第Ⅱ章 米国における情報アクセス・コミュニケーションの権利保障
2. 米国における情報アクセス・コミュニケーション保障
2.4 緊急事態対策及び対応
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【コラム】コミュニケーション方法の選択権
米国では、個々具体的な場合における「効果的なコミュニケーション」を提供するに あたっての補助手段の選択については、具体的な法律の規定がなく、聴覚障害者の要望 を優先的に考慮することが規定されているものの、最終的には、「効果的なコミュニケ ーション」を提供する義務主体が判断することとなっている。
すなわち、米国で、聴覚障害者が保障されているのは、「効果的なコミュニケーショ ン」の提供を受けることであり、聴覚障害当事者のコミュニケーション方法の選択権を 前提とする障害者権利条約、日本の障害者基本法と異なっている。この点は、費用負担 の問題と関連する点があるが、問題提起が必要であると思われる。
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連邦緊急事態管理庁は、「コミュニティ全体(whole community76)」への災害対策、
対応を宣言しており、その中で、聴覚障害者(ろう者、中途失聴・難聴者、盲ろう者)、
視覚障害者(全盲者、弱視者、盲ろう者)、言語障害者、車椅子、杖等を使用する移動 障害者、認知、知的、精神障害者等、全ての障害者に対する完全かつ平等なアクセス を無償で提供するため、調査、ガイドマニュアル等を作成し、情報発信、質問や相談 への対応等を通して、指導、啓発を行っている。
連邦緊急事態管理庁は、市民権に基づき、全ての人に、政府や NPO 等による災害 等の緊急事態の際に支援やサービスを受ける権利があることを前提に、障害について、
「特別なニーズ(special needs)」、「弱さ(vulnerable)」等ととらえず、「機能的なニ ーズ(functional needs)」ととらえ、全ての支援やサービスにつき、全ての人への「ユ ニバーサルなアクセス」を保障することが、コミュニティ全体の利益に資するという 理念のもとで、活動しているのである。
(3) 災害等の緊急事態における聴覚障害者の情報アクセス対策・対応
① 緊急事態におけるコミュニケーションニーズと補助手段
聴覚障害者には、ろう者、中途失聴者、難聴者、盲ろう者がおり、個々人の障害の 特性等により、さまざまなコミュニケーションニーズがある。災害等の緊急事態にお ける情報、支援、サービスへの完全で平等なアクセスを保障するためには、災害等の 緊急事態が発生する前に、地域の全ての人へのコミュニケーションニーズを前もって 把握し、それを満たす形で、補助手段が準備されている必要がある。
例えば、テレビ番組について、法律で義務付けられているのは字幕のみであるが、
ハリケーン等の災害についての緊急情報については、平時に比べ、さらにさまざまな コミュニケーションニーズに対応し、迅速かつ確実に情報を伝達することが求められ ることから、連邦緊急事態管理庁ないし州知事の判断及び決定により、手話放送も行 われる。
② インターネット等次世代通信機器の活用
最近では、書類の掲示、筆談、手話通訳者等の従来からの補助手段のみならず、技 術の発展により、インターネット等、次世代通信機器等の補助手段も用いられている。
連邦緊急事態管理庁は、ホームページ、フェイスブック、ツイッター、YouTube等 で情報を発信しており、ホームページには、連邦による災害援助に関する FAQ につ いてのアメリカ手話(ASL)の映像も掲載されている77。FAQの内容は、どうすれば
76 Planning for the Whole Community
http://www.fema.gov/pdf/about/odic/all_hands_0411.pdf
77 FAQ’s on Federal Disaster Aid in American Sign Language http://www.fema.gov/medialibrary/media_records/6347
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支援が受けられるのか、どのような支援が受けられるのか等であり、文字スクリプト も読むことができる。また、連邦緊急事態管理庁への質問等の問い合わせは、メール、
