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リー代数の随伴表現

ドキュメント内 東京大学理学系研究科 上田研究室 (ページ 55-60)

第 3 章 リー群の基礎 41

3.2 リー代数の一般的性質

3.2.8 リー代数の随伴表現

群Gの表現とはGからGL(n,C)への準同型写像Dのことであった。

すなわち、群Gの各元gn×nの正則行列D(g)が対応しており、群G と同じ積の法則を満足する行列の集合{D(g)}が群Gの表現である。一般 に、リー群とその表現との対応が1:1の場合、すなわち、同型写像の場合 は、忠実な表現(faithful representation)という。

同様に、リー代数WからGL(n,C)への準同型写像ρをリー代数の表 現という。リー代数の元Aに対応する表現ρ(A)が作用するベクトル空間 は表現空間とよばれ、その次元dが表現の次元である。

表現行列ρ(Xi)の行列成分を構造定数fijkを用いて

{ρ(Xi)}jk =−ifijk=−{ρ(Xi)}kj (3.63) と与えることで、リー代数の表現を得ることができる。これをリー代数の 随伴表現(adjoint representation)といい、ad(Xi)と表記する。

ad(Xi) :=ρ(Xi) (3.64)

あるいは、行列要素で表示すると(3.63)から

{ad(Xi)}jk =−{ad(Xi)}kj ={ρ(Xi)}jk =−ifijk (3.65) と書ける。

随伴表現の行列がリー代数の基底と同じ交換関係を満足することを確か めよう。 (3.39)より

[Xa,[Xb, Xc]] =ifbcd[Xa, Xd] =−fbcdfadeXe. (3.66) これを用いてヤコビの恒等式(3.48)を構造定数で表すと

fbcdfade+fcadfbde+fabdfcde= 0. (3.67) となる。随伴表現の行列要素は(3.65)から

ad(Xa)bc=ρ(Xa)bc≡ −ifabc (3.68) なので、(3.67)ρ(Xa)で表すために、まず(3.67)

−facdfbde+fbcdfade =fabdfdce (3.69) と書きなおし、これを(3.68)を用いて書きなおすと

ρ(Xa)cdρ(Xb)de−ρ(Xb)cdρ(Xa)de =ifabdρ(Xd)ce (3.70) が得られる。よって

[ρ(Xa), ρ(Xb)] =ifabcρ(Xc) (3.71) が得られる。こうして、随伴表現の行列がリー代数の基底と同じ交換関係 を満足していることが分かる。

コンパクトリー群の単位元と連結されている元は(3.29)のようにリー 代数の指数関数で与えられるので、その表現Dは、リー代数の表現ρを 用いて次のように書ける。

D(g) = exp (itnρ(Xn)) (3.72) 随伴表現を用いるとカルタン計量とキリング形式は次のように書ける。

gij =Tr{ad(Xi)ad(Xj)} (3.73) (A, B) =Tr{ad(A)ad(B)} (3.74) 実際、ad(Xi)の行列要素が{ad(Xi)}mn=−ifimnで与えられることに注意 すると、(3.73)の右辺は(3.49)に一致することがわかる。また、A=aiXiB =bjXjとおくと、(3.74)の右辺は

Tr{ad(A)ad(B)} = −aibjTr{ad(Xi)ad(Xj)}

= aibjfimnfjnm =aibjgij

= (A, B) (3.75)

となり、左辺に等しくなることがわかる。(3.73)はカルタン計量が随伴表 現の積のトレースで書けることを示している。トレースの巡回性(cyclic property of the trace)により、このカルタン計量は対称行列であること が分かる。

随伴表現はリー代数の中心を除いて忠実な表現となっている。中心はリー 代数のすべての元と可換なので、構造定数はゼロであり、ad(X)=0となる からである。半単純リー代数は中心を持たないので、その随伴表現は忠実 である。リー代数の随伴表現が与えられた時に、(3.72)でρ(Xi) = ad(Xi) とおくことによってリー群の表現が得られる。これをリー群Gの随伴表

現Ad(G)という10。これは群の中心Zを除いて忠実な表現となっている。

g∈Zに対しては、Ad(G)=1となるから、中心Zは準同型写像G→Ad(G) の核である。従って、準同型定理2により

Ad(G)= G/Z (3.76)

である。

リー代数X=xiXi, Y =yiXi, A=aiXiに対して (Y,ad(A)X) := yigij{ad(A)}jkxk

= yigijalxk{ad(Xl)}jk

= iyigijalxkflkj

= yialxk(Xi, iflkjXj)

= (Y,[A, X]) よって

(Y,ad(A)X)(y,ad(A)x) = (Y,[A, X]) (3.77) が成立する。これにより随伴表現を

ad(A)X[A, X] (3.78)

と定義することもできる11

例 SO(3) リー代数Xiと随伴表現ad(Xi)は同じで

X1 =



0 0 0

0 0 1

0 1 0

, X2=



0 0 1 0 0 0 1 0 0

, X3 =



0 1 0

1 0 0 0 0 0



(3.79)

