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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

逆接関係を表す表現に関する日中対照研究 : 文法化 の観点からの分析を中心に

王, 琪

https://doi.org/10.15017/2534516

出版情報:九州大学, 2019, 博士(学術), 課程博士 バージョン:

権利関係:

(2)

逆接関係を表す表現に関する日中対照研究

文法化の観点からの分析を中心に

九州大学大学院 地球社会統合科学府 王 琪

2019 年 9 月

(3)
(4)

要 旨

逆接を表す接続表現は、逆接ではない関係を示す時、つまり談話標識として使われるこ とがある。本研究では、そういった多機能化現象を「文法化」として捉える。同じ立場を とった先行研究は日本語にも中国語にもみられるが、それらの表現の具体的な文法化プロ セス、および表現間の相違点についての分析は管見の限り見当たらない。また、言語間の 比較研究もまだなされていない。そこで、本研究では通時的および共時的という2つの観 点から日本語の接続詞・接続助詞「けど」、接続詞「でも」と「ただ」、また中国語の逆接 接続詞“但是”、“可是”と“不过”の文法化現象に注目し分析する。加えて、実際の会話で逆接 関係を示す際に逆接接続表現以外の表現が用いられることもしばしばみられることに注目 し、日本語の「というか」と中国語の“其实”も取り上げて、文法化の理論で説明を行った。

序論では、研究背景、研究の目的と対象および各用語の定義について述べた。第2章で は、日本語と中国語の逆接表現に関する先行研究を概観した。意味論と文章論の観点から 分析した研究と談話分析または会話分析のアプローチをとった研究に分けて整理した。そ の上で、先行研究の問題点をまとめ、本研究の位置付けを示した。第3章は、本研究の枠 組みとして用いた文法化という理論の紹介を行った。次いで第4章では、本研究で用いた データ、その収集法と研究方法について説明した。

第5章から第7章にかけてが本論である。共時的な観点から分析をする前に、古い時代 へと遡って各々の語源を明らかにしておく必要があると考え、第5章では通時的な観点か ら日中逆接表現がこれまで経てきたプロセスを詳細に記述した。現代の日本語と中国語に 使われている逆接接続表現が、どのような変化を経て1つの接続表現として成り立ってい ったのかを、先行研究の分析を踏まえたうえで、文法化の理論に基づいて説明を行った。

第6章では、Traugott(1982)が提唱した文法化モデルに照らし合わせながら、現代の日 本語と中国語における各逆接表現の各段階での具体的な機能についてまとめた。Traugott

(1982)は文法化のプロセスを Propositional Component > Textual Component > Expressive

Componentという3つの段階に分けている。しかし、実際の会話例を分析したところ、こ

の経路では説明しきれない会話例が観察されたため、従来のプロセスに修正を加えた経路 を提案した。本研究で提案したプロセスは Content Textual Component > Interactive Textual

Component > Procedual Textual Componentである。分析にあたり、まず、発話者自身の前後

の発話内容の逆接関係を示す“Content Textual Component”として使われる各逆接表現が用 いられた会話例を示し説明を行った。次に、話し相手に対して、逆接または対立する発話 者の主観的な信念と態度を表明する場合は “Interactive Textual Component”に分類し、該当

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する会話例を取り上げ分析した。逆接接続表現は不同意表明などの行為によく使われるが、

対人関係構築においてはマイナスな影響だけでなく、相手を褒めたり慰めたりする時にも 使われる。さらに、“Procedural Textual Component”の段階に入る逆接表現の会話例について 分析した。この段階では、逆接表現のもともとの逆接の意味が薄くなり、発話者は話し相 手の面子を配慮して自分の主張を和らげたり、これまでと異なる話題を切り出す時、逆接 接続表現を使ってその唐突感を軽減させたりする。本章の最後には、各表現の出現数およ び談話標識としての使用数の割合を数値で示した。結果として、日本語の「けど」と「で も」と中国語の“但是”と“不过”は出現数が高く、逆接を示す機能から談話標識の機能まで 文法化が進んでいることが分かった。一方、「ただ」と“可是”は、出現頻度が低いだけでは なく、談話標識的な使い方も観察できなかった。

第7章では、現代の日本語と中国語で逆接表現として捉えられてはいないが会話では逆 接関係を示す機能を持つ表現として、日本語の「というか」および中国語の副詞“其实”を 取り上げて議論した。「というか」と“其实”は本来は逆接接続表現ではないが、会話では逆 接関係を表すために使われることも多く、さらに話題を展開させる談話標識にまで発達し ているということを示した。

第 8 章では、総合的な考察を行った。具体的には、「機能の多寡」、「統語的位置の自由 度」、「出現頻度」と文法化の度合いとの関係から、日本語と中国語の各逆接接続表現の文 法化について、表現間および両言語間の類似点と相違点をまとめた。また、各表現の文法 化に伴う(間)主観化現象について指摘した。そして、「というか」と“其实”が、本来的な 逆接の接続表現と同じプロセスで文法化した理由および両者が逆接的機能に至るまでのメ カニズムについて考察した。

第9章は結論であり、本研究をまとめるとともに今後の展望についても述べた。

本研究は、日本語と中国語の逆接接続表現の文法化現象について、通時的および共時的 に考察を行った。共時的な分析をもとに、日本語と中国語の各逆接表現が談話標識にまで 文法化したプロセスを提示した。また、表現間と日中言語間の共通点および相違点を新た に示した。さらに、「というか」と“其实”の文法化と日中逆接表現の文法化との関連性を明 らかにした。

(6)

目 次

1章 序論 ... 1

1.1 はじめに... 1

1.2 本研究の目的と意義 ... 2

1.3 研究対象... 3

1.3.1 用語の説明 ... 3

1.3.1.1 接続表現 ... 3

1.3.1.2 談話標識 ... 4

1.3.2 日本語の研究対象 ... 4

1.3.3 中国語の研究対象 ... 5

1.4 本研究の構成と概要 ... 6

2章 先行研究の概観... 8

2.1 日本語と中国語における逆接表現の歴史変遷に関する研究 ... 8

2.1.1 日本語逆接表現の歴史変遷に関する研究 ... 8

2.1.2 中国語逆接表現の歴史変遷に関する研究 ... 9

2.2 現代日本語と中国語における逆接表現に関する研究 ... 10

2.2.1 現代日本語における逆接表現に関する研究 ... 10

2.2.1.1 意味論および文章論の観点からの研究 ... 10

2.2.1.2 談話分析および会話分析の観点からの研究 ... 13

2.2.1.3 関連性理論からの研究... 17

2.2.2 現代中国語における逆接表現に関する研究 ... 18

2.2.2.1 意味論および文章論の観点からの研究 ... 19

2.2.2.2 談話分析および会話分析の観点からの研究 ... 21

2.3 逆接表現に関する日中対照研究 ... 24

2.4 本章のまとめ ... 25

3章 文法化理論について ... 27

3.1 文法化の定義について ... 27

3.2 文法化の通時性と共時性 ... 29

3.3 文法化のプロセスと一方向性仮説 ... 29

3.4 文法化のメカニズムと動機付け ... 32

(7)

