第Ⅲ章 イギリス:情報・コミュニケーション保障の現状と課題
5. 聴覚障害者運動と情報・コミュニケーション保障
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保障された。しかし、BDAの求めていることがこの平等法で保障されていれば良いが、現 在の平等法にはBDAの求めるものが全て反映されていない。そのため、BDAの要求して いることを「BSL憲章」(Charter for British Sign Language)としてまとめ、この憲章 を各自治体で実施するように運動で求めている117。この憲章の大きな柱は次の5つであ る。
① ろう者の情報及びサービスのアクセス権の確保
Ensure access for Deaf people to information and services
行政は、聴覚障害やBSLについての啓発やろう者の言語的バリアを解消する。資格を 有し、登録された手話通訳者を利用する。手話を使用するろう者にとって使いやすい情報 や建物にする。
② BSLの習得と質の高い指導の促進
Promote learning and high quality teaching of BSL
より多くの人がBSLを学ぶために、BSLのコースを増やす。有資格のBSL講師を雇い、
ろうコミュニティやろう文化に取り組む。
③ ろう児と家族のサポート Support Deaf Children and families
地方自治体はろう児と家族をサポートし、子どもは手話と英語のバイリンガル・バイカ ルチャーを学ぶ機会を保障し、家族がBSLを学ぶ環境を整え、家族間でBSL会話が出来 るようにする。
④ ろう者と共に働くスタッフもBSLによりうまく会話ができること
Ensures staff working with Deaf people can communicate effectively in BSL 公共サービスや公的機関で働く職員が手話をできることが重要である。手話のできる職 員を採用する。職員が手話を学ぶ機会を保障する。また、ろう者を職員として採用する。
⑤ 定期的に必ずろう者集団と相談をし、彼らの意見が十分反映されること Consult with our local Deaf community on a regular basis
ろう者は自分たちに関係するサービスに影響を与える権利を持つ。行政は、ろうコミュ ニティと相談をし、ろう者やその代表者の完全参加を支援する。
この憲章を地方自治体が実施することによって、①自治体の行政サービスをよりアクセ スでき、②市民対応が大きく改善し、③ろう者がサービスを人に頼らなくてもアクセスで き、④コミュニケーションの有効に機能し、⑤ろう者はサービスが改善することによって エンパワーメントされ、地域社会にろう者が貢献できるようになるという。
ブリストル市(Bristol City Council)は、BSL憲章の5つの要望を全て実現している118。
117 BSL憲章については、下記よりダウンロード可能である(2013年6月現在)。
http://www.bda.org.uk/Reports
118 ブリストル市のBSL憲章についての啓発については、次のURLを参照。
http://www.bristol.gov.uk/page/british-sign-language-bsl-equality
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様々なろう者に関係する課題をフィードバックしている。BSL憲章が認知されているの は、片手で数えられるほどしかない。ブリストル、デボン、カーディフ、ロンドンのルイ シャム等。現在は、更にBSL憲章を改良して、地域で認知されるよう取り組んでいる。
国レベルではBSLの重要性が認識されてきたが、具体的には、ローカルな問題が大きい。
また、イギリス行政の地方分権が進んでいる。イングランドとウェールズ、スコットラン ドとそれぞれ違いがあるので、地方の実情に合わせて、運動を展開していく必要がある。
BSL憲章を採択した地方行政に共通する特徴は、コスト意識と行政担当者の理解があるこ とである。行政側の意見も聞きながら、BSL憲章の採択に取り組んでいるが、採択に至る 経過は様々である。
ろう者本人が能力を発揮することができれば、その結果を社会に還元することができ る。イギリスでは、平等法の下、「平等担当官」(Equality officer)が配置され、全ての人 の平等を保障している。イギリスの人権委員会の委員長も全面的にBSL憲章の支持を表 明している。こうして市民サービスについて、様々な情報にアクセスできない現状を改善 したい。
5.3 アクション・オン・ヒアリングロス(Action on Hearing Loss:AHL)119
英国で聴覚障害者を代表する最大の慈善団体(非営利団体)である「王立全国聴覚障害 者協会」(Royal National Institute for the Deaf: RNID)は1911年に設立された歴史あ る団体である。2008年に名称変更して、アクション・オン・ヒアリングロス(AHL)と なった。AHLは1000人以上の職員、1092人のボランティア、2万人以上の会員を有し ている120。
