第Ⅴ章 日本の障害者制度改革と情報アクセス・コミュニケーション保障 . 139
2. 障がい者制度改革推進会議
2.1 推進会議のアクセシビリティと合理的配慮
推進本部の設置目的は、障害者の権利に関する条約(以下、権利条約)の締結に必要 な国内法の整備を始めとする我が国の障害者に係る制度の集中的な改革を行い、関係行 政機関相互間の緊密な連携を確保しつつ、障害者施策の総合的かつ効果的な推進を図る こととなっている。
そして、この推進本部のもと障害者施策に関する意見を求めるために推進会議が設置 された。この推進会議の構成員は24名、オブザーバー2名、併せて26名となっており、
構成員24名のうち11名が障害者、オブザーバー2名のうち1名が障害者(盲ろう者)
である。会議を構成する障害者は、ろう者、難聴者、盲ろう者、聴覚障害者、肢体不自 由者、精神障害者、知的障害者と多様である。そのため会議参加のための取り組みも多 種多様になった。会議には、手話通訳、要約筆記通訳、指点字通訳がついた。さらに知 的障害者には支援者が一人つき、会議内容の理解や適切な発言をするために必要に応じ て支援者と相談することができる。推進会議で使用する言語は、音声言語である日本語 である。推進会議での日本語へのアクセスが、コミュニケーション・バリアを抱える障 害者にとって大きな関門であった。難聴者のために磁気ループを配備して補聴器で音声 を聴きながら、文字(要約筆記)も読み取れるようにした。手話でのコミュニケーショ ンを主な手段とするろう者には、手話通訳者を 3 名配置した。さらに介助者を二人配置 し、介助者が手話通訳者の近くに紙資料を寄せて、手話通訳を見ながら同時に紙資料も 見ることができるようにした。盲ろう者には、指点字を指の触覚機能を駆使して聴き取 るようにした。目の見えない構成員には点字での資料を事前に配付した。知的障害者に は資料の漢字に振り仮名(ルビ)をつけた。
音声言語である日本語で審議する会議で、通訳を必要とする構成員は、必要としない 構成員に比べて不利になりやすい。それは発言(意見表明)を求める時である。通訳を 利用している構成員が発言を求めて挙手をするタイミングがどうしても遅れてしまう。
そのため議事進行を務める議長代理は、時間的不利を背負う盲ろう者、知的障害者、難 聴者やろう者を優先的に指名した。議事進行を務める議長代理自身もほとんど目が見え ないので、隣に座っている介助者が挙手する構成員の名前を耳元で読み上げて議事進行 を助けた。さらに指点字を使う盲ろう者は指を通して情報を取得するため会議時間が長 くなると精神的な疲労がかなり重くなる。手話通訳を利用するろう者も同様である。ま た、通訳に関わる人たちの健康も考慮して、1時間に1度休憩時間を取ることにし、平 均4時間の審議をする推進会議では休憩時間を3回設けた。
国の障害者施策を審議する推進会議では、法律用語、福祉用語、欧州や米国等の施策 等、一般に聞きなれない専門用語が出てくることが多い。そのため難解な専門用語につ いてはできるだけわかりやすく説明してもらい、それでも難解な場合は、「イエローカー
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ド147」と呼ばれる黄色いカードを掲げてわかりやすい説明を求めることができるように した。さらに議事進行を停止させる「レッドカード」も用意した。
このように多種多様な情報アクセスやコミュニケーション手段を用いての会議であ ったため、構成員も、当初の専門用語を駆使する早口な話し方から、ゆっくりした口調 になり内容もわかりやい話し方に変わってきた。このような配慮の方法は全体の審議を 効率的にすすめることの効果を産み出した。
2.2 推進会議の公開と同時中継
わが国の施策に関わる審議は、原則公開され、国民は事前申し込みによって自由に傍 聴できるようになっているが、傍聴を希望する障害者への合理的配慮はほとんどなされ ていない。目の見えない傍聴者のために点字資料が配布されたり、耳の聞こえない傍聴 者のために手話通訳者や要約筆記者が配置されたりすることはないのが現状である。推 進会議での傍聴席では、手話通訳者の配置はなかったが、傍聴席に大型テレビを配置し、
CS障害者放送統一機構の「目で聴くテレビ」の生中継をそのまま放送した。生中継す るテレビの画面の構成も画期的であった。向かって右半分が手話通訳者、下部には字幕 を挿入し、構成員の顔を左上半分に写しだす構成となっている。CS放送で受信する「目 で聴くテレビ148」では同時中継でリアルタイムに視ることができたが、インターネット では推進会議終了後に公開している。当初はインターネットでの同時公開を要望したが、