3.5 文法化に関連する研究の概観 ... 33

3.5.1 文法化の観点から見た談話標識 ... 33

3.5.2 文法化の観点から見た日本語逆接表現 ... 34

3.5.3 文法化の観点から見た中国語逆接表現 ... 38

3.6 先行研究の問題点および本研究の位置づけ ... 40

4章 データおよび研究方法 ... 42

4.1 データの種類および集め方 ... 42

4.2 分析方法... 47

5章 通時的な観点から見た日中逆接表現の文法化現象 ... 48

5.1 日本語逆接表現の史的変化 ... 48

5.1.1 接続詞・接続助詞「けど」の通時的変化 ... 48

5.1.2 接続詞「でも」の通時的変化 ... 55

5.1.3 接続詞「ただ」の通時的変化 ... 58

5.2 中国語逆接表現の史的変化 ... 60

5.2.1 転折連詞“但是”の通時的変化 ... 61

5.2.2 転折連詞“可是”の通時的変化 ... 63

5.2.3 転折連詞“不过”の通時的変化 ... 65

5.3 本章のまとめ ... 68

6章 共時的な観点から見た日中逆接表現の文法化 ... 69

6.1 共時的な観点から見た日本語逆接表現の文法化 ... 71

6.1.1 共時的な観点から見た「けど」の文法化 ... 71

6.1.1.1 “Content Textual Component”としての「けど」 ... 72

6.1.1.2 “Interactive Textual Component”としての「けど」 ... 74

6.1.1.3 “Procedural Textual Component”としての「けど」 ... 75

6.1.2 共時的な観点から見た「でも」の文法化 ... 79

6.1.2.1 “Content Textual Component”としての「でも」 ... 79

6.1.2.2 “Interactive Textual Component”としての「でも」 ... 84

6.1.2.3 “Procedural Textual Component”としての「でも」 ... 91

6.1.3 共時的な観点から見た「ただ」の文法化 ... 94

6.1.3.1 “Content Textual Component”としての「ただ」 ... 94

(8)

6.1.3.2 “Interactive Textual Component”としての「ただ」 ... 95

6.1.4 まとめ ... 96

6.2 共時的な観点から見た中国語逆接表現の文法化 ... 98

6.2.1 共時的な観点から見た“但是”の文法化 ... 98

6.2.1.1 “Content Textual Component”としての“但是” ... 98

6.2.1.2 “Interactive Textual Component”としての“但是” ... 102

6.2.1.3 “Procedural Textual Component”としての“但是” ... 105

6.2.2 共時的な観点から見た“可是”の文法化 ... 106

6.2.2.1 “Content Textual Component”としての“可是” ... 106

6.2.2.2 “Interactive Textual Component”としての“可是” ... 107

6.2.3 共時的な観点から見た“不过”の文法化 ... 108

6.2.3.1 “Content Textual Component”としての“不过” ... 108

6.2.3.2 “Interactive Textual Component”としての“不过” ... 109

6.2.3.3 “Procedural Textual Component”としての“不过” ... 112

6.2.4 まとめ ... 114

6.3 日中逆接表現の文法化モデル ... 116

6.4 フレーム意味論から見た日中逆接表現の談話標識的機能 ... 116

6.4.1 フレーム意味論について ... 117

6.4.2 分析 ... 118

6.4.3 まとめ ... 126

6.5 量的分析... 126

6.6 本章のまとめ ... 130

7章 逆接を表す「というか」と其实について ... 133

7.1 日本語の「というか」 ... 133

7.1.1 「というか」の成り立ち ... 134

7.1.2 現代日本語における「というか」の文法化 ... 134

7.2 中国語の“其实” ... 140

7.2.1 “其实”の成り立ち ... 141

7.2.2 現代中国語における“其实”の文法化 ... 141

7.3 本章のまとめ ... 147

(9)

8章 考察 ... 149

8.1 文法化の度合いを測る基準 ... 149

8.1.1 機能の多様化と文法化の度合い ... 150

8.1.2 統語的位置の自由度と文法化の度合い ... 151

8.1.3 出現頻度と文法化の度合い ... 152

8.1.4 まとめ ... 152

8.2 逆接表現の文法化に伴う(間)主観化 ... 153

8.3 「というか」と“其实”が逆接的機能に至るメカニズム ... 153

8.5 本章のまとめ ... 155

9章 結論 ... 156

9.1 本研究の課題に対する回答 ... 156

9.2 本研究の意義 ... 159

9.3 今後の課題 ... 160

参考文献 ... 162

付録 ... 174

付録1 会話データ収録承諾書 ... 174

付録2 本文中で引用した会話例一覧 ... 176

付録3 「けど」、「でも」、「ただ」と“但是”、“可是”、“不过”を含む発話 ... 197

謝辞 ... 287

(10)

表目次

表 2-1 田中(1984)における接続詞の分類 ...11

表 2-2 市川(1978)における接続詞の分類 ... 12

表 2-3 永野(1986)における接続語句の分類 ... 12

表 2-4 永田・大浜(2001)における接続助詞「ケド」の諸用法 ... 16

表 2-5 张(1996)における中国語「転折連詞」の分類 ... 20

表 2-6 张(2000)における中国語「転折連詞」の分類 ... 21

表 2-7 方(2000)における“但是”、“可是”、“不过”の非本義的使用割合 ... 23

表 4-1 会話データベースの内訳 ... 42

表 4-2 Talkbank Sakura コーパス参加者属性 ... 43

表 4-3 Chiba3Party コーパス参加者属性 ... 43

表 4-4 BEIFコーパス参加者属性 ... 44

表 4-5 筆者が収録した日本語と中国語の会話 ... 45

表 4-6 協力者の属性(日本語の会話) ... 45

表 4-7 協力者の属性(中国語の会話) ... 46

表 6-1 筆者が収録した日本語と中国語の会話 ... 127

表 6-2 各段階における日本語逆接接続表現の出現数および割合 ... 127

表 6-3 各段階における中国語逆接接続表現の出現数および割合 ... 128

(11)

図目次

図 2-1「でも」による話題のシフト... 14

図 2-2 接続詞「ケド」の主体化プロセス ... 16

図 3-1 Traugott(1982)における文法化モデル... 31

図 3-2 Traugott(1982)における文法化モデル... 39

図 3-3 反予期標識から談話標識までの“但是”の文法化プロセス ... 39

図 5-1 接続助詞「けれども」の通時的変遷(1) ... 49

図 5-2 接続助詞「けれども」の通時的変遷(2) ... 51

図 5-3 助動詞be going to の発展 ... 51

図 5-4「でも」の通時的変遷... 56

図 5-5 接続詞「ただ」の通時的変遷 ... 59

図 5-6 脱範疇化の漸次変容 ... 59

図 5-7 “但是”の通時的変遷 ... 63

図 5-8 “可是”の通時的変遷 ... 65

図 5-9 “不过”の通時的変遷 ... 67

図 6-1 Traugott(1982)における文法化モデル... 69

図 6-2 図 3-1(Traugott 1982)のモデルの簡略版... 116

図 6-3 本研究で提案する逆接表現の文法化モデル... 116

図 6-4 「でも」による話題のシフト ... 117

図 6-5 会話例 6-42(会話例6-7)にみられる話題間のフレーム関係 ... 120

図 6-6 会話例 6-43にみられる話題間のフレーム関係 ... 121

図 6-7 会話例 6-44にみられる話題間のフレーム関係 ... 123

図 6-8会話例 6-45にみられる話題間のフレーム関係 ... 126

図 7-1 「というか」の構成 ... 134

図 7-2 “其实”の成り立ち ... 141

図 8-1 逆接表現の文法化に伴う間主観化 ... 153

図 9-1図 3-1(Traugott 1982)のモデルの簡略版 ... 157

図 9-2 本研究で提案する逆接表現の文法化モデル... 157

(12)

1 章 序論

1.1 はじめに

文章・談話では、すべての言語単位が、接続表現によって意味的につながることで安定 した関係を構築し、結束性や一貫性といったテクスト特有の性格を生み出している。また、

