第 5 章 ルートとウエイト 75
6.1 ユニタリ群
6.1.1 SU(2)
SU(2)は2行2列の特殊ユニタリ行列の全体{U;U†U =U U†= 1,detU = 1} の作る群である。U のユニタリ性よりU = exp(iX)と書くとXはエ ルミート行列で、detU = 1 より TrX= 0 である。従って、Xの独立な パラメータの数は8−4−1 = 3である1。
SU(2)群のリー代数su(2)は最も単純なコンパクトリー代数であり、そ
の生成子Jj (j = 1,2,3)は交換関係
[Jj, Jk] =iϵjklJl, j, k, l= 1,2,3 (6.1) を満足する。ここで、ϵjkl はランク3の完全反対称テンソル(completely antisymmetric tensor of rank three) である。(6.1)から、su(2)の構造定 数はfjkl=ϵjkl であり、カルタン計量は(3.49)より
gij =ϵimnϵjnm=ϵnimϵnmj (6.2) ここで公式
ϵnabϵncd =δacδbd−δadδbc (6.3)
1一般に、SU(n)の独立なパラメータの数がn2−1であることを思い出そう。
を使うと
gij =δimδmj−δijδmm =−2δij (6.4) が得られる(δmm = 3に注意せよ)。ここで、
ˆ
gij :=−gij = 2δij (6.5)
を定義する。ˆgij の逆行列は ˆ gij = 1
2δij (6.6)
で与えられる。これを用いてルートの添え字の上げ下げが行われる。
交換関係(6.1)から、可換なリー代数の元は自分自身しかないので、SU(2)
のランクは1である。カルタン部分代数としてH3 =J3を選ぶと(3.65) より
{ad(J3)}ij =−iϵ3ij =
0 −i 0 i 0 0
0 0 0
(6.7)
この行列のゼロでない固有値はα=±1であり、ルートは図6.1のように 1次元である。固有値α=±1に対応する固有ベクトルは
s -s
図 6.1: SU(2)のルート図 v±= 1
2(1,±i,0)T (6.8)
であり、それゆえ固有ベクトルの昇降演算子は E+= (v+)iJi= 1
2(J1+iJ2), E−=E†+= 1
2(J1−iJ2) (6.9) で与えられ、交換関係
[H3, E±] =±E±,[E+, E−] = 1
2H3 (6.10)
を満たす 2。これはSO(3)のリー代数の交換関係(5.32)と同じ形をして いるので、SU(2)とSO(3)のリー代数は同型である。このことは、SU(2)
2物理ではJ±= 2E±,J3=H3 を用いる場合が多い(J±=√
2E±を採用している教 科書もある)。このとき、交換関係は
[J3, J±] =±J±,[J+, J−] = 2J3
となる。
とSO(3)の単位元付近の構造が同一であることを意味している。すなわ ち、SU(2)とSO(3)は局所同型(locally isomorphic)である。しかし、群 全体の構造は異なっており、SU(2)はSO(3)の普遍被覆群となっている。
ルートおよびウエイトは共に1次元ベクトルであり、カルタン計量(6.6) を考えるとα1 = 1, α1 = 1/2,(α, α) =α1α1= 1/2である。
SU(2)の既約表現Nは最高ウエイトj=jαによって決まる。jのワイ ル鏡映
j′ =j−2(α,j)
(α, α)α=j−2j(α, α)
(α, α)α=j−2jα=−j (6.11) が最低ウエイトである。
ウエイトµの固有ベクトルを|µ,N⟩とすると(5.88)より
E−|µ,N⟩=N−1,µ|µ−1,N⟩ (6.12) ここで(5.90)より
N−1,µ=N1,µ∗ −1 (6.13) 右辺の値は(5.93)でk=−1とおき、(α, α) = 1/2を代入することで得ら れる。すなわち、
|N−1,µ|2 =|N1,µ−1|2 = 1
4m(n+ 1) (6.14)
ここで、m, nはウエイトシリーズ(5.92)の下限と上限を与える非負の整 数である。N−1,µ =:Nµ とおき、J−= 2E−を用いると
J−|µ,N⟩= 2Nµ|µ−1,N⟩ (6.15) となる。
ウエイトのシリーズ(5.92)で最高ウエイトと最低ウエイトをそれぞれj,
−jに等しいと置く。ウエイトが1次元であることに注目すると、ベクトル は数に置き換えてもよいので(αを単位として考える)、µ+n=j, µ−m=
−j。これからm=j+µ, n=j−µ。これらを(6.14)に代入すると J−|µ,N⟩= 2Nµ|µ−1,N⟩
|Nµ|2= 1
4(j+µ)(j−µ+ 1) (µ=j, j−1,· · ·,−j) (6.16) 最高ウエイトの既約表現の次元Nは、ウエイトシリーズ(5.92)のベクト ルの数に一致するので
N =m+n+ 1 = 2j+ 1 (6.17)
で与えられる。m, n= 0,1,· · · なので j= 0,1
2,1,3
2,· · · (6.18)
である。
既約表現のディンキン・インデックスは(5.98)から m= 2(α,j)
(α, α) = 2j (6.19)
で与えられる(ウエイトがα方向の1次元なので)。基本表現はm = 1 とおくことによって得られるので、j = 1/2の表現ρ1/2が基本表現であ る。他の任意の既約表現は、基本表現の直積表現として与えられる。それ ゆえ、角運動量jの状態は、スピン1/2の状態の2j個の直積状態(スピ ン1/2を2j個合成した状態)として与えられることがわかる。
