第Ⅴ章 日本の障害者制度改革と情報アクセス・コミュニケーション保障 . 139
5. 障害者差別解消法
5.1 障害者差別解消法の概要
障害者権利条約の発効等の障害者の権利の保護に関する国際的動向等を踏まえ、全て の国民が、障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合 いながら共生する社会の実現に向け、障害を理由とする差別の解消を社会において推進 することを目的とした「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、障害 者差別解消法)が、2013(平成25)年6月19日、第138回通常国会にて成立した。こ の障害者差別解消法は、2010(平成 22)年11月に前述の障がい者制度改革推進会議の 下で開催された差別禁止部会がまとめた意見(2012年9月14日提出)164に基づいて検 討された。障害者差別解消法の内容は、大まかに7つ挙げられる。
一つは、障害を理由とする差別を解消するための措置として、行政機関及び地方公共 団体等について、障害を理由とする差別的取扱いを禁止し、社会的障壁の除去の実施に ついての合理的な配慮をするよう定めるとともに、事業者についても同じく障害を理由 とする差別的取扱いを禁止し、社会的障壁の除去の実施についての必要かつ合理的な配 慮をするように努めることを定めたことである。差別的取扱いの禁止については、国、
地方公共団体、民間事業者に法的義務を課したが、合理的配慮の不提供の禁止について は、国、地方公共団体には法的義務を課し、民間事業者には努力義務とした。
二つは、政府は、障害を理由とする差別の解消の推進に関する施策を総合的かつ一体 的に実施するため、障害を理由とする差別の解消の推進に関する基本方針を策定するこ とを定めたこと。
三つは、行政機関の長等は、基本方針に即して自らの職員が適切に対応するために必要 な要領を定めるとともに、事業者の事業を所管する各主務大臣は、基本方針に即して事業 者が適切に対応するために必要な指針を策定することを定めたこと。
四つは、各主務大臣は、特に必要と認めるときは、指針に定める事項について、事業者 に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告をすることができるようにしたこと。
五つは、障害を理由とする差別を解消するための支援措置として、国及び地方公共団 体は、障害を理由とする差別に関する相談に的確に応じるとともに、障害を理由とする 差別に関する紛争の防止又は解決を図ることができるよう必要な体制の整備を図ること ができるよう必要な体制の整備を図るほか、必要な啓発活動を行うものとしたこと。
六つは、国及び地方公共団体の機関は、関係機関等が行う障害を理由とする差別に関 する相談や障害を理由とする差別を解消するための取組を効果的かつ円滑に行うため、
関係機関等により構成される障害者差別解消支援地域協議会を組織することができるよ うにしたこと。
164 http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/seisaku_iinkai/pdf/bukai_iken1-1.pdf 参照
155
七つは、障害者差別解消法の趣旨の周知徹底を図るため、施行期日を2016(平成28)
年4月1日とし、施行日以前においても基本方針の作成等ができるようにしたこと。
障害者差別解消法の規定は、改正障害者基本法第4条の3条項(第1項「障害を理 由とする差別等の権利侵害行為の禁止」、第2項「社会的障壁の除去を怠ることによる権 利侵害の防止」、第3項「国による啓発・知識の普及を図るための取組」)を具体化した ものである。
5.2 障害者差別解消法の課題
当初、障害者差別禁止法という名称の法案を目指していた。「禁止法」から「解消法」
に変更した経緯について、国会内閣委員会に質疑にたった国会議員発言165が参考になる ので以下に引用する。
「まとめる段階で、多くの当事者、関係者の方たちの意見を伺いました。そこで、当 初、差別禁止法と私どもも申しておりましたが、解消法となりましたのも、障害者の社 会参加を促し、共生社会を構築するという観点から、禁止法という名称では強すぎるの ではないか、むしろ、国民の皆様が障害者を遠ざけることなく理解啓発を進め、権利条 約にあるとおりの、障害の有無によって分け隔てられることなく、人格と尊厳が尊重さ れる社会をとの意見に基づいたものでございます。」