接続表現は、文章・談話の受け手にとって、内容を理解する時の手助けにもなっている。

接続詞は、その前後の文と文、あるいは段落と段落の関係を示して、文章・談話の構造 を示す機能を持つ。これまで、意味や統語レベルの研究では、接続表現は節や文の間とい う狭い範囲内で機能する研究対象として扱われてきた。例えば、逆接接続詞の表現価値に ついて、石黒(1999: 129)は、「日本語の文章の中で、文同士の連接関係、または一文中の 句の関係を見ていく時に、逆接という観点は欠かすことのできない」と述べる。しかし、

意味や統語レベルの研究の限界について指摘した研究もみられる。加藤(2001)は接続に ついて、先行する節や文の内容と後続の節や文の内容を関係付ける機能を有しているので あれば、これは統語論で扱うものではなく語用論的な分析を必要とすると述べる。メイナ ード(2004)も類似の指摘をする。接続表現は、文のレベルだけを観察したのではその意 味や機能を十分理解することはできず、談話言語学の観点からディスコース全体を見る必 要があると言う。加えて、西澤 ほか(1997)は、日本語の談話理解を考える際には文脈、

すなわち「会話の流れ」も把握する必要があると述べる。一般に、日本語では、「会話の流 れ」を明示する語として、順接・逆接・話題の転換・因果関係などを表す接続(助)詞が 用いられることが多い。加藤(2001)、メイナード(2004)と西澤 ほか(1997)の主張で 共通しているのは、実際の話し言葉で使われている接続表現に注目すべきだという点であ る。それと同じ立場をとる中国語の研究としては、姚(2012)が挙げられる。姚(2012)

は、これまで、書き言葉に比べて話し言葉での接続表現がさほど研究されてこなかったと 指摘する。また、言語変化はダイナミックであり、言語の形式と規則は実際の言語運用と 切り離せない関係にあると述べる。よって、実際の話し言葉をもとに、接続表現のよりダ イナミックな使用実態を分析する研究が求められる。

従来の研究では、日本語逆接接続表現に関する定義や記述は非常に限られている。例え ば永野(1958: 90)は、「前の事柄とそぐわない事、釣り合わない事、反対の事、などが次 に来ることを表すもの」が逆接表現であると定義している。また、市川(1978: 88)は、逆 接接続表現を「前文の内容に反する内容を後文に述べる接続表現」と定義する。

(13)

しかし、常に逆接の接続詞・接続助詞と位置付けられてきた日本語の「けど」、「でも」、 中国語の“但是”、“可是”などは、自然会話では逆接機能とは異なるレベルで、談話標識と して用いられることもよく観察される。そういった新しい文法機能への発展は文法化

(grammaticization)と呼ばれている(Hopper 1991、Traugott 1995)。

文法化の伝統的な考え方では、「依存性の増加」、「作用域の縮小」、「内容語から機能語へ」

といった変化を文法化に含める。本来、文法化とは、内容語から機能語への通時的な変化 を指し、長い間、この伝統的な文法化の考え方が文法化研究において主流であった。しか し、近年の研究の広がりから、新しい文法化の見方も出現した。本研究では、機能語が新 しい用法を獲得し新たな機能語へと変化する現象も、広義の文法化と考える。

文法化の二番目の見方である「より広い」考え方は、「作用域の拡張」を認めるというも のである。この「より広い」考え方の研究として、例えば、日本語の談話標識「が」(Matsumoto 1988)、「でも」(Onodera 1995)、英語の談話標識“in fact”、“indeed”、“besides”などの発達を 扱った研究がある。この考え方は「文法化が「作用域の縮小」と「依存性の増大」を必然 的に含むと考えるべきではない」(小野寺 2014: 13)という立場をとる。そして、縮小と依 存性の増大を排除し、新しい、より広範なものを含む文法化の考え方を提示している。

1.2 本研究の目的と意義

本研究は、文法化の観点から、日本語と中国語の逆接関係を表す接続表現を対照させる。

日常会話のデータに基づき、質的な事例分析と量的調査から両言語の逆接接続詞の文法化 にみられる共通性と相違点を明らかにすることを目的とする。

本研究は、以下の4つを課題とする。まず、日中逆接表現が接続表現になるまでの通時 的変遷を文法化理論を援用して整理する。次に、逆接接続表現が談話レベルでの役割を担 うことは先行研究で指摘されているが、その実態は明らかにされていないため、本研究で は、共時的な観点からそれらの表現がどのような文法化プロセスを経て談話標識的な機能 まで発達したのかを明らかにする。そして、日本語と中国語の逆接接続表現の文法化にみ られる共通点と相違点をまとめる。最後に、本来逆接接続表現ではない表現が、逆接表現 と同様の文法化プロセスを辿っている理由について検討する。

本研究は、日本語と中国語の逆接接続表現の文法化現象について通時的および共時的に 考察を行うことを通して、通時的および共時的対照研究の可能性を示唆し、逆接以外の関 係を表す日本語と中国語の接続表現の文法化の考察にも示唆を与えるだろう。また、日本

(14)

語または中国語第二言語学習者にとっては、本研究の分析は、日中会話での逆接表現の振 る舞いをよりよく理解できる一助になるだろう。

1.3 研究対象

本節では、「逆接表現」および「談話標識」という用語の定義、および本研究が対象とす る日本語と中国語の逆接関係を表す表現を示す。

1.3.1 用語の説明 1.3.1.1 接続表現

「接続表現」の規定と範囲に関する取り扱い方は、研究分野によって違いがみられる。

この違いについて、佐久間(1991)は次のようにまとめている。文章論においては「接続 語句」と呼ばれ、品詞論では「接続詞」と「接続助詞」に分けられる。また、音声資料を 扱う場合には「つなぎことば」という用語が用いられる。「つなぎことば」は「接続語句」

に比べてさらに範囲が広く、前後の内容を一定の関係でつなぐ機能を持つ副詞的表現や名 詞的表現、連語的表現、句・節・文レベルの表現形式といった、広い範囲に渡る表現も含 まれる。また、佐久間(2000: 152)は「接続」を「複数の語句や表現をつなぎ合わせて、

より大きい意味のまとまりを表し、さらに上位の言語単位を作り上げる働きのこと」とし、

「接続詞」、「接続助詞」と「接続連語」や用言の「連用中止形」などを総称して、「接続表 現」と呼んでいる。

石黒・阿保・佐川・中村・劉(2009)は、品詞上の概念である「接続詞」の使用を避け ている。そして、「接続表現」を「独立した要素どうしを結びつける接続詞、および文法化 の進んだ接続詞的表現」(石黒・阿保・佐川・中村・劉 2009: 73)として、より広い範囲で 捉えているが、その中には接続助詞が含まれていない。

本研究の研究対象は、主に日本語と中国語の逆接接続詞であるが、接続助詞の「け ど」、接続句の「というか」、副詞から転じた中国語の談話標識“其实”も含まれるため、佐 久間(1991)による、音声資料を扱う場合に用いる「つなぎことば」が指す広い範囲をと る。また、佐久間(2000)にしたがって、「接続表現」という用語を用いる。本研究で取 り扱う日本語の逆接接続詞、逆接接続助詞および中国語の逆接接続詞を「逆接接続表 現」、または省略して「逆接表現」と呼ぶこととする。しかし、「というか」と“其实”はも

(15)

ともと逆接表現ではないため、逆接関係を表す接続表現として扱うこととする。

1.3.1.2 談話標識

本研究は、談話標識の定義として、Fraser(1996: 169)の以下の記述に従う。「談話標識 は表示的な文の意味には貢献せず、手順的な意味のみに貢献する」(廣瀬 2012: 14)。また、

