第三章 動詞句と動詞句にまつわる問題
3.2 動詞の語構成と分類
3.2.1 語構成
3.2.1.1 重複
動詞の重複には全体重複と部分重複がある。以下、それぞれの語構成について述べる。
3.2.1.1.1 全体重複
動詞の全体重複は語根を重複する。動作の反復を表すことが多い。しかし、動詞の全体重 複は非生産的である。
(60) uʔ44eŋ44 kiaŋ44 tshoʔ21 khuaŋ44khuaŋ44 . 有 闲 行 出 环 环
ある 暇 歩く 出る 回る 回る
「時間があったら、散歩に行こう。」
(61) uʔ44eŋ44 kiaŋ44 tshoʔ21 khuaŋ44 siɔ44a42 . 有 闲 行 出 环 蜀下
ある 暇 歩く 出る 回る ちょっと
「時間があったら、散歩に行こう。」
(60)のような発話は存在するが、自然発話の中では、(61)のような表現が多く用いられる。
3.2.1.1.2 頭子音重複(衍生詞)
動詞の部分重複で構成されるものは、閩方言研究では、〈衍生词〉と呼ばれるものについて 記述する。〈衍生词〉は「派生語」という意味である。
これらの動詞はC1i-C1V1V2C2のような構造を持つ。本論文では、C1iは接頭辞と見なす。接 頭辞は動詞語根の頭子音をコピーして、母音-i を付加して構成される。頭子音がゼロの場合 では、母音-iが付加される。
(62) phi51-pha21〈□拍〉「殴る」 thi51-thia21〈□拆〉「解体する」
mi44-mԑ42〈□卖〉「売る」 khi44-khui51〈□开〉「運転する」
i44-eŋ51〈□撄〉「置く」 si44-siu44li43〈□收拾〉「片付ける」
二音節動詞にも接頭辞を付加することができる。二音節動詞の場合は第一音節の頭子音を コピーして接頭辞を作る。接頭辞の声調は動詞語根の声調に合わせて作られる。
接頭辞による造語は生産性が高い。意志動詞と非意志動詞の両方に付加することができる。
特に意志動詞に付加する場合が多い。
このような語構成は普段の発話にもよく観察される。以下、実際に採集した発話データに 使用例を提示して記述する。
(63) i44
eŋ51 thøŋ21thœŋ43 .
□ 撄 桶桶
PREF 置く 桶
「(適当に)桶に入れて。」
(64) uaŋ51 o42 li tԑ43, i44 uaŋ51 tԑ43 o.
弯 有 □ 底 □ 弯 底 去
曲がる ある ? 入る PREF 曲がる 入る 行く
「曲がれて入れる。曲がって入ろう。」
(63)(64)には頭子音がゼロの動詞が用いられている。それぞれ動詞eŋ51「置く」とuaŋ51〈弯〉
「曲がる」に母音i-が付加されて表現となっている。(63)はあるものを置く際にどこに置くか についての発話である。本当ならばちゃんとしたところに置くべきだが、ちょうどそこに「桶」
があったので、「とりあえずその桶に入れよう」という意図で接頭辞が付加されて行われた発 話である。(64)は駐車するときに行われた発話である。
(65) pi44 puaŋ51 sioʔ44siɔŋ51 tuŋ43 le.
□ 搬 蜀箱 转 来
PREF 運ぶ NUM-CL 帰る 来る
「とりあえず一箱を持って帰ってきて。」
(66) toʔ44 hai21iau43 mi44 mԑ42 a.
驮 海口 □ 卖 啊
取る 地名 PREF 売る SFP
「海口へ持って行って売ったら。」
(67) puŋ44 tɔ44 iɔ mi44 mԑ42 a.
□ 驮 去 □ 卖 啊
? 取る 行く PREF 売る SFP
「なんて売りに持って行かないの→売りに出したらいいのに。」
(66)と(67)は同じ話者の発話である。
(68) ti44 tiŋ44 hy35mԑŋ21 .
□ 停 许面
PREF止める あちら
「適当にそこあたりに止めて。」
(69) ŋuaʔ44 koŋ43 maŋ44tsa44 keʔ21 thi51 thia21 li51. 我 讲 明早 共伊 □ 拆 伓□
1SG 言う 今度 BEN-3SG PREF 解体する NEG-要る
「私は今度潰してやろうと思って。」
(70) khi44 khui51 tԑ43 .