10リー代数の随伴表現をad、リー群の随伴表現をAdと大文字と小文字を使い分けて いることに注意。

11不定計量であっても、それがゼロ固有値を持たない場合は、(Y, A) = (Y, B)がすべ てのY に対して成り立てば、A=Bが成立する。

で与えられる。行列を直接計算することで[X1, X2] =−X3 =i2X3が得 られる。よって、f123 =iであることがわかる。他の交換関係も同様に計 算でき、これから構造定数、カルタン計量は

fijk=ijk (3.80)

gij = 2δij (3.81)

detg= 8̸= 0 (3.82)

で与えられる。よって、定理13よりSO(3)のリー代数は半単純である。

実際には、SO(3)は不変部分代数を含まないので単純である。

Theorem 15 単純リー群の随伴表現は既約である。

これを証明するために、対偶(contraposition)を示す。すなわち、与えら れた随伴表現が可約ならば、不変部分空間が存在しなければならないこと を示そう。随伴表現の空間は生成子の空間であるので、随伴表現が可約で あるということは、生成子の張る空間が部分空間をもつことを意味してい る。そこで、部分空間に対応する基底をXi (i= 1,· · · , k)、それ以外の基 底をXj (j =k+ 1,· · ·, d)としよう。前者が不変部分空間であるためには {ad(Xl)}ij =−iflij = 0 (3.83) が任意のi= 1,· · · , k,j=k+ 1,· · · , d,l= 1,· · · , dに対して成立しなけ ればならない12。構造定数は完全反対称なので、構造定数のうちでそのよ うなijを含むものはゼロになる。したがって、構造定数のうちでゼロ で無いのは添え字が3つともi= 1,· · ·, kj=k+ 1,· · ·, dの場合のみ である。それゆえ、リー代数は2つの自明でない不変部分代数に分解され ることになり、単純ではない。よって、単純リー代数の随伴表現は既約で ある。

随伴表現の次元は、リー代数が作用する線形空間の次元に等しい。すな わち、リー代数の独立な基底の数に等しい。構造定数が実数(純虚数)の 場合は、随伴表現の生成子は純虚数(実数)である((3.65)式参照)。

ここで、次のような基底の変換を考える。

Xa =LabXb. (3.84)

δgc = (L1L)gc=L−1ghLhcであることに注意すると

[Xa, Xb] = LadLbe[Xd, Xe] =iLadLbefdecXc=iLadLbefdegLgh1LhcXc

= iLadLbefdegLgc1Xc (3.85)

12Xiが不変部分空間Kの元とすると、任意の基底Xlに対して、[Xl, Xi] =iflijXjK となるので、j=k+ 1,· · ·, dならばflij = 0でなければならない。よって(3.83)が成 立する。

よって、基底変換(3.84)に伴い、構造定数が次のように変換されることが 分かる。

fabc =LadLbefdegLgc1. (3.86) 随伴表現の定義式(3.68)を比較すると、基底変換に伴って随伴表現が次 のように変換されることが分かる。

ρ(Xa)bc =LadLbeρ(Xd)egLgc1 (3.87)

(行列要素ではなく)行列の形で書くと

ρ(Xa) =LadLρ(Xd)L1. (3.88) このように、基底変換に伴って、随伴表現には相似変換(similarity

trans-formation)と生成子の基底の変換が同時に行われる。同様にして、カルタ

ン計量の変換則は次のように与えられる。

gab = Tr{ad(Xa)ad(Xb)}=−LacLbdTr(Lρ(Xc)L1Lρ(Xd)L1)

= −LacTr{ad(Xc)ad(Xd)}LTdb

= LacgcdLTdb (3.89)

2行目に移る際に、トレースの循環性を用いた。

カルタン行列(3.73)は実対称行列なので対角化可能であり、固有値は 実数で、かつ、異なる固有値に属する固有ベクトルは直交する。(3.89)か ら、適当な直交行列Lをとることによってそのような対角化が実行でき ることが分かる。こうして

gab =kaδab (3.90)

が得られる。ここでは右辺でaについての和はとらない。Lをスケール変 換することによって kaの大きさを1にすることはできるが、符号は変え ることができない((3.89)にはL 2個出てくるため)。この性質を利用 してリー代数をkaの符号により分類することができる。ka>0なるリー 代数はコンパクトリー代数(compact Lie algebra)である。他方、ka<0 なる成分を持つリー代数は非自明な有限次元のユニタリ表現を持たない。

ローレンツ群はka <0である。

適当なスケール変換をすることで

Tr{ad(Xa)ad(Xb)}=−gδab, g >0 (3.91) ととることができる。このとき、構造定数は次のように表される。まず、

(3.71)に(3.64)を代入すると、

[ad(Xa),ad(Xb)] =ifabcad(Xc) (3.92)

が得られる。この両辺にad(Xc)を掛けてトレースをとり、(3.91)を用い ると

fabc = ig1Tr{[ad(Xa),ad(Xb)]ad(Xc)}

= ig1Tr{[ad(Xb),ad(Xc)]ad(Xa)} (3.93) が得られる。最後の等式はトレースの巡回性から示される。(3.93)から

fabc=fbca (3.94)

が言える。この結果と(3.41)から構造定数が次の完全反対称性を満足す ることが分かる。

fabc=fbca=fcab=−fbac=−fcba=−facb (3.95)

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