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現代日本語における「というか」の文法化

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 145-151)

第 7 章 逆接を表す「というか」と “ 其实 ” について

7.1 日本語の「というか」

7.1.2 現代日本語における「というか」の文法化

「というか」が談話標識まで変化してきたプロセスを文法化現象だと捉える先行研究と

して、林(2007)、田辺(2008)、原田(2015)がある。先行研究の指摘を整理すると、「と いうか」が文法化している証拠として、以下の3つが挙げられる。

第1に、引用を表す助詞「と」は常に引用される内容に後続するのに対し、「というか」

は発話の冒頭に使われるケースもしばしばみられる。つまり、「というか」を構成している

「と」は、すでに引用を示す助詞としての性質が薄れている。また、「というか」における 動詞「言う」の実質的な意味も失われている。

第2に、文法化に伴う「というか」の音声的縮約という変化が起こっている。すでに言 及したように、会話では「てか」「つか」「ちゅか」などといった様々な縮約形が存在して いる。「てか」の場合、動詞「いう」は完全に発音されていない。田辺(2008)は、「とい うか」が縮約形に変化する過程において「母音」と「モーラ」数が減少したと指摘した。

また、こういった音韻的変化は文法化による侵食だと説明している。

第3に、「というか」は語用論的な機能まで拡張している。「というか」は、談話標識と して、先行話題と全く異なる新しい話題を導入する機能を果たしている。

以上の3点から、本研究は「というか」を文法化の1例として認めることとする。以下 では、第 6 章で提案した“Content Textual Component”、“Interactive Textual Component”と

“Procedural Textual Component”という3つの段階に沿って、具体例を分析していく。

まず、“Content Textual Component”に該当する会話例 7-1について説明する。

会話例 7-1

行 発話者 発話内容

1 CM7 俺が代表んなっちゃって

2 BM7 あ、待った待った。あれ、あ、待った。まよいよ。話して

3→ CM7 うん、で:なんか、あの:まあね、なんもお-お金も持たず、あの、カウンター

っていうかレジ:の前に行き:マックで水を:十個くださいと言いました。

4 BM7 うんうん。

会話例 7-1では、Cは自分の腹が立った経験について語っている。3行目の発話で、Cは

「カウンター」という表現を「レジ」に言い換えている。「カウンター」と「レジ」を結ぶ 表現は「っていうか」である。このような「AというかB」という使い方は「というか」

のもともとの使い方である。多くの場合、AとBの統語的単位は同じである。この用法は

早くも1987年、1988年の『天声人語』にすでにみられたと報告されている(沖 1999)。 また、このような「というか」について、寺井(2000)は「というより」に、趙(2007)

は「そうじゃなくて」に言い換えができると言う。「というか」は、これらの表現と同じく、

直前の発話に発話者が正しくないと思う点があるために用いられる。言い換えれば、「とい うか」がつなぐのは、修正されるべき内容と修正後の内容である。「というか」の逆接的な 性質は、この修正機能から生まれてきたと言えよう。

会話例 7-2も同様である。Bは「なんか」というフィラーを3回使って、躊躇しながら

「孤独」という言葉を産出した。しかし、直後に「孤独じゃないけど」と否定し、「孤独」

は相応しくないと判断した。そのあと「芯が太い」と言い換えたが、結局「分からない」

という結論に至った。会話分析では、このような「というか」の使い方は「自己修復」機 能を持つとされる(若松・細田 2003、高木 ほか 2016)。それに対して、吉澤(2003)は

「自分の発話に対する微調整」機能と呼ぶ。つまり、発話者は、自分が発した内容が適切 ではないと判断し、より的確な表現、もしくは言い方を探しながら言い換えを行う。ただ し、会話例 7-2の「芯が太いてゆか、分からん。」のように、結果として言い換えの表現が 見つからない場合もある。

会話例 7-2

発話者 発話内容

2JMB

なんか男はね、なんか、か-なんか、ね、こ-こ-こど-こどく-こどくも-あの-孤独じゃ-孤独じゃないけどなんか、芯が太いてゆか、分からん。

次に、“Interactive Textual Component”に該当する会話例 7-3と会話例 7-4を見る。この2 つの例では、発話者自身の発話ではなく、会話相手の発話に対して「というか」で修正を 行っている。

