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共時的な観点から見た“不过”の文法化

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 119-125)

第 6 章 共時的な観点から見た日中逆接表現の文法化

6.2 共時的な観点から見た中国語逆接表現の文法化

6.2.3 共時的な観点から見た“不过”の文法化

最後に、会話に現れる“不过”の各例を紹介する。“但是”と同様、“不过”にも“Content Textual Component”から“Procedural Textual Component”までの会話例がみられた。

6.2.3.1 “Content Textual Component”としての不过

“不过”は、日本語の「ただ」に対応して、補足を示す接続詞として位置付けられるが、

宇都(2009)でも述べられているように、「ただ」と比べて、“不过”は早くから逆接的な特 徴を持つ語として認識されてきた。会話例 6-37 は先行する発話者の発話内容との対立関

係を示す“不过”の例である。

会話例 6-37

行 発話者 発話内容

1 8CFA 然后有一段你知道就是,真的是用爬的,手脚并用爬上去的。

2→ 8CFB 我之前爬的那个也是,因为他一个台阶离下一个很高嘛,然后就踩的地方

很少,然后只能用手爬上去,不过上面有人拽我

日本語訳

行 発話者 発話内容

1 8CFA で、途中、険しい道があって、そこは本当によじ登ったの、手足を使っ

てよじ登った。

2→ 8CFB 私もこの前登ったのも険しかった。階段の一段一段の段差がとても大き

くてね、足をかける場所もあまりなくて、だから手を使って登るしかな かった。でも、引っ張ってくれる人がいたけど。

Aは自分が手足を使って山登りをした経験について語った。それを聞いたBは、自分も 似たような経験があると話を続けた。しかし、Aの経験と違うところは「引っ張ってくれ る人がいた」ということである。経験について似ている部分と異なる部分の間に逆接関係 が見出せる。また、「でも」に先行する発話と後続する発話はいずれもB の語りであるた め、会話例 6-37は“Content Textual Component”に該当すると考えられる。

6.2.3.2 “Interactive Textual Component”としての不过

次いで、“Interactive Textual Component”に該当する“不过”の具体例を挙げる。会話例 6-38

は不同意を示す例であり、会話例 6-39は相手をなだめる例である。

会話例 6-38

行 発話者 発話内容

1 1CMB 我发现感觉就是等于说,就是,他们这边有一些课程的话其实,本科你们

那边都有学过

2 1CMA 是学过

3 1CMB 这等于说那个啥

4 1CMA 这边也是学过的,只不过我们现在是作为一个硕士课程,可能要把这个课

程再精学-精学一下,懂不?以前只是粗学,就是大概粗浅地了解一下

5 1CMB 不是他那个其实也没有粗学多少,他们-他们那个,他感觉的话有一些课程

好像就等于说你们好像,就等于说,就是等于说就等于说你们本科专业好 像都学过,因为这个中国这个大学本科不是本身教得本身就很-很深

6→ 1CMA 教得比较杂,主要是,我们z-不过69也不是深-深不深

7 1CMB 也挺深的可以说

日本語訳

行 発話者 発話内容

1 1CMB 僕、気付いたことがあるんだけど、なんか、ここで受ける一部の授業は

A さんが学部のときにもう受けてたよね

2 1CMA 確かに受けてた

3 1CMB つまりあの

4 1CMA ここでも受けた。ただ今は修士課程じゃない?この課程をより深く学習

すべきなのかもしれない。分かる?学部の時は大雑把に学習した、つま り大体のことを理解しただけ。

5 1CMB いや、あれは大雑把ではないよ、ここはあの、いくつかの授業はつまり

あれみたい、学部の時受けたみたい。中国の大学では、そもそも学部生 の授業も内容が深いからさ

6→ 1CMA あれもこれもって、まとまりのない内容が多い、だいたい。うち z-でも

内容が深いかどうかの問題じゃない

7 1CMB わりと深いよ

AとBは修士課程の学生で、修士で受ける授業とAが学部生のとき中国の大学で受けた 授業について話している。5行目でBは、学部の授業内容は深いと評価した。しかしAは、

中国の大学で受けた学部生向けの授業の内容は雑で、深いか否かの問題ではないという意

69 この“不过”は、文中に使われているのではなく、Aの言い直しである。

見を持っている。つまり、Bの評価に対してAは同意を示さなかった。“不过”が表す「対 立」は“但是”より弱く、先行発話を修正しながら一部否定を表明する場合が多い(呂2012:

99)。この例でも、Aの発話は強い不同意を示しているのではなく、「深い」という修飾語 を「雑」へと修正しながら自分の意見を表明していることが窺える。

逆接表現が現れやすい反論や不同意表明は、対人関係にマイナスな影響を与える行為だ と言われる(安井 2012)。しかし、逆接表現は、そのような対人関係にマイナスな影響を 与える場面だけではなく、相手への共感を示したり相手のことをなだめるといった対人関 係にプラスになる行為にも使われる。例えば、会話例 6-39でBはAをなだめている。

会話例 6-39

行 発話者 発話内容

1 3CMA 啊::天呐,我当时怎么想的呀

2→ 3CMB 你怎么想的,你说你。哎呀,不过也好吧,我们研究室那个研究生

3 3CMA 嗯

4 3CMB 他去年四月份来的,考了1,2,这是第二次

5 3CMA 诶,我这也第二次啊,我八月份也第二次。你说这二月份第二次啊?

