 表現論 19

2.9 具体例ー対称群 S 3

2.9.1 既約表現

3次の対称群S3は3! = 6個の元からなり、それらは(1.5)に与えられて いる。群表1.1からわかるように、S3 の元の積は一般には交換しないの で、非アーベル群である。 それゆえ、既約表現は2次元以上であり、表 現行列のすべてを同時に対角化することはできない(それができると、1 次元表現になってしまう)。S3のユニタリ表現は次のように与えられる。

D(e) = (

1 0 0 1

)

, D(a1) =

( 12 23

3 2 12

)

, D(a2) =

( 12 23

23 12 )

,

D(a3) =

( 1 0 0 1

)

, D(a4) = ( 1

2

3

2 3 2 12

)

, D(a5) = ( 1

2 23

23 12 )

. (2.69) これらが群表1.1を満足することは直接計算で確かめることができる。こ

れは、原点を中心とする正三角形の頂点を置換する合同変換に対応して いる。

2.9.2 指標

指標(character)は表現のトレースなので、(2.69)のように表現が具 体的に求められるとそこから指標を直ちに計算することはできる。しか し、指標の直交性条件などを用いることで、表現に頼らずに指標を計算す ることもできる。ここではそれについて議論する。まず、S3の同値類が {e},{a1, a2},{a3, a4, a5}で与えられることを思い出そう。自明な1次元 表現D0は、群のすべての元に対してD0(g) = 1なるものである。この場 合、指標は明らかにχ0(g) = 1である。表現の次元に対する関係式(2.45)

an2a=N を用いると、このほかに非自明な1次元表現が1個、2次元 表現が1個存在することが分かる(12+ 12+ 22= 6)。

非自明な1次元表現D1H ={e, a1, a2} S3の不変部分群であり、

因子群 S3/H Z2であることを利用して求めることができる。すなわ ち、x2 = 1より1次元表現はx = 1,1である。この場合、自明な表現 はHに対しては1、残りの {a3, a4, a5}に対しては -1を割り当てること ができる。(実際、 a23 =a24=a25 = 1である。) 従って、求める指数は前 者に対しては χ1(e) = 1、後者に対してはχ1(a3) =1である。2次元表

D2については、D2(e)22列の単位行列なのでχ2(e) = 2である。

他の値は、χ2(a1) =x, χ2(a3) =yとおくと、規格直交条件(2.56)より自 明な1次元表現との直交性より2 + 2x+ 3y= 0 (a1a3の同値類に属す る元の個数がそれぞれ2,3であることに注意)、非自明な1次元表現との 直交性より2 + 2x3y= 0。よって、x=−1, y = 0が得られる。すなわ ち、χ2(a1) =1, χ2(a3) = 0である。この結果は、(2.69)から直接確か めることができる。結果を表2.2にまとめる。

表2.2: 対称群 S3 の指標を1, 2, 3, 6 の各次元の場合について示した。1 次元は自明な表現 D0 と非自明な表現 D1 の2種類が存在する。3次元 表現D3については節2.9.3を参照。6次元表現は、D2D3のテンソル 積表現で与えられ、その指標はそれぞれの指標の積で与えられる((2.66) 参照)

PPPPPP PPPP 次元

同値類 {e} {a1, a2} {a3, a4, a5}

1 (D0) 1 1 1

1 (D1) 1 1 -1

2 (D2) 2 -1 0

3 (D3) 3 0 1

6 (D2⊗D3) 6 0 0

2.9.3 正則表現

S3の置換表現は3次元であり、(2.15)と同様にして次のように与えら れる。

D3(e) =



1 0 0 0 1 0 0 0 1

, D3(a1) =



0 0 1 1 0 0 0 1 0

,

D3(a2) =



0 1 0 0 0 1 1 0 0

, D3(a3) =



0 1 0 1 0 0 0 0 1

,

D3(a4) =



1 0 0 0 0 1 0 1 0

, D3(a5) =



0 0 1 0 1 0 1 0 0

. (2.70)

これらから表2,2の指標が得られる。これに公式(2.64)を当てはめると、

既約表現への射影演算子が得られる

P0 = 1 6

D3(e) +

5 j=1

D3(aj)

= 1 3



1 1 1 1 1 1 1 1 1

 (2.71)

P1 = 1 6

D3(e) +

2 j=1

D3(aj)

5 j=3

D(aj)

= 0 (2.72)

P2 = 2 6

2D3(e)

2 j=1

D3(aj)

= 1 3



2 1 1

1 2 1

1 1 2

 (2.73)

これから P0 が不変部分空間 (|1+|2+|3)/

3 への射影演算子である ことが分かる。他方、P2 は基底ベクトルの対によって張られる2次元部 分空間への射影演算子である(P2により生成される部分空間の次元が2で あることに注意)。こうして、D3は既約表現の直和に分解される。

D3=D0⊕D2 (2.74)

2.9.4 ヤング図

対称群S3 は3つの同値類を持つ: {e}, {a1, a2}, {a3, a4, a5}{e}に対 するヤング図は

□□□

で与えられる。これに対する要素の数は 3!/3! = 1 である。2番目の類 {a1, a2}に属する元は、3-サイクルの巡回置換(a31 =a32 = e、(1.5)をみ よ)であり、対応するヤング図は

□□

で与えられ、元の数は確かに 3!/3 = 2 である。3番目の類 {a3, a4, a5} は2-サイクルの巡回置換(a23=a24 =a25=e)と1-サイクルの巡回置換(恒 等置換)からなり、対応するヤング図は

□□□

で与えられる。元の数は確かに3!/2 = 3個である。

前節2.8で述べたように、ヤング図

□□□

は完全対称な状態であり、従って自明な表現に対応する1次元部分空間に 対応している。これに対してヤング図

□□

は完全反対称の状態であり、従ってやはり1次元部分空間に対応してい る。この場合、2つの要素の置換に対して符号を変えるので、この1次元 表現には指標 -1が与えられる。ヤング図

□□□

は同じ行に属する数字については対称化、同じ列に属する数字については 反対称化されるので、次のような状態に対応している。

1 2

3 → |123+|213⟩ − |321⟩ − |231; 3 2

1 → |321+|231⟩ − |123⟩ − |213; 2 3

1 → |231+|321⟩ − |132⟩ − |312; 1 3

2 → |132⟩+|312⟩ − |231⟩ − |321⟩;

3 1

2 → |312+|132⟩ − |213⟩ − |123; 2 1

3 → |213+|123⟩ − |312⟩ − |132.

2, 4, 6個目の状態は1, 3, 5個目の状態を1倍することで得られ、また

1, 3, 5個目の状態を足し合わせると消えることが分かる。これはこれら

の状態の張る部分空間が2次元であることを意味している。これらの状態 はS3の2次元の既約表現として変換される。実際、このYoung 図のフッ ク因子は3なので、既約表現の次元は

3!

3 = 2 (2.75)

であることがわかる。

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 37-41)