「目で聴くテレビ」での限定公開となった。「目で聴くテレビ」を視聴できる人は、専用 のCS放送受信機「アイドラゴン3」を所持していることが条件であり、その所持数は数 千人と少なく広く国民に開放されているとは言い難い。国の施策に関わる審議を公開す ることによって国民の障害者政策への関心を高める効果を期待でき、構成員も施策への 影響を考慮した発言の仕方に自ら注意するようになるのである。国政レベルの審議を誰 でも自由に傍聴できるようにすることや、テレビやインターネット等による同時中継を 行うことは、国民が主権たる民主主義国家のあるべき姿であろう。
2.3 障害当事者による主体的な参画
上述したように、推進会議は2010年1月12日に開始され、2012年3月12日にその 役割を終えるまでに計38回開催された。その間、障害者自立支援法を抜本的に見直すこ
147 http://www.dinf.ne.jp/doc/japanese/law/promotion/wakariyasui.html#COVER1 参 照
148 「目で聴くテレビ」は聴覚障害者のために手話や字幕で伝える番組であり、特定非営 利活動法人CS障害者放送統一機構が制作を行っている。http://www.medekiku.jp/ 参 照
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とを目的に設置された障害者福祉部会は、2012年2月12日までに計19回、障害者差別 禁止法の制定を目指し設置された差別禁止部会は、2012年7月13日までに計21回開催 された。いずれも審議時間は平均して4時間である。従来の審議会での審議は通常 2時 間以内であったが、障害者制度改革に関係する審議は従来の倍以上時間がかかっている。
障害者制度改革をテーマにしていることからわかるように、従来の制度を根底から見直 すことに集中的に議論することが必要だった。そのために従来の制度を構築してきた官 僚に会議運営を主導することを求めなかったのである。
推進会議が開催される前は、閣議決定によって2000年に設けられた障害者施策推進本 部の下に、各省庁の課長級職員によって構成された「障害者施策推進課長会議149」が障 害者に係る政策内容を実質的に決めていた。障害者基本法によって設置されていた中央 障害者施策推進会議は年に1、2回しか開催されず、障害者政策を審議し決定する機能は ほとんどなかった状態と言って過言ではない。
2009年12月設置の推進本部の下、推進会議を設け、会議の運営を円滑に行うために、
内閣府内に障がい者制度改革推進会議担当室(以下、担当室)が置かれた。担当室長に は、国連の障害者権利条約制定のために政府代表団顧問として活躍した車いす弁護士が 着任した。推進会議では計38回の審議で、第一次意見書、第二次意見書をまとめ、内閣 総理大臣が本部長を務める推進本部に提出した。
推進会議では、担当室が準備した 117 項目の論点に沿って構成員が事前に意見を文書 で提出し、構成員は一般の文書とルビを付けた文書の二通りの意見書を作成した。点訳 資料は担当室が用意した。各構成員が提出した意見書を事前に読んでから推進会議に臨 まなければならないので、推進会議に参加することは相当なエネルギーを要した。それ でもなお当日に一般の文書で提出する構成員がいるので、文書を読むことができない構 成員のストレスは相当大きかった。特に目が見えない議長代理は全体の進行をつかさど るので相当神経をすり減らす思いであったと察する。
2010年6月7日に「障害者制度改革の推進のための基本的な方向(第一次意見)150を 決定し、政府は同年6月29日に閣議決定を行った。この第一次意見書は、四つの章から 構成され、第二章の「障害者制度改革の基本的な考え方」を踏まえて、第三章で「言語・
コミュニケーション」の項目が入った。当初の案ではこの項目は独立した章となってい なかったが、ろう者等の構成員の強い要望で追加された。当事者がいる場合といないの とでは取扱いが大きく異なることの証左であろう。そして、第四章の「個別分野におけ る改革の基本的方向と今後の進め方」にて「情報アクセス・コミュニケーション保障」
が入り、この項目を含む11の分野における「問題認識」と「政府に求める今後の取組に 関する意見」を取りまとめた。
149 http://www8.cao.go.jp/shougai/honbu/secchi_h16.html 参照
150 http://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/kaikaku/pdf/iken1-1.pdf 参照