1)バイタルサインの確認
バイタルサインの確認は、どのような患者を診る場合においても基本である。患者を診 る前に、病棟記録などからバイタルサインの経過を確認する。実際の現場においても「な にか変だな?」と思ったら、まずバイタルサインを確認し、患者の全身状態の再評価をす る慎重さが必要である。
① 脈拍 PR(表1)
成人で100回/分以上を頻脈、60回/分以下を徐 脈という。極端な頻脈、徐脈がないか注意する。
② 呼吸 RR(表2)
呼吸が浅くて速い、深くて遅い場合は要 注意である。特に、喘鳴(いびき)、trucheal tug(気管の引き込み・鎖骨上窩の陥凹がみ られる)、奇異呼吸(吸気時の胸郭陥凹と 腹部膨隆)、呼吸音の減弱・消失、呼気中
表1 脈拍(正常値)
老 人: 60〜70 (回/分)
成 人: 60〜80 思春期: 70〜80 学童時: 80〜90 乳 児:120前後 新生児:130〜140
表2 呼吸数(正常値)
成 人:16〜20 (回/分)
学 童:20〜25
幼 児:20〜35(胸式呼吸)
乳 児:30〜40(腹式呼吸)
新生児:40〜50 1章−4◆医科的リスクの総合評価
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の二酸化炭素の検出不能、SpO2の低下は上気道閉塞の重要な徴候である。即座に主 治医や担当看護師に通報、慎重な対応が必要である。
③ 血圧 BP(表3)
血圧が著しく上昇し、脳、心臓、腎臓などに障害が生じているか、あるいは降圧し なければ重要臓器に不可逆的、もしくは致死的な障害をきたす病態を高血圧緊急症あ るいは高血圧切迫症という。症状として高血圧脳症(頭痛、目のかすみ、昏迷・昏 睡・痙攣)、左室負荷(狭心症、肺水腫)などがあげられる。
④ 意識レベル(表4)
意識障害の原因確認は重要である。また、それが急性期のもの(病態が突然変化す る危険性がある)か、慢性期(安定期にある)かどうかの確認をする〔☞資料編−◇3 204ページ参照〕。
表3 血圧(正常値)
新生児 乳 児 幼 児 学 童 成 人
最高血圧(収縮期)
60〜 80 80〜 90 100〜 90 100〜120 110〜130
最低血圧(拡張期)
60 60 60〜65 60〜70 60〜90
(mmHg)
表4 Japan Coma Scale
Ⅰ.覚醒している(1桁の点数で表現)
0 :意識清明
1(Ⅰ‐1):見当識は保たれているが意識清明ではない 2(Ⅰ‐2):見当識障害がある
3(Ⅰ‐3):自分の名前・生年月日が言えない
Ⅱ.刺激に応じて一時的に覚醒する(2桁の点数で表現)
10(Ⅱ‐1):普通の呼びかけで開眼する
20(Ⅱ‐2):大声で呼びかけたり、強く揺するなどで開眼する
30(Ⅱ‐3):痛み刺激を加えつつ、呼びかけを続けると辛うじて開眼する
Ⅲ.刺激しても覚醒しない(3桁の点数で表現)
100(Ⅲ‐1):痛みに対して払いのけるなどの動作をする
200(Ⅲ‐2):痛み刺激で手足を動かしたり、顔をしかめたりする 300(Ⅲ‐3):痛み刺激に対し全く反応しない
この他、R(不穏)・I(糞便失禁)・A(自発性喪失)などの付加情報をつけて、
JCS200‐Ⅰなどと表す。
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⑤ 体 温 BT
体温は、成人で36〜37℃(腋窩)。直腸は、腋窩より0.5℃高く、口腔は両者の中間 である。
2)麻酔・手術前の患者リスク評価(ASA 分類)(表5)
ASA 分類は、手術前の全身状態(physical status:P. S.)を総合的に評価する場合の指 針として、米国麻酔学会(ASA)が1963年に提唱した分類である。全身麻酔下に手術が 実施される際、麻酔科医が患者の予備力を計る指針として用いている。
