第Ⅳ章 韓国の障害者放送・電話リレーサービスと手話通訳
5. 聴覚障害者のための意思疎通支援-手話通訳サービス
5.1 意思疎通支援―手話・文字等の正当な便宜供与の状況
障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律が成立したことにより、聴覚障害者は、
教育や雇用、医療、司法・行政手続き等、日常生活のさまざまな場面で、意思疎通のた めに手話や文字等による正当な便宜の供与を受けることが可能になった。該当機関がこ れを供与しない場合は差別であり、過度な負担にならない限り該当する便宜を供与しな ければならない。(第21条「情報通信・意思疎通での正当な便宜供与義務」)
同法が施行される前は、このような配慮は提供されなかったか、あるいは部分的に提 供されることがあったとしても基本的人権としてではなく福祉のレベルで実現されたに 過ぎなかった。同法施行後は、義務として正当な便宜を供与しなければならず、もし供 与しなければ差別又は違法と見なされて、法的処罰や指導の対象となる。
(1) 意思疎通支援者への差別行為禁止
障害当事者の関係者として手話通訳、点訳、点字校正、朗読、代筆、案内等のために 障害者の代理または同行する等、障害者の意思疎通を支援する者に対しては、誰も正当 な事由なしに、これらの活動を強制・妨害したり、不当な処遇をしたりしてはならない
(第20条「情報のアクセスにおける差別禁止」)。
(2) 教育
聴覚障害者が在籍している教育機関では、本人の学習参加や教育に不利益が生じない ように、手話通訳や文字通訳(筆記)、字幕、補聴器等の意思疎通手段を積極的に提供し なければならない(第14条「教育における正当な便宜供与義務」)。ろう学校は、以前は 27校あったが、人工内耳の手術が増え、地域の学校への転出が続いたことで、16校に減 少している。
国立 聾学校(学級): 1校(33学級)
公立 聾学校(学級): 3校(50学級)
私立 聾学校(学級):12校(245学級)
他に、聴覚障害児と知的障害児が一緒に学んでいる学校もある。
なお、2007 年の特殊教育法制定により、2010 年から障害児教育における就学前教育 および高校課程までの全教育課程が義務教育化された。すべての障害者は3歳から17歳 まで無償で教育を受けることができる。
(3) 国、地方公共団体、事業者
国や地方公共団体および、30人以上の従事者がいる事業所で聴覚障害者を雇用する場
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合、障害者でない人と同等の労働条件で働くことができるよう、正当な便宜を供与しな ければならない。意思疎通に不便があれば手話通訳等の意思疎通支援者を配置し、障害 者でない人と同様の業務を遂行できるようにしなければならない。例えば、ろう者が就 職した民間会社において必要なときに手話通訳者が派遣されないことは差別である。手 話通訳は福祉サービスではなく権利である。しかしながら、韓国では一般の就職でも非 常に厳しい状況にあり、会社に就職ができるろう者や障害者の数が限られ極めて少ない のが現状である。
(4) 公共機関
国、地方公共団体、特殊法人、学校、公営企業、地方公社、地方公団等の公共機関が 主催または主管する行事に障害者が参加できるよう、意思疎通のために、手話通訳、文 字通訳、補聴器等、必要な支援を行わなければならない。公共機関が主催・主管する行 事に聴覚障害者が参加を希望する場合は、7日前までに手話通訳等の支援を要求すること ができる。例えば、学校行事に聴覚障害者が参加する場合、7日前までに手話通訳者によ る支援を学校に要請することができ、学校は手話通訳による支援を提供しなければなら ない。
(5) 司法・行政手続き
司法・行政手続きに関する公共機関及びその所属する者は、司法・行政手続やサービ スを聴覚障害者が障害者でない人と実質的に同等のレベルで利用することができるよ う、手話通訳者等の意思疎通支援による正当な便宜を供与しなければならない(第26条
「司法・行政手続き及びサービス提供における差別禁止」)。司法機関においては、民事 訴訟法で、聴覚・言語障害者のための通訳について規定している(民事訴訟法第 143 条
「通訳」)。しかしこの規定は、手話以外の通訳や文字通訳等のさまざまな意思疎通手段 を包括していない。障害者差別禁止及び権利救済等に関する法律の成立によって、司法 機関は、事件の関係者について、意思疎通や意思表現に困難がある障害の有無を確認し、
その障害者が刑事司法手続きで助力を受けることを申請した場合、正当な事由なくこれ を拒否してはならず、必要な措置を講じなければならない。最近の改正(2013年4月23 日施行)では、当該障害者が刑事司法手続きの助力を受け取ることおよびその具体的な助 力の内容を知らせなければならないことが追加された。刑事司法手続きの助力を受ける 方法を知らない障害者が、結果として正当な便宜を受けられず、不利な処遇を受けるこ とのないように対応することが必要になった。