□ 开 底
PREF 運転する 入る
「運転して入ろう、入れる?」
(71) ia44 saŋ51 aʔ21tie44iaŋ43 tsuŋ44ŋuaŋ42 khi21 khi43 paŋ44paŋ44tiʔ44tiʔ44 tsiaŋ51 tsoŋ21 . 也 □ 阿池囝 □□ □ 起 平平直直 正 俊
も ? 人名 このように PREF 建てる 普通 却って きれい
「阿池囝の(家)のように普通に建てた方がかえってきれいだよ。」
(72) a. tsy51 liu51 tœ35œ42 ? 书 □ □□
本 投げる どこ
「本はどこに置く?」
b. hi51 hieŋ21
tsie43 le .
□ □ 此里
PREF 置く ここ
「ここら辺に適当に置いて。」
(73) si44 siu44li43 a , i44 eŋ51 tshia51 le.
□ 收拾 啊 □ □ 车 里
PREF 片づける SFP PREF 置く 車 中
「適当に片づけて車に入れて。」
動詞に接頭辞を付加して使用するのは一般的に人に対して助言する場面に多くみられる。
相手に対して「適当に」や「~すればいいのに」というような意味を表す。例えば、(72)は 質問に対しての答えに現れる接頭辞の使用例である。(72a)の「本はどこに置く」という質問
に対して、答えにhieŋ21〈置く〉に接頭辞が付加されて用いられている。「適当に置いて」と いう意味を表す。
(73)には二つの動詞にそれぞれ接頭辞が付加されて用いられている。二音節動詞siu44li43〈收
拾〉「片づける」の場合では、第一音節のsiu51〈收〉の頭子音s-をコピーし、母音-iを付加し て接頭辞を構成している。
自身の動作を述べる場合にもみられる。その場合は「よく考えずに、何らかの動作を行っ た」という意味を表す。受身構文に多くみられる。次に例を挙げる。
(74) tuŋ43 le khyʔ21 ŋuaʔ21 phi51 pha21 a.
转 来 乞 我 □ 拍 啊
帰る 来る AGT 1SG PREF 殴る SFP
「帰ってきて私が殴ってやった。」
非意志動詞に接頭辞を付加して用いることもできる。非意志動詞に接頭辞を付加した場合 は、一般的に聞き手に対する助言する状況に用いられる。何らかのマイナスな結果を表す。
望ましい結果を表す場合には用いられない。
(75) tsieŋ44pau51 eŋ51 hɔ43 , tiŋ44ŋa42 ti44
tɔŋ42 o tiŋ44ŋa42 . 钱包 撄 好 等下 □ 逷 去 等下
財布 置く 良い 後で PREF 落ちる ASP 後で
「財布をちゃんとおいてよ、落とすよ。」
3.2.1.1.3 母音重複(切脚詞)
二音節動詞には、両音節における母音が同じとするものがある。以下の(76)に示す動詞で ある。
(76) pa44laŋ51「寝返る様子」 po44loŋ51「粉まみれにする/なる」
ko44loʔ44「すべり落ちる様子」 ki44liʔ44「こそばゆい」
kha44laʔ21「修理する」
(76)のような動詞は、梁玉璋(1982)49では、「切脚詞」と呼んでいる。梁玉璋(1982:38)によれ
ば、「切脚詞」とは、単音節語彙が声母と韻母に分解して構成されたものを指す。ko-louʔは 単音節動詞kouʔ〈滑〉「滑る」から分解して構成されたとしている。
梁玉璋(1982)の説が正しければ、これらの動詞は動詞語根の主母音をコピーして構成され る。母音の部分重複と考えることができる。では、福州方言における「切脚詞」を200以上 取り上げている。
49 梁玉璋(1982)では、福州方言における「切脚詞」を200以上取り上げている。単音節語とそれによる「切脚詞」
について、子音、母音、声調などについて分析している。また、動詞だけでなく、類別詞にも存在するとしてい る。それぞれ語をリストアップしている。
福清方言においては、このような語構成が主に動詞に見られる50。これらの二音節動詞は 両音節の主母音を同じものである。また、主母音から構成される韻母は同じものか、近いも のを持つ。第二音節の頭子音は必ず/l/である51。
これらの動詞は主に動作の様態を表す。以下に例を挙げ、説明する。
(77) khoŋ21 meʔ44 tshuŋ43, pa44laŋ51 kuɔ44li44, pa44laŋ51 kuɔ51iɔ21 . 睏 □ □ □□ 过来 □□ 过去
