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第 9 章 所得税法 56 条が家族間パートナーシップに及ぼす影響

第 1 節 資産損失制度の沿革と意義

(1)資産損失制度の沿革

資産損失制度の沿革は、戦前の大正9年改正による所得税法まで遡る。この改正にお いての検討で、田中勝次郎氏は、施行規則7条の「収入を得るに必要なるもの」という 必要経費の定義について、「商品又は原料品が天災不可抗力に依りて滅失した場合に、之 れに依って生じたる損害(保険金を以て填補せられざりし損害)を必要経費に加算する ことを認めたる規定がない。併しながら、商品原料品の如き運転資本は営業利益獲得の 直接の原因を為すものであるから、源泉説と雖も此の種の資産の喪失は之を損金に計上 することを認めて居ることは既に述べたるが如くである。故に我税法の解釈としても、

此の種の資産の喪失は所得の計算上之を損金に計上し、我税法の所謂必要の経費に該当 するものと解するを穏当とする。」2と述べ、当時の所得概念が制限的所得概念に依拠し ているのを分かった上でなお、その当時における行政上の取扱いである「火災其ノ他二 困り滅失シタル仕入品等ノ原価ハ之ヲ必要経費二加算スルモノトス」3という通牒につい て、この種の資産の滅失を以て必要経費の一種と解し、所得の計算上これを控除するこ とを明文の規定に拘らず認めているのは、正当の解釈であるとしている4

したがって、1923(大正12)年に起きた関東大震災の被災者に対する緊急勅令5にお いて、通常の所得税算定方法に対する空前の例外に属する措置であるとしながらも、上 記通牒の考え方と同様に制限的所得概念に拘らず、関東大震災により損害を受けた個人 のうち、①所得金額が一万円以下で自己の住宅又は家財の過半を失った者の第三種の個 人所得に対する所得税はその全部が免除され、②その他の者についてはその所得金額か ら「震災により滅失又は毀損した『所得ノ基因タル自己所有ノ家屋其ノ他ノ築造物、船 舶、棟械、器具、商品、原材料等』の損害見積金額」および、「住宅又は家財について受

1 神戸地裁平成25123日判決、平成24年(行ウ)第6LEX/DB【文献番号】25503124。

2 田中勝次郎『所得税法精義』(巖松堂書店、1930)230頁。

3 昭和216日付主秘一号「所得税法施行二関スル取扱方通牒」151。

4 田中、前掲注2、230頁。

5 大正12年勅令4101条、および大正12年勅令433号。

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けた損害の程度に応じた額」の金額を控除後の所得金額に税率を適用した金額をもって、

その者の所得税額とすることとされていた6

以上からは、「通常の所得税算定方法に対する空前の例外に属する措置」ではあったが、

既に大正 12 年において、①については、現行法の資産損失、②については雑損控除に 類似した方法で災害による損失の所得税法上の手当が行われていたと解される。

この方法は、その後の昭和14年災害免除法7に引き継がれており、当該災害免除法は、

昭和22年に全文改正が行われ、「災害被害者に対する租税の減免、徴収猶予等に関する 法律(以下、「災害減免法」という)」8として新たに公布、施行された。この法律は、所 得税の軽減免除に関して、①「住宅又は家財」について被害を受けた場合と、②「所得 の基因たる資産又は事業の用に供する資産」について被害を受けた場合とに区分し、前 者については税額減免塑の制度を、後者については必要経費型の制度を採用し9、次のよ うに定めている。

①「災害により自己の住宅又は家財につき生じた損害金額がその住宅又は家財の価額の五〇%以上 である者でその被害を受けた年分の所得金額が八万円以下であるものについては、所得金額が二万五 千円以下であるときはその年分の所得税額の全部を、二万五千円超五万円以下であるときは所得税額 の五〇%相当額を、五万円超八万円以下であるときは所得税額の二〇%相当額をそれぞれ軽減免除す ること。」10

②「災害により、①自己の家屋、田、畑及び塩田で他人に貸付けていた者、②自作していた田、畑 及び自営していた塩田又は③自己の家屋その他の建造物、船舶、磯城、器具、商品及び原料品で事業 の用に供していたものにつぎ生じた損害金額がそれぞれこれらの資産の価額の五〇%以上である者に ついては、これらの資産についての滅失又は損壊による損害金額は所得金額の計算上必要な経費とみ なすこと。」11