AHLは、地域の中で様々な活動を行っている。特に、中途失聴者で補聴器に慣れていな い人たちに対しての支援や重度の聴覚障害と他の障害を併せ持つ人のための施設運営を行 っている。また、生体医療の研究協力として、ろう者・難聴者の障害の治癒、または耳鳴 りの対策に取り組んでいる研究者に資金援助をして、研究開発を促進している。そして、
政治的、政策的な啓発運動として、政策キャンペーンを行い、政府に提言書を提出するな
http://www.bristol.gov.uk/sites/default/files/assets/documents/Bristol%20BSL%20C harter.pdf
119 2012年11月14日のアクション・オン・ヒアリングロス(AHL)の「調査・政策・
政府連携担当責任者」(Director of Research, Policy & Government Relations)である ロジャー・ウィクス氏(Mr.Roger Wicks)、「社会調査・政策担当者」(Social Research and Policy Officer)であるローラ・マシュー氏(Ms.Laura Matthews)、平等法制定時 に当事者として参画したマライヤ・デビッドソン氏(Ms.Marije Davidson)へのインタ ビューおよびAHLのWEBサイト:http://www.actiononhearingloss.org.uk/ を参照。
120 http://www.actiononhearingloss.org.uk/about-us/who-we-are.aspx
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どの活動をしている。またそのための政策リサーチも行っている。政府だけでなく、一般 市民や企業に対しての啓発活動も行っている。
5.4 王立聴覚障害者協会(Royal Association for Deaf People(RAD))121
王立聴覚障害者協会(RAD)は1841年にロンドンのろう学校の卒業生が集まって、ろ う者への職業訓練などを提供して就職問題に取り組むことを目的として設立された。1873 年にビクトリア女王から御下賜金を得て、王家のサポートをえたことがある122。RADの 使命は「アクセス・サービスを提供することによって、聴覚障害者の平等を促進する」(We promote equality for Deaf people through the provision of accessible services)ことであ る。
では、具体的には次の6つのサービスをしている。第一に、聴覚障害者のニーズを満た すための、アドバイス、アドボカシー(権利擁護)、雇用サービスのサービスを提供するこ とである。第二に、家族に聴覚障害者のいるすべての家族への、情報提供、ボランティア 活動、社会活動などの子ども、青少年、家族サービスである。第三に、医療や社会サービ スの情報提供や、RADの提供する社会サービスである。第四に、質の高い、専門的な通訳 である。イギリス手話通訳・英語通訳、聴覚障害者による通訳、読唇、ノートテイク、速 記記述者(Speech to Text Reporters)、盲ろう通訳などを通して通訳活動をしている。第 五に、聴覚障害者法律センター(Deaf Law Centre)である。
聴覚障害者法律センターの活動については、①雇用、福祉給付、借金、住宅、差別、売 買、引越し、遺言、離婚、起業、聴覚障害者ビジネス・聴覚障害者団体へのアドバイスや 情報提供をする法律支援、②聴覚障害者に法的な権利の情報提供やアドバイスをしたり、
聴覚障害への理解を進めること、③運動やロビー活動、聴覚障害者のための法的支援をす るアドボカシー、④ろうコミュニティやその他の人や団体との協働、⑤聴覚障害者の権利 を保障するために専門家にアドバイスすることが挙げられる。
聴覚障害者法律センターには、所長と副所長、事務弁護士、手話通訳者が4名、研修生 がいる。聴覚障害者の事務弁護士(ソリシター(Solicitor)が所長を含めて2名いる。こ の二人で労働や家庭関係などの裁判を扱っている。事務弁護士は裁判で使用される資料作
121 2012年11月15日の王立聴覚障害者協会の法律センターにおける副所長のジェフ・
ブラタン=ウィルソン氏(Mr. Jeff Brattan-Wilson)、事務弁護士のマイルズ-ニスベット 氏(Myles Nesbitt)、手話通訳者のシェリー・デイ氏(Ms. Cherry Day)へのインタビ ューおよびRADおよびRAD法律センターのウェッブサイト
http://www.royaldeaf.org.uk/ 、 http://www.radlegalservices.org.uk/ を参照
122 団体名の「Royal」という意味は、御下賜金をえたという意味のようである。日本で は、「済生会」や「同胞援護会」、「母子愛育会」の「恩賜財団」にあたる組織だといえ る。