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量的分析

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 137-141)

第 6 章 共時的な観点から見た日中逆接表現の文法化

6.5 量的分析

前節までは、質的なアプローチから日中逆接接続表現の文法化現象を分析してきた。本 節では、量的なアプローチから分析を続ける。具体的な手順は次の通りである。まず、同 じ分量の日本語と中国語の会話データから、対象とする逆接接続表現を抽出する。図 6-3 で提示した文法化のモデルに従い、すべての表現について段階ごとの出現数および割合を まとめた。

文法化では「漸次変容」という概念が重要である。これは、ある言語表現の変化が1つ の範疇から別の範疇に変わるとき、一気に変わるのではなく緩やかに変わることを指す(ホ ッパー・トラウゴット 2003)。無論、範疇と範疇の間にある過渡的な段階も存在するはず

である。したがって、全ての表現を図 6-1に示されている3つの段階に明確に区別するこ とはできない。そのため、3 つの段階に分類にあたって判断が難しい場合、前後の会話内 容に依拠して、もっとも中心的と思われる働きを確認しながら分類した。

本節で使用したデータは、筆者が収録した、日本人と中国語人母語話者の同じ分量の雑 談会話である(表 6-1)。

表 6-1 筆者が収録した日本語と中国語の会話

言語 時間数 参加者人数(各グループ) 概要

日本語 400min

(50min×8 本) 2人 大学大学院生会話

(話題不指定)(同性)

中国語 400min

(50min×8 本) 2人 大学大学院生会話

(話題不指定)(同性)

(表 4-5を再掲)

出現数を数える際、同じ位置で2回以上繰り返す場合は1回として数えた。また、途中で 言いさした場合やはっきりした判断ができない場合は「不明」と分類した。

日本語「けど」、「でも」と「ただ」の結果は表 6-2 でまとめている。便宜上、“Content Textual Component”、“Interactive Textual Component”、“Procedural Textual Component”という 3つの段階は、それぞれCTC、ITC、PTCと示す。

6-2 各段階における日本語逆接接続表現の出現数および割合

段階 CTC ITC PTC 不明 総計

「けど」 287

(48.4%)

175

(29.5%)

131

(22.1%) 0 593

「でも」 196 (52.8%)

112 (30.2%)

54 (14.6%)

9

(2.4%) 371

「ただ」 3 3 0 0 6

日本語の「けど」、「でも」、「ただ」に関して、次の点が明らかになった。まず、出現数 について、「けど」の使用回数は593回であり、3つの逆接接続表現の中でもっとも多く使 われている。また、「でも」も頻繁に使われており、出現数は371回である。しかし、「た だ」はわずか6回しか使われておらず、「けど」と「でも」と比べて、使用回数がはるかに 少ない。陳(2008)は「同年代友人同士」、「同年代初対面同士」と「論文指導」という3つ の異なる場面に現れる「ただ」の使用回数および割合を調査した。その結果、「同年代友人 同士」の使用率がもっとも低いことが明らかになった。一方、改まり度が比較的高い「論 文指導」の場面では「ただ」の使用頻度が3場面でもっとも高い。陳(2008)の調査結果 で本研究の結果を説明できる。先述の通り、本研究で分析した会話のデータは大学生もし くは大学院生による雑談である。改まった場面ではない。加えて、会話の参加者も親しい 同性の友人である。「ただ」の使用が著しく少ないのは理解できる。

次に、各段階に含まれる表現の割合からは、以下の点が示唆される。「けど」は 22.1%、

「でも」は14.6%が談話標識的な使い方をしていることから、「けど」と「でも」は“Procedural

Textual Component”まで十分に機能拡張していることが分かる。また、「けど」は「でも」

より談話標識としての使用数が多い傾向がみられる。それに対して、「ただ」には“Procedural

Textual Component”の段階に該当する談話標識的な使い方はみられなかった。これまで、「た

だ」は<情報の補足>から<話題の転換>へと機能発達をしていると指摘した先行研究もある が(川越 2003、宇都 2009)、この2つの研究では改まり度が高い対談番組に現れた「ただ」

の会話例を取り上げた。しかし、上に述べたように、「ただ」は改まった場面で多く使われ る傾向にあるため、同年代の大学生同士による日常的な雑談には現れにくいと考えられる。

よって、今後は本研究で扱った雑談と異なる場面のデータも分析の対象に入れて「ただ」

の使い方をさらに分析する必要がある。

日本語と同じ手順で、中国語の“但是”、“可是”と“不过”の各段階の出現数と割合につい てもまとめた。それぞれの結果は表 6-3に示されている。

6-3 各段階における中国語逆接接続表現の出現数および割合

段階 CTC ITC PTC 不明 総計

“但是” 378

(76.4%)

68 (13.7%)

40 (8.1%)

9

(1.8%) 495

“可是” 3 7 0 0 10

“不过” 18

(52.9%)

9 (26.5%)

6 (17.7%)

1

(2.9%) 34

まず、出現数に関して、多いほうから順に“但是”79(495回)、“不过”(34回)、“可是”80

(10回)となっている。つまり、今回扱った雑談データでは、最も頻繁に使われる中国語 逆接接続詞は“但是”である。この結果は吕(2014)の主張およびWang and Tsai(2007)の 調査結果とは異なる。吕(2014: 480-481)によると、“但是”と“可是”は、文体上の区別を除 いて使い方は同じである。“但是”は書き言葉に多用されるのに対し、“可是”は話し言葉に 頻繁に用いられる。この指摘と一致した研究結果を示したのはWang and Tsai(2007)であ

る。Wang and Tsai(2007)は中国語の話し言葉データに現れた“但是”、“可是”、“不过”の出

現回数を分析した結果、“可是”は非正式な場面の会話でもっとも多く使われる「転折連詞」

であることを明らかにした。しかし、本研究のデータは雑談という非正式な場面であるが、

“但是”の出現数は明らかに“可是”と“不过”を上回っており、Wang and Tsai(2007)の示す結

果とは異なる結果になった。台湾と大陸の話し言葉では異なる使い方がよく観察される(方

2014; 杨・鲁2016 など)。Wang and Tsai(2007)が扱ったデータは台湾で集めた会話であ

るため、地域差があることも1つの理由として考えられる。一方、CallFriendsという中国 語の電話会話コーパスを調査した张(2017)の結果は、本研究の結果と一致している。张

(2017: 113)の結果によれば、“但是”は363回現れ、“可是”は49回しか現れなかった。そ のため、話し言葉では、“但是”より“可是”のほうが多く用いられるという文体上の区別が あるとは言い難い。

次に、機能に関して、“但是”と“不过”は、意味が漂白化した“Procedural Textual Component”

の段階まで文法化が進んでいることが分かった。使用数がもっとも少ない“可是”には、談 話を展開させる機能を果たす会話例が見当たらなかった。なお、これと異なる結果を示し た研究として、方(2000)と张(2014)が挙げられる。方(2000)と张(2014)の分析に よれば、“可是”は“但是”と同じく話題を転換する機能を持っており、談話標識まで文法化 している。したがって、今回のデータだけで“可是”は“但是”と“不过”のように談話標識ま で文法化していないとは言い切れない。

79 “但”で現れる会話例の数は111である。

80 “可”で現れた会話例は1例もなかった。

さらに、“但是”と“不过”が談話標識として使われる会話例の割合を比較したところ、“不 过”が“但是”より高いことが分かった。この結果は、中国語の談話標識の非原義的用法の割 合を調査した方(2000)の結果と一致している。

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