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第 4 章 課税単位と人的控除

第 2 節 課税単位と基礎的人的控除

わが国における所得税は個人単位課税であるが、個人は、社会において家族世帯を構成 する単位でもある。また、この家族世帯が、経済生活においては一つの消費単位を形成す ることから、多くの家族世帯は誰が所得を得るかを問わず、その消費単位において所得を 蓄え、分配すると考えられる。したがって、個人単位で課税した方が良いのか、それとも その消費単位で課税した方が良いのかという疑問が想起される。

また、以上のように課税単位を捉えた場合、夫婦別産制のような個人を単位とする社会 制度(主に家族法)を持つ国家においては、課税単位を個人単位とした方が徴税面におい ても課税の公平を満たすと考えられ、また、実質稼得者課税を旨とする所得税の定義にも 忠実であるといえる。そのため、わが国の所得税法も、原則的には個人単位主義を採用し ていると考えられる。

しかしながら、個人単位での課税に際して、特に累進税率を採用している場合には、① 全ての夫婦や家族がそれぞれ所得を得ていない場合に家族世帯を単位とすると、合計所得

12 金子 宏「所得税における所得控除の研究」『租税法理論の形成と解明 上巻』(有斐閣、2010)、およ び佐藤英明「配偶者控除および配偶者特別控除の検討」『日税研論集』52号では、規模の利益として同旨 が述べてある。なお、規模の利益は、夫婦に限らず、二人以上の共同生活を営むものにおいても起こるこ とはいうまでも無い。したがって、「生計を一にする」ことによる利益と、規模の利益は別問題であること に留意しなくてはならない。

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が同額でも課税額が違うといった不均衡がおこる、②個人単位課税を採用すると、家族の 間で資産を分散したり家族組合を設立したりすることによって所得を分割し、個人におけ る租税の負担を回避し、または軽減する傾向を招く13というような問題が想起される。つま り、課税単位の問題は、いかに公平に課税を負担せしめるか、換言すれば、「公平な担税力 のは握・測定(原文ママ)」14の問題として集約されて理解される。したがって、課税単位 はその課税単位における所得控除とも密接な関係をもつことが導かれる。

これらを踏まえて、家族の構成員に係る基礎的人的控除と課税単位との問題を、主に私 有財産制度等の社会制度と、採用する課税単位との因果関係の面から検討してみたい。

(1)諸外国の課税単位とわが国の課税単位に関する問題点

まず、課税単位の主要国における類別について次頁【図表1】をみながら確認していくこ とにしたい(さらに参考として、アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスにおける私有財 産制度がどのような制度を採用しているかについても付記している)。

13 これらの点については、「『要領のよい納税者』に対する抜け道封じのための個別申告制の制限措置とし て、納税者と同居する配偶者及び未成年者の資産所得は、納税者の申告に記載させ合算して課税する。 して、シャウプ勧告で検討され、対処されている(シャウプ使節団、前掲13、73頁)

14 吉良 実「課税単位に関する一考察」『日本税法学会創立30周年祈念祝賀税法学論文集-税法学の基本 問題-』(日本税法学会、1981)372頁参照。

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【図表1】諸外国の課税単位

類 型 考 え 方

個 人 単 位 稼得者個人を課税単位とし、稼得者ごとに税率表を適用する。

(実施国:日本、イギリス15。アメリカ、ドイツは選択制16

合算分割 課 税

均等分割法

(22乗課税)

夫婦を課税単位として、夫婦の所得を合算し均等分割(22乗)課税を行う。

具体的な課税方式としては、次のとおり。

独身者と夫婦に対して同一の税率表を適用する単一税率表制度(実施国:ド イツ)

異なる税率表を適用する複数税率表制度(実施国:アメリカ(夫婦共同申告 について夫婦個別申告の所得のブラケット(階層)を 2 倍にしたブラケット の税率表を適用した実質的な22乗制度)

不均等分割法

(NN乗課税)

夫婦及び子供(家族)を課税単位とし、世帯員の所得を合算し、不均等分割(N N乗)課税を行う。

(実施国:フランス(家族除数制度)

合算非分割課税 夫婦を課税単位として、夫婦の所得を合算し非分割課税を行う。(実施国:戦 前の日本、199046日以前のイギリス)

(参考)諸外国における民法上の私有財産制度について

(1) アメリカ:連邦としては統一的な財産制は存在せず、財産制は各州の定めるところに委ねてお り、多くの州では夫婦別産制を採用しているが、夫婦共有財産制を採用している州もある。

(2)イギリス:夫婦別産制。1870年及び1882年の既婚女性財産法(Married Women's Property Act

1870,1882)により夫婦別産制の原則が明らかとなり、1935年の法律改革(既婚女性及び不法行

為者)法(Law Reform (Married Women and Tortfeasors) Act 1935)によって夫婦別産制が 確立したとされる。

(3) ツ:原則別産制。財産管理は独立に行えるが、財産全体の処分には他方の同意が必要。

(4) フランス:財産に関する特段の契約なく婚姻するときは法定共通制(夫婦双方の共通財産と夫 または妻の特有財産が併存する)

(出所:財務省HP http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/income/029.htm).