本研究では、もともとの意味が薄れ、話し相手を配慮する発話者の立場を示す逆接表現の 使用を「談話標識的な使い方」とする。例えば、発話者が自分の主張を和らげる場合、ま たは新しい話題を切り出す際に、話し相手に与える唐突間を軽減させるために逆接接続表 現を用いる場合などである。

1.3.2 日本語の研究対象

日本語の逆接接続表現には「しかし」、「でも」、「だが」、「そのくせ」、「ところが」など がある。岩澤(1985)の分析によれば、話し言葉に近づくほど、逆接接続表現の「逆接」

ではない用例が増える。また、ほかの逆接表現と比べて、「けど」1、「でも」、「ただ」は頻 繁に話し言葉で使われている。なお、『日中辞典』(2015)の記述によれば、「けど」、「でも」、

「ただ」という3つの表現は、いずれも本研究で対象となる3つの中国語逆接表現“但是”、

“可是”、“不过”との意味的な対応関係が強い2。そこで、本研究はこの3つの逆接接続表現

を分析対象として取り上げることとする。加えて、第7章では、逆接関係も表すことのあ る接続語句「というか」も分析対象に含める。具体的な理由を以下に述べる。

石黒(2008)によれば、「しかし」は常に代表的な逆接接続詞とは言われるものの、新聞 や小説、エッセイ、論文などの書き言葉での使用頻度が高い(石黒 2008: 71)。一方、本研 究で扱った若者の雑談では「しかし」の使用例が1例も見当たらなかった。「だが」も同様 である。その代わり、雑談での使用頻度が高いのは「けど」と「でも」である。また、「た だ(し)」は、「逆接」と異なり、「補足」の接続詞と言われる(市川1978: 66)。日本語記述 文法会編(2009: 132-138)も、「逆接」とは別に「補足の接続表現」という新たな1項を立 て、「先行部の内容が成立するための条件に後続部で制限を加えたり、関連する情報を後続

1 本研究では、「けれども」「けれど」「だけど」などのバリエーションを「けど」で代表させて表記す る。

2 『日中辞典』(2015)の記述によれば、「けれども」が対応する中国語は“可是”、“但是”、“然而”である。

しかし、“不过”に訳される例文もあるため、“不过”にも対応していると思われる。「でも」が対応するのは、

“但是”、“可是”、“不过”である。「ただ」は“但是”、“不过”と対応している。

(16)

部で追加したりすることを示す」という定義付けを行い、具体例として「ただ」、「ただし」、

「ちなみに」などを挙げている。

しかし、「ただ」と「ただし」を「逆接の接続詞」として認める研究もある。岩澤(1985)

は「逆接の接続詞」とみられるものをコーパスから抽出し、その中には「ただ」と「ただ し」も含まれている。つまり、「ただ」と「ただし」が持っている「補足用法」も逆接型接 続詞の一用法と捉えている。

石黒(2008)は、接続詞を使う時の語の単調さを避けるために、繰り返しがちの「しか し」を別の接続詞で置き換えることを勧めている。別の接続詞として例示されている表現 の1つが、「ただ」である。補足修正的な意味合いを持っている「ただ」は、先行文脈の内 容を肯定しつつ部分的に修正を行う意味で、比較的穏やかな逆接表現であると述べられて いる。石黒・阿保・佐川・中村・劉(2009)も、「ただ」を逆接の接続表現として扱ってい る。

補足注釈機能を有する中国語の“就是”、“只是”と日本語の「ただ」を比較した宇都(2009)

は以下のように指摘している。中国語の“就是”と“只是”は早くから逆接的な特徴を持つ語 として認識されてきた。一方、日本語の「ただ」には単なる情報補足を表す意味に加えて 反順接性も含まれているが、この点は従来の接続表現の研究ではさほど意識されていなか った。

上述したように、「ただ」について、分類の見方は2つに分かれている。しかし、実際の 会話に現れた「ただ」の例には「でも」や「けど」と置き換えが可能であるものもしばし ばみられるため、本研究は「ただ」を「けど」と「でも」と同じ逆接の接続表現として扱 うこととした。

「というか」は、「でも」や「けど」と同じ逆接表現とはみなすことはできないが、自然 談話では、自分もしくは相手の発言に対して、話し手が何らかの修正解釈を行う際に頻繁 に使われている。この用法は、先行発話を修正するという点で予想されることと逆接的な 結果を提示しており、「逆接関係を表す接続表現」とみなすことも可能だろう。

1.3.3 中国語の研究対象

中国語の逆接表現としては、典型的な「転折連詞」(逆接接続詞)である“但是”、“可是”、

“不过”を中心に考察するが、逆接関係を表すことがある談話標識“其实”についても第7 章

で分析を加える。“但是”、“可是”、“不过”のほかに、“然而”、“而”などの逆接接続詞もある。

(17)

しかし、“然而”、“而”は主として書き言葉に現れる逆接接続詞であり、本研究で扱った自 然会話データには使用例が観察されなかった。そのため、逆接接続表現の談話標識的な使 い方を観察するため、話し言葉で多用される“但是”、“可是”、“不过”を分析対象として取 り上げることとする。

また、“但是”と“可是”に対応する日本語について、『中日辞典』(2010)は、“但是”は書き

言葉にも話し言葉にも用いられると指摘し、話し言葉の場合は「けれど」と「でも」に対 応しており、“可是”は「でも」と「ただ」に対応していると記す。“不过”が「ただ」と「で も」に対応するという。したがって、本研究は、「けど」、「でも」、「ただ」と“但是”、“可 是”、“不过”を比較対象として取り上げることとする。

中国語の“不过”は、日本語の「ただ」のように補足限定を表す接続表現として扱われる ことがある。しかし、呂(2014: 482)は“不过”と“只是”について、前文を修正する意味が強 いが転折連詞の一種として認定するとしている。また、先行研究(张 2000、刑 2001)で 指摘されているように、“不过”によって表される逆接関係は、“但是”などより弱いが、強 い関係を表すことへと変わることも不可能ではない。したがって、中国語の“不过”も逆接 表現として認められていると言える。

また、日本語日常会話で使われる「でも」を中国語に訳す際、逆接接続詞ではなく副詞

“其实”に訳すことができる場合も多い。よって、“其实”は、実際の会話ではしばしば前後 の内容の逆接関係を表すために使われていると考えられる。

1.4 本研究の構成と概要

本研究は9つの章から構成されている。各章の内容を簡潔に紹介する。

第2章では、日本語および中国語の逆接表現に関する先行研究を概観する。次に、先行 研究の問題点と本研究の位置付けを述べる。第3章では、本研究が採用する文法化理論に ついて紹介する。第4章は、本研究で用いるデータ、研究方法について説明する。

共時的な視点から分析をする前に各々の語源を探求する必要があると考えられるため、

第5章では、通時的な観点から日中逆接表現がこれまで発達してきたプロセスを整理する。

現代の日本語と中国語に使われている逆接接続表現が、どのような変化を経て今の形とし て成り立ったのか、先行研究を分析しながらまとめる。

第6章では、Traugott(1982)が提唱した文法化モデルに照らし合わせながら、現代の日 本語と中国語の逆接表現の各段階の具体的な機能についてまとめる。Traugott(1982)は、

(18)

文法化のプロセスを“Propositional Component”、“Textual Component”、“Expressive Component”

という3つの段階に分けている。しかし、実例を分析したところ、この経路には該当しな い会話例が観察されたため、元のプロセスに修正を加えた経路の提案を試みる。つまり、

