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4 多発性口内炎

ドキュメント内 口腔ケアマニュアル 済/とびら (ページ 147-154)

状 況

口内炎(あるいは口内炎様病変)が複数ある場合は、全身的要因や自己免疫疾患、さら には悪性病変と鑑別診断をする能力が問われ、また経口摂取が困難な状態で来院するた め、治療のみならず栄養管理を含めた全身の評価・対応も必要となってくる。

原因・背景と対応

口内炎は一つの病態であり、その原因は機械的あるいは化学的損傷、ウイルス感染など 多岐にわたる。よって治療を行う前に正確な診断が必要である。口内炎の存在は口腔内を ていねいに観察すればわかるが、口内炎が多発した際には先にも述べたように、全身への 評価・対応が重要である.口内炎が必ずしも何らかの原疾患に起因しているとは限らず、

原因がわからず「多発性口内炎」と診断することもあり得る。われわれは、口内炎の診断 に対してその背景を検索しやすくするために、以下のような質問や観察を行うよう心がけ ている。

① 現病歴だけでなく、既往歴や内服薬の確認(ステロイドやビタミン B など)、がん 化学療法や放射線治療を受けていないか。

② ウイルス感染を除外するために、発熱や疲労の程度、ウイルス感染症患者との接 触、海外渡航歴など。

③ 口内炎の大きさ・深さ。

④ 口内炎は単発性か、2個以上存在するか。同じ部位での再発があるか。

⑤ 舌下面、中咽頭、軟口蓋、口峡部など通常、機械的刺激を受けにくい場所に発生し ていないか。

症状別対応

以上のような問診から診断を絞り込み、各種の検査に移る方がよいと思われる。

口腔粘膜にアフタ様病変を示す全身性疾患の代表例として Behcet 病(陰部潰瘍、多発 性アフタ、前房蓄膿性ブドウ膜炎または虹彩毛様体炎)や Reiter 病(尿道炎、虹彩毛様 体炎、粘膜皮膚病変、関節炎)などがある。さらに天疱瘡や類天疱瘡などの自己免疫疾患 も間違いやすい疾患としてあげられる。

一般に多発性口内炎と間違いやすい病変を列記する(表1)。詳細な記載は成書を参照 されたい。

抗がん剤および放射線治療による多発性口内炎対策

放射線併用化学療法時の疼痛は、治療に関連した放射線治療と化学療法のそれぞれに起 因するもの、それに加えて原疾患に起因するものと考えられる。

放射線治療においては、皮膚炎、粘膜炎、唾液減少などが複合した疼痛である。化学療 法による粘膜炎の発症頻度は、使用する抗癌剤の種類によって異なる。頭頸部癌における 化学療法で使用される抗癌剤は主にプラチナ系、フッ化ピリミジン系、タキサン系で、い ずれも口内炎の発生が有害事象として報告されている。

<有害事象の評価方法>

これまで米国 National Cancer Institute(NCI)が1998年に作成した Common Toxicity 表1 多発性口内炎と間違いやすい病変

疾 患 名

ヘルペス性口内炎 手足口病

ヘルパンギーナ コプリック斑 扁平苔癬 天疱瘡 類天疱瘡 多形紅斑様薬疹 アスピリン熱傷 口角炎

フォーダイス斑 Bedner アフタ 咬合線

ニコチン性口内炎

広範囲に出現する水疱性病変 コクサッキーA16による小水疱形成 コクサッキーA群のウイルス感染

耳下腺開口部周囲に生じるアフタ様病変で麻疹の前兆 レース状の白斑、びらん形成

急速に破裂して潰瘍を形成、ニコルスキー現象 天疱瘡にくらべて水疱は持続傾向、易出血性

出血性潰瘍を引き起こす薬疹、スティーブン・ジョンソン症候群 アスピリンの持続接触、有痛性の白色病変

カンジダ症の合併に注意

頬粘膜脂腺に現れる黄白色の斑点、良性 乳児、先天歯などの機械的刺激

咬合平面にそって生じる白色の線状病変、両側性 白色または灰色のシート状の病変

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Criteria[NCI-CTC ver. 2.0]の日本語訳(共通毒性基準)が多く用いられてきたが、分 子標的薬剤などの新たな治療薬の導入によるがん化学療法の進歩やいわゆる支持療法の進 歩に伴って、2003年12月に Common Toxicity Criteria for Adverse Events(CTCAE)

ver. 3.0(有害事象共通用語規準)への大幅な改訂がなされた。

CTCAE ver. 3.0は、がん治療における種々の有害事象 adverse events(AE)を定義 し、その重症度を評価するための手引き書で、AE には症状のあるものや無症状のもの、

