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❸ 入院患者の口腔ケアにおける問題点と今後の展望

ドキュメント内 口腔ケアマニュアル 済/とびら (ページ 158-162)

ここまで述べたように現在多くの施設で入院患者に対して口腔ケアが行われているが、

口腔ケアがどの程度患者の QOL 維持・向上に寄与しているのか、具体的な指標を基に評 価を行った報告は少ない。今後の課題としては口腔ケアの有用性を科学することであり、

さらに多くの患者に質のよい口腔ケアが提供される環境を構築することであろう。

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今のところ「口腔ケア」には定義、内容ともにスタンダード(標準)がない。現在行わ れている口腔ケアは、その内容は一定でなく施設によって異なる。

1)口腔ケアの精度を上げる―疾患別口腔ケア

歯科医療関係者が行う口腔ケアを「専門的口腔ケア(プロフェッショナルオーラルヘル スケア:POHC)と呼んでおり、患者本人や介助者が行う「セルフケア」とは区別されて いる。多くの施設では口腔ケアは看護師などコメディカルスタッフによって担当されてお り、歯科衛生士はその数が圧倒的に少ないためスタッフへの指導にあたることが多いよう である。

ここで明確にしておきたいのは、「口腔内の細菌を減少させるためには徹底的なプラー クの除去と歯石などの沈着物の除去に加えて不良補綴物の除去などプラークが付着しにく い口腔環境を整えることが必要である」ということである。歯石や大きなう蝕を放置した ままであったり、適合の悪い冠を装着したままであれば、いくら長時間のブラッシングを しても大きな効果は望めない。糖尿病の口腔ケアや誤嚥性肺炎の予防としての口腔ケアな どは時間的な余裕があるため、病棟での指導と同時に「歯科治療」によるプラークの付着 しにくい口腔環境づくりを進めるべきである〔☞1章− 6ページ参照〕

さらに深く考えれば、すべての人間はいずれ障害を持つことになるわけであるからその 日に備えて健康なときから常に口腔環境をプラークフリーの状態にできるように整えてお くことが望ましいのではあるが、今後、成人歯科保健指導や歯学教育の中に高齢者・障害 者になることを意識した歯科治療の重要性を盛り込むべきであろう。

2)口腔ケアをもっと簡便化する

とはいえ、看護スタッフの少ない医療現場からはもっと短時間に効果が期待できる口腔 ケア方法はないのかという声が聞こえてくる。実現可能なことは薬剤に頼る方法であろ う。口腔乾燥を改善する薬や保湿剤、口腔内細菌を長時間増殖させない消毒剤、プラーク 除去(分解)効果の高い歯磨剤や歯ブラシなどが考えられる。欧米では使用頻度の高いク ロルヘキシジン(CHX)は歯面への付着時間が長く消毒効果も高いことからわが国でも 高濃度での使用を認めてもらいたい薬剤のひとつである。

ただ、CHX にしても口腔内の環境が悪ければ頻回の使用が必要となる。看護スタッフ の負担軽減を図るなら、歯科治療によるプラークフリーをまず実現させることが近道であ ることを重ねて強調しておく。

3)場面別に口腔ケアを使い分ける−目標、ゴールの設定

急性期を担当する病院では患者の救命や原疾患そのものの治療が第一義となるため、口 腔管理は後回しになる可能性がある。しかし、患者の QOL(生活の質)を考えるとき合 4章−1入院患者の口腔ケア―現状と今後の展望

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併する疾患への配慮やその後の生活に向けてのリハビリ、ケアは重要であり、急性期病院 といえども早期から口腔ケアを導入する傾向にある。

高齢者における口腔管理は慢性期になってから行うものではなく、急性期、慢性期、そ れぞれの病期や病態に合ったかかわり方がある。

病 期:急性期、回復期、維持期、終末期

病 態:意識の有無、気管内挿管の有無、ADL の程度

症 状:口腔乾燥、開口障害、出血

居場所:病院、施設、居宅

環 境:介護力の大小、医療施設へのアクセス

当然、疾病によって口腔ケアの目的が変わり病期によってゴールの設定は変わる。症状 固定した脳梗塞後遺症患者と進行性病変である ALS やパーキンソン病の患者、あるいは 進展した担癌患者とではその対応は大きく異なりゴールの設定も自ずと異なる。また、同 じ疾患でも ADL が保たれている病期の早い時期と終末期では異なる。口腔ケアは考え方 も技術も一定ではなく、常に患者の状況に応じた内容で提供されるものである。

4)地域連携

口腔ケアは生活と密着しているため従来の病院と診療所のみのやりとりではなく、病院 と病院・診療所・福祉施設・保健施設など多方面との連携が必要となる。地域連携とは単 なる患者の情報提供ではなく、再発予防や QOL の向上を考えた機能的なものでなくては ならない。

患者は単一の施設にずっと入院しているわけではなく次々と居場所を変える。そのため には患者と一緒に評価表と申し送り書がついて、次の施設に届けられることが必要であ る。入退院を繰り返す誤嚥性肺炎のリピーターを救うのは、どの居場所であっても途切れ ずに続く口腔ケアの連携の輪〔☞4章− 171ページ参照〕があってこそと考える。

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(足立了平/田中義弘)

参考文献

1)Yoneyama, T. et al. : Oral care and Pneumonia. Lancet, 354:515,1999.

2)足立了平:口腔ケアの認識と実施に関する報告.厚生労働省委託補助事業「病院歯科における口腔ケア実 施に関する実態調査」,13〜24,8020推進財団,2004.

3)内藤克己ほか:人工呼吸器関連肺炎(VAP)の予防における口腔ケアの有用性に関する研究.入院患者 に関する包括的口腔管理システムの構築に関する研究,23〜33,8020推進財団,2006.

4)岸本裕充ほか:ICU 看護師による口腔ケアの負担を軽減するための取り組み−食道癌手術予定患者に対 する術前プラークフリー法による術後肺炎予防−.入院患者に関する包括的口腔管理システムの構築に関 する研究,34〜47,8020推進財団,2006.

5)大西徹郎:急性期病院における口腔ケア.よくわかる口腔ケア,86〜100,金芳堂,2006.

6)大田洋二郎:口腔ケア介入は頭頚部進行癌における再建手術の術後合併症率を減少させる.歯界展望,106

⑷:766〜772,2005.

7)足立了平:神戸市立西市民病院のクリニカルパス.歯科口腔領域のクリニカルパス,167〜173,医歯薬出 版,2004.

4章−1入院患者の口腔ケア―現状と今後の展望

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入院患者の口腔内状況の改善、口腔内保清を継続するためには、歯科専門職と他職種と 連携が不可欠である。主治医・看護師とのコミュニケーション例を中心に紹介する。

ドキュメント内 口腔ケアマニュアル 済/とびら (ページ 158-162)