寝る NEG 眠い 寝返る 来る 寝返る 行く
「寝付かなくて、寝返りを打ったりしている。」
(78) sɔ21lie35 pa44laʔ44 mɔ21 li liaŋ21 . 锁匙 □□ 无 □ □
鍵 回す NEG ? 上がる
「鍵が(回しても)開かない。」
(78)におけるpa44laʔ44は「ぐるっと回す動作」を表す。鍵を開ける際によく用いられる。動
詞「開ける」khui51〈开〉に置き換えても意味が変わらない。
(79) si44 toʔ44 po44loŋ51 toŋ44 hɔ21sia51 . 糍 驮 □□ 糖 好食
食べ物名 取る くるむ 砂糖 おいしい
「糍は砂糖で包んで食べるとおいしい。」
(80) liaŋ21ŋɔ51 kha44liu44 sua51, po44loŋ51 sioʔ44siŋ51 . 伲囝哥 □□ 沙 □□ 蜀 身
子供 遊ぶ 砂 包む NUM-CL
「子供が砂遊びして、(体中が)砂まみれになった。」
po44loŋ51「包む」は(79)(80)のように、「粉物でくるむ」また「粉まみれになる」という意味 を表す。
(81) i51 eʔ44 pe44leʔ44 ŋuaʔ21 . 「彼が私のことをからかう。」
伊 会 □□ 我
3SG AUX からかう 1SG
50 名詞には、ka44laʔ44〈□□〉「ゴキブリ」、ta44laʔ44〈□□〉「とんぼ」、pa21laʔ21〈□□〉「海の仕事に使う道具」
などがあるが、「切脚詞」であるかどうか不明である。pa21laʔ21は海の作業に使われる道具の名称である。鉄製の、
熊手のような道具である。しかし、pa21laʔ21は複合動詞から由来する可能性も否めない。つまり、pa44〈扒〉「か く」とtaʔ21「土に引っ掛けて引っ張る動作」が複合したと考えることもできる。
51 ただし、福清方言においては、「切脚詞」を元の形に戻した単音節動詞がほとんど存在しない。
pe44leʔ44「からかう」は具体的な動作がなく、繰り返しちょっかいを出すような意味である。
子供の会話によく観察される。同じ意味でpԑ35lԑ42という形式も存在する。
(82) sai43 tsoŋ44ŋiaŋ43 pu44luʔ44 siɔʔ44khøŋ51. 使 钻囝 □□ 蜀 空
使う ドライバー あける NUM-CL
「ドライバーで穴を一つあける。」
pu44luʔ44〈□□〉は細いものを快速回転させて、穴をあける様子を表す動詞である。
(83) ŋy44 pe44leŋ43 siɔ44a42 . 鱼 □□ 蜀 下
魚 ひっくり返す NUM-CL
「魚をひっくり返して。」
pe44leŋ43〈□□〉は「ひっくり返す」という意味を表す。同じ意味で単音節動詞peŋ43〈□〉
も存在する。
(84) eŋ51hɔ43, løŋ44 ka44lau51 tɔŋ42 o.
撄 好 □ □□ 逿 去
置く 良い NEG 無くす 落ちる ASP
「ちゃんと保管して、なくすなよ。」
ka44lau51〈□□〉は日本語で「ポロっと落ちる」における「ポロっと」のような意味である。
(85) kuaŋ51 siɔ44a42, iu44 lau44liŋ44 ko44loʔ44 lɔ42 o.
□ 蜀 下 由 楼顶 □□ 落 去
躓く NUM-CLから 二階 転ぶ 落ちるASP
「つまずいて、二階から転んで落ちた。」
ko44loʔ44〈□□〉は「滑って落ちる」様子を表す。
(86) iʔ44 eʔ44 ki44liʔ44 ŋuaʔ21. 伊 会 □□ 我
3SG AUX くすぐる 1SG
「彼は私をこそばゆくする。」
ki44liʔ44〈□□〉は腋下や腰に指で引っ掻いてくすぐる様子を表す。
(87) kha44tsia51 ŋai44 o, tɔ44 o kha44laʔ21. 骹车 □ 去 驮 去 □□
自転車 壊れる ASP 取る 行く 修理
「自転車が壊れたので、修理に持って行った。」
(88) laŋ21ŋa35løŋ44 khoʔ21teʔ21 pɔ44lɔ43. 两□ 侬 □ □ □□
NUM-CL 人 いる ASP レスリング
「二人は(遊びで)レスリングをしている。」
(87)におけるkha44laʔ21〈□□〉は「修理する」を意味する。(88)におけるpɔ44lɔ43〈□□〉「レ
スリング」は切脚詞と同じ構造を持つ。しかし、動詞のpɔ42〈抱〉「抱く」とtɔ43〈倒〉「倒れ る」が複合して構成される可能性も考えられる。