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- 現行所得税法における所得控除を中心として - はじめに

民主党政権の下、平成22年税制改正大綱で「所得控除から税額控除・給付付き税額控除・

手当へ」と転換を進めていくことが提言され、年少扶養控除、特定扶養控除はそれぞれ子 ども手当と高校無償化に置き換えられた。さらには、「最小生活費には課税しない」との観 点から、「税と社会保障の一体改革」として、年金、生活保護等の社会保障制度改革と一体 的に人的控除が整備される傾向にある。したがって、人的控除の問題は「古くて新しい」

問題ということができるであろう。しかしながら、最小生活費を保証する役割まで租税法 が担うことが適当なのかという疑問も同時に想起される。

わが国の現行所得税法は、その課税単位を個人単位としているため、所得控除の中でも 単身者世帯においては問題とならない人的控除が、配偶者や扶養家族を持つ場合に問題と なることがある。なぜなら、人的控除は、その納税者個人の事情に加えて、その配偶者、

家族の事情をも反映させるものとなるため、その意味で個人の裁量の範囲で納税義務者個 人の事情を留まらせないものとなるからである1。また、個人単位課税の徹底という面から も一見問題があるように思われる。

また、現行の所得控除において、しばしば世帯単位課税の名残とされる「生計を一にす る」という規定が登場するが、それは、戦前旧家族法下での「家」制度の名残ともされる ものでもある。この点、課税単位と社会制度の因果関係がみられるのではないかという疑 問が想起される。

以上から、人的控除と課税単位の関係を意識して、配偶者控除や扶養控除といった家族 世帯を考慮した基礎的人的控除について考察する前段階として、まず、所得控除と「生計 を一にする」規定がどのような関係にあるかを確認する必要があると考えられる。

したがって、前章までと一部重なる部分2となるが、まずは現行所得税法における所得控 除の機能について再度確認する。現行の所得控除には、本論文でとりあげる基礎控除、扶 養控除等の基礎的人的控除の他、寡婦(夫)控除等の特別人的控除3、および寄付金控除等 の租税政策目的控除、さらには、稼得した所得の消費場面としてだけでは類別の困難な医 療費控除や雑損控除等までが含まれる。したがって、所得の稼得計算と切り離した個人の

1 世帯までを考えた場合、所得控除を付け替えることによって世帯員の納税額を主観的に調節することが 可能である。詳しくは後述している。

2 拙稿「所得控除の発展」『熊本学園大学商学論集』第18巻第1号、35-37頁参照。

3 なお、わが国では人的控除を「基礎的な人的控除」と「特別な人的控除」とに分類し、さらに「基礎的な 人的控除」は、基礎控除、扶養控除、配偶者控除とに分類し、「特別な人的控除」は、障害者控除、寡婦(夫)

控除、勤労学生控除とに分類している(参考:財務省HP:http://www.mof.go.jp/tax_policy/summary/

income/045.htm)

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消費場面に照らすだけでは一括りにして説明することが不可能なものである。

しかしながら、その基本的な機能は、包括所得概念の下、納税義務者個人の担税力算定 面での主観的な事情を消費の面から斟酌し、それを多様な所得控除を設けることによって、

より個人の事情に配慮した担税力として反映させるというものである4。つまり、所得控除 は、個人の担税力を主観的ではあるが正確に把握する機能を持つ。このことは、所得控除 が細分化されればされるほど担税力算定における正確性が増す反面、納税者の主観的事情 が盛り込まれやすいという問題を抱えることになることを示唆しており、納税者間の水平 的公平が問題となり得る。

また、所得控除の性質からの分類として、①基礎的人的控除、②特別人的控除、③担税 力調節控除、④強制保険料等控除、⑤保険奨励控除、⑥寄附奨励控除の 6 通りが挙げられ る5ことがあるが、それ以外として、そもそも個人のみに係わる控除なのか、あるいは世帯 も考慮にいれたものなのか、つまり課税単位に関わるか否かという類別の仕方もあるよう に思われる。そして、世帯を考慮した場合、「生計を一にする」という規定も世帯と密接な 関係があると考えられるため、これらを踏まえて、本章では所得控除の性質面とその性質 が、「生計を一にする」規定に関わるか否かを意識して、所得控除の機能を確認していくこ とにする。