口腔ケアを行う際、P. S. 2以下ならば特段の注意は必要ないであろうが、P. S. 3や P. S. 4の場合は、重篤な合併症が生じるおそれがないか患者の病態を分析的に評価し、
患者主治医や看護師ともよく相談して、ケアに際して注意すべき点をよく確認するべきで ある。P. S. 5の場合は、口腔ケアの適否を考慮している余裕もない場合が多いであろう。
表5 麻酔・手術前の患者リスク評価(ASA 分類)
P. S. 1:手術の対象となる局所的疾患はあるが、全身状態がよいもの P. S. 2:軽度の全身疾患があるもの
(例)コントロール良好な高血圧や糖尿病、肥満、高齢者、貧血、
慢性気管支炎
P. S. 3:中等度から高度の全身疾患があり、日常生活が制限されている 患者
(例)重度の糖尿病や高血圧および肺機能障害患者、狭心症 P. S. 4:生命を脅かすほどの全身疾患があり、日常生活が不能な患者
(例)安静時でも心悸亢進、呼吸困難を伴う心疾患(AHA 分類3 度に相当)
P. S. 5:手術の有無にかかわらず、24時間以内に死亡すると思われる瀕 死の患者
(例)心筋梗塞によるショック、重症筋無力症、大動脈瘤破裂 1章−4◆医科的リスクの総合評価
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3)慢性心不全を有する患者におけるリスク評価(表6)
New York Heart Assciation(NYHA)分 類 は、
慢性心不全に対する重症度評価法のひとつである が、臨床症状に基づく評価法としてよく用いられ ている。口腔ケアを行うことで心不全症状が悪化 することは通常ないと考えられるが、Ⅳ度の際は 歯科治療禁忌、口腔ケアは慎重に実施するべきで あろう。
4)虚血性心疾患における心疾患リスク評価
① 心筋梗塞後3か月以内
心筋梗塞後3か月以内のもの。狭心症症状が残るものは狭心症の重症度分類に基づ いて対応する。
② カナダ心臓血管学会による狭心症の重症度分類(CCS 分類)(表7)
カナダ心臓血管学会による狭心症の重症度分類(CCS 分類)は、虚血性心疾患に 表6 New York Heart Assciation
(NYHA)分類
Ⅰ度:身体活動に制限なし
Ⅱ度:軽度の身体活動制限
中等度の運動(急いで階段 を 登 る)で 心 悸 亢 進、疲 労、呼吸困難、狭心症
Ⅲ度:著明な日常制限
軽い労作(ゆっくり階段を 登る)でも呼吸困難
Ⅳ度:高度な生活制限 安静時でも症状出現
表7 カナダ心臓血管学会による狭心症の重症度分類(CCS 分類)
クラス1:日常生活では狭心症を生じない。歩いたり、階段を昇った りするような通常の労作では狭心症は起こらず、仕事やレ クリエーションでの激しい長時間にわたる運動により狭心 症が起こる場合。
クラス2:日常生活に軽度の制限がある。①急いで歩いたり、②急い で階段を上がったり、③坂道を昇ったり、④食後、寒い 日、感情的にイライラしている時、あるいは起床後数時間 のあいだに歩いたり、階段を上がった時に狭心症が起こ る。⑤平地の路地を3ブロック以上歩いたり、1階から3 階まで普通の速さで登ると狭心症が起こる。
クラス3:日常生活に高度の制限がある。平地の路地を1−2ブロッ ク歩いただけで狭心症が起こる。1階から2階まで登るだ けで狭心症が起こる。
クラス4:どのような肉体的活動でも狭心症が起こり、安静時にも胸 痛がある。
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おいては、各種運動耐用能と胸部症状などの相関において、日常生活レベルがどの程 度行えるのかが設定され、その制限がなされている。
