❶ 対 象
歯科口腔外科あるいは耳鼻咽喉科で治療を受ける頭頸部がん患者。病態によっては、根 治的治療だけでなく、準根治的治療や症状の緩和を目的とした治療も含まれる。
❷ どのような口腔ケアが
病に罹患した歯が放置されている
② 治療中
◇腫瘍付近に付着している壊死組織と痰の区別が難しい
◇唾液分泌の低下注3)
◇味覚障害注4)
③ 治療後(晩発性障害)
◇放射線性顎骨壊死
◇唾液分泌の低下注3)に起因する諸症状:
多発性う蝕注5)・歯周病の進行、味覚障害注4)、嚥下障害
❸ カルテ・看護師・主治医から予め確認しておくべき情報
1)診断(TNM 分類、病期 Stage)および治療計画(照射方法、部位、総線量)
◇1回線量を少なくし、1日で複数回照射する hyperfraction 治療が普及しつつあり、
有害事象の発生率は従来法に比べて軽減するとの報告があるため、1日の照射回数と 照射量も確認。
◇ケアを実施する時間と関連で、照射の時間帯も重要な情報。
注1)「有害事象」
従来、放射線治療やがん化学療法による、いわゆる「副作用」とよばれていた現象は、がん治療全 体を通して患者に生じる不都合を全て総称して「有害事象」と呼ばれるようになっている。したがっ て、この「有害事象」は、単に放射線治療やがん化学療法だけでなく、手術時の臓器損傷や、治療の 結果として生じた二次性悪性腫瘍まで、すなわち治療全般にわたる不都合についての記載である。
放射線治療における「有害事象」は、「早期」(治療中や終了後数週間)に出現する症状、および「晩 発性」(治療終了後数年)に出現する症状、に分類できる。
注2)口臭
疼痛、嘔気などにより衛生環境が保たれにくいことに加え、腫瘍および口腔粘膜の「壊死組織」が 長時間口腔内に存在することから特有の異臭を発することが多い。
注3)唾液分泌の低下
照射野に含まれる唾液腺は機能不全となることが多い。特に耳下腺が照射野に含まれる場合は、漿 液性唾液の分泌が影響を受け、唾液が粘稠あるいは泡沫状になる。大唾液腺への照射は10Gy 頃より 影響が現れ、20Gy 頃には唾液の粘稠度が高まる。一般に50Gy 以上の照射により、唾液腺は不可逆性 の機能不全に陥るといわれている。
注4)味覚障害
放射線治療によって舌乳頭が障害されると、舌の平滑化や、味蕾細胞の障害による味覚の鈍麻、変 化、消失などの症状が現れる。抗がん剤との併用は、粘膜炎の増悪と味蕾細胞の再生障害、シスプラ チンなど一部の抗がん剤にみられる末梢神経障害も相まって症状はさらに悪化する。
注5)多発性う蝕
唾液分泌の低下による自浄作用の減少によってう蝕が急速に進行することがある。さらに放射線照 射が象牙質内の有機質量を低下させ、結果として歯質がもろくなる可能性が報告されている。
2章−4◆頭頸部がん放射線治療時
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◇併用薬剤(特に抗がん剤やステロイドなど)の有無と、その薬剤の細胞障害性に関す る情報も確認。
2)栄養管理:体重減少や脱水症状の 有無
◇経口摂取状況および内容(柑橘系食品など にに対する刺激痛、味覚障害の有無)。
◇経管栄養あるいは静脈栄養であれば、1日 量とその内容。
3)全身(精神も含む)状態の安定度
◇倦怠感、嘔気・嘔吐、ストレスなど。
4)感染防御能
◇全身(白血球や血小板の減少が生じていないかどうか)。
◇局所(口腔内だけでなく皮膚も)。
5)治療的意義
◇処方の必要性:口内炎・粘膜炎の程度
腫瘍や脆弱化した粘膜、萎縮した舌乳頭の衛生不良が感染や出血の原因になってい ないか。
◇嚥下障害:
疼痛のため嚥下運動が円滑でなくなり、
血餅や壊死組織物質、脱水傾向で粘稠に なった唾液を誤嚥する可能性がある。反回 神経麻痺で嗄声を生じている場合には、さ らに誤嚥のリスクが高くなる。
【サイドメモ】
照射量の増加と照射野の粘膜 照射野の粘膜は照射量の増加 に伴い、紅斑、斑状の偽膜、浮 腫、潰瘍、出血、壊死へと重症 化する。使用する薬剤や適切な 予防処置を行うことで前後する が、照射開始から12〜16Gy ご ろより紅斑がみられ、照射25Gy を過ぎる頃から潰瘍を形成する ことが多い。
超選択的動注化学療法
超選択的動注化学療法と いうユニークな方法が術前治療に 有効であるとされている。本治療 法は、目的とする部分に高濃度の 抗がん剤を曝露できることが特徴 としてあげられる。したがって、
抗がん剤の全身投与による化学療 法に比べて、少量の抗がん剤で効 果があるため全身的な副作用を軽 減できることから、現在その有効 性が検討されている。
トピック
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❹ 口腔ケアのポイント
目 標
① 有害事象の発症をできるだけ遅延させ、口腔粘膜炎、疼痛、口腔乾燥、口臭などの 悪化を防ぎ、治療を完遂する。
② 口腔粘膜炎による疼痛や出血が原因で照射をスキップした時には、スキップの期間 を最小限に短縮し、ドロップアウトしないようにする。
③ セルフケアの方法(ブラッシング、洗口、粘膜ケア)を指導し、正しく励行・継続 することが有害事象の予防につながり、患者自身も治療に参加していることを意識づ ける。
1)治療前から介入できる場合
① 口腔環境を整える
◇歯周初期治療をはじめとした歯科治療で、できるだけ口腔環境を整えておくことに よって有害事象の併発を最小限にする。
◇顎骨に放射線が照射された後に抜歯などの観血的処置を実施すると、放射線性骨壊 死を生じるリスクがあるため、予後不良が予測される歯は予め抜歯しておく方が無 難。
② 治療中、治療後に発症が予想される症状に応じたセルフケアができるように指導し ておく。
2)有害事象発症時
① できるだけ痛みや出血を伴わない安全で 安楽なケアを提供する。
② 有害事象の症状の進行に伴ってセルフケ アが困難になるが、患者自身が少しでも実 施できそうなケアを指導する。
❺ 口腔ケア時の注意点
① 口腔ケアを実施すること自体が目標では ないので、体調の悪化および体力消耗時は
2章−4◆頭頸部がん放射線治療時
歯科金属補綴物による 散乱線の影響
歯科金属補綴物による散 乱線も口腔粘膜炎の原因の1つと 考えられており、欧米では照射前 に可及的に除去しておくことが推 奨されている。特に下顎大臼歯は 鋳造冠の補綴物が多く、舌の辺縁 と頬粘膜に粘膜炎を併発し、疼痛 による開口障害、摂食・嚥下障害 を助長させやすい。
トピック
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ケアを中断し、日を改めることも必要である。
② 口腔粘膜が脆弱化し易出血性であるが、できるだけケアの刺激で出血させないよう 配慮する。