臨床的あるいは画像的に評価できるもの、種々の検査で評価できるものなど、28項目1,000 種類以上の評価項目が列挙されている。日本語訳に当たっては Japan Clinical Oncology Group(JCOG/日本臨床腫瘍研究グループ)が作成した案を日本癌治療学会−癌治療効 果判定基準作成委員会の修正を経て完成したもので、引用の際は「CTCAE ver. 3.0 JCOG /JSCO 版」と記載する。

これらのデータは非営利目的に使用される場合に限り JCOG ホームページ(http://

www.jcog.jp)からダウンロードが可能であり、許諾は不要である(ただし、膨大なデー タなので、PDF として管理する方がベターと思われる)。

CTCAE ver. 3.0 JCOG/JSCO 版における AE としての口内炎は単独の項目での記載が なく、消化管の項目の中の小項目として存在する。すべての項目が必要となるわけではな いので口腔領域に限定した項目を引用した。

表2 CTCAE ver. 3.0 JCOG/JSCO 版における AE としての口内炎

Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5 粘膜炎(口内

炎)診察所見

粘膜の紅斑 斑状潰瘍または偽膜 融合した潰瘍または 偽膜;わずかな外傷 で出血

組織壊死;顕著 な自然出血;生 命を脅かす

死亡

粘膜炎(口内 炎)機能/症

わずかな症状で 摂食に影響なし

症状があるが食べや すく加工した食事を 摂取し嚥下すること はできる

症状があり、十分な 栄養や水分の経口摂 取ができない

生命を脅かす症 状がある

死亡

義歯または プロテーゼ

活動を妨げない わずかな不快感

不快感のために一部 の活動に支障をきた すがその他の活動に は支障がない

義歯またはプロテー ゼの使用が常時不可

歯周(歯根膜)

疾患

歯肉退縮または 歯肉炎;探針に より局所的に出 血;軽度の骨欠

中等度の歯肉後退ま たは歯肉炎;探針に より多くの箇所で出 血;中等度の骨欠損

自然出血;歯欠損の 有無によらず高度の 骨欠損がある;上顎 骨または下顎骨の骨 壊死

歯表面着色;齲

歯;抜歯をせず に修復可能

全 歯 に 至 ら な い 抜 歯;歯の破折/歯冠 切断/歯冠修復を要 する

全歯の抜歯を要する

3章−4多発性口内炎

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Grade1 Grade2 Grade3 Grade4 Grade5 歯の発達 機能障害のない

歯またはエナメ ル質の形成不全

口腔内手術により矯 正可能な機能障害

外 科 的 矯 正 が 不 能 な、機能障害を伴う 発達不良

口内乾燥/

唾液腺

症状あり。著明 な摂食習慣の制 約がない(乾燥 あるいは唾液の 濃縮)

刺激のない状態 で唾液の分泌量 が>0.2ml/分

症状あり。経口摂取 に 影 響 が あ る。

(例:多量の水、他 の潤滑剤、ピューレ 状および/または軟 らかく水分の多い食 物に限られる);

刺激のない状態で唾 液分泌量は0.1−0. ml/分

充分な経口摂取が不 可能;静脈内輸液/

経 管 栄 養/TPN を 要する;

刺激のない状態で唾 液分泌量 が<0.1ml /分

唾液腺の変化

/唾液

わずかな唾液の 濃縮;わずかな 味覚の変化

(例;金属味)

濃い、ねばつく、べ とべとする唾液;顕 著な味覚の変化;食 事の変更を要する;