“Content Textual Component”、“Interactive Textual Component”、および“Procedual Textual Component”に分け直す。まず、逆接接続表現は逆接または対立関係を持っている発話者自 身の発話をつなぐ働きをする逆接表現が現れる会話例について分析する。続いて、

“Interactive Textual Component”の段階では、話し相手の発話に対立する発話者の主観的信念 または態度が逆接接続表現によって導き出され、相手との対人関係に影響が与えられる。

さらに、“Procedual Textual Component”の段階に進むと、発話者は、逆接接続表現を和らげ の談話標識として用いることにより話し相手に対する配慮を示す。つまり、これまで逆接 を表す働きを果たす接続表現が、談話標識の機能まで広がっている。最後に、量的結果を 示し、各表現間、および言語間の文法化の度合いについて比較し、考察する。

第7章では、現代の日本語と中国語で逆接表現として捉えられていない表現が会話の中 では逆接関係を示す機能を持っている日本語の「というか」、および中国語の“其实”という 2 つの表現を取り上げる。この2つは本来逆接接続詞ではないが、会話において逆接関係 を表すために使われることが多く、さらに、話題を展開させる談話標識にまで発達してい ることを実際の会話データで示す。

第8章では、逆接接続表現の文法化度合いに関わる要因、文法化に伴う(間)主観化、

および「というか」と“其实”が逆接の接続表現と同じプロセスで文法化した原因について、

総合的な考察を行う。

第9章は、本研究の結論である。

(19)

2 章 先行研究の概観

本章では、研究対象である日本語の逆接表現「けど」、「でも」、「ただ」に関する研究、

および中国語の逆接表現“但是”、“可是”、“不过”に関する研究を概観する。

2.1では、まず日本語の「けど」、「でも」、「ただ」、続いて中国語の“但是”、“可是”、“不 过”についての通時的な歴史変化に関する先行研究を概観する。2.2では、両言語の共時的 な研究をまとめる。共時的研究については、統語論や文章論の立場に基づく研究、談話分 析と会話分析というアプローチをとる研究、そして関連性理論を分析の視点とする研究と いう3つに分けて整理する。2.3では、日本語と中国語の逆接表現を対照させた研究を概観 する。

2.1 日本語と中国語における逆接表現の歴史変遷に関する研究

それぞれの時代では、日々使われる言語はそれほど変わらないものとして捉えられがち である。しかし、歴史言語学の分野では、異なる時代の言語を時間順に並べてみると、そ の変化が明確に見えてくるとよく言われる。本研究は、共時的な先行研究を概観する前に、

対象となる日本語と中国語の逆接表現が今日に至るまでの歴史的変化に言及した研究を整 理し、まとめる。

2.1.1 日本語逆接表現の歴史変遷に関する研究

先行研究の記述によると、日本語の接続詞はもともと独立して発達したものではなく、

副詞や名詞、動詞、指示詞、接続助詞といった他の品詞からの転用や複合によって徐々に 成立してきた品詞である。つまり、古代日本語には固有の接続詞がなかった。近代語に至 るまで、接続詞は語の複合や転成などといった変遷を遂げてきたという歴史的事実がある

(湯沢 1936、鈴木・林 1973、山口 1996、浅川 ほか 2014など)。また、接続助詞の形成 については、係助詞や格助詞がその語源、もしくは一部語源として働いていたという指摘 もなされている(山口 1996)。現代日本語で頻繁に使用されている逆接を表す接続助詞お よび接続詞も、そういった変化を辿っていると言われている。

宮内(2007)は、江戸語・明治期東京語を対象に、近代において逆接確定条件表現が中 心的用法である接続助詞「けれど」類および接続助詞「が」について、両表現の特徴と変 化を調査した。江戸後期・明治期の文学作品を分析した結果、以下のことが分かった。ま

(20)

ず、江戸語では「が」の使用率が高いが、江戸後期から明治期にかけて「けれど」類の使 用率が上がった。次に、「けれど」の形式について、江戸語には見当たらず、「けど」の使 用が明治期になってから散見されるようになった。そして、逆接的ではない「けれど」類 の使い方3は、江戸語・明治期東京語には確認できず、江戸後期から増加した。

鈴木・林(1973)は、洒落本や人情本など、いわゆる俗文体を資料として接続詞の移り 変わりを分析した。その結果、1 つの特徴として、もともと接続助詞であるもの(「が」)、 または助動詞 + 接続助詞であるもの(「だが」、「ても」)が、先行文から離れて独立した表 現になったことが明らかにされた。また、こうした現象が俗文体に現れているということ は、当時の口語で使われていることを裏付けていると指摘した。

そのほかの逆接表現の通時的研究としては、19世紀後半から20世紀初期までの標準日 本語にみられる接続表現使用の全般を調査した福島(2007)、室町時代後期から江戸時代後 期にかけての「けれども」についての分析を行った西田(1978)、平安時代から院政・鎌倉 時代までの「ただし」の意味・用法の展開について考察した小林(1996: 301-354)が挙げ られる。しかし、これらの研究は、狂言集、洒落本、人情本などの話し言葉的側面の強い 資料、もしくはその時代の小説をデータとし、事例提示や出現数などといった数値によっ て構成される分析がほとんどであり、その変化の裏にあるメカニズムや要因を解明する議 論は不足しているとみられる。

2.1.2 中国語逆接表現の歴史変遷に関する研究

中国語の転折連詞の史的変遷に言及した先行研究は多数ある。それらの研究では、それ ぞれ分析の角度が異なり、その重きが置かれる面も異なる記述がなされてきた。例えば、

現在の標準語で現れている様々な連詞は古代語の副詞から変化してきたものとする研究が ある(段 1991、邓・石 2006)。とりわけ、限定的範囲を表す副詞と転折を表す連詞との関 連性は多くの研究で論議されている(沈 2004、姚 2007、何 2016など)。

邓・石(2006)は、限定の意味を表す副詞から逆接を表す転折連詞に変わった接続詞を 6 つ取り上げ、それぞれの通時的変化過程を例示しながら、簡潔に整理した。例えば、現 代中国語で最も使われる“但/但是”は、古代中国語4では「範囲の限定」を示す際しか使われ ず、「逆接」関係を表示するために用いられたのは、“然”または“而”であった。しかし、そ

3 例えば、「昨日の件ですけど…」のような提題用法。

4 古代中国語では“但”という形しか使われない。

(21)

ういった変化の動機付けについては、限定と逆接の概念上の関連性についての分析に留ま っており、この分析が、同じ現象が観察できる中国語以外の言語にまで一般化できるかど うかについては疑問が残る。

それに対して、近年、文法化や語彙化の視点から転折連詞の語史を辿った研究が徐々に 増えてきている(姚 2007、高 2013、朱・範 2017など)。姚(2007)は接続詞“可是”が副 詞の“可是”から転じたと述べる。高(2013)は“不过”の通時的変化についてまとめた。“不 过”は否定を意味する表現から副詞になり、接続詞になった。その変化の過程では主観性と 間主観性が働いたと主張される。また、朱・範(2017)は、“但是”はもともと範囲限定を 表した副詞“但”と判断動詞“是”の組み合わせによって発生したと説明する。判断動詞“是”

との頻繁な共起によって1つの接続詞になった現象は、“于是”、“可是”、“只是”など、中国 語の歴史的変化でしばしばみられる。このことから、朱・範(2017)は、“但是”を類推に よる文法化とした。

本研究で扱う“但是”、“可是”と“不过”は、上述の先行研究の指摘と同じように、副詞から 転成してきたと言われている。しかし、各表現の通時的変化には相違点が存在すると思わ れ、各表現間の比較分析が求められる。本研究では、第5章でこれまでの先行研究の主張 を整理したうえで、3つの逆接接続詞の通時的変化プロセスを図式化する。