第1節 所得控除における性質からの類別

まず確認であるが、所得控除とは、所得税の課税標準である総所得金額等から控除され る納税者の個人的支出であり、本来所得の消費に当たるものである6。したがって、個人所 得の主観的な処分場面である消費を踏まえて、その納税者の課税標準を担税力に近づける 機能をもつといえる。この機能は、性質面からの類別として、一般的には上記した 6 通り に分けられることになるが、それ以外の類別の仕方として、一身専属の控除(世帯構成員 間で付け替えの効かない控除)と、それ以外の控除というものがあるように見受けられる。

一身専属の控除とは、たとえば人的控除であれば、配偶者控除のような、納税者から見 て特定の一人に限られるもの、もしくは、寡婦(夫)控除、勤労学生控除、障害者控除と いった、契約もしくは法律上特定の個人のみに限定される控除がそれにあたる。それ以外 の控除は一身専属であるとは必ずしもいえないので、それ以外として分類できよう。そし て、それ以外となるものは意外にも少なく(扶養控除、医療費控除、雑損控除)、この点で やはり、所得控除は納税者個人の事情を担税力として反映させているということができる7

4 拙稿、前掲注2、34-35頁。

5 金子 宏「総説-所得税における所得控除の研究」『日税研論集』52号、4-5 頁。なお、性質からの分 類には、諸説あることを付記しておく。

6 水野忠恒「所得控除と憲法問題」『日税研論集』52号、25頁。

7 これらのそれ以外に分類した控除は、それぞれ「生計を一にする」の文言を含む規定となっていること は特筆に値すると思われる。なお、一身専属とした控除の中でも配偶者特別控除および寡婦(夫)控除は、

「生計を一にする」の文言を持つが、その対象が一方の配偶者または要扶養の子のみに限定されるため、

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また、人的控除の中でも基礎控除については、個人の課税最低限として考えれば一身専 属の控除となることに疑問の余地はないが、それは単身世帯のみにあてはまるのであって、

世帯内に扶養している家族がいる場合には、後述する二重の控除の問題を踏まえて考えて みる必要があるだろう。

さらに、その他の所得控除の性質からの類別として想起されるものには、やむを得ない 事由により支出されたものか、もしくはそれ以外の単純に稼得した所得の消費場面かとい ったものがある。前者に当てはまるものとして、雑損控除や医療費控除といった、個々の 事情により支出され、その金額が定まるものが挙げられる。雑損控除と医療費控除は、シ ャウプ勧告により新設されたものであり、これらの控除の趣旨・目的について、シャウプ 勧告は、「雑損に対する控除」8および「医療費」9として個別に述べているため、以下にそ の内容を確認することにする。

まず、雑損控除については、「現行法において税務当局に『災害その他の理由で納税資力 を喪失』した個人の所得税を減免する権限を与えている一般的な規定が存する」10が、曖昧 な規定となっており、納税者にその申請を行なうはっきりとした基礎を与えるに十分でな いと述べている。

そして、「合衆国において普通与えられている救済の形式は、火災、盗難のようなものに よって蒙ったある種の個別の損失の控除を認めることである。しかし、この結果は、多数 の小さな種目の控除が行なわれて税務行政には甚だしく手間をかけるが、それに応じて公 平が増加するということにはなっていない。」11としてアメリカにおける雑損控除の問題点 を挙げ、それを踏まえて「損失を受けた納税者で彼の純所得(その損失を差し引かないで 計算した)10%を超過する損失を蒙った者に限り、損失の控除を許す」12ことを勧告した。

その結果、納税者の担税力減少についての明確な基準を与え、また、即応性と税務執行に も配慮したものとなっている。

次に、医療費控除については、「費用のかかる疾病は、医療費がこのような場合控除を認 めらる(原文ママ)べきであるとは必ずしも考えられないが、やはり納税者の支拂能力に 重大な支障をおよぼす。」13とし、それは、「基礎控除で償われていると見るべき生計費の控 除を別に設けることになり、これは税務行政に不当の負担を負わしめることとなる」14とい う考えの下で、「しかし、このような費用が甚だしく多い場合」15には、「支拂能力に相当な 付け替えという点においては問題にならない。

8 シャウプ使節団『日本税制報告書』第1巻(General Headquarters, Supreme Commander for the Allied Powers、1949)102-103頁。

9 同上、103-104頁。

10 同上、102頁。

11 同上、103頁。

12 同上、103頁。

13 同上、103頁。

14 同上、103頁。

15 同上、104頁。