韓国中央の忠清北道(チュンチョンプクト)にある鎮川(チンチョン)警察署は、2013 年3月20日、道内の警察署で初めて、聴覚・言語障害者のためにオンラインビデオ手話 通訳システムを導入し本格的運用を開始した。これまでは、手話通訳者がいないと正確
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な意思伝達が困難であり、スマートフォンで映像通訳を利用しようとすると高い料金が 課金され経済的な困難が加わる等の問題があった。このシステムは、ソウルにある情報 化振興院の「107 手話音声センター」と警察署の主な苦情部門や派出所、交番など計 10 カ所に設置したもので、鎮川手話通訳センターの関係者も試験通訳に協力した142。
(6) 医療機関
釜山のある私立病院(釜山聖母病院)は 2009年に2202 人の聴覚・言語障害者の患者に 対して 5328 件の手話通訳サービスを提供したことを明らかにした。 この病院は 2004 年に部分的な手話通訳サービスを導入したのに続き、2007年から病院独自の予算をかけ て常駐の手話通訳者 2 名を採用し、病院内の受付から診療が終了するまで診療の全過程 に手話通訳サービスを提供している143。
医療分野における意思疎通支援の義務規定は、障害者差別禁止及び権利救済等に関す る法律施行令別表 3、および障害福祉法に明記されている。それによると2013年4月11 日までに、すべての医療機関で意思疎通支援のために正当な便宜を供与しなければなら ないことになっている。しかしながら、現実が追い付かないのが実情である。例えば、
2012年10月、APDF(アジア太平洋障害者フォーラム)やRI(国際リハビリテーショ ン協会)、UN ESCAP(国連アジア太平洋経済社会委員会)等、障害者関連の国際会議 が相次いで開かれた仁川(インチョン)広域市では、同地域にある15の総合病院のうち 手話通訳者を配置しているのは皆無であった。
韓国南部の全羅北道(チョルラプクト)に立地する南原(ナムウォン)市では、2012 年 11月、市と市内の5つの病院と地元の手話通訳センターが協定を結び、5つの病院で、聴 覚・言語障害者の診療や苦情を処理するための手話通訳サービスを提供する。このシステ ムでは Web カメラとヘッドセット等の機器で全羅北道手話通訳センターまたは南原市手 話通訳センターに接続し24時間の手話通訳サービスを提供することになっている144。
(7) 行政サービス
政府請願案内センターや保健福祉部では行政サービスを提供するために、コールセンター を運営している。そこでは、Seetalk という民間のインターネット電話事業者の映像リレー サービスと連携して、手話や文字による相談の受付を行っている。Seetalk は、韓国のろう 者の間でもっとも普及しているインターネット電話のサービス事業者であり、韓国聾唖人協 会や各地の聴覚障害協会、手話通訳センターにもSeetalkのビデオ電話機が設置されている。
142 ソース:IBS中央放送http://ibstv.kr/new/?m=bbs&bid=openbbs&uid=5244
143 ソース:医協新聞http://www.doctorsnews.co.kr/news/articleView.html?idxno=61846
144 ソース:全北道民日報http://www.domin.co.kr/news/articleView.html?idxno=962812
127 政府請願案内コールセンター (局番なし110)
すべての行政機関の業務に対するデータベースを構築し、政府業務に関するすべての質問 が解決できるようサービスを提供する。
相談内容 : 官公署案内、税務等の一般生活、政府請願、政府政策など
文字メッセージ相談
言語聴覚障害者など脆弱階層および新世代の利用便宜のために、携帯電話の文字メッ セージによる相談サービスを実施している。
携帯電話文字メッセージサービス (局番なし110) 利用時間:平日 08:00~21:00 ⁄ 土曜日 09:00~13:00
利用料金:文字メッセージ送信1件当たり20ウォン(別途情報利用料なし)
手話相談
利用対象者:Seetalk映像電話サービス利用者 利用方法:局番なしの110番
利用時間:平日 09:00~18:00 (ホームページで相談予約可能)
保健福祉コールセンター (局番なし129)
全国どこでも局番なしの129番に電話すれば、必要な保健福祉関連情報とサービスを提供 する。
相談分野:民生安定支援、所得保障、福祉サービス、健康生活、緊急支援(児童虐待、アル コールなど)
聴覚·言語障害者のための手話相談 相談時間 : 平日 09:00~ 18:00
※インターネットと映像電話機を具備した場合のみ可能 (映像サービス通信会社 : Seetalk Communication)
(8) その他の機関
2011年4月28日の新韓銀行を皮切りに、2012年6月26日のCJオーショッピング、
そして2013年3月22日、サムスン火災海上保険、KB国民銀行、仁川国際空港、ソウ ル大学病院、ソウル峨山(アサン)病院等の企業・病院が、Seetalkの加入者を対象にビデ オ電話を使った聴覚・言語障害者のための手話相談サービスを開始した。電話番号はそ