2.2 現代日本語と中国語における逆接表現に関する研究

本節では、現代日本語と中国語に使われる逆接接続表現に着目した研究を概観する。2.2.1 では日本語の「けど」、「でも」および「ただ」を分析した研究を紹介し、2.2.2では中国語 の“但是”、“可是”、“不过”について記述した研究をまとめる。

2.2.1 現代日本語における逆接表現に関する研究

以下では、日本語における逆接接続表現に関する研究を整理する。書き言葉を中心に意 味論または文章論の観点から分析を行った研究、談話分析または会話分析の方法を用いた 研究、さらに関連性理論に基づく分析を行った研究に分けて紹介する。

2.2.1.1 意味論および文章論の観点からの研究

接続詞は、先行文脈と後続文脈を結びつけることが最も重要な機能である。そのため、

(22)

接続詞に関するこれまでの研究では、「どう結びつけるか」という問題が中心に議論されて きた(石黒・阿保・佐川・中村 2009)。連接関係の分類や記述に関する研究がこれまで盛 んに行われており、代表的な研究として田中(1984)、市川(1978)、永野(1986)などが ある。

田中(1984)は、接続詞の一般的な機能、意味、用法だけではなく、それらの使用領域 にも目を向けながら考察を行った。分析にあたって、田中(1984)は接続表現を「対等の 接続」、「承前の接続」、「転換の接続」の3種類に分けた。それぞれの機能および代表例は、

次の表 2-1のようにまとめられる。

表 2-1 田中(1984)における接続詞の分類

分類

1. 対等の接続:

様々の意味合い で語句を並べ立 てる接続であ る。

2. 承前の接続:前件を導いてきて、

後件に結び付ける接続であり、前件 を前提ないしは先行条件として、後 件の帰結に結び付ける接続である。

3. 転換の接続:それま での話線を切りかえる スイッチのような役割 を果たす接続である。

代表 例

お よ び 、 ならび に、そして、すな わち 等

それから、だから、ただ、しかし、

けれども、でも 等

さて、そこで、では 等

(田中 1984: 89-120 をもとに筆者が作成)

「しかし」や「けれども」などの接続詞に関しては、「これらは、背反的関係を表すもので、

前件に対して、論理的に矛盾する事象や、ズレのある事柄を、後件として結びつ付ける場 合に用いられる」とされている(田中 1984: 112)。

市川(1978)と永野(1986)では、さらなる詳細な分類が行なわれている。市川(1978)

は、先行内容と後続内容の意味関係を考慮したうえで、全体の接続詞を3類7種に分類し た。その分類を、表 2-2に示す。「逆接」は「前の内容に反する内容を導く」機能である。

また、「ただし」は「前の内容を補足する内容を導く」働きを果たす「補足」に分類された。

(23)

表 2-2 市川(1978)における接続詞の分類 3類 1. 二つの事柄を論理的

に結びつけて述べるの に用いる

2. 二つ(以上)の事柄を別々に 述べるのに用いる

3. 一つの事柄に対 して拡 充して述べ るのに用いる 7種 ア.順接 イ.逆接 ウ.添加 エ.対比 オ.転換 カ.同列 キ.補足

代表 例

だから、そ れで、した がって、そ れなら、す ると 等

しかし、け れども、だ が、そのく せ、ところ が 等

そして、

それに、

また 等

というよ り、その 代 わ り 等

と こ ろ で、さて 等

す な わ ち、つま り、要す るに 等

な ぜ な ら、ただ し、なお 等

(市川 1978: 66をもとに筆者が作成)

市川(1978)と同じように、2つの文が連なる時の意味の関係を分類したのは永野(1986)

である。永野は、文章論の観点から、文と文との連接関係の指標となる言語形式の1つと して「接続語句」を挙げている。さらに、「接続語句」を7つの型に分類した。

2-3 永野(1986)における接続語句の分類

7型 示している関係 例

1.展開 前の文の内容を受けて、あとの文でいろいろ展開させ

る関係

だから、それで、すると 等

2.反対 前の文の内容に対し、あとの文でそれと反対の事がら

を述べる関係

だが、しかし、でも 等

3.累加 前の文の内容に、あとの文の内容を付け加えたり、並

列したりする関係

その上、そして 等

4.同格 前の文の内容とあとの文の内容とが、同じことをこと

ばを変えていったり、繰り返しであったりする関係

つまり、たとえば 等

5.補足 前の文の内容に対して、あとの文で説明を補う関係 なぜなら、というのは

6.対比 前の文の内容にあとの文の内容を対比させ、対立さ

せ、または、選択させる関係

または、それとも 等

(24)

7.転換 話題を転ずる関係 では、ところで 等

(永野 1986: 105-108をもとに筆者が作成)

しかし、上記の3つの分類法が実際の日本語、とりわけ日本語会話にどの程度当てはま るかについては、大いに疑問が残る。例えば、異なる話題を持ち出すときの「全然違う話 だけどさ」という発話の「けど」はどうだろうか。ほかの会話参与者に予告を行う場合の

「けど」は、「逆接」あるいは「反対」というカテゴリーに入らないことは疑いない。本研 究は、実際に使用される逆接表現の振る舞いをより全面的に記述するため、話し言葉を分 析する必要があると考える。

「論説文」、「随筆文」、「小説」という異なる文体の書き言葉データを使って逆接の表現 の特徴を探ったのは北條(1994)である。「でも」は話し言葉に近い書き言葉である小説で 最も多く使われていることが示されたが、「しかし」との比較から、「でも」が多く現れる ようになったのは早くとも1970年代以降であることが明らかになった。

逆接表現の使い分けに注目する研究もみられる(渡部 1995、渡部 2000、池上 1997 な ど)。池上(1997)は、逆接確定条件を表す接続助詞「のに」、「ながら」、「ものの」、「けれ ども」を取り上げ、作例を分析することによって各々の意味と用法を整理した。「けれども」

は後件に焦点を置くことができるのに対し「のに」は置けないこと、「けれども」は4つの 接続助詞の中で最も用法が多く独立度が高いことを指摘した。渡部(2000)は、池上(1997)

と異なる逆接の形式「けど」、「わりに」、「のに」、「くせに」を取り上げて意味的な記述を 行い、「けど」には「対比的逆接」5と「推論的逆接」6が備わっていると主張した。

本節では、文章論と意味論の観点からの先行研究を概観した。作例、または文章のよう な改まった書き言葉と異なり、日常会話に用いられる接続詞は多様な振る舞いを見せてい る。つまり、上述したような分類や定義で説明できない機能が会話には現れるのである。

2.2.1.2 談話分析および会話分析の観点からの研究

接続表現は、結束性のみならず、話し手の感情や聞き手に対する態度など、いわゆる日 常会話に観察されやすい要素にも緊密に関わっている。したがって、話し言葉の視点から 逆接表現を観察することが必要となってくる。岩澤(1985)をはじめとしたいくつかの研

5 前件と後件の事態問に何らかの意味的コントラストを含むものである。(渡部 2000: 113)

6 前件と後件の事態の問に社会通念上妥当な何らかの因果関係を認める事ができる。(渡部 2000: 114)

(25)

究では、自然談話を分析することにより、「逆接」という一言でまとめきれない談話管理の 機能が注目されている(稗田 2003、日野 2003、呉 2008など)。

岩澤(1985)は、従来、品詞論や分類論などの視点から接続詞全体についての論述が多 いのに対し、実際に用いられている実例に基づく個別研究が少ないことを指摘した。そこ で、本、雑誌、テレビ番組から集めた用例に基づき、書き言葉の論説文、話し言葉の会話 文、そしてその中間だと思われる随筆文という3つの文体別に、逆接の接続詞の使われ方 について考察を行った。そして、逆接という中心的用法のほかに、「でも」の用法を「対比」、