このように、災害時における資産損失の所得税への取扱いについては、関東大震災時 の勅令にその淵源をもつ災害減免法によって手当が為されてきたが、昭和 22 年税制改 正によって、包括的所得概念が採用されたこと、およびシャウプ使節団におけるシャウ プ勧告に従った昭和25年所得税法全文改正に伴い、昭和22年災害免除法においても昭 和25年に改正がなされた12

6 大蔵省編纂『明治大正財政史』第六巻(経済往来社、1958)1167頁。

7 昭和14年勅令第220号(昭和十三年ノ災害被害者二対スル租税ノ減免等二関スル件)施行方(昭和 14年大蔵省令16号)三条は、対象となる資産の範囲について、「昭和十四年勅令第二百二十号第三条 二規定スル所得ノ基因タル資産ハ所得ノ基因タル自己所有ノ家屋其ノ他ノ築造物、船舶、枚械、群具 等トシ営業ノ用二供スル資産ハ営業ノ用二供スル(自己所有ノ家屋其ノ他ノ築造物、船舶、機械、器 具等トス」と定めている。

8 昭和22年法律175号。

9 藤田良一「所得税法上の資産損失制度に関する一考察」『税大論争』13号、142頁。

10 昭和22年災害減免法2条。

11 昭和22年災害減免法5条。

12 昭和25年法律70号。同年の所得税法改正に伴う雑損控除の措置に伴い、資産損失についての条文 であった第5条は削除され、「住宅又は家財」について被害を受けた場合の税額控除を定めた第2条の みが残された。そして、所得税法における雑損控除と、災害減免法における税額控除のどちらかを選

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また、このシャウプ勧告における所得税法全文改正によって、雑損控除が新たに措置 されたのは第3章および第5章で既に述べているが、この当時の雑損控除が「災害また は盗難により、棚卸資産以外の資産について生じた損失の金額が、総所得金額の10%を 超えるときは、その超過額を雑損控除として総所得金額から控除する」と規定している とおり、資産損失の場合における必要経費控除制度はなくなり、所得控除に一本化され た。この意味で、藤田教授は、「所得の基因たる資産又は事業の用に供する資産の災害損 失に関する制度の必要経費型から所得控除型への転換は、事業用資産の資産損失に関す る制度のあるべき姿からみれば、一歩後退したということができよう」13と述べている。

シャウプ勧告により、資産損失の必要経費控除が所得税法の規定上なくなったことは、

その後の課税実務上に混乱を招いた。例えば、事業の遂行上生じた債権の貸倒損失につ いては、通達14に定めがあったが、事業と称するには至らない業務上の不動産の貸付け に係る未収家賃、非営業貸金の元本・未収利息等については、その貸倒損失は、必要経 費に算入されないと解されていたが、その理由については定かではないとされる15。 そして、昭和 22 年所得税法の解釈上たな卸資産の損失は必要経費に算入されること を前提とした上、昭和34年法律79号により、災害により生じたたな卸資産の損失額は

「被災たな卸資産の損失の金額」として、青色申告書の提出がない場合であっても、前 年以前3年内の各年において生じた純損失の金額のなかに含まれている被災たな卸資産 の損失の金額は、その年分の課税標準の計算上控除されることとされた16

なお、この改正に関連して、たな卸資産につき損失を受けたことにより取得する保険 金、損害賠償金等は、事業所得の収入金額とされることが明らかにされたが、この規定 も、たな卸資産の損失は必要経費に算入されるということを前提とした規定であるとい えよう17

また、同年から、陳腐化等により効用を失った事業等の用に供されている固定資産の 廃棄損失及び耐火建築促進法により建物を耐火構造のものに改築するための建物の取壊 損失は、事業所得等の必要経費 に算入するという運用が行われることとなった18

以上の税法改正および、課税行政の変更は、事業所得における資産損失については必 要経費に算入すべきであるという当時の実務上の要請が極めて強かったことを物語って おり19、その後の昭和36年の税制調査会答申に反映され、昭和37年税制改正により、

現行の資産損失制度が整備された。これにより、シャウプ勧告によって一時的に所得控 除に一本化された資産損失は、雑損控除である「生活に通常必要な」資産について行わ 択して適用することになり、時々の改正を経ながらも、所得控除との選択性のまま現在に至っている。

13 藤田、前掲注9、146頁。

14 昭和2611日付国税庁長官通達267。

15 田中 治「資産損失」『日税研論集』Vol.31、73-74頁、および藤田、前掲注9、147頁。

16 昭和25年所得税法9条の43項、6項。

17 藤田、前掲注9、148頁。

18 昭和34年直所通達256。

19 藤田、前掲注9、149頁。