第 6 章 共時的な観点から見た日中逆接表現の文法化
6.6 本章のまとめ
さらに、“但是”と“不过”が談話標識として使われる会話例の割合を比較したところ、“不 过”が“但是”より高いことが分かった。この結果は、中国語の談話標識の非原義的用法の割 合を調査した方(2000)の結果と一致している。
的に正しい使い方であるが、日常会話には文中、または接続助詞のように文末に現れる場 合もある。「ただ」の場合は文頭に現れる例しかみられなかった。中国語の“但是”、“可是”
と“不过”はいずれも発話の冒頭にしか使われない。この違いは、日本語と中国語の統語的 性質によるものだと考えられる。
さらに、6.4では、“Procedural Textual Component”に該当する会話例に注目して、逆接接 続表現が結ぶ前後の話題の関係についてフレーム意味論を用いて説明を行った。先行する 話題と後続する話題はランダムに繋がっているのではなく、フレームによって関連してい ると解釈できる。ここで使われる逆接接続表現は、前後の発話内容が論理上対立している ことを示しているのではなく、話題の方向性が転換することを示していると解釈される。
本章の最後には、同じ分量(400min)の日本語と中国語会話データにおける各逆接接続 表現の出現数および各段階に該当する会話例の割合を表でまとめた。日本語に関して、「け ど」は593回使われており、「でも」は371回使われた。「ただ」の出現数はもっとも少な く、6回しか現れなかった。中国語に関して、“但是”の出現数は495回であり、“不过”は34 回現れた。“可是”が現れた会話例は 10 回しかなかった。つまり、日本語の日常会話では
「けど」と「でも」が共に頻繁に使われている。中国語の日常会話では、“可是”と“不过”に 比べ、“但是”が逆接接続詞としてもっとも中心的に使われている。
以上の質的および量的分析に基づいて、結果を次のようにまとめることができる。
1. 日本語の「けど」と「でも」は日常会話において頻繁に使われている。また、機能 的にも多様化しており、談話標識まで文法化している。一方、「ただ」の出現数は かなり低く、談話標識的な使い方もみられなかった。
2. 中国語では“但是”がもっとも多く使われる逆接接続表現である。“不过”の使用数は
“但是”ほど高くないが、機能的には“但是”と同じように談話標識まで文法化してい る。“可是”の出現数は非常に少なく、談話標識的な使われ方も見当たらなかった。
3. 日本語の「けど」と「でも」と中国語の“但是”と“不过”を比較したところ、「け ど」と「でも」は機能的に多様化している。「けど」の提題用法や「でも」の感動 詞的用法は、いずれも中国語の“但是”、“可是”と“不过”にはみられない用法であ る。また、「けど」と「でも」の統語的位置も、“但是”、“可是”、“不过”より自由 度が高い。「けど」は接続詞として文頭に使われ、接続助詞としては文末に使われ る。「でも」は文頭に置かれることが多いが、文中と文末で用いられる会話例も観 察された。一方、中国語の“但是”、“可是”、“不过”は文頭にしか使われない。
本章は、日本語と中国語の会話に現れる逆接接続表現の文法化現象を観察した。しかし、
逆接の関係を示すための表現には、接続表現以外にも存在する。次の第7章では、そのよ うな表現について分析する。