「展開」、「転換」、「補足」という4つに分けた。文体別の量的分析の結果として、話し言 葉に近づくほど「逆接」ではない用例が増えることが明らかにされた。また、展開用法の 割合が高くなっていき、逆接関係の形骸化が進んでいくことも示された。つまり、書き言 葉と比べて、話し言葉における逆接接続詞の多機能化が強くなることが示唆される。

稗田(2003)は、「でも」を談話標識として捉え、実際の会話の全体構造の中でどの位置 に現れるのか、また、話題間のつながりを作り上げる「でも」の位置によってどのような 機能を持っているのかについて分析した。その結果、「下位の話題、上位の話題の導入に現 れ、本筋の話題を始める」7ものと「下位の話題、上位の話題の最後に現れ、本筋の話題を 終わらせる」8ものという2つのタイプが観察された。「でも」による話題移行は、上位話 題から下位話題へ、または下位話題から上位話題へという両方がみられたと述べる。

「でも」の「トピックシフト」機能に着目するもう1つの研究として、日野(2003)が 挙げられる。

主 話 題

副話題1 でも ↓

副話題2 でも ↓

副話題3

図 2-1「でも」による話題のシフト

(日野 2003: 85 一部筆者が変更)

7 逸れた話題から本筋の話題へと話を戻し、本筋の話題を始めるもの。

8 逸れた話題から本筋の話題へと話を戻し、本筋の話題を終わらせるもの。

(26)

日野(2003)は、「しかし」と「でも」に注目し、両者の働きを「相手と逆のことを主張す る」、「トピックシフト」、「(前の文脈を飛び越えて)感動的に振り返る」の3つに分類して いる。「トピックシフト」の働きについては、「主話題」と「副話題」という用語を用いて 図で示した(図 2-1)。

しかし、「トピック」について、稗田(2003)には「上位話題」、「下位話題」、「本筋話題」

の定義が曖昧であるという問題点がある。また、逆方向、つまり、小さい話題から大きい 話題への移行も考えられるため、日野(2003)が提案した図だけでは「でも」が結びつく 前後の幾つかの話題の関連性は説明が行き届かない部分もあると思われる。この点につい ての詳細な検討は、第6章で行う。

加えて、日野(2003)の分類にしたがうと、「相手と逆のことを主張する」という働きは 相手の見方と対立する自分の主張を導くことを指す。しかし実際には、安井(2012)が言 うように、相手に対する「理解・共感」を示す「でも」もみられる。安井(2012)は、会 話分析の手法を使って、話し手と聞き手の相互行為を分析することによって「でも」の現 れ方を分析した。そして、先行研究で指摘されてきた「でも」の反論を示す機能とは異な り、先行発話への「理解や共感を提示」の前に用いられる「でも」が友人同士の実際の日 常会話によくみられると述べている。話し手は、悩みを語った相手の「想定や認識」を否 定することによって、相手への共感・理解を示すことが達成できるという。この研究と関 連して、本研究では、自然会話に現れる「でも」がいかに「対人関係」に関わっているか について検討する余地があると考える。

岩澤(1985)と日野(2003)の見解を受けて、陳(2011)は「でも」の談話機能を再検 討した。「でも」が繋ぐ先行内容と後続内容との間に対立関係があるか否かによって、「で も」の談話機能を大きく「対立予告」(「Aと否Aの関係あり」)と「話題移行」(「Aと否A の関係なし」)に分けた。「でも」の機能拡張については、論理関係を示すために使われる

「でも」は主体的判断に関わる部分が大きいため、話者の主張または感想を述べる際に使 われることが多くなり、それにつれて逆接性が弱まっていくと説明した。

接続助詞「けど」に関しては、これまで数多くの先行研究が積み重ねられてきた(内田

2001、永田 2001 など)。「けど」の多様な用法間の繋がりについて、様々な視点から議論

を展開させた一連の研究がある(尾谷 2003、永田・大浜 2001、大浜 2009、伊藤 2005な ど)。以下では、それらの研究について概観する。

尾谷(2003)は、認知言語学で Langacker らが提唱する「主体化」のモデルを用いて、

「けど」の用法間の関係について考察を行った。接続詞「ケド」の機能拡張は、図 2-2の

(27)

ように、「明示的反意関係」を示す働きから「話題導入」を表示する働きまで主体化が進ん でいることが示唆された。

反意関係(明示的) 反意関係(非明示的) 対比関係 話題導入

図 2-2 接続詞「ケド」の主体化プロセス

(尾谷2003: 91をもとに一部筆者が変更)

永田・大浜(2001)は、先行研究を踏まえて、接続助詞「ケド」の用法を表 2-4のよう にまとめた。

表 2-4 永田・大浜(2001)における接続助詞「ケド」の諸用法 番号 用法 例

1 逆接用法 雨が降ったけど運動会は行われた。

2 対比用法 兄は背が高いけど弟は背が低い。

3 前置き用法 悪いけどお金かしてくれない?

4 提題用法 明日の天気ですが9、明日は全国的に晴れるでしょう。

5 挿入用法 この前貸した本を明日、もし無理だったら明後日でもいいんだ けど、返してくれる?

6 終助詞用法 すみません、道を伺いたいんですけど。

(永田・大浜 2001: 62 下線は原文ママ)

また、大浜(2009)は、永田・大浜(2001)の議論を踏襲し、「けど」の終助詞用法につい て再検討を行った。

伊藤(2005)は、表 2-4の分類に基づいて、発話者の心的領域モデルを設定し、「仮定の 否定」を表すマーカーとして「けど」の全ての用法を統一的に説明することを試みた。否 定される仮定については、「事実によるもの」(逆接・対比用法、補足/挿入用法)、「発話者 の意志によるもの」(発話態度に関する前置き用法の一部)および「聞き手意志により否定 可能であることを発話者が認めることになるもの」(一部前置き用法、終助詞的用法、話題

9 「けど」と置き換えられる。

(28)

提示用法)という3種類を提示している。

ここまでは談話分析または会話分析のアプローチをとった先行研究を概観した。「けど」

と「でも」の機能発達現象には言及しているが、文法化という理論に基づく分析は見あた らなかった。次いで、関連性理論を用いた研究を紹介する。

2.2.1.3 関連性理論からの研究

関連性理論の観点から「けど」の用法間の関係を包括的に考察した研究として、尾谷(2005)

と永田(2017)が挙げられる。

尾谷(2005)は、尾谷(2003)をもとに修正を加えたものである。関連性理論の枠組み で提唱される「手続き的意味」10という観点と、認知言語学の「主体化」という知見を取り 入れて考察した。関連性理論で言われる図(F)11と地(G)12という概念に基づいて、「け ど」の1つ目の手続き的意味として、<F-G関係>と呼ばれる「主節事態を図として解釈す る際に、従属節事態を地として利用せよ」を適用した。そして、「けど」が持つ個別の意味 から、2つ目の手続き的意味が得られた。つまり、<対立関係>と呼ばれる「前件と後件と の間に何らかの対立があるものと解釈せよ」である。この2つの手続き的意味によって「け ど」の典型的な逆接用法は説明できるが、そのほかの用法を動機づけるためには認知言語 学の「主体化」という概念が援用されている。