6 3CMB 对,二月份第二次,还没考上。

日本語訳

行 発話者 発話内容

1 3CMA あ:: なんてこと、俺あの時どう考えたんだか。

2→ 3CMB どう考えたかって、自分のことでしょうが。まあ、でもいいや、うちの

研究室のあの研究生なんだけど。

3 3CMA うん

4 3CMB 彼は去年4月に来たんだけど、大学院の入試1、2、今回が2回目よ

5 3CMA へ:俺も今度は2回目だよ、次の8月の入試も2回目。あ-2月の入試が2

回目っていう意味?

6 3CMB そう、2月は2回目、2回目も受かってない。

Aは自らの原因で去年2月の修士入学試験を受けることができなかった。1行目の発話

から、Aは自分を責めていることが読み取れる。2行目でBは、Aの話を聞いて“不过也好 吧”(でもいいや)と慰めている。さらに、Aの状況以上に、3回も受ける人もいるという 話を持ち出して、相手を熱心になだめている様子が見て取れる。

以上、不同意表明というネガティブな対人行為に現れた“不过”の例と、なだめるという ポジティブな対人行為に現れる“不过”の例を示したが、いずれも“Interactive Textual Component”と分類できるという点では共通する。

6.2.3.3 “Procedural Textual Component”としての不过

最後に、逆接の意味が薄れている“不过”の談話標識的な使い方を観察する。

会話例 6-40

行 発話者 発話内容

1 2CMA 都没发奖学金

2 2CMB 好像他是这个月的和下个月一起发,是吧

3 2CMA 对呀

4 2CMB 太变态了,但是我们上个月的他说和这个月一起发

5 2CMA 啊你上个月没有发吗

6 2CMB 上个月因为我们放假回家所以签晚了,他说你要是晚签的情况下,你就是

拖到下个月发

7 2CMA 哦哦哦,晚-晚-晚签对对对

8 2CMB 结果下个-这个月他又说,所以我不知道会不会到时候三个月一起发

9 2CMA 对对对,下个月一起发,就是这样子

10 2CMB 我天

11 2CMA 哇,那你一下子就变成有钱人了

12 2CMB 那之前岂不是

13 2CMA 啊,3,8 二十多万呢

14 2CMB 去掉我卡里的钱交房租都没有咯,哎哟

15→ 2CMA 啊:二十多万呢,真有钱。不过我来这之后没有花过我爸妈的钱了,全

部就是省,就是不怎么花其他的钱,还有打工挣点钱

16 2CMB 自立的好孩子

日本語訳

行 発話者 発話内容

1 2CMA 奨学金がまだ振り込まれていない。

2 2CMB 今月の分は来月の分と一緒に振り込まれるらしい、だよね?

3 2CMA そう

4 2CMB 変則的だね。でも俺の先月の分は今月のと一緒に支給されるって言わ

れた。

5 2CMA え先月もらってなかったの?

6 2CMB 先月は休みだから帰国したので、サインするのも遅れた。遅れた場合

は振込も来月まで遅れるって。

7 2CMA そっかそっか、サインが遅くなったそうそうそう

8 2CMB 結局来-今月の分はまた、だから三ヶ月分が一緒に入るかもしれない

9 2CMA そうそうそう、来月一緒に振り込まれる。そうなると思う。

10 2CMB わっ:

11 2CMA わあ:そうしたら一気にお金持ちになるよね。

12 2CMB その前はあれじゃない

13 2CMA わあ:3、8、20 数万円だよ

14 2CMB カード内の残額を引いたら家賃も払えなくなる、あ:

15→ 2CMA わ:20 数万だよ、お金持ちだ。でも俺ここに来てから親からお金をも

らったことない、ずっと節約してて、なるべくお金を無駄にしない、

バイトもしてるし。

16 2CMB 自立して、良い子だな。

2人は奨学金について話している。1行目から14行目にかけては、奨学金の振込に関する やりとりである。注目するのは、15行目のAの発話である。Aは、奨学金の話題から、自 分は留学して以来両親にお金をもらっていないという新しい話を展開する。「奨学金」と「A の自立」という2つの話題の間には、逆接または対立関係はない。前後の話の論理性から 考えれば、ここで“不过”が示しているのは、内容的な逆接というより談話の展開の方向性 の逆接である。以上の分析を通して、共時的な面において、“不过”も逆接の接続詞から談 話標識まで文法化が進んでいると言うことができる。

以上、日本語の「けど」、「でも」と中国語の“但是”、“不过”はいずれも“Procedural Textual Component”までその機能を発達させたことを見た。このような談話標識的用法は「話題転 換」機能と呼ばれることが多い。6.4では、フレーム意味論の観点から“Procedural Text”(手 続きテキスト)を作り出す逆接表現の「話題転換」機能を分析する。

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 119-125)