第 9 章 多様体上の積分 165
11.2 電磁気学
11.2.2 静磁場
静磁場は軸性ベクトルなので2-形式
ωm := B1dx2∧dx3+B2dx3∧dx1+B3dx1∧dx2
= 1
2ϵijkBidxj ∧dxk=Bi∗dxi (11.40) で表される。ωmの外微分は
dωm = 1
2ϵijk(∂lBi)dxl∧dxj ∧dxk
= (divB)dx1∧dx2∧dx3 (11.41) ωmに双対な1-形式∗ωmを導入する。
∗ωm = 1
2ϵijkBi∗(dxj ∧dxk)
= Bidxi (11.42)
この外微分は
d∗ωm = (∂iBj)dxi∧dxj = 1
2ϵijk(rotB)idxj ∧dxk
= (rotB)i∗dxi (11.43)
これらを用いると静磁場を記述する方程式は次のように書ける。
dωm = 0←→divB= 0 (11.44)
∗d∗ωm =ωj ←→rotB=µ0j (11.45) ここで、j= (j1, j2, j3)は電流密度、µ0は真空の透磁率、また、
ωj =µ0jidxi (11.46)
R3が単連結な時は、(11.44)よりポアンカレの補題(10.1節参照)により ωmは(極性)ベクトル関数Aを用いて次のように書ける。
ωm=dA←→B= rotA (11.47)
以上の議論から、電場と磁場の間には次のような双対関係(duality re-lations)があることが分かる。
ωe←→ ∗ωm (1−form) (11.48)
∗ωe←→ωm (2−form) (11.49)
11.2.3 マクスウェル方程式
電場と磁場が時間に依存する場合は両者は互いに影響しあう。そこで、
時間座標x4 :=ictを導入して、4次元空間(x1, x2, x3, x4)で考える。本節 では、ここで、ローマ文字i, j, k, lは1,2,3をとり、ギリシャ文字λ, µ, ν, σ は1,2,3,4をとるものとする。また、光速cは1とおく。
まず、電磁テンソルに対応する微分形式を考える。
ωem := −iωe∧dx4+ωm
= −iEidxi∧dx4+1
2ϵijkBidxj∧dxk (11.50) 4次元空間の場合は、
∗(dx1∧dx4) =dx2∧dx3= 1
2ϵ1jkdxj∧dxk
∗(dx2∧dx4) =−dx1∧dx3 = 1
2ϵ2jkdxj ∧dxk
(11.51) なので、一般に
∗(dxi∧dx4) = 1
2ϵijkdxj∧dxk (11.52) が成立することに注意すると、(11.50)は次のように電場と磁場の双対性 がはっきりと見える形に書くことができる。
ωem = −iωe∧dx4+ωm
= −iEidxi∧dx4+1
2ϵijkBidxj∧dxk
= −iEidxi∧dx4+Bi∗(dxi∧dx4) (11.53) 両辺のHodgeスター演算子をとると、ωが2-形式のときは∗ ∗ω =ωで あることに注意して、
∗ωem = −iEi∗(dxi∧dx4) +Bidxi∧dx4
= −i
2Eiϵijkdxj ∧dxk+Bidxi∧dx4 (11.54) が得られる。ここで、2行目の結果を得る際に(11.52)を用いた。
これらの外微分計算すると dωem = −i
2ϵijk [
rotE+∂B
∂t ]
k
dxi∧dxj ∧dx4
+(divB)dx1∧dx2∧dx3 (11.55) d∗ωem = 1
2ϵijk [
rotB−∂E
∂t ]
k
dxi∧dxj∧dx4
−i(divE)dx1∧dx2∧dx3 (11.56)
が得られる。(c= 1なのでϵ0µ0 = 1に注意せよ。) 電荷密度ρと電流密度jから
ωρj :=− i
ϵ0ρdx1∧dx2∧dx3+1
2ϵijkµ0jkdxi∧dxj∧dx4 (11.57) を定義する。この式の外微分を取ると
dωρj =µ0 (
divj+∂ρ
∂t )
dx1∧dx2∧dx3∧dx4 (11.58) が得られる。従って、連続の方程式は次のように書ける。
dωρj = 0←→divj+∂ρ
∂t = 0 (11.59)
以上の結果から、マクスウェル方程式は次のように書ける。
dωem= 0 ←→rotE+∂B∂t = 0, divB= 0 (11.60) d∗ωem=ωρj ←→rotB− ∂E∂t =µ0j, divE= ρ
ϵ0
(11.61)
(11.60)式は微分形式ωemが閉形式であることを示している。時空が単
連結な時は、ωemは完全微分である4。従って、ある1形式
A:=Aµdxµ (µ= 1,2,3,4) (11.62) が存在して
ωem =dA (11.63)
が成立する。実際、(11.62)より
dA = (∂µAν)dxµ∧dxν = 1
2Fµνdxµ∧dxν (11.64)
Fµν: = ∂µAν−∂νAµ (11.65)
となるので、これらを(11.50)と比較すると Ei =iFi4, Bi = 1
2ϵijkFjk (11.66)
であることが分かる。Aµの各成分は電磁ポテンシャル(A, ϕ)と
Aµ=
Ai (µ=i= 1,2,3)
iϕ (µ= 4) (11.67)
4単連結でない場合は、電磁ポテンシャルは1価でなくなる。このとき、アハラノフー ボームーキャッシャー効果(Aharanov-Bohm-Casher effect)が現れる。
なる関係で結ばれている。こうして、マクスウェル方程式の第1の組(11.60) は
ddA= 0 (11.68)
と恒等式の形で書ける(dd= 0であることに注意せよ)。第2の組(11.61)は
d∗dA=ωρj (11.69)
と書けることがわかる。
ゲージ変換は、電磁ポテンシャルを任意のスカラー関数χを用いて
A−→A′ =A+dχ (11.70)
と変換することに相当する。このとき、
A′= (Aµ+∂µχ)dxµ (11.71) なので、電磁ポテンシャルの各成分は
Ai →Ai+∂iχ, ϕ→ϕ−∂tχ (11.72) と変換される。マクスウェル方程式がゲージ変換に対して不変性はddχ= 0 という恒等式の帰結である。
(11.68)は4階の完全反対称テンソルϵλµνσを用いて
ϵλµνσ∂λFµν = 0 (11.73)
と書くこともできる。これはビアンキ恒等式(Bianchi identity)と呼ばれ ているものである5。以上のように、マクスウェル方程式は、特定の座標 系という表示によらない一般的な形式で書くことができる。特定の座標系 による表示とは、そのような座標系から見ている観測者にとっての法則で あるといえる。物理法則が座標系によらない微分形式で書けることは、物 理法則が観測者の見方によらない普遍的なものであるという事実を反映し ている。