永田(2017)は、大浜・永田(2001)を受け継ぎ、「けど」の用法を「逆接用法」、「対比 用法」、「前置き用法」、「提題用法」、「挿入用法」および「終助詞的用法」という6つに分 けた。そして、それらの用法間にどのような関係が存在するのか考察するにあたって、関 連性理論の枠組みを用いている。分析の結果、終助詞用法以外の5つの用法には、前件あ るいは前件から顕在化する想定と、後件あるいは後件から顕在化する想定の間に対立関係 が存在する。逆接用法と対比用法に存在する対立関係は「棄却」という形で解消される一 方、「前置き用法」、「提題用法」、「挿入用法」では「抑制」という形で対立関係が解消され る。また、終助詞的用法13では、後件が欠如するため、非明示的ではあるが「抑制」の関係 は存在する。なお、明示的に伝達しないことによって「丁寧さ」を示すようになる。

10 発話解釈という推論的語用論的過程に貢献する言語形式の意味は「概念的意味」と「手続き的意味」とい 2つのタイプに区別される。「概念的意味」は論理的特質をもち、文の真理条件に貢献するのに対し、「手続 き的意味」は聞き手に発話解釈の仮説構築と仮説評価を確立するのに貢献する。(武内 2015)

11 最も際立って認知された対象である。

12 図を位置付けるための背景・土台として機能するものである。

13 例:そろそろ出かける時間ですけど。

(29)

内田(2012)は、関連性理論の枠組みを用いて、形式的にも意味的にも類似している日 本語の接続詞「ただ」と「ただし」の違いについて考察した。関連性理論の枠組みでは、

話し手の意図は、聞き手が持っている想定の集合(認知環境)を修正しようとすることと 説明される。認知環境の修正には「文脈含意」、「既存想定の強化」、「既存の想定の削除」

という3つの操作が仮定されている。「ただ」と「ただし」との関係性について、内田(2012)

は以下のように述べている。まず、その辞書義からすると「ただし」と「ただ」は同じ文 脈で置き換え自由と思われるが、実際は置き換えできないケースもある。2 つの語の相違 点の1つ目は、「ただし」は先行文脈に対して「部分的に削除ないし修正されるように解釈 される」(内田 2012: 198)のに対し、「ただ」は先行文脈の含意に対して留保を示す点にあ る。つまり、「ただ」は「先行の命題は肯定すべきものであるが、その反証となりうること も存在する」(内田 2012: 198)ということを示す。相違点の2つ目は、「ただし」を使う場 合は必ず先行の命題が言語的に明示されることが前提とならなければならないが、「ただ」

の場合は視覚的な情報からも使用が可能になるという点である。「ただ」の手続き的意味は

「先行の非言語的ないしは言語的な内容から得られた含意は、そのことに対する反証を提 供するような文脈において派生されるべきものである」(内田 2012: 199)。こうして、「た だし」より「ただ」のほうが丁寧な言い回しとして捉えられる。

関連性理論と文法化理論に共通している点として、「語用論的推論」が働いていることが 挙げられる。大津(2013: 13)は「関連性理論ではこれまで十分に説明がなされてこなった 発話の明示的な意味について詳述し、解読された発話の意味から推意の派生に至る発話解 釈の過程の中で、語用論的推論はどの段階においても常に関わっている」と述べる。また、

文法化理論では、「語用論的推論」はその動機付けとして捉えられる(ホッパー・トラゴッ ト 2003)。しかし、「関連性理論」は共時的な観点から表現の機能拡張を分析するためによ く用いられるが、日中逆接表現の通時的な統語形式上の変化、またそれらの接続表現が談 話標識まで変わっていったプロセスについて分析する際には適用するのが難しいと思われ る。そこで、本研究は、まず日本語と中国語の逆接表現の歴史変遷について通時的に分析 を行い、その上で、共時的な観点から、各逆接表現の文法化のプロセスについて考察する ため、「文法化」という理論を援用することにした。

2.2.2 現代中国語における逆接表現に関する研究

本節では、現代中国語によく使われる逆接接続詞“但是”、“可是”、“不过”という 3 つの

(30)

表現に関する研究を概観する。

2.2.2.1 意味論および文章論の観点からの研究

現代中国語で接続詞は「転折連詞」14と呼ばれている。本節では、従来の意味論、文章論 の立場から逆接の接続詞を論じた先行研究を取り上げる。

まず、吕(2014)は「逆接」について以下のように定義している。

凡是上下两事不和谐的,即所谓句意背戾,都属于转折句。所说不和谐或背戾,多半是因 为甲事在我们心中引起一种预期,而乙事却轶出这个预期。因此,由甲事到乙事不是一贯的,

其间有一转折。 (吕2014: 476)

前件と後件が一致していない、つまり背反する場合、「転折」文になる。これは、前件(甲)

からある予測が導き出されるものの後件(乙)はその予測から逸れるためである。よって、

前件と後件の一貫性が成立せず「転折」が起こる。15

連詞の分類に関しては、主に形式と意味という2つの側面から行われている。形式から 分類した先駆的な研究として吕(2012)、朱(2010)などが挙げられる。吕(2012)は単独 使用か組み合わせ使用かという点を基準としたのに対し、朱(2010)は連詞の現れる位置 によって先行節にしか現れないもの(“如果”16、“即使”17など)と後続節にしか使えないも の(“但是”、“可是”など)という2種類があると述べた。

意味の面から分類した研究としては、张(1996)と张(2000)がある。张(1996)は、

連詞が表す関係という基準で、大きく“联合连词”18と“偏正连词”19に分けている。“联合连词”

には“并列”、“承接”、“递进”、“选择”などの関係を示す「連詞」が含まれる。“偏正连词”に は、“因果”、“转折”、“条件”、“让步”などの下位分類がある。表 2-5の通りである。

14 “转折连词”

15 訳は筆者による。

16 「もし」

17 「…にしても」

18 同位

19 従属(下位)

表  2-2  市川(1978)における接続詞の分類  3 類  1.  二つの事柄を論理的 に結びつけて述べるの に用いる  2.  二つ(以上)の事柄を別々に述べるのに用いる  3
表  2-5  张(1996)における中国語「転折連詞」の分類 2 種  10 類  代表例  联合连词  并列(並列) 20 跟、和、与、一来……二来……など 承接(展開) 则、于是、然后など  递进(並列)  并且、而且など  选择(選択)  或者……或者……、要么……要么など  偏正连词  因果(因果)  因为、由于、怪不得など 转折(逆接)  不过、但是、可是、可、然而、只是など 条件(条件) 不管、不论など  假设(仮定)  如果、要是、万一など  让步(譲歩)  即使、就算、哪怕など  目的(目
表  2-6  张(2000)における中国語「転折連詞」の分類             連詞      関係  単独使用  組み合わせ使用  転  折  弱い転折(追加)  不过、 就是、只是、只不过 平らな転折(対比)而、倒、则、然而、诚然など  而……却、而……则、然而……却  強い転折(矛盾)  虽、却、但、可、 虽然、反倒、反而 など  虽然/虽/虽说/虽则/……但是/但/可/却、 尽管……但是、固然……但是、可是……却 (张  2000: 158 をもとに筆者が作成)  刑(2001)は“p,
表  2-7  方(2000)における“但是”、“可是”、“不过”の非本義的使用割合  逆接接続詞  総出現回数  非本義の出現回数  非本義の割合(%)  但是  63  21  33.3  可是  37  12  32.4  不过  10  4  40.0  (方  2000: 462 をもとに筆者が作成)  姚(2012)は、複文の前後の関係を示す表現を“关系标记”(「関連マーカー」 )と呼んで いる。日常会話では、“关系标记”は、元の意味が薄れ、新しい機能にまで拡張した現象が しばしばある。逆接関係
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参照

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