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第 5 章 雑損控除の対象となる範囲

第 1 節 雑損控除の沿革とその対象

(1)雑損控除の沿革

雑損控除は、まず、昭和22(1947)年の税制改正によって、災害等によって生じた個 人的損失に対する租税法上の救済策として措置された。しかし、シャウプ勧告によって当 該規定の曖昧さが指摘され、「差別待遇の起こる余地を与え、またどういう結果になるか についての保証もなく、納税者に申請を行うはっきりとした基礎を与えない」2として、

昭和25(1950)年の税制改正により新たに整備された。

このシャウプ勧告による雑損控除の特徴は、アメリカにおけるその当時の現状を踏まえ たことであり、「合衆国において普通与えられている救済の形式は、火災、盗難のような ものによって蒙ったある種の個別の損失の控除を認めることである。しかし、この結果は、

1 Pechman Joseph A.“Federal Tax Policy” (Brookings Institution, revised ed,1971) p81.

2 シャウプ使節団『日本税制報告書』第1巻(General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers、1949)102頁。

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多数の小さな種目の控除が行なわれて税務行政には甚だしく手間をかけるが、それに応じ て公平が増加するということにはなっていない」3としてアメリカにおける雑損控除の問 題点を挙げ、それを踏まえて、シャウプ勧告では、「損失を受けた納税者で彼の純所得(そ の損失を差し引かないで計算した)の 10%を超過する損失を蒙った者に限り、損失の控 除を許す」4ことを勧告していた。その結果、納税者の担税力減少についての明確な基準 を与え、また、即応性と税務執行にも配慮したものとなっている。

しかし、その損失の発生要因については、所得区分による違いや家事消費上か否かとい う区分は設けられておらず、そのため、事業所得においても、所得の 10%を超えた損失 を受けなければ損失として認められないという点で、企業会計上の損失の取扱いとは異な っていた。

また、人為的災害、横領及び詐欺による損失の取扱いについては、昭和26年1月1日 付国税庁長官通達「所得税法に関する基本通達について」において、

327 法第11条の3の規定(雑損控除)による雑損の原因は、災害と盗難であるが、次の諸点に留意

する(括弧内筆者)

(1)災害とは、震災、風水害等の天災の外、自己の意思に基づかない火災その他の人為的災害をも 含むものとする。

(2)横領されたことによる損失は、盗難による損失に準じて取扱うものとするが、横領者等からそ の回収の見込がない場合に限るものとする。

328 詐欺による損失は、法第11条の3の規定による雑損には該当しないが、仕入等について詐欺に

かかつたような場合には、その損失額が仕入原価等を通じて表現されることがあることに留意す る。

と規定されており、災害の範囲として、自己の意思に基づかない人為的災害をも含むこと と、盗難に準じて横領も含むが、詐欺による損失は該当しないことが示されている。

その後、昭和37(1962)年の税制改正において、雑損控除の範囲に横領による損失も 含めることになり、それと合わせて上記の基本通達327および同328は廃止された。そ して、同改正においては、雑損控除対象資産の評価について整備がなされた。それという のも、創設当時の雑損控除には、災害損失を時価基準とするのか取得原価基準とするのか について明確な規定はなく、上記の昭和26年1月1日付国税庁長官通達330によって、

「雑損控除の対象となる損失額の算定については、損失時の時価によることも妨げない」

とする通達に基づき時価基準(再取得価額)で評価していた。しかし、当時の雑損控除の 資産の範囲に事業用資産のほか貴石、書画、骨とう、競走馬、別荘などの通常生活に必要 でない資産が含まれていたため、書画、骨とう等は時価評価が難しいこと、事業用資産は 取得原価基準で計算すべき等という意見から、生活に通常必要でない資産が雑損控除の対 象から除外され、損失額は、その資産を復元するための支出に具体的な担税力の減殺が認 められるのであるから、当時通達で認めていた時価(再取得額から減価償却費を控除した

3 同上、103頁。

4 同上、103頁。

57 額)による評価方法が明記されることになった5

さらに、雑損控除の対象資産から生活に通常必要でない資産及び被災事業用資産を除き、

損害が生じた場合に災害関連支出をした場合を含むとする旨の改正が行われた6。その際 に比較検討されたのが、シャウプ勧告の時と同じくアメリカ内国歳入法典(IRC)165条 であり7、事業ないし利潤を得るための取引により生じた損失とその他の損失とを区別し ている点を重視し、事業に関する資産損失については原則として必要経費として控除する ことが適当であること、および、災害等による損失について生活に通常必要な資産とそれ 以外とに分けて取扱うことを結論づけた8

そして、昭和40(1965)年の所得税全文改正においては、所得税法72条として整備 し直され、納税者と生計を一にする配偶者その他の親族でその年分の総所得金額等が基礎 控除の額に相当する金額以下の者の有する資産についても対象となった。この改正は、配 偶者や扶養親族等の資産について生じた損失について、結局は主たる納税者がその復旧費 を負担することを考慮したもの9と説明されるが、あえて付け加えれば、その親族の範囲 は政令で定められるように(所得税法施行令205条)、控除対象配偶者、扶養親族の定義 と比べると広いことに特色がある。これは、居所を同じくする親族に限らず、災害による 被害を受けた親族をできる限り助けようとする納税者の感情に配慮したものと考えられ るが、その対象となる親族は、各居所につき1人に限られるように整理されている。