「差別禁止」と言う言葉が国民に馴染みにくく、障害者への理解促進がすすまなくな るのでないかとの危惧(抵抗)が強くあった。わが国において「差別禁止」が避難・制 裁を加えるものと言う受け止め方が強く、意識的・無意識的に拒絶の反応が働く傾向に ある。多くの当事者団体は「差別禁止」を使うことを要望しているが、上記の国民感情 を受けて法案の名称使用の是非について意見が分かれた。今後、「差別をなくしていく」
という姿勢から「差別をやめる、やめさせる」という強い意識への転換を図るためには、
啓発活動の内容を工夫していくことが必要となる。
また、差別禁止部会の意見の記述にあるように、属性や能力において多様性に富む個 人により構成される社会において、それぞれがその力を発揮し、お互いに支え合ってい くには、その間に存する差異は尊重されるべきであり、障害者の完全参加と平等の実現 は、特に少子高齢化が進行するわが国にとって社会全体に活力を与えるものであること の視点は重要である。
障害者差別解消法で定める「障害」は、改正障害者基本法の第2条の定義を採用してい る。この条項で、「身体障害、知的障害、精神障害(発達障害を含む。)その他の心身の機 能の障害」を「障害」とした上で、障害者を、これらの障害がある者であって、「障害及び
165
http://www.shugiin.go.jp/itdb_kaigiroku.nsf/html/kaigiroku/000218320130605017.htm 参照
156
社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」
と定義している。これについて、差別禁止部会の意見では、個人の属性に社会的不利の原 因を求めるものではなく、差別という社会的障壁の発生の契機となる事由を特定するに過 ぎないものであるがゆえに、社会モデルの考え方と相反するものではないとしている。し かし、上述の差異を尊重し、個人の属性に社会的不利の原因を求めるものではないとする のであれば、「心身の機能の障害」という記述は不適切であり、「心身の機能が働かない、
働きにくい、または心身が機能しない、機能しにくい」という記述が適切であろう。従い、
心身の機能の差異によって、どのような社会的障壁が生じるのか、そしてこの社会的障壁 が差別として認定されるのか、その検証が今後の作業に求められる。
障害者差別解消法で定める差別の定義、障害を理由とする差別の行為としては、「不当 な差別的取扱い」と「合理的配慮の不提供」が規定された。ここでは「合理的配慮の不 提供」について言及する。合理的配慮の内容について、差別禁止部会では、1)基準・手順
の変更、2)物理的形状の変更、3)補助器具・サービスの提供の三つの視点を挙げているが、
手話通訳、要約筆記、盲ろう者付き介護・通訳等の人的支援(サービス)や、点字、手 話等の情報提供やコミュニケーション手段等の選択の位置づけが不明確である。これは 意思疎通に障害がある者が差別禁止部会の委員として加わることがなかったために情 報・コミュニケーションとして独立した条項が設けられたものの深みのある議論ができ ていないことの証左である。但し、差別禁止部会の意見では「現状においても技術や体 制の整備ができるにもかかわらず、これを提供しない場合については、これを合理的配 慮の不提供として考えるのが妥当である。なお、国及び地方公共団体による情報提供の 場合、国民や住民を対象とするものである以上、原則として過度の負担について問題に するのは適切でない。」と言及したことは評価してよい。現在、係争中の高松裁判166では、
自治体が十分に提供できる体制があるのにもかかわらず保護者等を対象にした学校説明 会での手話通訳の派遣を拒否した。これは障害がある保護者が学校説明会への参加を拒 否されたことを意味するものであり、「合理的配慮の不提供」と同様に「不当な差別的取 扱い」にも該当する。
障害者差別解消法は、国等は「法的義務」を課し、民間の場合「努力義務」とした。国 等の範囲について、国会内閣委員会での政府答弁では、「合理的配慮の提供に関しまして、
一律に法的義務とするのではなく、国の行政機関や地方公共団体、独立行政法人等の政府 の一部を構成すると見られる法人などの公的主体につきましては法的義務を課し、一方、
民間事業者につきましては努力義務167とした上で取り組みを推進するということとしてお
166 http://takamatsu-haken.jimdo.com/ 高松市の手話通訳派遣を考える会サイト参照
167 2013年6月に成立した改正障害者雇用促進法は、「合理的配慮の提供」について、民
間事業者も含めて事業主に対し「義務」を課すことになった。障害者差別解消法との関 係については、「改正障害者雇用促進法~概要と今後の課題~」松本正志著 手話通訳問 題研究125号を参照。