電話リレーサービス対応となっている。
③ 災害センターにおける取組みと研修78 ⅰ) 取組み
また、全ての災害センターには、拡声器、音声のみならず字幕を表示する字幕電話、
インターネットを経由して手話通訳をするためのビデオリレーサービスのアプリケー ションが入った iPad の補助器具が準備されており、書類の掲示や筆談等と併用され ている。災害に遭った聴覚障害者は、これらの補助機器を用いて、連邦緊急事態管理 庁の専門家から、直接アドバイス等の情報を受けることが可能である。しかも、手話 通訳者等の到着を待つことなく、即時に、コミュニケーションを行うことができる。
また、未就学等の事情により、アメリカ手話(ASL)や英語の読み書きを十分に習得し ていない聴覚障害者に対しては、写真や絵を用いたコミュニケーションも用いられる。
なお、視覚障害者のための補助器具としては、文字拡大器や読み上げソフトがあり、
また、点字資料や音声による情報提供が準備されている。
ⅱ) 研修
連邦緊急事態管理庁には、アメリカ手話(ASL)を使用する聴覚障害者のスタッフ がおり、障害に関するアドバイザーの一人として、災害に遭った聴覚障害者が、平等 に連邦緊急事態管理庁から援助が受けられるよう、各地の災害センターのスタッフに、
コミュニケーション補助器具の使用法の指導をしたり、手話で、直接、災害に遭った 聴覚障害者の対応を行ったりしている。研修の際は、「米国の全人口の約 20%、すな わち5人に1人は、何らかの障害者であることを踏まえ、相手が会話の際にけげんな 顔をしている場合は、難聴の可能性を考えたり、書類を書く際に困っている様子があ れば、文字拡大器が必要かもしれないと考えたりしなさい」等、実践において心掛け るべきことの助言もなされている。
【コラム】米国の聴覚障害を持つ弁護士は 300 人以上!
米国の聴覚障害を持つ弁護士は、少なくとも300人以上存在している79。これは、
ADA や全ての障害児に「無償の適切な公教育」等が保障された個別障害者教育法
78 FEMA Providing Access to Survivors with Disabilities
http://www.fema.gov/disaster/4085/updates/fema-providing-access-survivors-disabil ities
79 裁判官は、中途失聴の裁判官がいる。検察官は、まだいないようであるが、捜査手続に おける「効果的なコミュニケーション」の取り組みのためには、聴覚障害を持つ検察官 も必要である。なお、米国の弁護士は、官庁や企業内の職員として勤務する者が多い。
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(IDEA80)等の成果である。聴覚障害を持つ弁護士の団体も存在している。
視察先の連邦通信委員会、電話リレーサービス事業者、司法省では、聴覚障害、視 覚障害等の障害を持つ弁護士が職員として勤務し、要職において、能力を発揮してい た。
例を挙げると、連邦通信委員会の障害担当の部署には 14 名の職員がおり、そのう ち2名が聴覚障害者、1名が視覚障害者であった。連邦機関である連邦通信委員会に は、リハビリテーション法が適用され81、聴覚障害者2名のうちの1名については、2 名の正職員の手話通訳とビデオ電話、視覚障害を持つ職員へは、サポート1名とパソ コンの音声読み上げソフトによる合理的配慮がなされていた。
これに対し、日本の聴覚障害を持つ弁護士は、まだ数人である。米国と日本では、
弁護士制度や人数が異なるが、まだ数が圧倒的に少ない。また、手話通訳等の費用は、
ほとんどの場合、弁護士が自己負担している。聴覚障害弁護士は、当事者の立場に立 った法律専門家として重要な存在であり、その活動のサポートは、政府機関内部への 登用と共に検討されるべき課題である。
80 Individuals with Disabilities Education Act
前掲「特別支援教育大辞典」アメリカの障害児教育
81 リハビリテーション法第504条に基づく連邦通信委員会のアクセスハンドブック Section504 Programs & Activities Accessibility Handbook
http://transition.fcc.gov/cgb/dro/section_504.html
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