その後、昭和56(1981)年の税制改正においては、災害関連支出の金額の足切り限度 額について、従来の方法である所得金額の10%に加えて5万円超とする旨の改正が行わ れた。また、昨年の平成26(2014)年の税制改正では、雑損控除の対象となる資産の損 失額の評価について、時価を基礎として計算する従来の方法に加えて、災害による被災資 産の時価の判定が困難であることから、その資産の取得価額に基づく価額(取得価額から 減価償却累計額相当額を控除した金額)を基礎として計算する方法(等価方式)が加えら れることになり(所得税法施行令206条3項)、現在に至っている。

(2)雑損控除における対象の特定要件

このように、現行の雑損控除は、居住者又は居住者と生計を一にする一定の親族の有す る資産について、災害又は盗難もしくは横領による損失が生じた場合、その年における当 該損失の金額のうち所定の金額を、その居住者のその年分の総所得金額等から控除するも のである(所得税法72条)。また、雑損控除の対象となる所定の金額を雑損失の金額と いう(所得税法2条1項26号)。なお、雑損控除については、他の所得控除と異なり、

損失の生じた年分で控除できなかった雑損失の金額を翌年以降の総所得金額等の計算上 控除する繰越控除の制度(所得税法71条)が設けられている。このため、所得控除の順

5 税制調査会「昭和3612月税制調査会答申及びその審議の内容と経過の説明」(税制調査会、1961)

553頁。

6 大蔵省主税局編「税制調査会における資産損失及び借地権に関する税制整備の審議経過」(大蔵省、

1962)6、15~17頁参照。

7 同上、14~15頁。

8 同上、16~17頁。

9 増山裕一「所得税法の雑損控除の問題点」『大阪経大論集』第64巻第5号、92頁。

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番として、まず雑損控除から控除することとなっている。

ここで、雑損控除の対象とされる災害又は盗難もしくは横領について、「災害」に対象 を絞った上で「災害等に関連するやむを得ない支出」の範囲を考察してみたい。

まず、所得税法2条1項26号は、所得税法における「災害」の意義について、「震災、

風水害、火災その他政令で定める災害をいう」旨規定し、それを受けた所得税法施行令9 条において、災害は、「冷害、雪害、干害、落雷、噴火その他の自然現象の異変による災 害及び鉱害、火薬類の爆発その他の人為による異常な災害並びに害虫、害獣その他の生物 による異常な災害」とする旨規定する。

そして、それに関連するやむを得ない支出として、所得税法施行令206条1項は、「所 得税法72条1項に規定する政令で定めるやむを得ない支出(以下「災害関連支出」とい う)は、災害により同法72条1項に規定する資産(以下「住宅家財等」という。)が滅 失し、損壊し又はその価値が減少したことによる当該住宅家財等の取壊し又は除去のため の支出その他の付随する支出(1号)、災害により住宅家財等が損壊し又はその価値が減 少した場合その他災害により当該住宅家財等を使用することが困難となつた場合におい て、その災害のやんだ日の翌日から一年を経過した日(大規模な災害の場合その他やむを 得ない事情がある場合には、三年を経過した日)の前日までにした次に掲げる支出その他 これらに類する支出(2号)、災害により住宅家財等につき現に被害が生じ、又はまさに 被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合において、当該住宅家財等に係る被害の拡大 又は発生を防止するため緊急に必要な措置を講ずるための支出(3号)、盗難又は横領に よる損失が生じた住宅家財等の原状回復のための支出その他これに類する支出(4号)」 と規定する。

これらをみる限り、災害による雑損控除の対象となる支出には大別して、災害による「住 宅家財等の原状回復のための支出とそれに類する支出」と、「住宅家財等に及ぶ被害防止 のための支出とそれに類する支出」の2種類の支出があるようである。なお、やむを得 ない支出については、二重控除を防ぐため、その納税者と生計を一にする親族等が支出し たものは含まれない。

また以上から、災害による雑損控除の対象の特定には、「災害」の範囲と「住宅家財等」

の範囲が問題となることが分かる。この点、「住宅家財等」は、所得税法72条1項括弧 書の「第六十二条第一項(生活に通常必要でない資産の災害による損失)」及び第七十条 第三項「(被災事業用資産の損失の金額)に規定する資産を除く。」の部分を指すと理解で きるため、これから、「住宅家財等」は、「生活に通常必要」な資産、および所得税基本通

達72-1(事業以外の業務用資産の災害等による損失)にある、「不動産所得、山林所得又

は雑所得を生ずべき業務(事業を除く。)の用途に供され、又は、これらの所得の基因と なる資産(令第81条第1号《譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産》に規 定する資産を含み、山林及び生活に通常必要でない資産を除く。)」が対象となる10と解さ

10 当該通達は通達内で定義された業務用資産が、災害等による損失を受けた場合にその損失額を必要経 費として計上していれば、所得税法51条に準じて全額を必要経費として認め、その場合には雑損控除の 適用を受けないとするものである。したがって、その裏から必要経費として計上しない場合は雑損控除 の適用資産となると読み取ることができる(佐藤英明「投資の失敗と所得税」『税務事例研究』Vol.73、