ここで、【図表1】における、個人単位以外の課税単位の種類について少々説明する。①2

分 2 乗方式とは、夫婦を消費単位とみた課税の方法である。夫婦の所得を合算し、その半 額(2分)をそれぞれ夫および妻の所得として稼得したと仮定する。そして、それぞれにつ いて税額を計算して合算(2乗)するのである。この方法であれば、夫婦間贈与等の資産や 所得の移転に係る問題は、ある程度解消されると考えられる。

しかし、次のような問題点もある。イ.相対的ではあるが高額所得者に有利である。ロ.妻

15 イギリスは、1990年4月6日以降、合算非分割課税から個人単位の課税に移行した。

16 アメリカ、ドイツでは、夫婦単位と個人単位との選択制となっている。

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(主婦)の評価が夫の所得によって変わる。ハ.片稼ぎ夫婦のほうが共稼ぎ夫婦より有利に なる。ニ.専業主婦を優遇することになるので、女性の社会進出を妨げる結果につながる17。 ただし、これらのうち、イとロの問題については「適用範囲を一定の所得金額までに限定 する等の措置」をとり、ハの問題については「この制度と同時に共稼ぎに伴う子女の世話 に係わる支出を適正に控除し、共稼ぎ家族の担税力の弱さを考慮する仕組みを採用する」

ことにより、解決できるという主張もある18

次に、②N分N乗方式とは、家族の所得を合算した上で、家族の人数で分割(N分)す る。そして、それぞれについて税額を計算して合算(N 乗)するものである。家族を消費 単位とみた課税の方法であり、フランスが主な採用国である。この方式の問題点について は、合算の対象としての夫婦が家族になっただけであるため、①2分2乗方式と同様である。

最後に③複数税率表方式であるが、これは、例えばアメリカにおいて個人単位課税と選 択的に採用されている夫婦単位課税の方法であり、夫婦世帯、独身世帯と分けた税率表を 用いて2分2乗方式の欠点を除去するためのものである。

なお、わが国においては、①~③のいずれの方式も採用されていないが、これまでの税 制調査会報告の中で何度となく採用を検討されてきたものである。これは、シャウプ勧告 によって、原則である個人単位課税の中での例外規定として、家族内での所得分割を考慮 し、家族単位課税の要素を一部採り入れたからでもある19。そのため、その例外と原則との 折合いを付けるために、上記の中でも特に①、③の方式が検討されてきたが、実際の採用 には消極的であるといってよかった20

次に、私有財産制度と課税単位の関係について検討するが、まず、わが国の戦前の旧家 族法において、夫婦財産制度は夫婦別産制として存在した21。これは、当時の合算非分割と いう課税単位を考えれば一見不適合に見えるが、当時は戸主権がある「家」制度があった ため、夫婦財産制度の問題については、木村教授が「所得税法上所得の帰属に及ぼす効果 についての問題は、家族単位課税の原則にしたがえば所得は生計を一にする配偶者にほと んどつねに合算されかつ統一的に課税を受けていた間は、ほとんど意義を持っていなかっ た。」22と述べられるように、制度が夫婦別産制か夫婦共有制かを問わず、夫婦財産制度自 体が相当に有名無実であったと思われる。

そして、戦後、現行家族法の夫婦財産制度と課税単位との関係については、新憲法の公 布に伴う民法の改正により、夫婦にはそれぞれ、個人の尊厳と男女同権を与えられた。ま た、租税法ではシャウプ勧告により、世帯単位課税から個人単位課税とされたため、夫婦

17 金子 宏、前掲注2、184頁。

18 同上、184頁。

19 家族間での必要経費不算入(現行所得税法56条)、資産合算制度等(昭和63年廃止)を定めた(前掲 13、73頁参照。

20 福島千幸「課税単位と所得分割」(大東文化大学経営研究所、Research papers, No.J-25、1996)1-12 頁。

21 夫婦財産契約登記取扱手続(明治三十二年五月三十一日司法省令第15号)参照。

22 木村弘之亮「夫婦財産法上の合意と人的帰属」『法学研究』6412号、86頁。