会話例 7-3

行 発話者 発話内容

1 CM10 あんま-全然たぶん一回もしゃべったことない。

2 AM10 本当?

3 CM10 うん。

4 AM10 もったいない。

5 BM10 ちゃんと会話が成立したことはないよね。

6 AM10 それはわかる気がする。

7 CM10 へえ:

8 BM10 ふうん

9 CM10 えてきぱきしゃべる?それとも:ぼおっとしゃべる?

10 AM10 ぼおっとしゃべるよ。ぼおっとっていうかもう

11 BM10 単調じゃない?

12→ AM10 単調っていうか

13 BM10 違うのかな

この断片では、A、B、Cの3人はある共通の知り合いについて話している。しかし、そ の人と実際に喋ったことがあるのはAのみである。9行目から、その人の喋り方について 話し合っている。まず、9行目で、Cがその人は「てきぱきしゃべる」のか「ぼうっとしゃ べる」のか尋ねた。それを受けてAは「ぼうっとしゃべるよ」と答えたが、すぐに不適切 であると判断し、「ぼうっとっていうか」と自己修復しようとした。11 行目で、B が「単 調」という表現を提供したが、Aはそれもふさわしくないと判断し、「単調っていうか」と B に不賛同を示した。この例は、言い換えをする発話は自分のものではなく他者のもので あるため、「他者修復」と呼ばれる。その知り合いの喋り方について「単調」という表現が 適切ではないというのはAの判断にすぎないため、主観性が反映されている。12行目の発 話でAは「っていうか」で言いさしており、修復を最後まで終わらせていない。一方、会 話例 7-4は修復が行われた場合である。

会話例 7-4

行 発話者 発話内容

1 2JMA あ、担任の先生が英語の先生だったっけ?

2 2JMB そうそうそうだけん、ホームルームで言われて、反論しようと思ったけ

ど、さすがに反論するとまずいからさ、しなかったけど、しなかったん けど。そのあとよ、問題は、俺があの、すいません、なになに、ちょっ と集まてくださいってそう声をかけたから

3 2JMA うん

4 2JMB クラスの前で、やけん、全部俺に責任おしつけられたhhuhh

5 2JMA まあまあそうよね。責任者お前は

6→ 2JMB いや、責任者俺ってゆか。あ:ゆうの忘れた。でも、あの、俺は、あの、

なんだろ、俺-俺から、あの言おうっていったんじゃなくて、あ言おう ってことになったそう事実やん、俺がまあ確かに、了承したのは事実や けど、あの、実際、発端として結構ゴリゴリ主体としてやりよったのは 俺の友達なんよ

7 2JMA あなるほど

この例では、Bが高校時代のとき担任の先生を怒らせた事件について語っている。クラ スの前で声をかけたせいで、事件後、責任は全部自分に押し付けられたと話した。聞き手 としてAは「責任者はお前(お前が悪い、お前に責任がある)」と理解した。それに対し、

Bは「責任者俺ってゆか」とAの解釈に否定的な意見を表明する。責任は自分だけではな く友達にもあると主張していることが6行目の発話から分かる。

このような「というか」の「他者修復」用法は、「でも」などの逆接の接続詞が直接相手 を否定したり反論したりするのと異なり、相手の言い方よりもっと適切な言い方があると いうニュアンスが含まれている。この意味で、沖(1999)は「というか」のこの使い方は

「相手の立場を尊重した表現」(沖 1999: 81)であると述べている。寺井(2000)も「相手 のことを配慮している」(2000: 181)使い方であると説明している。一方、「というか」に よって相手の発話を換言することは、相手が傷つくことになったり相手の意図と異なる解 釈になったりする可能性もあり、良いコミュニケーションの結果を生まないという指摘も ある(石黒 2008)。

最後に、話題を変える「というか」の談話標識的な使い方について観察する。

会話例 7-5

行 発話者 発話内容

1 1JMA 情けは人のためならず

2 1JMB ほらならんやんhhuh

3 1JMA あれ

4 1JMB Huhhuh

5 1JMA あれ?

6 1JMB うん?

7 1JMA 結局自分のためか

8 1JMB うん。

9 1JMA 自分のために,人のために何かをするんだhhhuhhuhuどう?hhu

10 1JMB hhuhh いやいやいや意味が分からない。矛盾しとるんや。自分のために、

人のために、結局みんなのためにhhuh

11 1JMA 本心は自分のために

12 1JMB hhhuh本心は自分のために

13 1JMA そう

14 1JMB でも周りで見せかけるには、人のために

15 1JMA そうだ

16→ 1JMB てか明日課題協学ある?

17 1JMA ないよ俺は

18 1JMB いやなんか(部外 )テスト期間中に課題協学なかろうめと思う、今

19 1JMA 先週で終わったし

20 1JMB うん

会話例 7-5では、16行目で話題の転換が行われている。15行目まで、AとBは「情け は人のためならず」ということわざの意味について話している。16行目で、Bは何の予告 もなく、先行内容と関連のない「課題協学」という話題を持ち出した。このような用法は

「転覆的用法」とも呼ばれる(若松・細田 2003)。この例を、「というか」の「修正」機能 と関連して考える。ここで「というか」によって修正されたのは、発話者が正しくない、

または適切ではないと思う先行内容ではなく、むしろ会話の展開方向である。その意味で、

「というか」の話題転換機能は逆接接続表現のそれと同じく、“Procedural Textual Component”

と見なすことができる。また、このような例では、「というか」のもともとの意味はさらに 希薄になり、談話標識的な性質が一層高まっている。

ここまでは、「というか」の文法化現象について会話例を提示しながら分析を行った。こ の表現は、逆接接続表現ではないものの、「自己修復」と「他者修復」という機能を果たす 際に逆接的な関係を示すことができる。また、前章までで論じた逆接接続表現と同じく、

ドキュメント内 九州大学学術情報リポジトリ (ページ 145-151)