スピン1/2の直積表現の既約分解
スピン1/2を記述するパウリ行列 σ1 =
( 0 1 1 0
) , σ2 =
( 0 −i i 0
) , σ3 =
( 1 0 0 −1
)
(6.20) を導入する。カルタン部分代数をH3 =σ3/2ととった時、基底ベクトルは
1 2,2
⟩
=:α= (
1 0
)
, − 1 2,2
⟩
:=β= (
0 1
)
(6.21) で与えられる。
直積表現ρ(1)1/2⊗ρ(2)1/2の表現空間の基底ベクトルのうち最高ウエイトj = 1 の固有ベクトルは|1,3⟩ = α(1)α(2)である。ここで、α(1), α(2)はともに (6.21)のαで与えられる。このとき、(6.16)より
J−|1,3⟩=√
2|0,3⟩ (6.22)
である。また、(5.103)より
J−(α(1)α(2)) = (J−α(1))α(2)+α(1)(J−α(2))
= β(1)α(2)+α(1)β(2) (6.23) が得られる(ここではj=µ= 1/2であることに注意)。これを(6.22)と 比較すると
|0,3⟩= 1
√2(α(1)β(2)+α(2)β(1)) (6.24)
であることが分かる。両辺に再びJ−を作用させると J−|0,3⟩=√
2| −1,3⟩, J− 1
√2(α(1)β(2)+α(2)β(1)) =√
2β(1)β(2) となるので
| −1,3⟩=β(1)β(2) (6.25) が得られる。他方、(6.24)はそれと直交する固有ベクトルが存在し
|0,1⟩= 1
√2(α(1)β(2)−α(2)β(1)) (6.26) で与えられる。こうして、2つの既約表現の直積表現を既約表現の直和に 分解できた。これを次のように書こう。
2⊗2=3⊕1 (6.27)
クレプシュ−ゴルダン係数
一般に、最高ウエイトがj1とj2 の2つの既約表現の直積表現は、次の ような既約表現の直和に分解できる。
|µ1,2j1+1⟩|µ2,2j2+1⟩ =
j∑1+j2
J=|j1−j2|
⟨µ1+µ2;J|µ1, j1;µ2, j2⟩
×|µ1+µ2,2J+1⟩ (6.28) ここで係数⟨µ1+µ2;J|µ1, j1;µ2, j2⟩をクレブシュ−ゴルダン係数
(Clebsch-Gordan coefficient)という。このように、クレブシュ−ゴルダン係数は直
積表現を既約表現の直和に分解する際の係数として現れる。
クレブシュ−ゴルダン係数は対称直交行列である。すなわち、
⟨M;J|µ1, j1;µ2, j2⟩=⟨µ1, j1;µ2, j2|M, J⟩ (6.29)
j1∑+j2
J=|j1−j2|
∑J M=−J
⟨µ1, j1;µ2, j2|M, J⟩⟨M;J|µ′1, j1;µ′2, j2⟩=δµ1µ′ 1δµ2µ′
2
(6.30)
j1
∑
µ1=−j1
j2
∑
µ2=−j2
⟨M;J|µ1, j1;µ2, j2⟩⟨µ1, j1;µ2, j2|M′, J′⟩=δM M′δJ J′
(6.31)
逆に、(6.28)の右辺のダミー変数JをJ′と置き換えた上で両辺に⟨µ1, j1;µ2, j2|M, J⟩ を掛けてµ1, µ2について和をとり、(6.31)を用いると
|M =µ1+µ2,2J+1⟩ =
j1
∑
µ1=−j1
j2
∑
µ2=−j2
⟨µ1, j1;µ2, j2|M, J⟩
×|µ1,2j1+1⟩|µ2,2j2+1⟩ (6.32) これは既約表現を直積表現で展開したものである。
四元群
既約表現を最高ウエイトJ3 =jとJ3の値であるウエイトmでラベル づけしよう。
|j, m⟩ (m=j, j−1,· · ·,−j) (6.33) この状態を用いてカルタン部分代数J3と昇降演算子J± ≡J1±iJ2の行 列要素を表すと
⟨j, m′|J3|j, m⟩=mδm,m′ (6.34)
⟨j, m′|J+|j, m⟩=√
(j+m+ 1)(j−m)δm′,m+1 (6.35)
⟨j, m′|J−|j, m⟩=√
(j+m)(j−m+ 1)δm′,m−1 (6.36) これはsu(2)代数のスピンj表現に他ならない。特に、j= 1/2の場合は
J1= 1
2σ1, J2= 1
2σ2, J3= 1
2σ3 (6.37)
である。
SU(2)群はノルム1の4元数群(quaternion group of norm 1)
Q={±1,±σx,±σy,±σz} (6.38) に同型である。これを示すために、まず2行2列の任意の特殊ユニタリ行 列が
u=a0+ia·σ= (
a0+iaz iax+ay iax−ay a0−iaz
)
, (6.39)
の形で書けることに注意する。ここで(a0, ax, ay, az)は実の単位四元ベク トル(unit 4-vector)である。
a20+a2x+a2y+a2z = 1. (6.40)
これは4次元空間の3次元単位球面であり、S3 と書かれる。これと等価 なSU(2)の表現は、スピンを単位3次元ベクトルˆnの周りの角度θ (0≤ θ <4π)回転させる行列で与えられる。
u(ˆn, θ) = cosθ
2 +i(ˆn·σ) sinθ 2 = exp
( iθ
2ˆn·σ )
(6.41) u(ˆn, θ+ 2π) =−u(ˆn, θ) (6.42)
6.1.2 SU(3)