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第 5 章 雑損控除の対象となる範囲

第 3 節 投資用資産は雑損控除の対象たり得るか

(1)投資用資産が雑損控除となる範囲

第 2 節で検討したように、基本的に資産における「生活に通常必要」か否かの判定に ついては、生存権的な意味合いはないと解される。これを踏まえて、生活に通常必要な資 産について生じた損失のうち、譲渡損は、譲渡所得計算上、無視されることになり、災害、

盗難、横領による損失は、雑損控除の対象となるが、災害等によらない損失は、雑損控除 の対象から除かれる。

他方で、生活に通常必要でない資産が雑損控除の対象とはならないのは、この種の資産 は、たとえ損失が生じていても納税者の生活にとって、その再取得が不可欠であるという ほどの重要性、必要性を持つものでない30と判断されるからである。

ここで、雑損控除の対象となる支出を以下雑損と定義し、その雑損については、「雑損 とは、納税者の意思に基づかない、いわば災難による損失を指す」31という最高裁の判例 がいわば定式化されている。この判例は、譲渡資産上の抵当権抹消のための第三者の債務 の弁済に要した費用32、不動産の買主が売主に没収された手付金33、子が第三者に与えた 傷害につき納税者が支払った損害賠償金34など、納税者の意思に基づいて行った支出を雑..................

29 三須友晶「雑損控除の適用される『人為による異常な損害』:アスベスト除去費用の該当性」『龍谷大 学大学院法学研究』第17巻、49-54頁参照。

30 田中 治「資産損失」『日税研論集』Vol.31、93頁。

31 最高裁昭和361013日判決(昭和 35 年(オ)第 437 号)LEX/DB【文献番号】21015390。

32 同上。

33 名古屋高裁昭和42914日判決(昭和41年(行コ)第6号)LEX/DB【文献番号】21026350。

34 福岡高裁昭和57224日判決(昭和56年(行コ)第15号)LEX/DB【文献番号】21075860。

67 損の範囲から除く基準..........

として機能している35

この点は、雑損失が所得の定義において「消費」に当たらないとする考え方との関係で 重要である36。なぜなら、【図表1】が示すように、「生活に通常必要」な動産を譲渡して 譲渡損失が生じた場合にはそれを控除し得ないのに、当該資産が災害により破壊された場 合には、その損失が控除し得るとすることを整合的に説明しようとするならば、前者が納 税者の意思に基づく損失であって、いまだ「消費」の範疇に属すると考える余地があるの に対し、後者はそのような「意思」の契機を持たないが故に「消費」とは考えられず、し たがって純資産の減少要因として捉えることが可能だという点を指摘するのが 1 つの方 法だと考えられるからである。判例の「納税者の意思」による基準は、このような論理と 親和性を持つ37

また、沿革でもみたように、実務上は、早くから雑損失の発生原因を「災害とは、震災、

風水害等の天災の外、自己の意思に基づかない火災その他の人為的災害を含むもの」と定 義しており、その内容は、判例における考え方と同様であると確認できる。さらに、学説 においては、「災害等による異常損害」や「一定の金額を超える雑損失」は、納税者の担 税力を弱めるので、それに対応するために雑損控除が行われると説明されており38、通説 では租税誘因措置ないし租税特別措置の一種である所得控除として「寄附金控除」のみを 別に挙げていることから39、これらの説明より、雑損控除もまた、所得控除の一般的な機 能(個人の主観的な担税力の調整機能)を持ち合わせていると考えてよいであろう。

そもそも、雑損控除の規定には「盗難、横領」を含むものであるから、その対象資産に は「生活に通常必要な」家財道具に限らないと思われる。現金はいうに及ばず、その換金 可能性を考慮に入れなければ、有価証券あるいはクレジットカード等までもが含まれると 解される40

また、先に示した所得税基本通達72-1が、業務用資産について、「不動産所得、山林所 得又は雑所得を生ずべき業務(事業を除く。)の用途に供され、又は、これらの所得の基 因となる資産(令第81条第1号《譲渡所得の基因とされないたな卸資産に準ずる資産》

に規定する資産を含み、山林及び生活に通常必要でない資産を除く。)」として定義してい ることから、この範囲にあてはまれば、「その物自体が所得の基因となる業務用資産」41を 投資用に所持していた場合はそれも雑損控除の対象となると考えられる。