日常生活に支障はな い唾液分泌関連症状

急性唾液腺壊死;高 度の唾液分泌関連症 状があり日常生活に 支障あり

活動不能/動作 不能

味覚変化

(味覚障害)

味覚変化はある が食事に影響な

味覚変化が食事に影 響する(例;経口栄 養補給);嫌な味が する;味覚の喪失 嚥下障害 症状があるが通

常の食事が可能

症状があり、摂食/

嚥下に影響(例;摂 食習慣の制約、経口 栄 養 剤 に よ る 補 充);<24時 間 の 静 脈内輸液を要する

症状があり、摂食/

嚥 下 に 重 大 な 影 響

(例;カロリーや水 分の経口摂取が不十 分)≧24時間の静脈 内輸液/経管栄養/

TPN を要す

生命を脅かす 死亡

悪 心 摂食習慣に影響 のない食欲低下

著明な体重減少、脱 水または栄養失調を 伴わない経口摂取量 の減少;<24時間の 静脈内輸液を要する

カロリーや水分の経 口摂取が不十分。

≧24時間の静脈内輸 液/経管栄養/TPN を要す

生命を脅かす 死亡

嘔 吐 24時間に1エピ ソードの嘔吐

24時間に2−5エピ ソードの嘔吐;

<24時間の静脈内輸 液を要する

24時 間 に≧6エ ピ ソード以上の嘔吐;

≧24時間の静脈内輸 液またはTPNを要す

生命を脅かす 死亡

開口障害 摂食障害を伴わ ない可動域の減

きざみ食、軟らかい 食事またはピューレ を必要とする可動域 の減少

栄養や水分を十分に 経口摂取できない可 動域の減少

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対症療法

口腔粘膜炎に対する含嗽剤・洗口液の 処方例

口腔粘膜炎に対しては各施設でさまざまな検 討がされている。原因療法が最優先されること は言うまでもないが、強い症状を目の当たりに し、原因を検索することばかりに気を取られる のも、いささか問題である。対症療法としての ペインコントロールも重要であり、代表的な処 方例を紹介する。ただし、これらの処方は経験 的に使用されているものが多く、エビデンスに 欠けていたり、健康保険の適応を逸脱している ものもある。使用される場合は自己責任で判断 されたい。

1)アロプリノール(ザイロリック)含嗽液 Allopurinol 500mg Carboxymethylcellulose(CMC-Na) 5g 精製水(加水全量) 500ml

〔使用法〕

5-FU 投与開始より投与終了後1週間までの間の使用が原則。1回約10ml、1日4〜

6回、約5分ほど可能であれば口腔内に保持。30分後に2%重曹水で再度含嗽すると口 腔内不快感の除去によいとされる。

類似処方:アロプリノール・リドカイン含嗽液

Allopurinol 500mg ポリアクリル酸ナトリウム 500mg

キシロカインビスカス 100ml

精製水 400ml

使用法:疼痛の状態によりキシロカインビスカスの減量は可能である。

3章−4多発性口内炎

【サイドメモ】

最近のがん治療

最近のがん治療において、手 術と同様にがん化学療法および 放射線治療は重要な位置を占め る。がん化学療法の分野では、

がんの生物学的特性が基礎研究 により解明されつつあり、イ レッサ、ハーセプチンなどの分 子標的治療薬剤が多数開発さ れ、これらの新規開発は従来に 比較して安価であることから、

今後はその研究成果を創薬につ なげることに拍車がかかること と思われる。

放射線治療の分野でも従来の リニアックを用いた組織外照射 や小線源治療の均一的かつ平面 的な治療に加えて、1つの照射 野内において照射範囲にモザイ ク状の強弱をつけ、多方向から 照射することによって複雑な線 量 分 布 が 可 能 と な っ た IMRT

(Intensity-modulated Radia-tion Therapy:強度変調放射線 治療)や強力なエネルギーをも つ陽子線や炭素イオン線を用い た重粒子線治療がさらに進むこ とにより、ますます臓器温存の 恩恵や QOL の向上が得られる ようになると予想される。

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ドキュメント内 口腔ケアマニュアル 済/とびら (ページ 147-154)