口腔ケアのもたらす侵襲度は軽微であるが、クラス4になると、咳反射などが狭心 症症状を誘発する可能性も考えられ、注意が必要である。
5)腎不全
血清クレアチニン値が3.0mg/dl 以上。
腎臓の慢性の病気のために腎臓の機能が低下し、機能が正常時の30%以下程度に落ちた 状態を慢性腎不全という。腎臓は、老廃物、水分、電解質などを排泄することで、体の中 の恒常性が保たれているが、この機能がうまく作動しないと各種症状が起きる。腎不全を 治す有効な治療法はなく、慢性腎不全が進行して末期腎不全に至ると、人工透析か腎臓移 植が必要になる。人工透析を実施している患者でも、安定期であれば口腔ケアに際して特 別な配慮を要しない場合がほとんどであろう。腎臓疾患が重症化すると免疫力低下を招 く。アルブミン値にも注意を要する。
<腎不全>
腎臓の機能が10%〜30%に低下した段階。
血清クレアチニン値は3mg/dl 以上になる。
腎不全の症状が出る。
薬での治療、食事療法を行う。
6)肝機能評価(Child-Pugh 分類:表8)
Child-Pugh 分類は肝硬変の重症度を判定に用いられる。これは、腹水の有無、肝性脳 症の有無、血清ビリルビン、アルブミン、プロトロンビン時間(肝臓でつくられる血液を 固める作用をもつたんぱく質の検査)の5項目から肝臓の障害度を評価するものである。
Child C は、非代償性肝硬変そのものであり、肝細胞がんや食道静脈瘤などの手術や、
積極的な治療は難しいとされている。肝硬変の三大死亡原因は肝不全、食道静脈瘤の出 血、肝細胞がんであるが、近年、治療の進歩などにより、肝不全、食道静脈瘤出血による 死亡は減少しており、肝細胞がんによる死亡がもっとも多い。
口腔ケアに際して、血小板減少症(20000/
μ
ℓ以下)、プロトロンビン値の低下(40%以 下)は出血傾向の指標として特に注意を要する。1章−4◆医科的リスクの総合評価
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7)呼吸機能評価(Hugh-Jones の呼吸不全の分類:表9)
Hugh-Jones の呼吸不全の分類は、呼吸不全の評価法として一般的なものである。5度 の際は、患者の臨床症状に注意し、許容範囲以内かどうかを確認しながらケアを行う。
8)出血傾向、免疫力の評価
著しい免疫不全や出血傾向を伴う場合、口腔ケアによる粘膜損傷から局所感染を生じ、
顎炎や峰窩織炎を引き起こしたり、菌血症を生じ、敗血症に至る場合もある。また、出血 傾向が著しい場合は、咬傷で血腫形成や、歯周縁から出血を来すと止血に難渋することが ある。特に若年者の歯肉炎は清掃用具をうまく使いこなせない患者も少なくなく、不用意 に使用して粘膜を損傷させぬよう、第三者が局所評価を行ったうえでセルフケアをすすめ るべきである。
表8 Child-Pugh 分類
1点 2点 3点
脳 症 腹 水
血清ビリルビン値(mg/dl)
血清アルブミン値(g/dl)
プロトロンビン活性値(%)
ない ない 2.0未満
3.5超 70超
軽度 少量 2.0〜3.0 2.8〜3.5 40〜70
時々昏睡 中等量
3.0超 2.8未満
40未満
A 5〜6点 Child-Pugh 分類 B 7〜9点 C 10〜15点
表9 Hugh-Jones の呼吸不全の分類 1度:正 常
2度:軽度の息切れ:坂、階段の歩行は健康人なみにはできない。
3度:中等度の息切れ:平地歩行でも健康人なみにはできないが、マ イペースなら歩ける。
4度:高度の息切れ:休みながらでなければ50ヤード以上歩けない。
5度:きわめて高度:会話、軽い動作でも息切れし、外出できない。
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