それでは、業務用資産における残りの規定の部分については、どう考えるべきであろう

35 佐藤英明「雑損控除制度-その性格づけ」『日税研論集』No.47、43頁。

36 同上、43頁。

37 同上、43頁。

38 金子 弘『租税法[第20版]』(弘文堂、2015)197頁、武田昌輔編『DHC所得税務釈義』(第一法 規、加除式)、3191頁。

39 佐藤、前掲注3545頁。

40 直審3-95昭和471012日付国税庁長官通達において、クレジットカードが不正に使用された 部分は雑損控除となると周知している。

41 この規定ぶりから、【図表1】を参考にして、その物自体が所得の基因となる業務用資産の範囲に具体 性を持たせると、1個又は1組の価額が30万円以下で、かつ、(1)①不動産所得、雑所得または山林所 得を生ずる業務に関する棚卸資産に準ずる資産、もしくは、②取得価額か20万円未満の少額減価償却資 産または使用可能期間が1年未満の減価償却資産、(2)営利を目的として継続的に譲渡される資産、(3)

金銭債権のいずれかに当てはまるものが該当することになる。

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か。「不動産所得、山林所得又は雑所得を生ずべき業務(事業を除く。)の用途に供され」

る資産とは、例えば、事業規模でない不動産賃貸用の物件、棚卸資産の販売、制作に係る 加工用の機械設備および店舗や車両運搬具等で家事用にも供するもの(事業専用割合が 100%未満のもの)が考えられる。

このように例示してみると、純粋に投資用にも転用できそうなのは、不動産賃貸用の物 件のみであるが、事業でない規模で行って得る不動産所得は、そもそも余剰資金による投 資用不動産としての意味合いが強いとも考えられるため、業務の用途に供される業務用資 産は基本的に事業専用割合が100%未満であるとして割り切って良いと思われる。

事業専用割合が100%未満であるということは、家事分との按分が必要になるというこ とと同義であるが、この点、仮に、事業専用割合が100%未満の業務用資産を投資に回し た場合、業務活動(事業規模でない)としての投資と、消費活動とが混在してしまうよう に思われる。これは、どのように理解すればよいのであろうか。順を追って考えてみたい。

業務活動としての投資は、事業活動としての投資と同じく、業務用の資産を利用して所 得を得ることだと考えられる。また、個人の余剰資金や余剰資産を投資に回して運用する ような行動も、所得稼得活動となるため、消費活動とは、単純に生計のための支出活動だ と整理できる42。つまり、個人資産の投資用資産は消費活動とは完全に切り離されて存在 することが改めて明らかになる。

したがって、業務の用途に供される業務用資産においては、その事業専用割合に応じて 家事分との按分が行われた上で、投資用資産としても利用できると解され、「その物自体 が所得の基因となる業務用資産」と分ける必要はないと考えられる。また以上から、雑損 控除の対象となる資産には、投資用資産のように換金可能か否かを問わず、30万円以下 であれば個人で所有する資産一般が含まれると解される。この点、先述したように、昨年 の税制改正において、雑損控除の対象となる資産の損失額の評価方法について、時価だけ でなく取得価額に基づく価額が追加されたこととも整合的である。これらをまとめると、

30万円以下の個人用資産は、生活用、投資用を問わず全ての資産が雑損控除の対象とな り、その損失額の評価も資産の態様に応じて行われるように整備されていると理解できる。

また、業務用資産の資産損失についてはその年分の所得を上限として控除されることに なっているが、これは、業務用資産によって稼得した所得が、損益通算されない雑所得に も区分されることを念頭に置いての措置であるといえる(所得税法51条4項参照)。

(2)「自己の意思に基づかない」投資損失

そもそも、投資損失とは何かを考えてみた場合、例えば株式等の譲渡によらない評価損 は、個人消費に回ったわけではない(換価されていない)から、納税者の純資産を減少さ せる所得のマイナス要素である。事業上の損失も、こうした投資損失と同様に考えられる。

42 佐藤教授が、雑損について「その取得の時に全額が消費されたとみなしていると考えることが可能で あり、したがって、その使用から生じる帰属所得が非課税である以上、損害によってそれが破壊されて も被るべき損害事態が発生していないと考えるのが、制度の建前に整合的な理解である」(佐藤、前掲注

35、49頁)と述べるように、消費活動における資産取得は、基本的に事業や投資のものとは切り離して

考えることになる。