❶ 状 況
軽い打撲によってさえも出血を起こしやすい状態をいう(表1)。主要因は、1)血管 壁の異常、2)血小板の異常、3)凝固線溶系の異常に大別される。一般的に、皮膚の小 さな点状出血(5mm 以下)は、血小板や血管の異常によることが多い。大きな斑状出血 や関節腔・筋肉内の深部出血は、凝固異常を疑う。一旦止血したあと出血する場合は、二 次止血に欠陥があることが多く、凝固線溶系に異常がある場合である。
❷ 原因・背景と対応
出血傾向を示す主要疾患を表1と図1〜図3に示す。
症状別対応
1)口腔出血
再生不良性貧血の例(図1)と血小板減少性紫斑病の例(図2、図3)を示す。
3章−3◆出血しやすい
図1 再生不良性貧血(血小板数 10,000/μℓ台)
図2 血小板減少性紫斑病:頬粘 膜咬傷による血腫:血小板数 10,000/μℓ台)
図3 血小板減少性紫斑病(左側第2小臼歯抜歯1日後、下顎下縁に出血 斑を認める:血小板数19,000/μℓ)
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2)治療法
出血が著しく、原疾患のコントロールが不十分な場合は、主治医と相談の上、表2に示 すような補充療法が必要である。著しい出血傾向がある場合は、ケアのみでの制御は困難 である(血小板数が20,000/
μ
ℓ以下のときは局所だけでは対応困難な場合が多い)。❸ 対症療法
補充療法を実施する一方、局所対応が重要である(表3)。
血腫を認めるが、口腔内に出血を認めない場合は、補充療法を行うとともに、自然消退 し、吸収するのを待つ。頬粘膜の咬合線(上下の歯が咬み合う部位の頬側粘膜にみられる 線)は出血しやすい部位のひとつである(図2)。一旦、血腫を形成すると、繰り返し咬 んでしまい、再出血をきたす場合が多い。血小板減少が改善するまで安静を保つことが望 ましい。
出血が止まらないときの局所対応は、圧迫止血法が基本である。ガーゼを咬ませて止血 を促す方法は、止血部位を的確に圧迫できないことが多い。また、患者側にとっても同じ 圧力で持続的に圧迫をすることがむずかしい場合も多い。したがって、出血傾向が顕著な 場合は、第三者が出血点を確認する。強い力をかけなくてもよいが、最低10分間は圧迫を 継続した後(途中でガーゼを除去して確認したりしない)に再出血するかどうかを確認す る。
歯周組織などからの出血は、洗浄を行い、凝血塊を洗い流した上で出血点を確認する。
背景に歯肉炎や歯周炎がある場合が多い。血管収縮薬をしみこませたガーゼ、酸化セル ロース、あるいはゼラチンスポンジを小さく丸めて、圧迫する。このような対応を実施し ても止血しない場合もあり、その際は歯科医師に相談する。出血の主要因にもよるが、電 気メス・レーザーによる焼灼止血、縫合、床による圧迫などにて止血させる(図4)。
表2 補充療法
疾 患 補 充 療 法
血友病A 血友病B
von Willebrand 病 再生不良性貧血 白血病、骨髄異形性症 特発性血小板減少症 肝硬変
第Ⅷ因子製剤 第Ⅸ因子製剤
第Ⅷ因子製剤、バソプレシン、新鮮凍結血漿 血小板輸血、抗胸腺細胞グロブリン
成分輸血、副腎皮質ステロイド 血小板輸血、副腎皮質ステロイド 血小板輸血
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❹ 生活指導
血小板数が20,000/
μ
ℓ以下の際に止血困難になる場合が多い。しかしながら、原疾患発 症時のように急激に血球数が低下するような場合を除いて、血小板数が10,000/μ
ℓ程度で あっても、歯周組織炎や外傷などがない限り適切にケアを実施していれば自然出血を来す表3 口腔出血に対する局所止血法 1.ガーゼ圧迫止血法
1)エピネフリンなど 2.塞栓法(タンポナーデ)
1)酸化セルロース 2)ゼラチンスポンジ 3)コラーゲン製剤
3.創縁縫合法(局所止血剤の併用)
4.結紮法(血管からの出血)
5.出血部位の被覆・固定法
1)止血床(レジン・エルコプレス)
2)コーパック
3)歯科用セメント(ユージノール)などの応用 6.電気メス・レーザー焼灼固定
3章−3◆出血しやすい
◆3◆
◆2◆
◆1◆
図4 局所止血法の実際
1.ガーゼなどで凝血塊をぬぐい取り、生理食塩水で洗い流す 2.出血点を確認し、レーザー・電気メスで焼灼、凝固する
3.ボスミン綿花、局所止血剤を小さく丸め、指先で点で押さえるように圧迫 する
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ことは少ない。出血傾向の強い患者においては、よりきめの細かい丁寧な予防的口腔ケア が必要である。
出血傾向を有し、歯周組織炎に起因する口腔出血を有する患者での口腔ケア
(図5、図6)
本患者は骨髄異形性症の既往を有し、血小板数10,000/
μ
ℓ台であった。ケア前の写真か らは出血は口腔内全体から生じているようにみられるが、洗浄、凝血塊を洗い流し、出血 点を確認すると、辺縁歯肉からの出血が主であった。血小板の補充療法を行うと共に、歯 科衛生士が、丁寧に1歯、1歯のプラークを小さな綿球でぬぐい取り、クロルヘキシジン などによる洗浄を連日実施した。歯肉炎の完全な制御は困難であったが、辺縁歯肉の炎症 は軽減し、自然出血は治まった。(河合峰雄)
表4 血小板数と口腔ケア
通常通り対応 慎重に対応 相対的禁忌 血小板数 >50,000/μℓ 20,000〜50,000/μℓ <20,000/μℓ
図5 口腔ケア前 図6 口腔ケア後
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❶ 状 況
口内炎(あるいは口内炎様病変)が複数ある場合は、全身的要因や自己免疫疾患、さら には悪性病変と鑑別診断をする能力が問われ、また経口摂取が困難な状態で来院するた め、治療のみならず栄養管理を含めた全身の評価・対応も必要となってくる。
❷ 原因・背景と対応
口内炎は一つの病態であり、その原因は機械的あるいは化学的損傷、ウイルス感染など 多岐にわたる。よって治療を行う前に正確な診断が必要である。口内炎の存在は口腔内を ていねいに観察すればわかるが、口内炎が多発した際には先にも述べたように、全身への 評価・対応が重要である.口内炎が必ずしも何らかの原疾患に起因しているとは限らず、
原因がわからず「多発性口内炎」と診断することもあり得る。われわれは、口内炎の診断 に対してその背景を検索しやすくするために、以下のような質問や観察を行うよう心がけ ている。
① 現病歴だけでなく、既往歴や内服薬の確認(ステロイドやビタミン B など)、がん 化学療法や放射線治療を受けていないか。
② ウイルス感染を除外するために、発熱や疲労の程度、ウイルス感染症患者との接 触、海外渡航歴など。
③ 口内炎の大きさ・深さ。
④ 口内炎は単発性か、2個以上存在するか。同じ部位での再発があるか。
⑤ 舌下面、中咽頭、軟口蓋、口峡部など通常、機械的刺激を受けにくい場所に発生し ていないか。